エルフと盗賊
何故、こんなことになってしまったのだろう。
エルフの少女は必死に走りながら、後ろから追ってくる人たち……盗賊から逃げている。
「ハァ……! ハァ……!」
「ヒャハハハハ! お前ら、逃がすんじゃねぇぞ!」
「勿論だぜ! 久々の女だ! しかもエルフときたらな!」
後ろから聞こえてくる八人の盗賊たちの声。
主に人間たちがなる者で、人々に危害を加えたり、強盗をしたりすることから、魔物と同じ様に考えられる存在。
殺したところで罪にはならないし、むしろギルドでも依頼が出るほどだ。
ただ盗賊だからと言って、弱いというわけでもない。
今でこそ盗賊に成り下がってしまった存在だが、元は冒険者だったり、戦士だったりした人もいる。
何故そうなったのかは個人によっては違うが、ほとんどが悪行がバレて、街にいられなくなり、盗賊に成り下がったりしている。
だからこそ、魔法で迎え撃とうにも、難しい可能性がある。
「でも、私だって、黙ってやられるわけではありません!」
エルフの少女は走りながらも、掌に火球を作り出す。
「これでどうですか! 火球!」
少女は振り返ると同時に火球を投球する。
火球は盗賊たちに迫り、直撃した……と思われたが、二メートルはあるであろう盾を持った男が前に出て、盾を構えた瞬間、火球が直撃し、爆発する。
少女は爆発によって起きた煙を見て警戒する。
そして、次第に煙が晴れてくるとそこには無傷の盗賊たちがいた。
それに目を見開いて驚くと同時に盾が一瞬輝いているのが見えたのに反応する。
「まさか……魔法障壁!?」
「そういうことだよ。エルフが魔法使うのに対策がないとでも思っていたのか?」
(まさか、魔法を防ぐ技を持ってる人がいたなんて……!)
少女は困惑した様な表情を浮かべると同時に一瞬の隙ができてしまう。
それを見逃すはずもなく、盗賊たちが一斉に襲い掛かってくる。
「隙ありだぜェ!」
「しまっ!?」
少女は腕を掴まれるとそのまま押し倒されてしまい、他の盗賊が両腕と両足を掴んで抑え込み、リーダーらしき男が馬乗りとなる。
その表情はこれからやることを楽しみにしているかの様な下衆な笑み。
少女は抵抗してもがくが、振り解くことができず、目には涙が浮かんでくる。
「やめてください! 放してください!」
「うるせぇな。黙ってろよ。今から気持ちいいことしてやるんだからよ」
「ひっ!」
―――こんなところで、私はこんな奴らに犯されるの?
声を出したかった。
助けて、と。
誰でもいいから助けてほしい、と。
無駄だとわかっていても、出して、助けを求めたかった。
それほどの恐怖があるのだから、当たり前のことだろう。
そして、男が少女の服に手をかけた瞬間だ。
「初めての魔法だけど、閃光!」
その声が聞こえたと同時に少女と男たちの前に光の球体が飛んでくる。
それに少女も、男たちも気が取られる。
「そこのエルフ! 目を閉じろ!」
それが聞こえて、すぐさま目を閉じたと同時に光の球は爆ぜ、強い閃光を放つ。
盗賊たちも何かあると思い、目を閉じようとしたが既に遅く、目をやられてしまう。
少女が間に合ったのは自分のことを呼んだという認識が早かったためだろう。
盗賊たちは目を抑えて苦しみ出し、少女から離れていく。
「ぐあああッ! 目が……! 目がぁ!?」
「何が起きたんだ……!? 何も見えねぇ! 目が痛ェ!」
盗賊たちが苦しみ出したと同時に一人の盗賊の近くに何かが着地したと同時に首元に蛇が噛みつく。
「うぐっ……!?」
短い悲鳴を上げたと同時に顔色がどんどん悪くなっていき、最終的には白目を向き、泡を吹いて倒れてしまう。
更には何かが溶けていく様な音が聞こえ始め、盗賊の死体が溶け始める。
降り立った者……メイは素早い暗殺を済ませると同時に残りの盗賊たちを見る。
そして、盗賊たちの目が治る前にと一人の青年……裕司が走ってきて、エルフの少女の元に行く。
「もう目を開けて大丈夫だ、助けに来た」
ただ一言、安心させるための言葉を言った。
※
何気に初めて使った魔法だけど、うまく行ってよかったぁ!?
ヘルプさんに聞いたら、目くらまし程度の魔法ならと言われたから、柄ってみたけど、うまく行ったよ!
元の世界にあったフラッシュバンから考えてみたけど、うまく行くもんだな。
俺は急いで駆け寄ったエルフに手を差し伸べる。
エルフの少女はゆっくりと目を開いて俺を見てくる……っていうか、こういう時になんだが、一言言っていいか?
スゲェ可愛いです……!
さすが容姿端麗と言われるだけに、美少女だ。
メイも美少女と言われればそうなのだが、いきなり襲われた記憶と色々なパーツがくっついていた記憶のせいで、あまりそういう認識はできなかった。
どっちかっていうとカッコいいって思ってたしね。
いやいや、それよりも救出だ。
「立てるか?」
「ッ! 人間!?」
エルフは俺を見るなり起き上がって飛び退いて距離を取る。
更にはその手に火球を生み出して……待って。
「ちょっ! 待て! ただ俺は助けに!」
「嘘をつかないでください! 人間は危険だとお父さんたちから聞いてます! 私達を物のように見る生き物だと!」
「いやいや! 全ての人間がそういうわけじゃないからね!? だから待って! その火球をしまってェ!」
俺にチート能力はないのよ!?
ただちょっとケンカが強いかな、くらいの普通の男子高校生なんだよ!?
「うぐっ……やっと目が見えてきた。あっ! テメェが原因か! 小僧!」
ヤベェ、フラッシュから復帰し始めてる。
盗賊たちが剣やナイフなどを構えると同時に骨だけになっている死体を見つける。
「なっ……!? いつの間に骨なんか!? それにそれはスライム? あそこにいるのも、どう見ても人間じゃねぇ……。魔人に進化した魔物か!? 魔族も一緒に連れてやがるとは……!」
「魔人……?」
魔物が人になれば、魔族となるのは聞いていたが……なるほど、魔人と呼ぶのか。
「ということはお前……『魔物使い』か!?」
「まぁ、そういうとこかな。じゃあ、頼むぜ。メイ、スイム」
「任せて」
「!」
「君はこっち!」
「し、仕方ありません。今は貴方を信じましょう」
俺はエルフの少女と共にメイの横を通り過ぎて、後ろの方へと下がる。
そして、メイは軽く腕を伸ばしてストレッチをしてから、両腕を赤い皮膚に白い模様が描かれた腕へと変える。
スイムも俺の頭から降りると元気よく飛び跳ね始める。
いやぁ、スイムの様子に和むねぇ。
「魔人がいるとは言っても、たった一体だ……! それも後一体はスライムだ! 野郎ども、やるぞ!」
『おぉ!』
魔人がいるとは言えって……もしかして、魔族って凄く強い?
いや、まぁ、大体魔王とかがそういうタイプだしな……魔族がかなり強いのは当たり前か。
まぁ、色々なことは後でエルフの子に聞くとしよう。
盗賊たちは武器をそれぞれ構えて走り出す。
メイはニヤッと笑うと、口から炎が溢れ出しているのが見える。
「ちょうど、いい。ヘルハウンド、の、力の実験体、に、なってね。『獄炎の息』!」
メイの口から勢いよく吐き出された赤黒い炎。
まさに地獄の炎だと言われても納得する様な炎は盾を持った盗賊へと迫る。
あえて広範囲にしなかったのは森が燃えない様にと、スイムを巻き込まないためだろう。
盾を持った男はニヤッと笑うと、隣のエルフが反応する。
「いけない! アイツには魔法を弾く技が!」
「なっ!? メイ!?」
「心配、ないよ」
メイは何かを企んでいるのか、ニヤッと笑ってみせる。
「『魔法障壁』!」
男の盾が一瞬光ったかと思った瞬間、炎が直撃する。
それは盾によって弾かれているが、気のせいだろうか。
盾が燃えだしている様に見えるのだ。
そして、炎が消えると無傷な盗賊と燃えだしている盾がいた。
それに驚き、盾を投げ捨てる盗賊。
「なんで盾が!?」
「ヘルハウンド、の、炎は地獄の、炎、燃やし、尽くす、まで消えない……!」
メイはそういうと同時に右から盗賊が剣を持って斬りかかる。
斬られる……と思った瞬間、メイは素早くその剣を掴み取り、力を入れてへし折ってしまう。
「何っ!? いや、待て。その赤い腕って、オーガの!?」
「吹き飛べ」
「ごっ!?」
盗賊が驚いている間にメイの右ストレートが顔面ととらえ、そのまま振りぬかれて、勢いよく吹き飛ぶ。
その際ゴキャッと骨を砕いた様な音が聞こえてきた気がしたが、気のせいだということにしておこう。
これで残り六人だな。
「クソが! 例え、盾がなくなって!」
「!」
盾を失った盗賊が腰につけてあった剣を引き抜こうとした時、スイムが飛び跳ねる。
それと同時にスイムの体から水の弾丸が放たれ、それが盗賊の頭に直撃し、風穴を開ける。
そのまま盗賊は白目を向いて倒れる。
スイム、いつの間にあんな魔法を覚えたんだろうか……。
「い、今のは『水の弾丸』ですか!? まさか、スライムが魔法を!?」
隣のエルフが驚いた様にスイムを見ている。
え? スライムが使っただけでそんなに驚くことなのか?
もしかして、テイムしたスライムでも、魔法を使える様になることはない……とか?
スイム、もしかしなくても凄い子だったりするの!?
と、とりあえず、残りは五人。
「スライムが魔法を使うなんて聞いてねぇぞ! テイムモンスターでも、できるなんて!」
「隙あり」
驚いている盗賊の背後に素早く現れたメイはカマキリの様な腕に左手を変化させ、素早く振るう。
それにより、首は切り落とされ、首が落ちると同時に体も倒れる。
「つ、次はマンティスブレイドの腕だと!? あの魔人、一体何なんだよ!?」
「焦るな! ユニークスキルか何かに決まってる! それさえわかれば」
「わかる、ことは、ない」
そういうと次はメイの足が狼の様なものへと変わり、走り出した瞬間、その場から消える。
そして、一瞬で盗賊の一人の前に現れると、マンティスブレイドと呼ばれた腕を振るい、縦に真っ二つに切り裂く。
その光景に思わず吐きそうになるが、我慢しなくちゃならない。
そして、スイムの方はまた飛び跳ねると青い魔法陣を展開すると、複数の槍の形をした水を生成する。
それもその水はドリルの様に渦巻いており、貫通力を上げているのがわかる。
「アレは『水の槍』ですか!? スライムが本当に!?」
「!」
エルフが驚くんだから、本当にスライムは魔法が使えるはずのない存在なんだろうな……。
そして、スイムが飛び跳ねると水の槍は一斉に放たれ、二人の盗賊に迫る。
武器を振るって打ち消そうとして、武器が水の槍に当たった瞬間、打ち消されるのではなく、むしろ相手の剣をへし折り、そのまま次々と盗賊二人に水の槍が刺さり、倒れる。
残りはリーダーらしき男のみだ。
男は一瞬にして、死んでいった仲間たちに驚きながら、こちらを見てくる。
「次はワーウルフの足だと……!? いや、本当にそれだけなのか!? あのオーガの怪力も、オーガ以上ありやがった! その足だって、ワーウルフ以上のスピードがありやがった! お前は一体!?」
「ちょうど、いい。お前、の、心臓、私に、ちょうだい」
「え?」
メイが満面の笑みで言い放った瞬間、腕は人間の物へと戻っており、ワーウルフと呼ばれた足で一瞬で男との距離を詰める。
そして、次の瞬間、男の胸目掛けて突きを放ち、貫く。
男がそれに目を見開いたと同時に口から血を吐き、その目からは生気が消える。
メイが腕を引き抜くと、その手には……うん、言わなくてもわかるかな。
「やった! これ、で、言葉、が、上手に、なる!」
そういって喜々として口を開き、心臓を一口で食べてしまう。
隣でエルフも顔を青くしているが、メイには必要なことなのだから仕方ない。
しばらくしてから飲み込み、何か考え事を始めると、急に嬉しそうに笑みを浮かべ始める。
そして、メイは嬉しそうに近づいてくる。
「お疲れ、メイ」
「うん、ユージ。私、凄く強いでしょ?」
「あぁ、本当に。それに言葉も上達したな」
「まぁね! これで会話に困らないよね!」
魂喰い、恐るべしだな。
そういえば、スイムはどうしているのかと思い、辺りを見渡してみると。
「……」
何やら、死体を次々と溶かして、食べていっているのが目に入る。
まぁ、食べちゃうよね、やっぱり。
メイは言葉が上手に喋れる様になったのが嬉しいのか、何やら発声練習らしきものをしているし。
そう思って二匹を見ていると、肩を叩かれて反応する。
振り返るとエルフの少女が警戒した様な、それでもどこか感謝をしているかの様な、複雑そうな目でこちらを見てきていた。
「あの……助けていただきありがとうございます。人間に助けられるとは思ってもいませんでした。私の可能な限りですが、お礼をしたいのですが」
「いや、偶然気付いただけだから気にしなくていいよ」
「いえ、例え人間だとしても、助けられたのです。礼はしっかりしないとエルフの恥です」
断ろうとしたのだが、そういって引き下がらないエルフの少女。
また断ろうとしても、同じことを言われるのだろう。
なら、長い口論になるよりかはあっちの言い分を聞き入れた方がマシだろうな。
それにちょうど困っていたこともあるし。
「ならさ、森の出口に案内してほしいんだ。俺たち、街を探したいんだけど、なかなか森から抜け出せなくて」
「……そんなことでいいんですか?」
「え?」
エルフの少女が意外そうに俺を見てくる。
うん、俺なんか間違ったことでも言ったかな?
「どういう意味?」
「いえ、てっきり……ヤらせろ、とか言ってくるのかと思っていましたので……。人間は欲望に忠実ですし」
「全ての人間がそういうわけじゃないからね!? 人間にだって、理性はあるからね!?」
「そのようですね。貴方に会って、人間にも理性はあるんだと知りました」
「その言い方だと、前まではないと思ってたの!?」
「ハイ、そうですが?」
「ただの動物と変わりないじゃん! それ!?」
酷い偏見を持たれていたもんだな、オイ!?
とりあえず、ここは紳士的にいかなければ。
「後、できれば水と食料が欲しいんだ。だから、君の村か何かに」
「それは無理ですね。行ったら、殺されますよ?」
「ですよね~……」
わかってたよ、無理だってことは。
それでも一応、頼んでみるもんなんだよ。
「ですが、村に入れるのは無理でも、食料と水をあげるくらいならいいですよ。食料と水、出口の案内……この二つがお礼でいいですね?」
「あぁ、それで頼むよ」
「それでは、ここで待っていてください。村から食料と水を取ってきますので」
そういうとエルフの少女は飛び上がり、木の枝に飛び移るとすぐに次の木の枝へと飛んでいく。
まるで忍者の様だな……と思いながら、次元倉庫からきび団子二つを取り出し、一つはメイに投げ渡し、もう一つは袋を開けて、盗賊の消化を終えたスイムに上げ始める。
待っている間にメイとスイムの懐き度を上げておこうと思ってな。
スイムがなぜ、魔法を使えるのか!
まぁ、理由は簡単だと思いますが。
それではまた。