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夢の国を行く帆船    作者: 鈴宮とも子
第1章 おもちゃの船が巨大化した!
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夢解きをする俺に、期待値が高まる!

 素晴らしい部屋だ。一室まるごと客間と言っても過言ではない。こんな帆船のどこにそんなスペースがあるのかは疑問だが、真ん中には丸い水晶玉に丸いテーブル。明るい丸窓にはレースのカーテン。中世の女の子が好きそうな書物や人形が、書棚に並んでいる。


 そのすぐ前に、天蓋つきのベッドが置かれている。ぎいっ、ぎいっと船がきしむたびに、ベッドもぎしぎしと揺らいだ。床に固定されているとはいえ、少し危ないかもしれない。

「わたくしも、夢に悩まされております」


 王女アスリアは、丸テーブルに俺を案内しながら、小さな声で恥ずかしそうに言った。

「このところ、同じ夢ばかり見るのです」

「おう、夢判断なら任せとけ」

 夢判断能力というチート手段を持っている俺には、怖いものなどなにもない。いや、魔王はマジ怖いけどさ。


 ゴスロリ少女が、そのとなりで、ふくれっ面して立っている。ラハブって言ったよな? そういえば、俺たち、自己紹介すらしていない。

「アスリア王女、そのまえに自己紹介させてくれ。俺は鈴木義也、十六歳の高校生だ。エメット神に出会って、ここに来てしまった。言ってみれば事故なんだよ。俺は勇者じゃないんだ」


「またまたご謙遜を。わたくしは王女アスリア。ネルビア国第三王女です。こちらは親衛隊長のラハブ。そして、あなたが夢解きをしたのが、女看守長のサライです」

「女ばっかなんだな」

「男は家事をするものです」


「そ、そーなんだ」

「そうですわ」


 アスリア王女は、根がまじめなタイプらしい。こんなにいつも堅苦しくて、肩が凝らないのだろうか?

「……よし、じゃあ、この船は、どこへ行くんだ?」


「伝説の聖剣、ジェマイルを探しに旅をしています」

「おぉ、お約束の展開だ」

「そうですの? 魔王が再び世界を支配しようと魔の手を伸ばしています。それを防ぐには、そのジェマイルしか方法はありません。そこで、わたくしたちは手がかりを求めて、西方教会に行く途中なのです」

「うんうん、毎度おなじみのパターンだ」


「その西方教会に近づくにつれて、わたくしは妙な夢を毎晩見るようになったのです。この夢に意味があるのなら、それを解き明かせるのはあなたしかいない」


「お、おう」

 なんだかちょっと、自信がなくなってきた。アスリアは、王女だ。そんな人の夢を解き明かすことが、俺に出来るだろうか。たしかに俺は、両親はクリスチャンだが、俺自身はいいかげんな信徒だからなぁ。

 アスリアは、大きな紫色の瞳を見開いた。自分を信頼し、悩みを打ち明けようとするその美しい目。期待に応えなくちゃ。


「わたしの夢は、雄牛と麦穂の夢でした」

 やったね! これなら俺の夢判断能力で、ラクショーだ!

さっきの給仕役サライの夢も、聖書の夢判断話そっくりだった。アスリア王女の夢もそうに違いない。よっしゃぁ、俺はこの王女の心をわしづかみだ!


 アスリア王女は、雄牛と麦に関する聖書そっくりの夢を語った。

 つまり、七匹のよく肥えた雄牛と、醜くやせ衰えた雄牛の夢。それが七晩続いた。やせ衰えた雄牛は肥えた雄牛をペロリと平らげてしまう。そして、その後、やはりよく実った麦がやせ衰えた麦をペロリと平らげてしまう夢である。


 ところがその後、アスリアは付け加えて言ったのだ。

「それと同時に、モンスターたちの夢も見ました」

「……も、もんすたー?」

  俺は、異世界モノのガチなセリフに、耳を疑って繰り返した。

「はい、モンスターです。巨大な口を持ったワニのようなものや、とげのついた鱗を持つドラゴン、人肉しか食べないオーガ。水魔に妖魔に吸血鬼」


 うーん。参った、それは聖書に載ってないぞ。

 アスリアは、お菓子を目の前にしている女学生みたいな目で、こちらを見つめている。ダメだ。降参だ。アスリアの夢は、豊作や飢饉とは一切関係ないって気がする。そりゃー、前からわかってたさ、彼女たちは魔王を倒すために旅をしてるんだからさ。


 弱り果て、絶句した俺の背後から、声が飛んだ。

「どうかな? おわかりかな?」

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