『秋、これからも。』
秋、幼虫は恋をする。
土の中で暖かくなるのを、じっと待つ幼虫は、恋をする。
土の中で暖かく過ごす季節、その幼虫の心にも【恋】という名の暖かさがやってくる。
幼虫は愛しい紅葉に話しかける。
「あなたはどうして暖かいの?」と。
紅葉は答える。
「あなたが“暖かい”と感じるからよ」
恋をした幼虫は、もっと紅葉の暖かさが欲しくて、必死で話しかける。楽しかったこと、嬉しかったこと、驚いたこと、自慢したいこと。自分をもっと知ってほしくて、たくさんたくさん話しかける。
だけど、暖かい紅葉は全然振り向いてくれない。そんな紅葉は、ある日、幼虫に言った。
「なんで、あなたはそこにいるの? あなたが幼虫じゃなければよかったのに」
それを聞いた幼虫は、悲しみ、泣きながら去っていった。そして2度と紅葉の前に現れることはなかった。
その日から暖かい紅葉も元気がなくなっていった。紅葉も、幼虫に恋をしていたのだ。
落ちて地面を暖めることしか出来ない紅葉に、何も知らない子供の幼虫は話していた。「私はあなたの成長を見たかっただけなのに…」と紅葉は悲しみ、泣いていた。
日が経つにつれ、紅葉は枯れていった。幼虫の心の暖かさもまた、冷えていってしまった。
その枯れた紅葉が、土になり幼虫を暖め続けることを誰も知らない。
でも、あなたが成虫だったら、あなたはココには居ないのよね…。