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夢の国を行く帆船    作者: 鈴宮とも子
第1章 おもちゃの船が巨大化した!
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やった! 聖書チートだ!

「柴田先生!」

 間違いない。あの禿げた頭に牧師らしいスーツ姿。背は低く、小太りで、脚も短くてRPGに出てくるドワーフみたいな身体だ。心配そうな顔で、入口の扉の近くに立っている。

 俺は夢判断を忘れてしまい、思わず、柴田先生に詰め寄った。


 柴田先生は頭をうしろにのけぞらせている。いかにも、自分は無実ですという表情だ。

「先生、なんでここに? 弟の健司はなぜ自殺した? エメット神って、どうしてあんなに傍若無人なんだ?」

 矢継ぎ早に質問を繰り出したが、柴田先生は目を白黒させているばかりだ。


「祭司長パウロさまと、お知り合いですか?」

 アスリアは、少しとまどったように言った。

「勇者健司さまも、おなじようなことをおっしゃってましたけど……」

「や、わしはこんなヤツ知らんが、なんだか悩んでいる姿が面白くての」

 パウロと呼ばれた柴田先生そっくりさんは、ニヤニヤ笑っている。ひとくせありそうな男だ。


「若者よ、思い切り悩むがよいぞ。悩みは若者の特権じゃ」

「偉そうになんだよ。あんた何者なんだ」

 俺は上からヤツを見おろした。胸のところに大きな頭が来ている。柴田先生よりずっと小さい。もしかして、別人なのだろうか?



「祭司長パウロさま、この方は、勇者健司さまの兄ぎみで、同じく勇者の鈴木義也さま。義也さま、こちらは西方教会の責任者で宣教師、大国ロマリアの血を引いているネルビア人のパウロさまです」

 アスリアは、俺の手を取った。そしてあることに気づいてハッと息を呑んだ。「! 血が!」

「し、心配しないで」



 頭が茹だってパニックになった。なんという柔らかい手! 暖かくて気持ちよくって……、もう、ダメだ。やめてくれ~~~~。

「ギデオン号を進ませるオールで漕ぎすぎたのじゃろう。どれ、ひとつ治療してやろうかい」

 祭司長パウロは、口の中でなにごとか唱えた。

 ぼうっと光が手の中で宿り、手の中が暖かくなってきた。俺の武骨な手が輝き出す。小さな光の球が血まめに触れると同時に。


「わっ」

 あっという間に、血まめは消えていた。俺はすっかり感心してパウロを見つめた。柴田先生は、こんな芸当はできっこない。

「お礼は言わぬのか?」

 パウロは、ぬけぬけと要求する。

「そんな礼儀など、こいつが心得ているわけないだろ」


 ゴスロリ少女が脇でつぶやく。くそ、言ってくれるね。 

「ありがとさん。ところでそれって魔法なのか?」


 俺が聞くと、パウロは小さな胸をむんっと張った。

「わしに使える唯一の魔法が、回復魔法なのじゃ」

「……しょぼい」

「なんぞ言ったか?」

「いえ、なんでもありません」


 そんな会話をしていると、元女看守長(現給仕役)のサライがやってきた。

「祝宴の準備をいたします。あなたは夢判断、お願いね」

 風のように去って行った。

俺は頭をボリボリ掻いた。

「で?」

 ゴスロリ少女は、うさんくさそうに訊ねる。

「夢判断、してくださるんですよね?」

 アスリアは、文字通りワクワクしている。


 俺は天を仰いだ。言うまでもなく、エメット神からのお告げはなかった……。

 そこで、俺はおもむろに言った。


「これからあなたは、モンスターの襲撃に遭うでしょう。ひょっとすると、ここの人たちにけが人が出るかもしれません。ですがそれに備えていればいい。大丈夫。俺たちがついています」

 パアッとアスリアの表情が明るくなった。


「これも、神の思し召し。神さまがそういうことを示されたのなら、あなたほど聡明で知恵のある人は他にいないでしょう。あなたをわたくしの船の責任者、航海伯爵鈴木義也としての地位を授けます。この船の人たちはみな、あなたの命令に従うでしょう。わたくしは、あなたを頼りにすることにします」

「え、あの、でも」


 それって、聖書そのもののパターンじゃん。ていうか、ちょっと夢判断したぐらいで、なんで責任者になれるんだ? ありえねーだろ。

「困るよ、俺はそんなにたいした人間じゃない」


「夢というのは、神さまからのメッセージです。それを判断できる人間は、ほんとうに少ないのです。むしろあなたのような方こそ、勇者さまの名にふさわしい」

 俺が困惑していると、アスリア王女は自分のネックレスを外して俺にかけた。俺の手のひらに、そっと唇をあてて、顔を上げた。なんてきれいな目。


「勇者義也さまに、敬礼!」

 アスリア王女は、その場の一同に呼びかける。ゴスロリ少女ラハブは、嫌そうな顔で直立不動のまま、給仕役サライは、うれしそうにうなずき、パウロは無表情で黙って黙礼した。


「強くて賢くて正義感が強いお方。航海伯爵の地位は、勇者健司さまのお兄さまにふさわしい」

 アスリアは物憂げになった。


「それでもやはり、戦いは避けられないのですね」

 アスリア王女はつぶやいていたのであった。



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