ギルド登録
ギルドへ向かうために城から街に出た時、思わず「おぉ……」と声を漏らしてしまった。
初めてこの街に来た時はルフェさんと馬車で来たため、ちゃんと街並みを見ることはできなかった。
だが、今は違う。
馬車に乗っているわけでもないから、歩きだとまた視点が変わる。
行き交う人やエルフと言った色んな種族。
時々魔物とすれ違ったりもするが、襲ってこない辺り、フェルシオンに住む魔物たちは大人しいのかもしれない。
意外とリオンさんの軍の一員だったりするかもだけど。
魔物とすれ違ったりもするが、やはりと言うべきか。
知能が低い、もしくはないと言われるスライムやゴブリン、オークなどとすれ違うことはない。
いや、というよりもいないと言った方がいいかもしれない。
土の巨人や石の巨人……いや、ゴーレムと言った方が正しいかもな。
ゴーレムは警備をする様に歩き回っているのは見かけたりするが……。
それというと意外とゴーレム、カッコいい。
テイムできるなら、ぜひテイムしたい。
【土人形は魔物に含まれるため、テイム可能です】
そして、久々に察したかの様に来たヘルプさんだよ。
でも、やっぱりゴーレムって色んな種類いるんだろうな。
【鉄人形、銀人形など存在します。レアで金人形も存在したりします】
レアでって何?
いや、希少な存在だっていうのはわかるけど、ヘルプさん? 貴方、そんな言い方する様な人じゃなかったよね?
もしかして、アップデートする代わりに、言葉遣いも変わってきてたりするの?
人間らしくなってきてたりするの?
いや、コレ……俺が何か知ったら、ヘルプさんが知らないことだったらアップデートするって言ってたよな。
その際、俺の脳をスキャンしてるんじゃないのか?
聞いて、すぐなら確かに記憶に留まっているからさ……。
その際に、現代的な言葉まで読み込んで、言い方が変わり始めてる?
【かもしれません】
うん、だから予測した回答はやめようか。
俺はため息をつきながら、目に入ったとある店に興味を示す。
「どうだい! 剣や斧、弓! どんな武器も揃ってるよ!」
「何の! あっちの店よりも頑丈で強力な武器がこっちは揃ってるよ! どうかな!」
「何だと! こっちの方がいい武器だぜ!」
「いいや、こっちの方がだ!」
そう、それは武器屋だ。
ここら辺は武器屋や防具屋のエリアなのか、何店舗かがあり、それぞれ客寄せのために向こうよりも、とアピールをしまくっている。
お客さんもそれに興味を示して、あっちに行ったり、こっちに行ったりと見て回っている。
スゲェな……普通、王都であろうと武器屋って一つしかないもんじゃないのか?
それもやはりと言うべきか、店員はもれなくご立派なヒゲを生やしたドワーフの皆さんだし。
やっぱり、こういうのはドワーフの性分なんだろうな。
「どうかしましたか? ユージさん」
「あ、いや。大きな声が聞こえてきたから、興味が惹かれえて。メイとスイムにも、防具とか買ってあげた方がいいのかもな~って、思いまして。まぁ、メイに関しては武器や防具もいるのかなって思うけど」
俺が足を止めていたことに気付いたのか、クラウンさんが声をかけてくれたのだ。
まぁ、俺が足を止めたら、メイたちも足を止めるのだから、当たり前か。
「いいかもしれませんね。人の姿になったことで武器や防具を装備できる様になるので、元の魔物との強さを合わせれば、更に頼もしくなるのは間違いないですね。まぁ、確かにメイさんに関してはいるのかは謎ですが」
「やっぱり、そう思いますよね」
なんて言ったって、体が武器だらけなのだから、今更剣とか持つ必要があるのだろうかと思うところもある。
剣なんかよりも、メイのマンティスブレイドの腕の方が斬れそうだし。
防具も盾を持つより、盾の様な形状の鱗を持つ腕を持っていたし……そっちの方が頑丈そうだし。
他もハンマーよりもオーガの腕の方が力強そうだったし……アレ? 本当にメイには武器いらないんじゃない?
武器どころか防具もいらなさそうなんだけど、これ。
そもそも、メイにアイテム自体いるのか……?
「ま、まぁ! キメラの魔人なんてメイさんが初めてですからね。対応する様な装備は存在しなくて当たり前ですよ」
「そうですね……。アレ? そうなるとスイムもなさそうな……?」
「あぁ……」
俺の言葉にクラウンさんまで目を逸らしてしまう始末。
うん、俺の仲間の魔人の問題は魔人になるはずのない魔物が魔人になっているからこそ、対応する物があまりないってことかな。
衣服とかはともかくとして……。
「まぁ、今悩んでも仕方ありません。お金がないですしね。止めてしまってすみません。行きましょうか」
「あ、あぁ、そうですね。行きましょう。後もう少しで到着しますので」
「もう少しでギルドなんだね」
クラウンさんの言葉にメイはワクワクとしている様に見える。
そうか……人の知識を得た分、ギルドの知識も手に入れているに違いない。
だからこそ、これから訪れるギルドに興味を示しているのだろう。
スイムも楽しみなのか、笑顔で「うみゅみゅ!」と声を上げていたりする。
ノワールは常に俺の隣についている辺り、忠犬っぽくていいよね。
少し歩くと、大きな建物の前へとやってくる。
「着きました。ここが冒険者たちが集う場所『ギルド』です!」
「ここが……!」
俺はその建物を見上げる様に視線を上へと向ける。
すると、扉の上に一対の翼の紋章が入ったエンブレムが張られているのに気付く。
「あの、クラウンさん。あのエンブレムはギルドという意味を表しているんですか?」
俺が聞くと、クラウンさんはエンブレムの方へと視線を向ける。
すると、納得したかの様に頷くと、こちらへと視線を戻す。
「えぇ、合ってますよ。冒険者になる人達は自由を愛する人たちですからね。世界を『飛び回る』や『自由』を表しています」
「自由……か」
確かにそれなら翼は納得いくかもしれない。
俺の世界でもそうだが、こっちでも翼にはそういう暗示をかけるんだな……。
いいな、カッコ良くて俺は好きだ。
ますますギルドが楽しみになってくる。
「それでは行きましょうか」
「ハイ!」
「楽しみ!」
「うみゅみゅ!」
「ガウッ!」
クラウンさんがその大きな扉を両手で押して開き、中へと入っていく。
俺たちも続いて入っていくと、扉が開いた音で反応したであろうギルド内の人達がこちらを見てきていた。
俺も目だけで辺りを見渡してみる。
顔に傷が残っている怖そうな顔をした人や鎧に身を包んだ人、魔女の様な恰好をした人やガラの悪そうな人など様々だ。
少し緊張してきたな……。
それになんかヒソヒソ話している様だけど……。
「オイ、アレって……リオン様のとこに仕えている『光ノ盾』のクラウンじゃねぇのか?」
「騎士様がギルドに何か用でもあんのか……?」
「ねぇ、あそこにいるデーモンの翼? 何かの鳥類の翼? を一翼ずつ持ってるあの子は何? 腰からまで生えてきてるわよ……」
「アレ、魔人だよね。でも、あんな魔人、見たことないし……」
うん、何か聞こえてくるけど、スルーしてようかな。
クラウンさんが有名人なのも気にしないでおこう。
メイへの反応は相変わらずだしね。
そうしていると、クラウンさんが足を止めたので、俺たちも止まる。
前を見てみると、受付カウンターらしきところまで来ており、受付の女性がこちらを見てきている。
「いらっしゃいませ。リオン様のところの騎士の一人、クラウン様。ギルドにはどういった御用で?」
「あぁ、今日は私の知り合いがギルドで働きたいと言うことでね。その登録の手伝いに来たんだ」
「知り合いと言いますと……そこの見慣れない恰好をしている子や魔人たちでしょうか?」
女性はこちらをチラッと見てくると、クラウンさんは頷く。
「あぁ、そうなんだ。魔人も、というよりはこの子は『魔物使い』でね。ここの二人の魔人とヘルハウンドは彼のテイムモンスターなんだ」
「え!?」
その言葉に女性は驚いた様な表情をする。
他もその声が聞こえていたからか、小声で何か話をしている。
「ま、魔人を二体もですか……。なら、彼は熟練の?」
「いや……つい最近、『魔物使い』の力に気付いた様でね。コレでも、まだ二日目なんだよ」
『えぇ!?』
やっぱ、そうなりますよね。
クラウンさんは俺のことを考えてくれてか、異世界人ということは言ってくれない様にしてくれたが、逆にその言い方も驚きを与える発言に違いない。
初めて会った時のクラウンさんの反応やリオンさんやルフェさん、魔将の人達を見た限り、魔人とは特殊な存在。
魔物が人という姿になり、その力は魔物の頃とは比べ物にならないくらいだ。
だからこそ、SランクかAランクに分けられるほどの強さを誇っている。
そんな魔人を、たった二日で使役していたら驚くだろう。
更にヘルハウンドもなのだから。
「そ、それは有望な方ですね。テイマーはあまりいない職業ですし、そのスキルを持っているほどです。余程、才能がおありなんですね」
そういっているが、驚きのあまり、顔を引きつったままの受付嬢。
まぁ、あまりいないと言っているけど、二日目でこんなことをしでかしてる奴なんていないんだろうな。
『魔物へのお菓子』様様だな。
「えぇ。彼はリオン様やルフェ姫、魔将アムドゥシアスさんが一目置くほどの人物だからな」
「えぇ……!?」
あの、余計なことは言わないでください。
そんな人たちの名前を出したら、声にならない驚きをするのは当たり前だと思う。
実際に受付嬢はポカーンと大きな口を開けて、呆けた様な表情をしている。
周りまで手を止めてしまっているほどなのだから。
そして、クラウンさんは笑顔で俺を見てくる。
「さぁ、ユージさん。ギルド登録を済ませましょうか」
「あ、アハハ……ハイ」
この状況でそれかよ!?
辛い……なんか空気が辛いぞ、コレ!
周りからの興味深そうな視線を感じるんだけど……クラウンさん、一言多いんだよな。
異世界人を抜きにしても、これじゃ意味ないじゃんか。
俺は小さくため息をつきながら、受付カウンターの前に来る。
「あの、登録をお願いします」
「え? あ、ハイ。では、まずこの紙に名前と年齢、自身の職業を書いてください」
俺の声で現実に戻ってきた受付嬢が紙を出してくるのだが……うん、案の定だ。
文字が読めん!
言葉は通じるが、字自体はまったく違うと言う異世界あるあるだな、コレ。
はてさて、どうしたものか……。
【文字の読み書きの手助けが可能ですが、どうしますか?】
おぉ、マジでヘルプさん! 助かる!
いやぁ、ヘルプというだけあるよ!
「お願い、ヘルプさん」
【かしこまりました。書面を見ていただければ、読みを、書こうとした時に文字を教えます】
よし、書いていくか。
俺が文字を見ていくと、その覧は何かヘルプさんが教えてくれて、その後に頭に文字が浮かび、見様見真似でその字を書いていく。
名前、年齢、職業を書き込んだ後、とある覧に目が留まる。
「テイムモンスターの名前……?」
「ハイ、テイマーの人達用にその一覧は用意されています。ここにテイムした子たちの名前を書いていただければ、テイムモンスターたちはテイマーと一緒にギルドに登録されます」
「もし、テイムモンスターが増えたら?」
「その際はギルドに報告し、追加で書いていただきます」
「なるほど」
とりあえず、仕組みは理解できた。
テイムモンスターの覧にメイ、スイム、ノワールと書いていき、魔物名のところにキメラ、ヘルハウンド、そして……。
「ん?」
ヘルプさんが提示してくれた名前に違和感を覚える。
フリガナ付きで教えてくれているのだが……おかしい。
だって、スイムの魔物名が。
【水帝】
なんか、変わってる……。
何、スライムエンペラーって?
【水帝、この世界で最初のスライムの魔人となった者に与えられる種族とスキル。その名の通り、スライムたちの王】
マジで? 魔人となったことでスイムの種族が凄いのに変わっちゃったパターン?
とりあえず、いつまっでも固まっているわけにもいかないから、スライムエンペラーと書き込んでおく。
これで問題はないはずだ。
「書けました」
「それでは確認しますね」
受付嬢が紙を受け取り、確認しだすと顔がどんどん驚愕の表情へと変わってきている。
でも、さすがに慣れたのか、気にせずに俺を見てくる。
「え、えっと……凄い魔人たちで。とりあえず、登録は完了です。こちらのカードをお受け取りください」
そういって差し出されたのは一枚の白いカード。
コレが冒険者だと言うことを表すカードか。
カードを受け取ると、白いカードはいきなり色を変え、黒縁の紅いカードへと変わる。
へ? なにこれ?
「おぉ、服装とまったく同じ色とは、余程紅と黒に好かれているんですね、ユージさんは」
「ど、どういうコト?」
「それはギルドカードと言います。それがあれば冒険者という証明になり、そこには冒険者ランクや個人情報などが内包されています。色はその人だけのギルドカードとなるために、受け取った人に似合う色合いとなるんです」
な、なるほど。
確かに紅と黒が好きだから、服装も好んで、それを着ていたが……まさか、ギルドカードまでなるとは。
無くさない様にしておかないとな、ギルドカード。
「他に質問はありますか?」
「あの、冒険者ランクって、どうやったら確認できるんですか?」
「それは『ランク』と声をかけてもらえれば、出てきます」
ランク、ね。
単純だけど、わかりやすくていいかも。
「他にはありますか?」
「いいえ、大丈夫です」
「そうですか。それではFランクからのスタートとなりますので、受けられるクエストはあちらのボードに貼られています」
「そうですか。ありがとうございます」
「頑張ってくださいね」
受付嬢は笑顔で答え、俺たちはそこから離れる。
「ギルド登録完了ですね。早速仕事に行かれるんですか?」
「えぇ、まぁ。宿屋に泊まるお金が必要ですし、しばらくはフェルシオンに滞在して、武器とかも調達していきたいですし」
「その方がいいですね。いくらメイさんが強いと言っても、心配はあります」
「備えあれば憂いなしですね」
俺がそういうとクラウンさんは首を傾げてしまう。
うん、こっちの世界のことわざを使っても、わからないか。
「まぁ、こっちの世界のことわざみたいなものです」
「なるほど、そういうことですか」
クラウンさんは納得したのか、笑顔で頷く。
「それでは私はこれで。またお会いしましょう」
「ハイ、お世話になりました」
「いえいえ、これくらい容易い御用です。それでは」
「バイバーイ!」
「うみゅみゅー!」
ギルドの扉を開けて、出ていくクラウンさんに、手を振るメイとスイム。
さてと、それじゃ、早速依頼を受けてみますか。
俺はFランク用の人が受けるクエストボードへと足を向けた。
周りの好奇心とかの視線を無視しながらね……。