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錬金術師

リックを連れて、こちらへと戻ってきたメアとリアス。

メアはこちらへと小走りで近づいてくると、リックへと振り返る。


「リック、紹介するっス! この人はアタシの師匠のユージ師匠っス!」


紹介するって、メアさん? 貴方、凄くフレンドリーすぎません?

もうそんなことを言えるほどリックと仲良くなったの?


「アハハ……そうなんだ」


リックも苦笑を浮かべている辺り、俺と同じことを思っているのだろう。

確かに知り合って、一分も経ってない相手にそんな風なこと言われるとは思わないもんな。


「えっと、初めまして。マリィから聞いているかもしれないけど、一応自己紹介を。僕はリック・ホーエンハイム。『錬金術師アルケミスト』です。ユージさん、でよろしいですよね?」

「あぁ、『魔物使いモンスターテイマー』の久遠 裕司だ」

「クオン・ユージさん、ですか。見た目といい、名前の感じといい、異世界人です……よね?」

「そうだけど……」


まぁ、前にも服装や恰好で異世界人だと言われたことがあるので、反応する人はするだろうなとは思ってた。

でも、名前の感じからって言われたのは初めてだな。

確かに日本人の名前なんて、この世界じゃ珍しいだろうけど……アレ?

そうなると、あの二人……アユムとアイリの名前、苗字はともかく名前は日本のものに近かった様な。


そんなことを考えていると、リックは目を輝かせ始める。


「本当に異世界人なんですね! 文献でしか読んだことがない人に会えるなんて、僕は幸運なのかもしれません!」

「え……えぇ?」


急に元気になってません、この人?

さっきまで大人しそうな雰囲気を放っていたのに、異世界人であると言うことを聞いた瞬間にこの態度だ。

恐らくだけど、この人も……フェネクスさんほどではないが、エリーナに近いタイプだ。

俺、この世界に来てから、少し苦手なんだよなぁ。

知的好奇心が強い人。


「えっと、そんなに嬉しいものか?」

「勿論ですよ! 異世界人と言えば、勇者が有名ですが、他にもいるんです! 少ないですが、巻き込まれた形で来た人や何らかの理由で世界を渡ってしまった人などですね……」

「あぁ、うん。要は珍しいっていうことでいいんだよな?」

「ハイ、そういうことです! 貴方は一体どういった経緯で僕たちの世界『アルライト』に来たんでしょうか!?」


興奮気味に詰め寄ってくるリックに対し、一歩引いてしまう俺。

やばいよ、興奮しすぎて、こちらの要件を忘れてるよ。

どうしたものか、と考えていると、誰かがリックの襟を掴み、引っ張って、俺から距離を離す。

リックを引っ張ったのは誰かと確認すると、マリィが少し怒った様な顔でリックを見ていた。


「そういうのは後。今は仕事をしてもらわないと困るよ」

「後でならいいんだね! わかった! それなら、すぐに仕事を済ませてしまおう!」


後でも嫌なんですが。


表情に出やすいハズの俺の考えが見えていないと言わんばかりに俺の手を掴んでくる。


「僕に頼むと言うことは錬金術関連だと考えていいんですね! それでは馬車の方へ移動しましょう! 中に僕の研究室もあるので!」

「いや、確かにそうだけど、ちょっとは話を……ん?」


馬車の中に研究室もある?

商品が入っているハズの馬車の中に研究室があると言うのはどういうことだ?

寝るスペースくらいは確保しているだろうけど、研究室があるっていう言い方が気になる。

それに、『が』ではなく、『も』と言ったぞ。

まるで部屋がある様な言い方だ。

少し気になるな……。


「さぁ、入って入って!」

「お、おう」


俺は腕を引っ張られて、いつの間にか馬車の前まで来ていた。

そのまま入る流れとなり、馬車の中へと入るために、足をかける。


「あ、アタシとリアスも行くっス~!」

「ボクも忘れないでほしいな~」

「あ、そうだったな。じゃあ、ノワールとアルフはそのままマリィと一緒に待っておいてくれないか?」

「ガウッ!」

「キキッ!」

「チュー、二匹とも、興味があったから嬉しいよ。それにいるだけで客寄せになりそうな感じもするし。珍しさで」


マリィはうんうんと頷きながら二匹を見つめる。

客寄せパンダならぬ、客寄せ魔物って感じか?

その二匹は俺の言うことを聞き、マリィのすぐ近くにノワールが腰を下ろして座り込み、その頭の上にアルフが止まり、目を閉じて寝息を立て始める。

大人しく待つ姿勢を見せてくれた二匹を確認してから、フィリアとメア、リアスへと視線を向ける。


「それじゃ、行くか」

「ハイっス!」


メアの元気いい返事を聞いてから、馬車へと足をかけて、中へと入っていく。

馬車の中へと入って、視界にまず入ったのは数多の商品———ではなく、家の中にある様な広々とした部屋、リビングである。


「……え?」


何コレ?

馬車の中に入ったハズなのに、目に入ったのは馬車の中や荷物じゃなく、家の中?

一体何が起こっているのか、理解できずに目を白黒とさせていると、後から入ってきたメアの声が聞こえてくる。


「お? おぉ……!? 何っスか、コレ!? 凄いっス! アタシたち、今確かに馬車の中に入ったっスよね!?」

「キュキューイ!」


メアの疑問に同意するかの様な鳴き声を上げるリアス。

少し辺りを見渡したフィリアが笑みを浮かべる。


「確かに凄いね、コレは。この感じ、錬金術で改造した感じだね。しかも、この空間を作る方法……もしかしなくても、あの子が考えたやつだね」

「錬金術で、こんなこと可能なのか?」


この中で一番物知りなフィリアがいうのだから、間違いではなさそうだが、それでも気になる。

俺が知る錬金術って言えば、こう……素材と素材同士を混ぜ合わせて、別の物を作ったり、もしくは別の形に再構築したりする様な感じだけど、この世界では違うのだろうか?

それにあの子が考えたっていう言葉も気になる。


「まぁ、それなりの腕前を持つ『錬金術師アルケミスト』なら、不可能じゃないと思うよ。『錬金術師アルケミスト』っていうのは『未知への探求』、『不可能を可能にする』っていうのを信条にしているからね。実際にコレを考えた子は知ってるしね」

「フィリアが知っているってことは、もしかして」

「うん、ユージも気付いたと思うけど、コレを考えたのは」

「邪悪王アンラマンユを倒した勇者パーティーの一人、『神代の錬金術師』とまで呼ばれた錬金術の天才『クニサキ・サラ』が考えたものですよ」


フィリアが答える前にリビングにあったいくつかの扉の内の一つが開き、そこからリックが姿を現す。

先ほどの興奮は嘘かの様に落ち着いており、こちらへと近づいてくる。


「先ほどはご迷惑をおかけしました。『異世界人』だと聞いたら、落ち着いていられなくなって……」

「いや、大丈夫だよ」


俺とリックがそんな会話をしていると、ふとフィリアの表情が目に入る。

フィリアは一番重要なところを教えることを遮られたからか、少し表情がムッとしている。

それに気付いたリックは少し悪いことをしたな、と感じたからか、苦笑を浮かべる。


「あ、すみません。説明していたのに、邪魔しちゃって……」

「いいよ、別に。気にしてないからさ」


とはいうが、表情がムッとしたままなのだから、気にしてないと言うのは嘘だろうな……。

それにしても、『クニサキ・サラ』……ね。

名前からして、日本人だよな。

それに勇者パーティーの一員だったっていうことは、巻き込まれちゃった系の人かな。

昔の人なので、どういった人だったのかはわからないが、『錬金術師アルケミスト』としての才能を活かして、凄いことをしていたのは確かな様だ。

だって、こんな空間を生み出す方法を考えちゃってるわけだし。


「それで、その人のやり方を真似て、コレを?」

「えぇ、まぁ、やり方は残されていますので。それに僕ら『錬金術師アルケミスト』にとって、『クニサキ・サラ』は一番の憧れであり、目標であり、超えるべき対象ですからね。これくらいできないといけませんよ」

「なるほどな……。その人を超えるためには、まず彼女の生み出したものをできる様になる必要があるっていうわけか」

「凄い人だったんっスね!」

「えぇ、その通りです。まぁ、コレは僕が冒険に出る際に最も必要だと思い、真っ先に覚えたやつなんですけどね」


確かに必要そうだ。

出来るなら、これは俺も欲しいんだけどな。

これがあるだけで、例え野宿することになったとしても、家の中にいるのと変わらない生活を送ることができるんだから。

馬車の中も人数が増えて、少し狭くなってきたし、ここは一つ交渉してみるか?


「やっぱりそうですよね。この中を見たり、話を聞かされたら、欲しいって思ってしまいますよね」

「……」

【相変わらずですね】


うるさいよ、ヘルプさん。

リック自身も俺の顔を見て、自然とそんな言葉が出たのか、驚いた様な表情をして、小首を傾げている。


「何故、僕はユージさんから聞かれてもいないことに答えられたんでしょうか? それも顔を見た瞬間に答えてしまったんですが」

「それは仕方ないよ。ユージは考えていることが全て顔に出ちゃうからね。それで察した君は思わず返答してしまったっていうことだよ」

「なるほど……苦労しているんですね」


少し間を空けてからいうのやめてくれません?

申し訳なさそうな顔をしながらも、リックはフィリアの存在が気になるのか、そちらをチラチラと見ている。

そんな視線に気付かないフィリアではない。


「思えばさ、リックだっけ? さっきからボクをチラチラと見てるよね? どうかした?」

「いえ、その……精霊がいるのは珍しいので、少し気になりまして」


まぁ、そういう反応になるよな。

後、顔が少し赤い気がするが……あ、思えば、コイツまだ着替えてなかったんだった。

精霊としても気になっていたけども、男として反応せざるを得ないところにも目が行っていたな。

早めに用事を終わらせた方がよさそうだ。


「それで仕事の件なんだけど」

「あ、そうでしたね。すみません、話が盛り上がってしまって」

「いや、大丈夫。興味深いことも聞けたしね。それで仕事なんだけど、ここで買ったフィリアの服を『刻印強化エンチャント』してほしいんだ」

「なるほど、そういうことですか。わかりました。それでは僕の部屋へ行きましょうか。そこに道具一式がありますので」


そういうとリックは先ほど出てきた扉を開き、中へと入っていく。

俺たちもその後に続く様に中に入ると、視界に広がるのは研究室に様な部屋。

試験管やフラスコ、薬草やなんだか見たことない植物や魔物の素材であろうらしきものまで多種多様だ。

本棚もたくさんあり、全ての本棚にビッシリと本が隙間なく入れられている。

本は全て資料だったり、研究成果を記したものだったりするのだろうか。

少し興味深く見ていると、奥にある机の引き出しから道具を取り出したリックが近づいてくる。


「それでは仕事を始めましょう。その服やスカートなどには最大の五つがつけられるようになっていますが、何を付けますか?」

「そうだな。『自己修復』と『清潔』は絶対として、後は……」

「なら、ボクの服だし、残り三つはボクが案を出していいかな?」

「え? それはもちろんだけど」


確かに俺が考える必要はないな。

フィリアの方が頭いいだろうし。


「なら、一つ目はスイムの服にも『刻印強化エンチャント』されてる『同化』だね」

「あぁ、そうだな。そういえば、フィリアの体もスイムと同じで特殊だもんな。スキルで」

「まぁね。今のボクの服装は人型の精霊が着る様な自分の魔力で作った服だからね。あの時は普通に風になることができたけど、今後着るのは魔力じゃなくて、物質の物だからね。『同化』をつけとかないと、風になってかわしても、服だけが置いてけぼりになって、ボクが全裸になっちゃうから」


確かにそれは大変だな。

実際、スイムのこともカーラさんが気付かなかったら、大変なことになっていただろうしな。


「で、二つ目は『環境適応』かな」

「『環境適応』? 何でまた」

「やだなぁ、ユージは。これから色んなところを旅するのなら、暑い場所にも、寒い場所にも行くってことでしょ? その時用につけておいたら、環境の変化に合わせて、服が合わせてくれるからだよ。寒い場所では温かくなる様に、寒い場所では涼しくなる様に。そうしとけば、どんな環境でいようとも、好きな服で居られるってわけ」

「な、なるほど。あ、なら、俺もそれつけてもらっていい? 初めてつけてもらう時、色々なことがあって、簡単なものしかつけられなかったし」

「えぇ、構いませんよ」


よかった。

そうだ、後でルフェさんやメイにもこれをつけておかないといけないな。


「で、最後の三つ目なんだけど、『サイズ変化』つけといてくれる?」

「あぁ、それは何となく理解できたぞ」

「それは構いませんが……それはどうしてでしょうか?」


思えば、リックってフィリアが妖精サイズになれることを知らないんだったな。

なら、見せた方が早いかもしれない。

俺はそう考えて、フィリアに目配せをすると、フィリアは頷く。


「まぁ、理由としてはこういうことかな」


その瞬間、フィリアは人間大のサイズから妖精のサイズへと変化してみせる。

いきなり小さくなったフィリアにリックは驚いた様な表情を浮かべ、少しの間目を白黒させていた。

フィリアはその間に再び人間大のサイズへと戻り、リックを見る。


「わかってくれた? つまり、ボク自身、大きさを人間大から、さっきの小人サイズにまで変えることができるんだよ。だから、『サイズ変化』が必要でね」

「す……」


あ、なんか嫌な予感がしてきたぞ。

先ほどまで白黒とさせていた目は星でも散りばめたのではないのだろうかと思えるほどの輝きへと変わっていく。


「す……す、凄いです! こ、こんなことができる精霊がいるなんて、知りませんでした! あの、失礼ですけど、どんな精霊か聞かせてもらってもいいですか!?」

「チッチッチッ、ボクはただの精霊じゃないんだよ。元は精霊だけど、今は精霊と魔人が融合した『精霊人』って呼ばれる特殊な魔族でね。種族名は『嵐の女魔霊シルフィード』っていう種族なんだよ」

「『精霊人』!? 魔族に新しい種族が!? いや、そもそも融合というのは一体!? それに概念の存在である精霊と魔物が人化した存在である魔人という別々の存在なのに、一体どうやって、そんな特殊な存在を!? 精霊が魔人化した? いや、だけど、精霊は元々魔族として数えられるほど強い力持った存在だし、魔力で出来たエネルギー体であるからして、肉体を持つ魔人になれるわけではないし、かと言って魔物が、というのもあり得ないわけで」


あ、コレ止まらないやつかもしれない。

あり得ない出来事を前にしたからか、『錬金術師アルケミスト』としての血が騒いだのだろうリックが考察を練り上げ始める。

う~ん、コレは『刻印強化エンチャント』を終わらせてから、言った方がよかったもかもしれない。


「リック、なんだか自分だけの世界に閉じ籠っちゃいましたけど、どうするっスか?」

「……メア、マリィ呼んできてくれる?」

「了解っス! 行くっスよ、リアス!」

「キューイ!」


メアとリアスは部屋を飛び出して、馬車の外へと向かっていった。

少ししてから、マリィが駆け付け、「仕事をしろー!」と叫んで、リックの頭を叩くのだった。

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