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悪魔

「メフィストフェレス……?」

「ハイ、そうですよぉ。私、『悪魔』のメフィストフェレスでございますぅ」


ハット帽の男……メフィストフェレスは自身の種族名を名乗る。

悪魔、ということは魔族に入るのか?


【ハイ。悪魔、魔人、精霊が魔族として呼ばれます】


あ、そうなんだ……。

精霊まで魔族に入っているのは驚きだけど、それよりも今は目の前のメフィストフェレスだ。

洞窟の奥から現れたということはアンノウンに関係している可能性がある。


「その悪魔さんがこんなところで、何をやってるんだよ?」

「おやおやぁ? やはり、気になりますかぁ?」


ニヤニヤと言うのがあってそうな笑みを浮かべるメフィスト。

なんだか、その笑みを見ていると、イライラしてくるぞ。


「どうしましょうかぁ。教えて差し上げましょうかねぇ!? 悩みますねぇ!」


しかも、一々テンション高くてうぜぇ……。

なんでこんなにテンション高いんだよ、コイツ。


「いやぁ、すみませんねぇ。なんせ、久々に人とまともな会話をしているもんですからねぇ。それも質問までされれば、悪魔とはしては嬉しいものでしてねぇ!」

「また顔に出てたか……」

「自覚しているのに出てしまうとはぁ。苦労していますねぇ!」

「笑いながら言われたら、バカにされてるとしか思えねぇんだけど!?」


本当に人をイラつかせる奴だな、この悪魔は!

いやいや、落ち着け、俺。

コイツにノせられて、思わず怒っていたが、聞きたいのはそれじゃない。


「それで教えてくれるのか? ないのなら……怪しい悪魔として、アンタを拘束させてもらうぜ?」


俺の一言でメイが両手を地面につけると、メフィストの周りに四つの土色の魔法陣が展開され、そこから鋼鉄の柵が出現する。


「私を拘束とは恐ろしいことを言いますねぇ。教えて差し上げますから、そんな物騒なことはしないでくださいよぉ」

「ちなみに、話次第でも拘束して、リオンさんのとこに突き出してやるからな」

「魔王ルシファーのところに突き出すなんて、余計に恐ろしいですねぇ」


本当にそう思ってんのか、コイツ?

拘束すると言った時もそうだが、魔王ルシファーであるリオンさんの名前を出しても、まったく笑みを崩さない。

余裕を感じさせるほどにだ。

それが強がりなのか、本当なのかはわからないがな。


「じゃあ、話してくれ。一応聞いておくが、嘘は意味ないからな? ウチの子が看破できるんでな」

「真実だけを話してね」


メイの瞳にはハートマークの入った紋章が浮かび上がる。

常に心を覗いているのだ。

嘘だとわかった瞬間、拘束する。


「ほほぉ、土魔法に『読心の目』まで持つとは……。それに『邪悪の眷属』を喰って、正気を保っていられるとは驚きですねぇ。いくら魔人と言えど、アレを喰らえば大変なのにぃ」

「『邪悪の眷属』……?」


それがあの『アンノウン』の正式名称なのだろうか?

いや、そもそも喰らえば大変って、一体?


「そこの人間様がなぜ? という様な疑問を感じている様なので、悪魔として、特別お教えしましょうかねぇ!」

「……そうだよ、どういうことだよ?」


もう顔見てわかったとしか言わなさそうだから、スルーする。

スルーしても、相変わらずニヤニヤとしているメフィストフェレス。


「まず、『邪悪の眷属』とは何かからですかねぇ! それは簡単! その名の通り、『邪悪な者より生まれ出た眷属』ですぅ!」

「いや、意味わからん。邪悪な者から生まれたから、眷属って……」

「アレェ? わかりませんかねぇ? この世界『アルライト』で最も邪悪で、最も危険な古代の魔王! この世全ての悪が形を成したと言われたほどの魔王! 悪の根源と言っても違いないほどの者……アレは『アンラマンユの眷属』なのですよぉ」

「アンラ……!?」


ルフェさんから聞いた、『邪悪王』と呼ばれた魔王の……!?

いや、待て、おかしいぞ。

古代に存在したハズの魔王の眷属がなぜ出てくる?

勇者によって、アンラマンユは倒されたとされているはずだ。


「あぁ、自己紹介に一つ言い忘れがあったので、今言いますねぇ? 私はアンラマンユを蘇らせるための組織、『悪魔神教』という様な宗教にも近いところに参加しているものでしてねぇ」

「蘇らせるって……勇者によって、倒された奴をか?」

「えぇ、そうですよぉ。最も危険で邪悪な魔王を……いえ、『魔神』をですぅ」


アンラマンユを蘇らせるって、そんなことをすれば世界は滅ぶのに……。


「あぁ、もちろん、アンラマンユが蘇れば、世界は大混乱することは私もわかっていますよぉ」

「それなら、どうしてそんなことをするの?」

「うみゅ!」


さっきまで黙っていたメイが口を開き、それに同意するかの様に頷くスイム。

ノワールとアルフまでメイとスイムに並んで、メフィストフェレスを睨むほどだ。

そして、その問いかけを待ってましたと言わんばかりに、再び不気味で、歪な笑みを浮かべ始める。


「何故? 何故と聞かれましたかぁ? 答えは簡単ですよぉ。私はぁ! 人の可能性が見たいのですぅ! 人族だけが持つという『可能性』ぃ!  エルフの様に魔法や知能に優れているわけでもなくぅ! ドワーフの様に手先が器用で、凄い物が作れるわけでもなくぅ! 獣人の様に運動能力、身体能力に優れているわけでもなくぅ! 魔族の様に特別ではない、器用貧乏としか言いようがない人族だけが持つ『可能性』をですねぇ! この目でたくさん見たいのですよぉ!」


狂気……そういうしかなかった。

あの血走った目も、不気味で歪な笑みも、口から出てくる言葉も、メフィストフェレスから感じる物は全て狂気としか言いようがなかった。

悪魔……その種族通り、そう感じるしかなかった。

あまりの狂気にメイたちまで後ずさりし始めている。


「何故、人族だけが『勇者になれるのか』ぁ? 何故、人族だけは『どんな職種にもなれるのか』ぁ? 何故、人族だけが『魔物使いモンスターテイマーになれるのか』ぁ? それは簡単ですよ! 人族だけしか持たない! 人族ためだけのスキルと言っても過言ではないもの! 『可能性の塊』だからなのですよぉ!」


さっきよりも興奮が高まってきているのか、両腕で自分の体を抱く様にし、舌を出して、天井を仰ぎ見るかの様にしている。

コイツ……マジでやばい。

何か地雷原の様なものを踏んでしまった気がする。

さっさとリオンさんのとこに突き出した方がよさそうだ。


「メイ! 閉じ込め「だからこそ、見せてくださいよぉ! 貴方の可能性をぉ!」!?」


メイに指示を出すよりも先にメフィストフェレスは俺の目の前へといつの間にか移動してきていた。

いやいや、待て!

まだ閉じ込めてないとはいえ、鉄格子の柵に囲まれていたはずじゃ!?

視線をそっちへと移してみると、何か鋭利な物によって切り裂かれていく柵が目に入る。

まさか、こっちに来る一瞬で切り裂いてきたのか、四つとも!? 剣か何かでか!?

驚いている俺を余所にメフィストフェレスが手に取り出したのはトランプのカード。


「遊びましょうぉ! 人間!」

「させない! 『炎の打撃フレイムブロー』!」


メイがメフィストフェレスの移動に気付いていたのか、少し離れていたはずのメイが一瞬で俺とメフィストフェレスの間に割って入り、炎に包まれた拳を振るう。

それがメフィストフェレスに直撃……することはなく、ギリギリで後ろに飛ばれてかわされ、メイの攻撃は空を切る。

だが、素早くスイムが前に出て、手を突き出すと、水色の魔法陣が展開される。

魔法陣から冷気が溢れ出した瞬間、その冷気を纏ったレーザーが放たれる。

メフィストフェレスはそれに驚いた様な表情を見せてから、トランプをばらまくと、それらが壁の様になり、一瞬黒いオーラを纏い、レーザーを防いで、凍り付いて砕け散る。


「ほほぉ、そちらの魔人も氷の上級魔法である『絶対零度コキュートス』を扱えるのですかぁ? 凄いですねぇ。その魔法、魔族やエルフでも扱える者は少数だと言うのにぃ」

「お前はその魔法をトランプで防いでみせたわけだが?」

「あぁ、コレにも一応トリックはありましてねぇ。防御魔法を使ったと考えていただければいいですよぉ」


アイツの武器がトランプなのはわかった。

今でも新しいトランプをどこからか取り出し、シャッフルしながら、こちらを見ている。

狂ったかの様に散々叫んだかと思えば、冷静な判断もみせる。

コレが魔族の一つ……『悪魔』というわけか。


「あぁ、それにしてもいいですねぇ。見たことがない魔人を二人も連れているとはぁ。人間とは、どこまで私を楽しませてくれるんでしょうかねぇ。あぁ、面白いですよぉ! それもまた可能性の一つなんですねぇ! だからこそぉ……」


再び狂気に染まったかの様な不気味で、歪な笑みを浮かべるメフィストフェレス。

トランプを空中にバラまいたかと思うと、それらは空中で停止し、トランプが全てこちらを向く。

まるでカードの刃だぞと言わんばかりに。


「人間の可能性を楽しみながら、壊したい。『踊る道化ジョーカートランプ』!」


メフィストフェレスの足元に黒い魔法陣が展開された瞬間、トランプが躍るかの様に舞いながら、こちらに迫ってくる。

メイが大きく息を吸うと赤い魔法陣が展開される。

それに合わせるかの様にノワールもメイと並び、口に赤黒い炎をため込む。


「『獄炎の息ヘルフレイム』!」

「ガァッ!」


メイとノワールによるダブルヘルフレイムが放たれ、トランプを焼き尽くさんとする。

トランプは燃やされた……かと思われた瞬間、何か黒い魔力を纏ったトランプは炎を切り裂き、そのままメイとノワールに襲い掛かる。


「なんで!?」

「私はぁ、悪魔ですよぉ? いや、関係ないですねぇ。同じ魔族ですしぃ。まぁ、私がメフィストフェレスだからと言っておきましょうかねぇ?」


メイの驚きの声にメフィストフェレスは笑って答える。

でも、確かにおかしい。

ヘルハウンドが持つ地獄の炎、獄炎は全てを焼き尽くす炎のハズだ。

実際に魔法で強化された盾さえをも燃やし尽くしてもいる。

なら、あのトランプに何か仕掛けがあるのか?


【解析完了。あのトランプの魔法は悪魔、メフィストフェレスのオリジナルですが、扱っている属性は闇属性】


「闇……? だからって、何の関係が」


【闇属性を扱える者はこの世界、『アルライト』でも数えるほどしか存在しないほど、希少です。闇には『吸収』『拒絶』『腐敗』『浸食』などの特性を持つ、危険な属性です。恐らく、あのトランプが纏っているのは『拒絶の闇』だと思われます。それにより、いかなる攻撃をも切り裂くトランプになっているかと。『絶対零度コキュートス』を防いだのも同じものと予測します。ちなみに対抗可能な属性はこちらも希少な『光属性』だけです】


だろうな……。

にしても、闇とは厄介だな。

メイがノワールを庇う様に前に出て、代わりにダメージを受けている。


「おやおやぁ? 彼女は私の闇を受けても、大丈夫なんですかねぇ? いえ、まぁ、拒絶なんで腐敗や浸食みたいなことは起きませんがぁ、それなりに強化しているんですがねぇ?」

「私には『属性耐性』があるから。闇と光は扱えないけど、ダメージ軽減はできるよ」


属性使いエレメント』を持っていても、闇と光は扱えないのか。

まぁ、それほど希少な属性っぽいし、当たり前か。


【いえ、メイの中にあるのを感知しましたが……どうやら、使いこなせないと言うのが正解かと】


あのメイが?

魂喰いソウルイーター』で得た力を存分に扱っているはずのメイでさえ、扱えないものがあるとは……。

いや、希少故に……か?


「なるほどぉ。貴方も、なかなか珍しいスキルを持っている様ですねぇ。それを引き連れている貴方もまた面白いですよぉ」


新しいおもちゃを見つけたかの様に俺とメイを見てくる。

メフィストフェレスは再びトランプを取り出すと、シャッフルをし始める。

それに警戒して、俺たちは身構える。


「おやおやぁ、もう戦うつもりはありませんよぉ? どうしてかってぇ? それは貴方達が興味深く、観察する対象だと思ったからですよぉ。見たこともない魔人たちを引き連れたテイマー。本当に興味深いですよぉ! アンラマンユが復活するまでの楽しみとさせていただきますよぉ」

「させるかよ! アルフ、『超音波』だ!」

「―――!」


アルフは俺の声にこたえる様にメフィストフェレス目掛けて超音波を放つ。

だが、メフィストフェレスは再びトランプをばらまき、闇を纏った。


「キギッ!?」


アルフが驚いている辺り、超音波はあの闇のトランプの壁に防がれてしまったのだろう。

闇は音をも飲み込むってか?


「それではさようならとさせてもらいましょう」

「待て!」

「ご機嫌よう」


メフィストフェレスが再びトランプをばらまく。

それは防御や攻撃のためではない。

完全にメフィストフェレスの姿を隠し、全てのトランプが落ちると、そこには姿はもうなかった。

目くらましに使ったトランプも、闇の様なものを放ち、完全に消滅する。


「逃げるのは徹底しているな……」


俺がそう呟いていると、メイがメフィストフェレスがいた場所をジッと見つめていた。

どうしたんだろうか。


「どうした、メイ?」

「勝てなかった……、あの悪魔に。きっと本気を出してない……」

「……悔しいのか?」

「……うん。今まで負けたことなかったから。コレが敗北っていうのなんだね」


メイの手に力が入っているのに気付く。

そうだろうな……。

メイはキメラという最初から強い魔物として生まれてきた。

ほとんどの魔物に負けることなどないだろう。

それに『魂喰いソウルイーター』もあったから、余計にだろう。

スイム達へと視線を向けると、落ち込んでいるのが目に入る。

ハァ……仕方ねぇな。

俺は一度手をパンッ! と強く叩くと、それにメイたちはビクッと反応する。


「ユージ?」

「ウジウジしていても仕方ねぇだろ。なら、次は負けない様に強くなればいい。違うか?」

「うみゅみゅ!」


違わない! という様に首を横に振るスイム。

確かにメフィストフェレスは強敵かもしれない。

それに興味を持ったと言っていたから、今後とも俺たちの前に現れるのは間違いないだろう。

とりあえず、メフィストフェレスはリオンさんに伝えておいた方がいいかもな。


「よし、じゃあ、もう一つの依頼の鉱石収集をやって帰るか」

「うん!」

「うみゅー!」


メイたちは笑顔で頷いてくれる。

アンラマンユの復活……か。

もしかして、レッドドラゴンがルフェさんを狙っていたのも、『悪魔神教』の仕業だったりして……まさかな。

俺は一つの仮説を考えた後に、鉱石の収集を開始した。

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