初仕事 Ⅰ
さてと、クエストボードの前まで来たのは何を受けるとしようか。
メイたちがいると、Fランクくらいのクエストは簡単にこなせるんじゃないだろうか。
だって、見た感じ、あるクエストと言えば、『薬草集め』『ゴブリン退治』『鉱石発掘』などなどだ。
俺だけじゃ大変なのばかりかもしれないが、メイたちがいるから、探し物だろうと、討伐だろうと問題ないだろう。
それにこのままクエストに出たら……うん、またやばい魔物と遭遇しかねないな。
そうなると、魔族以外の仲間が欲しいな。
できるなら、友達になれそうな人がいいなぁ。
だけど、登録する前にあんな出来事があったからなぁ……。
同じボードを見ていたから、同ランクだろうと思う人達へと視線を向けるも、引きつった笑みを浮かべ、お先にどうぞという感じで後ろへと引いて行ってしまう。
うん、同ランクの方々からの俺への認識がヤベェ奴になっているのは間違いなさそうだな。
逆に言うと後ろからは物珍しそうに見てくる視線を感じる。
恐らく俺より上のランクの人達だ。
『魔物使い』は少ないと聞いた。
つまり、貴重な職業であり、強力な魔物を使役していれば、ドラゴンなどに勝てる可能性だって出てくるのだから、欲しい人材だろう。
逆に言うと利用しようという人達もいる可能性がある。
だからこそ、上のランクの人達と手を組むつもりもない。
「だからと言って、同ランクの人達はその上のランクの人達の視線を気にしてるっぽいし」
まぁ、同ランクだからと言っても、同じ考えを持っている人はいるだろうけどな。
仕方ない……パーティーメンバーはしばらく考えない様にしておこう。
今はとりあえず、仕事だ。
できるなら、魔物討伐系にして、そこで新しい魔物をテイムしたいところだ。
その向かう先で、収集できそうなクエストがあれば、それを受けて、ついでにやると言う感じだな。
この中で一番いいと言うなら、この鉱山の洞窟に住み着いた魔物の討伐だろうか。
鉱山だから、ついでに鉱物収集の任務も一緒にできるだろう。
それにこの依頼を見る限り、色んな魔物がいるはずだ。
きっと、夜行性の魔物だっているに違いない。
もしくは洞窟のみに生息する魔物とかな。
なんだか、楽しみになってきたぞ。
俺は笑みを浮かべながら、その二枚の依頼書を取り、受付カウンターへと持っていく。
「すみません、この二つを受けたいのですが」
「ご確認させていただきます」
そういうと受付嬢は二枚の紙を受け取って、依頼の確認を始める。
「えっと、ハイ。これなら特に問題はなさそうですね。あそこに入り込んだのも低ランクモンスターのみだと情報でも聞いてますので。それに貴方が連れてる魔物が魔物なだけに……。依頼を受理いたします。少し離れた場所になりますが、気を付けて行ってきてください」
「ハイ。行くか、皆」
メイたちは俺の言葉に頷き、一緒にギルドを出る。
さてと、ここから初仕事だな……。
少し離れた位置にあるって言ってたし、帰ってくるのは夜辺りになるか?
まぁ、なる様になるだろうな。
食料はエリーナから貰った物があるしな。
逆に夜の帰り道に見たことない魔物と遭遇する可能性だってある。
どんな魔物がいるのか楽しみかもしれない……! 育成も楽しみだしな!
そんなことを考えている内に王都を出て、緑の草が綺麗に生い茂る草原へと出る。
さてと、鉱山目指して移動開始だな。
【魔物を引き寄せやすい体質なのをお忘れなく】
まぁ、今回はそれが役に立つということで。
大体の位置は教えてくれたし、わからなかったら、ギルドカードに『クエスト』と言えば、案内をしてくれるみたいだし。
確か、出たら街道に沿っていって、その内分かれ道にあたるから、右に曲がればいいって言ってたな。
「よし、早速目指すぞ!」
「おー!」
「うみゅー!」
メイが片腕を空目掛けて突き上げると、スイムも真似をする。
何だろう、姉妹か何かに見えて微笑ましいよ。
俺たちは歩き出して、鉱山を目指し始める。
うん、目指し始めたのはいいんだけどさ……。
「歩き出して数分で魔物と遭遇って早すぎませんかね、この体質!」
「ガルルルル……!」
なんか黒い猪の様なモンスターなんですが!?
【『黒魔猪』です。Fランクの魔物です】
解説ありがとう、ヘルプさん!
しかし、猪の様なモンスターもいるとはな。
とりあえず、どうにかしないといけない。
そう思っていると、スイムが前に出て、身構える。
「うみゅ!」
「任せてって言ってる」
「え? いや、別に構わないけど……」
まぁ、確かに種族も魔人のに変わってるし、どんな風に変わったのかは気になるな。
Fランクの魔物で確かめるのもどうかと思うけど。
「うみゅ!」
スイムは水色の魔法陣を周囲に展開する。
そこから何か白い煙が……いや、アレ冷気じゃね?
魔法陣から姿を現したのは氷の槍。
『水の槍』に似ているが……。
【『氷の槍』、四大元素の一つ、『水』の属性の上位魔法『氷』の一つです】
なんか、スイムが水属性を氷属性を扱えるまでに進化させてました。
「うみゅー!」
スイムの掛け声と共に放たれた十数個の氷の槍。
それがブラックボアに迫り、これから突進しようとしていた向こうは避ける動作もできるはずがなく、直撃する。
その瞬間、直撃したアイシクルランスから氷が広がっていき、ブラックボアを見事な氷像へと変えてしまう。
「スゲェ……。やっぱ、相手を凍結させることができるのか」
威力も『水の槍』よりも高いみたいだし。
魔法で片づけたとはいえ、これが水帝となったスイムの実力か……。
頼もしいのは確かだな。
「うみゅみゅー!」
スイムは笑顔でこちらへ走ってくると、俺目掛けて飛びついてくる。
それを受け止めると、嬉しそうに俺の体に頬擦りしてくる。
位置的に腹なので、とてもこそばゆいんだけどな。
スイムへと視線を向けてみると、こちらへと顔を向けている。
その顔はどこか褒めて、と言っている様にも見える。
とりあえず、頭を撫でておく。
すると、嬉しそうにスイムは目を細めながら受け入れる。
「あぁ! 私の時は撫でてくれなかったのに」
「いや、だって、お前は毎回心臓持ってくるからじゃん。俺、アレ見るの結構辛いんだよ?」
「ぶぅ、いいよ。あの魔物の心臓貰うから」
「貰うって、そいつ凍って」
メイはブラックボアに近づくと、腕をあの時倒したレッドドラゴンの腕へと変化させる。
腕から空間が歪んで見えるほどの熱が発せられ始める。
え? 何それ?
【『赤火竜』のスキル、『炎熱操作』によるものだと思います。自身の体の体温を操作したり、炎熱を操作したりするスキルです】
「そんなスキル持ってたのか、あのドラゴン」
メイはそのまま手を当てると、氷が溶ける音と共に腕が氷の中へと入っていく。
そして、ブラックボアのところまで到達すると、爪を立てて、手をブラックボアへと突き立てる。
少ししてから、ブラックボアの氷像から腕を抜き、その手には心臓が……オイ、マジでやりやがったぞ。
そして、普通に見れる辺り、本当に耐性が上がってきたな、俺。
「あった! いただきます」
そういうとメイはブラックボアの心臓を一口で食べてしまう。
これで何の力が得られたのかはわからないが、後でのお楽しみかな。
とりあえず、今は鉱山目指して歩かないとな。
「ガウッ!」
「ん? どうした、ノワール?」
ノワールの声に反応すると、俺へと背中を向けているノワールがいた。
まさか……乗れって言っているのか?
いや、確かにヘルハウンドの大きさは人一人くらいは乗れるだろうなぁっていうくらいはあったよ?
でも、本当に乗っていいのか?
【問題ないかと。逆に早く着きます】
あぁ……うん、質問への返答ありがとう、ヘルプさん。
でも、ノワールの背中に乗るか……。
それで草原を駆けてもらったら、凄く気持ちいいんだろうなぁ。
「あ、でも、スイムやメイを置いていくことに」
「問題ないよ。私は足を変えれば、簡単についていけるし」
「うみゅみゅ! うみゅ!」
スイムは手を振って何かを伝えようとしてきている。
う~ん、大丈夫だと言いたいのだろうか?
まぁ、そこまで言うのなら、方法はあるんだろう。
「じゃあ、ノワール。頼む」
「ガウッ」
ご機嫌な声で答えるノワールに俺は跨る。
おぉ……馬とか乗ったことないけど、動物に乗るのってこういう感覚なのかも……ノワールは魔物だけど。
メイとスイムの方へと視線を向けると、メイの足はワーウルフの足へと変化する。
そしてスイムは。
「うみゅ~!」
なんか、どこぞの飛蝗ライダーの様な変身ポーズを取って、ジャンプした瞬間、なんと! スイムが元のスライムへと変身したじゃありませんか! って、オイ待て。
「スイムがスライムに戻ったぁ!?」
【スイムからエクストラスキル『変身』を感知しました。これにより、スライムへ戻ることが可能、他にも物体に化けたりできます】
「おぉ……進化したおかげでスキルも増えてるんだな」
なんて便利なんだ、『変身』は。
そのままスイムはメイに抱き上げてもらい、準備万端という感じだ。
「よし、それじゃノワール、頼むよ。行き先はわかるよな?」
「ガウッ!」
もちろん! という感じで返事をしたノワールは走り出す。
それと同時にメイも走り出し、横へと並んでくる。
それにしても速い……バイクに乗ってる気分でもあるな。
これなら確かに早く着きそうだな。
後で皆にはきび団子をあげておかないとな。
コレで少しでも強くなってくれるんだから、万々歳だし、ノワールの進化した姿を早く見たいし。
しばらく走り続けると鉱山の坑道の前まで来る。
魔物が出たからなのか、道具だけ置いて逃げた後の様な感じになっている。
「ここが目的地か。道具とか散らかしたまま逃げ出してるな……」
まぁ、いくら低ランクモンスターだと言っても、鉱山で働いている人たちは武器を持っていないから、戦う術がなかったんだろうな。
もしくはいきなりだったから、驚いて逃げ出してきたとかかな。
「『光源』」
そう唱えた瞬間、俺の傍に一つの光球ができる。
それを俺たちの前へとやり、洞窟内を照らし出す。
いくら松明が立てかけてあっても、照らせる範囲も決まっている。
なら、生活魔法の一つ、明かりを作るライトで、移動するしかない。
ちなみにこれを応用して作ったのが『閃光』だったりする。
生活魔法しか使えないから、ない知恵絞って、こういう風に工夫するしかないんだよね~。
「メイ、敵の気配は?」
「えっと」
メイは鼻を動かし、耳をウサギの耳へと変えて、耳を澄ましたりする。
しばらくすると、俺の方へと視線を向ける。
「近くに気配はないよ。だけど、奥に……何かいる」
「ゴブリンとかか?」
「ううん、違う……。もっと違う何かが」
「え……?」
もっと違う何かって……なんだ?
だって、受付嬢が言うには低ランクモンスターしかいないって。
……なんだか、嫌な予感してきたな。
ルフェさんを助けた辺りから、何か起こる気がしていたが……まさかな。
「とりあえず、行こう。スイムは魔人の姿に戻ってくれ」
「うみゅ!」
スイムはメイの腕の中から飛び降りると、姿を魔人へと戻す。
「後、コレやるから、食べたら行くぞ」
俺がきび団子を差し出すと、嬉しそうに二人と一匹は受け取り食べ始める。
何故だろう……。
この洞窟からやばそうな感じが漂ってくるのは。
俺が受けたのはFランクのクエストのハズだが……。
「なぁ、メイ。その中にいる何かって、どんなのかわかるか?」
「わからない……。だけど、危険だっていうのはわかる。この先に危険な何かがいる」
メイの真剣な表情を見て、俺は顔を引きつってしまう。
さてと、初の仕事で何が待ち受けているのか。
変なのに巻き込まれ始めてないよな……俺?
そうなったら、もう魔物が寄ってくる体質とか関係なく、不幸体質だぜ、こりゃ。
「……ハァ、覚悟を決めるしかないか」
俺はため息を一つつくと一歩踏み出し、メイたちと共に洞窟内へと足を進めていく。
この先に待ち受ける何かに不安を覚えながら。