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報告

俺たちはあの後、王都の『フェルシオン』へと帰ってきていた。

まぁ、またノワールに乗って移動したため、予定していたよりも早く帰ってこれて、夕暮れ時だ。

ギルドでアルフの追加登録と依頼達成の報告と確認をし、報酬を貰って、今は街中を歩いている。

魔物の数が多かったからか、銅貨二十枚のところを三十枚ほどに増やしてもらえた。

更には鉱石収集の達成料金を合わせて、銅貨は五十枚。

これで宿に泊まるお金は確保できたわけだ。

流石にメイたちの装備は買えるほど余裕はまだないけどね。

安い装備でも一つ、銅貨二十枚はするそうだ……うん、出したら宿に泊まるお金が少なくなるな。

もう少し良い依頼を受けたいが、Fランクだったらこんなもんだろう。

どうにかして、ランクをあげたいものだが……う~む。


「ユージ! リオンのところに報告、行かなくていいの?」

「ん? あぁ、そうだな。さっさと行かないとな」


そうだ、『悪魔神教』のことを報告して、対策をしてもらわないと。

とは言っても、存在くらいなら知ってそうだよな、リオンさん……というか、この世界の王達は。

なら、報告するだけ無駄だろうか……?

いや、メフィストフェレスのことは知らない可能性はあるから、一応報告はしておこう。

俺たちはリオンさんがいる城目指して歩いている。

アムドゥシアスさんが話を通してくれていたら、俺たちは通れるけど……通してくれてるかな、あの人。

不安になりながらも、俺たちは城の前まで来ていた。

門番であろう兵士の人はこちらに気付くと、近づいてくる。


「変わった服装と装備をした赤黒のコーディネートの青年……。どうも、ユージ様ですね。アムドゥシアスさんから話は聞いております。お通りください」

「ありがとうございます」


俺は礼を言って、メイたちと共に城の中へと入っていく。

どうやら話を通してくれているのは本当みたいだが……特徴の伝え方に悪意を感じるのは俺だけだろうか?

悪気はないにしろ、もう少し伝え方があるでしょうが。

ため息をつきながらも、中へと入っていく。

そして、扉を開けて、中へと入ると、そこにいたのはカミオさんがいた。


「カミオさん」

「ルシファー様が来ると言っていたから、迎えに来た。スイムにも会いたかった」

「うみゅ!?」


どうやら、魔人になったスイムも気に入っている様で、カミオさんはスイムに抱き着き、頭を撫でている。

まぁ、確かにさ、スイムは元がスライムなだけに少しひんやりしてて気持ちいいけどさ。

それにしても、俺たちが来ることをわかってたと言うことは……『未来視』でもしたか、あの人?

あの人、『未来視』で、この先何が起こるか知ってるんじゃないだろうか、実は。

あり得そうだ……。

しかも、未来が変わってしまうからとかいう云々で言わない様にしている可能性も大だ。

ということはだ、今更だが、召喚されてから、ルフェさんに出会うことやそのままこっちに来ることも最初から知っていたんじゃないだろうか?

うわぁ……あり得そうだから否定できないや。


「ユージ、どうした? ルシファー様、待ってるけど」

「あ、すんません。今行きます」


カミオさんの言葉にハッとし、俺はすぐに歩き出して、ついていく。

この際、未来視で知っていたとか、そういうのはどうでもいい。

やばいのがいるのは確かなのだから、それの報告だけはしっかりしておかないと。

歩いている内にカミオさんが一つの扉の前で止まる。

城が広いから、それに比例して部屋も多い。

だから、ここがどこの部屋だったっけ……なんて思ってたりする。

食堂ではないのは確かだけどね。

そう思っていると、カミオさんが扉をノックする。


「ルシファー様、ルフェ姫、ユージ達を連れてきました」

『来たんだね。入っていいよ』


扉の向こうから聞こえてきたリオンさんの声。

それに反応して、「失礼します」と扉を開けてカミオさんが入り、俺たちもそれに続いて入る。

そこにいたのはリオンさんとルフェさん、そして……包帯、というよりは布を顔に巻いて、顔を隠している人がいた。

体もマントで覆い隠しているため、男か女かもわからない。


「やぁ、やっぱり来たね」

「その口ぶりだと……未来視ですね」

「まぁね~。君から何か来るんじゃないか! という勘が働いてね。未来視をしたら、君がここに来るのが視えてさ~」


勘で視るっていうのも凄い話だけどな。

そう思っているとルフェさんが歩いて、こちらへと近づいてくる。


「出ていったばかりなのに、すぐに戻ってきてしまいましたね」

「アハハ……。いや、まぁ、報告したいことがあって。それよりも……そこの人は?」


俺は視線を顔を隠している人へと向ける。

その人は俺の言葉に反応したのか、軽くお辞儀する。

それに反応して、俺もお辞儀をし、メイとスイムがそんな俺を見て、真似てなのだろう、お辞儀をする。

そのまま挨拶が来るのかと思ったのだが。


「……」

「……え? あ、あの……彼? 彼女? は誰でしょうか?」


まさかのお辞儀だけに思わず、俺はリオンさんたちに聞いてしまう。

そんな俺たちのやり取りを見ていてか、リオンさんが笑い出す。


「アハハ、ゴメンゴメン。この子人見知りでさぁ。俺が代わりに教えてあげるよ。この子は諜報隊の隊長兼魔将の」

「……ムルムル」


リオンさんに続く様に聞こえてきた、女性の声。

それはあの顔を隠している人からの声だった。

自身の名前を名乗った後、顔を別の方へと向け、俺たちを見ようとしない。

人見知りっていうか、恥ずかしがり屋じゃないの?


「まぁ、自分で名乗った通り、彼女はムルムルだよ。こんなんだけど、実力も、情報収集もお手の物さ」

「そ、そうですか」


いや、まぁ、性格とか関係ないと思うけどさ。

とは考えていても、あの態度を見ていると、魔将と呼ばれる人だと言うと驚きしかない。

いやいや、それよりも悪魔神教のことを言わないと。


「あの、実は伝えたいことがあって、来たんですけど」

「うんうん、だろうね。未来視でもそうだったし、まぁ、どこぞの『悪魔神教』とやらと接触でもしたんでしょ?」

「知ってたんですか?」

「まぁ、名前だけは聞いてたしね。それの調査をムルムルに頼んでいたんだけど、まさか君たちがその一人と接触して、戦闘まで行うとは思ってなかったけどね」


どうやらリオンさんにはお見通しの様だ。

というよりも、ムルムルさんにかもしれないけど。


「じゃあ、俺たちが戦った相手の情報も?」

「……そこはまだ。貴方達が聞いた『メフィストフェレス』という『悪魔』ぐらいしかわかってない」

「そうですか……。いや、っていうか、なんで知ってるんですか」

「……諜報員隊長だから」


いや、それだけの理由で知ってるのはおかしいと思うのですが?

というか、言い終わったら、また顔を逸らさないでくれますか?

何気に傷つく……。


「まぁ、ムルムルの態度に傷ついているユージ君には悪いけど、話の続きだけどさ」

「ホント酷いっすね、アンタ」


思わず素で出てしまったよ、言葉が。

そこまでわかっていて、しかも笑顔で言うんだから、酷いよ、この人は。


「ムルムルの調査で更にわかったんだけどね、あの時ルフェを襲った、『赤火竜レッドドラゴン』……どうやら、『悪魔神教』の仕業みたいなんだよね」

「あの時のドラゴンが?」


オイオイ、あの時考えた、もしも、が本当に出てくるとは。

まぁ、メジャーではあるが……狙う理由もそれなりにあるのだろうか?


「どうして、ルフェが狙われるの?」

「メイ!? お前、ルフェさんを呼び捨てに」

「構いませんよ。メイちゃんたちと私は友達なのですから。もちろん、ユージさんもです。なので、敬語なんて使わなくてもいいですよ?」

「いや、そういうわけにはいかないっていうか、立場的な問題で無理っていうか」


だって、相手はこの国の姫で、魔王の妹なのだから。

ため口とか恐れ多くて、無理だ。


「うんうん、ルフェが楽しそうで何よりだよ。ねぇ、冒険に出ずに、ここに住まない?」

「いい提案ですね、お兄様! 私もそうしてくれたら嬉しいです」

「あ、いいです。俺、異世界に来たら、冒険するんだって、ずっと心に決めてたんだ」

「そうですか……」


ゴメンなさい、ルフェさん。

リオンさんの言葉に嬉しそうに反応していたルフェさんだが、俺が断ったら、少し落ち込んでしまった。

別に断った理由は嘘ではないのだが、リオンさんと一緒に生活なんてしていたら、俺の精神ストレスがマッハで上がりそうだからという理由もある。

この人、俺を弄るのを楽しんでいるからな……。


「それよりも、メイの言う通り、どうしてルフェさんが狙われるんですか? リオンさんの、魔王の妹だからですか?」

「うん、まさにそういう理由かな」

「予想的中した!?」


意外と簡単な予想だったんだけど!?

あるあるにもほどがあるんじゃないだろうか……。


「『悪魔神教』の奴らの目的は古代の魔王の一人、『邪悪王』アンラマンユの復活が目的だからね。大方、そのための生贄にでも使おうと思って、ルフェを襲ったと思うんだよ」

「生贄って……やっぱり、儀式とかそういうので?」

「だろうね。復活させるためにルフェの魂を使おうとしたんだろうと思うよ」

「だからって、どうしてルフェさんを?」


もし、アンラマンユのための生贄だとしても、それなら魔王のリオンさんとかを狙うんじゃないだろうか?

だって、古代の魔王だしね、アンラマンユは。


「まぁ、君の考え通り、この世界『アルライト』には色々な王も存在するよ? そりゃ、今の魔王なんて、俺を合わせて七人は存在する。『七大罪の魔王』なんて呼ばれてたりしてさ」

「アハハ……」


ヤベェ、残りの六人の魔王がどんなのか想像できてしまった。

七大罪の悪魔のことだよな、俺の世界にあった。


「それで話の続きだけど、どうして魔王たちじゃなく、俺の妹であるルフェを狙ったのか。それは簡単な話さ。俺を生贄にするためには生け捕りにするしかない。だけど、『悪魔神教』も流石に魔王を生け捕りにするなんて、ほぼ不可能に近いって思ってるはずさ」

「まぁ、そうでしょうね。魔王ですし……」


絶対実力も隠してるよ、このルシファーは。


「だから、代理でルフェさんを?」

「おかしいよ。だって、ルフェは魔王じゃないよ?」


そう、メイの言う通り、ルフェさんはあくまで魔王である、リオンさんの妹なだけで……待てよ?

まさか、妹だからこそ……?


「気付いた様だね。そう、俺は無理でも、俺の『血縁』ならどうだろうか? それなら可能だ。何せ、『魔王の妹』ということは、魔王である俺の血を引いていることになる。そう、ルフェは俺の『代わり』ということなんだ」

「血筋っていうのも悩みもんっすね……」


それならルフェさんが狙われた理由も納得がいく。

ルフェさんも実質ルシファーの血を引く者になるのだから……いくら襲名式だとしてもだ。

リオンさんが無理なら、血縁である妹を使えばいいと考えるとは……。


「だから、赤火竜レッドドラゴンがこの付近に現れたのも、ルフェを襲ったのも、偶然なんかじゃないんだ。全て『悪魔神教』の仕業なんだよ」

「『悪魔神教』の……」


宗教の様な組織と言っていたが……一体、どういう組織なんだ?


「……色んな目的を持った者が集まった組織。それぞれ目的があるけど、最終的には『アンラマンユの復活』という共通の最終目標を持っている」

「メフィストフェレスの様な『人間の可能性が見たい』っていう感じにか……」


そうなると、面倒な奴らが多そうだな。

世界を無茶苦茶にしてまで、目的を果たしたいのだろうか?


「にしても、会ったばかりのムルムルさんにまで表情を読んで言われるなんて」

「……わかりやすいから、気を付けた方がいいよ?」

「そんなにですか……」

「……人の表情を読み取るのが苦手なムルムルがわかるほどに」

「そんなに!?


人の表情を読み取るのが苦手な人でも、俺の表情だけで、何を考えてるのかわかるほどにか!?

どれだけわかりやすいんだよ、俺の顔。


「あの、それ以外にわかっているのは?」

「……ない。謎が多い組織だから。どれほどの規模の組織なのかも……」


ムルムルさんは首を横に振った後、またそっぽを向く。

話せるのか、人見知りなのか、どっちかはっきりしてほしいもんだけどな……。

とは言っても、報告するのはそんなに必要なさそうだった。

あると言っても、メフィストフェレスのことくらいだろう。


「……それじゃ、ムルムルは行く。また情報を集めたら、報告に来るから」

「うん、お願いね、ムルムル」


ムルムルさんはそういうと床に吸い込まれる様に入り込んでいくと、その場から姿を消す。

思えば、種族聞いてなかったな……。


「あ、ちなみにムルムルは『影魔シャドウ』の魔人さ。滅多にいない影の魔物でね……。羨ましい?」

「いや、別に」

「段々敬語じゃなくなってきてるよね、俺に対して」


そりゃ、弄られ続ければ、その人に尊敬の念を持って接するはずがないだろう。

まぁ、それじゃ、そろそろ街に戻って、宿屋に泊まりに。


「あ、そうそう。それとユージ、君に頼みたいことがあるんだけど」

「何っすか?」

「ホント態度変わってきたよね」


自分が原因だと覚えておこうか、この人は。

それよりも頼みたいことって一体……。


「うみゅみゅ?」


スイムが首を傾げながら、恐らく「頼みたいことって?」と聞いている。

リオンさんもそれを理解してか、一度頷いてから、笑顔で俺たちを見てくる。


「君たち個人に依頼でさ、俺の妹、ルフェの護衛をお願いしたいんだ」

「え……?」


笑顔でとんでもないことを言ったよ、この魔王は。

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