プロローグ
正直、『嵐の前の静けさ』は物凄くつまらないので、第一章まで頑張ってみてください。(そっちも面白いかはわかりませんが)
──抗え
弱者であるお前にできるのは、それだけなのだから
──抗え
臆病者のお前に与えられた役割は、それだけなのだから
──抗え、そして叫べ、己が願いを
それを手助けしてやるのが、俺の最後の役割だ
※ ※ ※
ピピピピと、そんな音に呼ばれて重たい目蓋を開く。開いてから最初に見えたのは、少し汚れて黄色味がかかった白い天井だった。横を見れば、そこには小さいテーブルの上にデジタル時計が置いてある。9月10日午前7時00分と書いてあった。
「……朝か」
そう口に出す事で再確認して、ベットから降りようとする。──が、体が怠くて一向に出られない。今日は二学期初の登校日。腰が重いのも仕方ないと思う。これは、言わば五月病のようなものだろう。……少し違うかな? まあ、それはともかく。五月病という呪いを解き、布団という悪魔を退ける方法を知っている人がいるなら、是非ご教授願いたいものである。
と、こんな風になんとか時間をやり過ごそうと独白をしていた時だった。扉の向こうから軽い足音が聞こえる。おそらく、妹が中々降りて来ない俺を起こしに来たのだろう。デジタル時計に起こされてから7分経っている。当たり前と言えば当たり前だ。
「……」
一つ、言っておくことがある。
俺にはかわいい妹がいる。かわいい、かわいい妹がいる。顔も、仕草も、性格も、何もかもがかわいい。俺のような学校生活の殆どを教室の片隅で小説を読んで過ごしているような根暗陰キャとは違う。クラスの中心人物。クラス内ヒエラルキー最上位の陽キャ。少し頭が残念なところもあるが、それがいいという人もいる。
さて、ここまで話せばわかると思うが、俺はシスコン寄りだ。……違うぞ。俺は断じてシスコンなどではない。シスコン寄りだ。覚えておけ。まあ、それはともかくとして。妹が俺を起こしに来るなんてことは滅多にない。最後に来たのは、もう2年も前のことだ。だがら、俺は今日という日を、いつか正式に新たな記念日としようと決意しながら20秒後に起こるであろうことを考えるべく、脳をフル稼働させる。
俺がいま考えるべきこと。それは、俺の上に乗っている掛け布団を退かすかどうかだ。退かさなければ、妹に優しく起こされるという天国が待っている。いや、優しくなくてもいい。どこかの赤毛ツインテールのように腹を盛大に踏まれても構わない。俺にとっては『妹に起こされた』という事実が大事なのだから。
しかし、もしこれを退かせば、俺の股間に付いている立派なものがテントを張っているところを目撃される。そうなれば、俺の兄としての尊厳は失われるだろう。だが、家族とはいえ妹も年頃の女の子だ。きっと、今まで見たことも無いようないい反応をしてくれることだろう。しかしながら、どうしてもこれはデメリットがデカすぎる。いい反応を見せてくれることは間違いない。だが、むっつりすけべな妹のことだ。見た瞬間に悲鳴を上げて出て行ってしまうだろう。それでは『妹に起こされた』という事実がない。
考えている間にも、足音はもう扉の前まで来ていた。
ここで決めるしかない! どうする、どうするんだ俺。ここはやはり、安全策である『退かさない』を取るのか? ……いや、俺も一人の男だ。ここは敢えて、デメリットの方が大きい『退かす』を持ってくるべきだ。
これが倫理的に正しくないということは知っている。だか、それでも俺は間違いだとは思っていない。 男には、やらねばならない時があるんだ!
そうして、ノックの後に扉が開かれた瞬間、俺は意を決して掛け布団を退かした。
さあ、お前は俺にどんな顔を見せてくれる──!
「なんだ、起きてたのね。学校に遅れちゃうから、早く降りてきなさいよ」
バタンと、扉は閉められた。
「…………」
……な、ぜ……なぜ、よりにもよって……
「母さんなんだっ……!」
俺の千文字分の独白返せよ。このやろう。
仕方なくベットから降りるて部屋を出る。二階から一階に降りて洗面台へ行き、顔を洗ってからリビングに行くとそこにはスーツ姿の父さんとパジャマ姿の妹。そして、キッチンにはエプロンを着けて朝飯をつくる母さんが見えた。
「おはよう」
「ああ」
朝の挨拶をすると父さんから短い返事が返ってきた。いつもと変わらない事のはずなのに、何故か俺は安堵をして席に座る。
「おはよー」
そう言って少し眠たげな声で挨拶をしてきたパジャマ姿の女の子。こいつが、さっき散々褒めちぎった我が愛しの妹、灯里だ。
「? どうしたの? そんな、なんとも言えない顔しながらこっちを見つめて。……わたし何かしたっけ?」
「……薄情なやつだなって」
「本当に何かしたっけ!?」
いや、灯里は悪くない。ただの押し付けである。
それから朝飯を食べ、学校へ行くために制服に着替えて通学鞄を持つ。
「いってきます」
「いってきま〜す」
灯里と家を出る。
「……」
「行かないの?」
家を出てすぐ、どうしてか俺は立ち止まってしまった。何かを探すように。もしくは、何かを待つように。
「……何か足らない気がして」
「足らないって、なにが?」
それがわかったら苦労しない。
……とはいえ、本当になんだこの感じ?
「忘れ物があるなら早く取りに行ってよ。わたしも遅れちゃうから」
「……いや、いい」
「変なお兄ちゃん」
そう言いながら、灯里は歩き始めた。
一体、何が足らないんだ……?
そこには、拭い切れない疑問だけが残った。
──……ン
「?」
何か聞こえたような気がしたので後ろを見てみる。だか、何もなかった。
「おにーちゃーん! 置いてくよー!」
数メートル先からどこか呆れたような大声が聞こえてきた。
「こめん!」
俺も大声で謝って、急いで灯里の元へ駆け寄った。
結局、疑問は無くならなかった。
そうして、学校に着くと教室に違和感を感じた。
騒がしいのはいつものことなのに、何かいつもとは違う気がするんだよな……
そんな事を思いながも、どうでもいいやと思い、教室の後ろの端へ向かい自分の席に着くと頬杖をついて外を見る。
いつもいつも同じ事の繰り返し。何も変わらない、変化のない日々。激しい喜びも、深い絶望も無い。凹凸のない平和的で平穏な日常。俺はまだ幸せな方なのかもしれない。世の中には俺の知らない所で深い絶望を毎日のように繰り返している人もきっといるはずだ。
それでも、そうだとわかっていても、言わせて欲しい。この酷く怠惰的で贅沢な悩みを。
──今のこの日常は酷くつまらない。
ついこの間まではこんなことは考えていなかったのにどうして今になって思ってしまうんだろうか。本当に謎だ。……なんか、心に穴が空いたみたいな、そんな感じだ。ナーバスになってしまっているんだろうか……?
今朝はあんなに頭の中が盛り上がっていたというのに、教室に着いた途端にこれだ。俺は学校が嫌いなのかもしれない。
気が付くと、いつの間にかホームルームの時間になり担任の先生が入って来ていた。
「えー、もう噂として知っている奴もいるだろうが転校生を紹介する」
先生がそう言うと教室内がいっそう騒がしくなった。
しかし、この時期に転校生とか少し遅くないか?
そんな事を思っていると先生が扉に向かって手招きをしている。
そして、扉が開くと転校生が入ってき──
「こんにちは。東道夏目です。これから、宜しくお願いします」
「──!」
転校生がそう言ってお辞儀をするとクラスの男子が「レベル高くね?」とか言ってるがそんな事はどうでもいい。
彼女を見た瞬間、俺の中で崩れつつあった歯車がガッチリとはまったような、そんな気がした。
書いた後に自分でもクソつまんないなって思ったんですが見守ってもらえるとありがたいです。