虚空VS水帝 Ⅱ
スイムとロキは己の武器をぶつけた後、素早く後ろに飛ぶ。
それと同時にスイムは魔法陣をロキの足元に複数展開する。
「『水の束縛』!」
魔方陣から飛び出してきたのは水の鎖たち。
それがロキの足や腕、体に巻き付いていき、動きを止める。
「水の束縛魔法か。凄いね、コレに束縛されたら水の中にいる気分になるね。凄く体が動きにくい」
「メラ!」
「ルーフス、声をあげれる様になってたのかよ……」
しかも、スイムのうみゅの次はメラって……火属性だから?
この感じだとウィリデとフラウムも声を上げることは可能になってそうだな。
そんなことを考えている間にロキに追撃をするためにルーフスが魔法陣を展開。
魔方陣から放たれたのは火の球……『火球』。
火球がロキに直撃するかと思った瞬間、ロキは右手に持つ長剣の方を素早く手で回し、一回転させることで水の鎖を断ち切り、自由になった右手で再び剣を振り下ろす。
それにより火球は真っ二つに割れて、ロキの左右を通り過ぎていくと後ろで爆発する。
「フゥ!」
次に動き出したのはウィリデだ。
緑色の魔法陣を展開し、そこから放ったのは風の刃……所謂鎌鼬だ。
迫りくる風の刃を前にロキは余裕を崩さず、他の水の鎖を切り裂き、体の自由を取り戻したと同時にクロノスの短剣の方を素早く何度か振るう。
何故、何もないところで素振りをしたのだろうか?
それを不思議に思いながら見ていると、鎌鼬が直撃するかと思った瞬間、ロキの目の前で何かにぶつかった様に打ち消される。
「フッ!?」
ウィリデも鎌鼬が防がれるとは思っていなかった様で、驚きの声を上げる。
だけど……確かに何もせずに打ち消されたのはおかしい。
あのクロノスの短剣の方を振るったことに意味があるのか?
だけど、今は気にせず攻めるしかない!
「フラウム!」
「ドン!」
フラウムも声をあげ、反応して、黄色の魔法陣を複数展開し、そこから姿を現すのは鋭く尖った岩石群。
「ドン!」
フラウムの掛け声と同時に弾丸の様に放たれる岩石たち。
【ちなみにウィリデが放ったのは『風刃』の上位互換、中級魔法の『鎌鼬』、フラウムが放ったのは『岩の弾丸』です】
解説どうも……。
というか、進化したからなのか、中級魔法まで扱える様になってるし。
それよりも、フラウムが放ったストーンバレットもロキに当たるかと思われたが、その直前で何かにぶつかって砕け散っていく。
「ドン……」
フラウムは何かを考え込み始める。
フラウムって、意外と分析するタイプ?
そんなことを思っていると、ロキは短剣を一度軽く振るってから走り出す。
その動作は何かを切り裂くかの様で。
一体、何をして……。
【恐らくですが、空間を斬ったのではないのでしょうか?】
空間を……?
まさか、双剣クロノスの短剣の方は空間を斬る能力?
【だと、私も推測します】
もし、そうならロキに攻撃が届かなかったのは空間の壁を切り抜いて作ったか、ロキまでに続く空間を断ち切ったことで届かない様にしたかのどちらかということか。
そして、自分が走り出す際にはそれを斬って、空間を元通りにしたと言う感じか。
「正解だよ、ユージお兄ちゃん」
「……ハァ、戦闘中くらいは気付かれたくもないんだけどな。作戦とか簡単にバレそうだし」
今後は作戦は考え込まずに、その場その場で指示を出すくらいの頭の回転が必要かもしれない。
というか、戦いながら、俺の方でも見てたのか、ロキは。
「うん、見てたよ? ユージお兄ちゃんをどうやって連れ去ろうかってことと、監禁した後は何をしようかなって」
「うん、ホント怖ぇよ! というか、同年代くらいの姿でお兄ちゃんとかやめてほしいんだけど!?」
「やだ」
無邪気に笑っているつもりなんだろうけど、狂気に走っているからか、歪な笑みなんだよなぁ。
だって、目が未だに赤黒く濁ってるしね。
その間にロキはスイムとの距離を詰め、両者は己の武器を振るってぶつけ、火花を散らした後にお互い距離を取る。
そして、ロキは俺を見てくる。
「それにしても、ユージお兄ちゃんって観察力がいいのかなぁ? ロキのスキルを見破ってみせたし。『時の審判者』の短剣の方の力バレちゃうし」
「いやぁ……スキルはともかく、武器は俺というか……」
ヘルプさんのおかげというか……ね?
ロキはクロノスの短剣の方を手の中でクルクルと回してみせる。
「正解したユージお兄ちゃんには特別に教えてあげてもいいかな? 『時の審判者』の短剣の力は『空間切断』。空間を切り裂く力だよ? さっきの風魔法と土魔法を防いだのは空間の壁なんだ。素早くコレを何度か振るってみせたでしょ? それはね、空間の壁を作るために切り抜いたからなんだ。いくら防御が困難と言われる『鎌鼬』でも、空間を壁にされたらどうしようもないでしょ?」
「そりゃそうだ」
だって、その先に続く空間が実質ないんだから、どんな攻撃もロキには届かないわけだ。
時を操る力に空間を切り裂く剣。
クロノスの長剣の方にも何らかの力があるんだろうが、それが何かはわからない。
それにしても、いくら時と空間は密接な関係だからとはいえ、ロキがその両方を使う力を持っているのはどうかと思うぞ……チートじゃん。
だからと言って、諦めるわけにもいかないんだけど。
「スイム! どうにかして、ロキの隙をつくぞ!」
「うみゅ!」
スイムはトライデントを構えると、そこに水が集まり、渦潮の様に渦巻きながらも、ドリルを思わせる様な形を作る。
それで突撃していき、ロキは短剣を回す手を止め、走り出す。
「『渦巻く水の刺突』!」
トライデントは三叉槍のため、剣よりも間合いに入るのは早い。
スイムは水のドリルを纏ったトライデントを突き出し、ロキはクロノスの長剣で弾こうとした瞬間、水の渦潮に絡めとられ、そのまま長剣は明後日の方向へと吹き飛ばされる。
それにロキは目を見開くと同時にスイムの突きがロキの腹部に突き刺さる。
水の渦潮ドリルで抉るかの様に。
「……へぇ」
ロキはそう呟いたと同時にトライデントの先端に魔法陣が展開される。
「このまま連続で行くみゅ! 飲み込め! 『渦巻く水の激流』!」
その瞬間、トライデントが纏っていた渦潮が砲弾の様に放たれ、ロキの体を吹き飛ばしていく。
回転しながら吹き飛んでいるのを見る辺り、渦潮の回転も加わって、体にダメージを与えて行っているのgがわかる。
ロキはそのまま壁に激突し、渦潮の砲弾が消えてから、地面に倒れる。
「やったみゅ……?」
う~ん、それは言っちゃダメなやつだな、スイム!
ロキは手を地面につけ、ゆっくりと起き上がる。
スイムが攻撃したことによってできた傷から血が溢れ出してきており、ロキは口から血を吐きながらも立ち上がる。
ロキが立ち上がる間に傷跡に時計盤を模した魔法陣が浮かび上がると、傷がみるみると塞がり始める。
恐らく、時の力を利用しての高速再生。
だからと言って、そうしただけであんなすぐに傷が塞がっていくだろうか?
推測だが……ロキの元々の回復力が高い可能性がある。
「油断しちゃった……。スライムの魔人と言っても、魔人は魔人かぁ。そこまでなると、元の種族なんてスキルが関係するくらいなんだろうね」
傷を完治したロキはクスクスと笑い始める。
それが不気味で、俺たちが警戒していると、一歩踏み出す。
それも力強い一歩で、強く踏み出された足は床を砕き、地面へとめり込み始め、それに合わせるかの様に地面のヒビが広がっていき、地面はえぐれるかの様にへこんでいく。
ああいうのクレーターっていうんだったか。
いや、そんなことを思っている場合じゃない。
「皆、気をつけろ! ロキが何かを仕掛けて」
「もう遅いよ」
「みゅっ……!?」
ロキの呟きが聞こえたと同時に聞こえたのは地面を踏み砕いた様な音とスイムの短い悲鳴。
反応して、スイムへと視線を向けた時に、何かが俺の隣を横切った。
まるで吹き飛んだかの様な……そんな勢いで。
恐る恐る振り返ると、そこには壁にめり込んだスイムが口から血を吐いていた。
「うみゅ……」
「スイム……!?」
スイムは壁から抜けると、そのまま倒れこんでしまい、動かなくなる。
一体何が起こったのか……わからなかった。
遅れてやってきた様な風を感じながら、ゆっくりとスイムが元いた場所へと視線を向ける。
そこにいたのは何かを……いや、スイムを蹴り抜いた様な後でいるロキだった。
ロキ自身を支える片足の地面には大きなヒビが広がっており、地面が少し窪んでいる。
まさか、視認できないほどのスピードで動いて、スイムを……?
いや、それしか考えられないし、そんなスピードが乗った思い一撃をくらえば、スイムが倒れこんでしまうのも納得だ。
次元が……違いすぎる。
「今の一撃で粉々にならないなんて……。今の感触、『水を蹴った様な』……? まさか、まだスキルを隠してるのかな? ねぇ、やられたフリをしてる魔人さん?」
水を蹴った様な……?
いや、それよりも粉々にならないなんてって……どんな脚力とスピードを出してるんだよ。
それにロキの言葉に倒れたはずのスイムがピクリと反応して、ゆっくりと立ち上がる。
「うみゅ……。これ、ご主人様もまだ知らないから、貴方を誤魔化せるかもと思ったみゅ。カーラさんは何かに気付いて、あの刻印をつけてくれたみゅ」
「あの刻印……? まさか」
思えば、スイムにだけは一つ変わったものをつけていた。
『同化』……まさか、スイムのスキルに気付いて、それをつけてくれたのか? カーラさんは。
ヘルプさん、スイムのスキルを徹底解析、お願いします。
【わかりました。これより、個体名:スイムのスキルを徹底解析します】
よし、これで後は待つだけだな。
何個あるかわからないし、ヘルプさんでも少し時間はかかるだろうから、それまでは戦闘に集中しよう。
「……どういう仕掛けかわからないけど、水魔法で威力を軽減させたのかな? その血も自分の水魔法でうまく作った血糊でしょ?」
「そこまで見破られてたみゅ?」
スイムは自分の口元から流れている血……ではなく、血糊を拭ってみせる。
俺、スイムがマジでやられたと思って焦ってたんだけど……結構、頭よくなってないですかね?
そう思っているとヘルプさんの声が聞こえてくる。
【解析が完了しました。個体名:スイムが所持しているスキルを開示します】
次の瞬間、俺の脳内にスイムが持つスキル一覧が思い浮かんでくる。
スキルが『変身』……うん、コレは知っているな。
次はエクストラスキルで『水帝の恩恵』と『氷水魔法』……あぁ、スイムが水魔法の上級と言われる氷魔法を扱える様になったから、ここにきたのか。
で、ユニークスキルが『液体の体』と『液体操作』。
うん、なるほど。
ロキの攻撃を防いだ方法がなんとなくわかってきた。
この『液体の体』……つまりは水の体ということだよな?
どこぞの仮面ヒーローとか、思い浮かんでくるな……後は海賊とか。
実質、これさえ発動しとけば物理無効みたいなもんじゃないか。
まだ勝てないと決まったわけじゃない。
やっぱりどんな魔物でも、頑張って育てればこんなに強くなるんだな。
まぁ、俺の場合『魔物へのお菓子』様々だけどな。
希望はまだある。
「アハハ」
そんなことを思っているとロキから笑い声が聞こえてきて、反応してみると、ロキは愉快そうな声で笑いながら、歪な笑みを再び浮かべていた。
それもロキの歯が……牙に変化している?
【注意を。彼女の姿が変化したことで『人化』のスキルを使用していたのが判明しました。これにより魔人としての姿を完全に隠し、人の姿をしていたと推測】
え? そんなのがあるの?
だが、言われてみれば確かにロキには魔人の様な特徴は見当たらない。
メイはキメラとしての特徴が残っていたし、スイムだってスライムになることができると言うことで特徴を表していた。
カムイさんだって、ムルムルさんだって、フォルネウスさんだって……出会った魔族は全て、何かしらで元がわかる様になっていた。
てっきりアレが魔族としての姿だと思っていたが。
【それと同時にユニークスキル『時の支配者』から派生したエクストラスキルを確認。気を付けてください、『時喰む牙』を確認しました。アレは相手の時を、寿命を喰らうスキルです。喰らいつくされれば、寿命が尽き、死に至ります】
なんか……やばいの解放してきてないか?
少し喰われただけでも、時を奪われるって。
【少し時間を置けば奪われた寿命は自然回復しますが、恐らく】
「あぁ……。ロキは逃がす気なんて絶対にない。喰らいつくすつもりで来るはずだ」
「そりゃそうだよ。ユージお兄ちゃん」
俺の呟きが聞こえたのか、ロキは答えてくる。
「わざわざ『人化』を一段階解いたんだよ? この魔人を絶望に叩き落すにはこれくらい解放しないと無理だってわかったから。だから、次こそはその顔に浮かぶよね? 絶望が」
まだ力を隠しているっていうのかよ、ロキは……どこのラスボスだ。
スイム達はいけるのか……この戦い?
俺はスイム達へと視線を向けると、そこにはロキのオーラか何か当てられてか、顔を青くして、恐怖した表情を浮かべながら震えるスイムと体が凄い勢いで振るえているルーフス達がいた。
ここに来て、恐怖を覚え始めるのはやばい。
解放したスキルがスキルなだけに、余計にだ。
そんなスイムの恐怖を浮かべた表情を見てか、嬉しそうな声で話し出す。
「いいね、その顔。ロキはその顔、好きだよ? 怖いでしょ? 怖いよね? だって、得体のしれないモノを感じ始めてるんだから当たり前だよね? それがロキだよ? それが『虚空』だよ? 後はその表情を絶望に染め上げれば、終わりだよね? さぁ、虚に沈めてあげるから、覚悟してね?」
ロキが一歩踏み出し、ゆっくりと歩き出した。
少しこの戦い、長引いてしまっています。
予定では今回で終わりだったのに……。




