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夢の国を行く帆船    作者: 鈴宮とも子
第1章 おもちゃの船が巨大化した!
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夢解きが当たった! サライの場合

アスリア王女が弟の名を口走ったので、俺はショックを受けた。


「アスリア王女! なぜ、健司の名を!」

「あなたは……? あなたは健司さまではないのですね」

 目をみはっていた王女アスリアは、ちょっと肩を落とした。

「勇者健司が再び来られたのかと、期待していたのですが」

「俺は兄の義也です。弟は自殺しました」

「自殺……? なぜですの?」

「あなたなら、ご存じかと」


「弟ぎみは、この世界で邪神ブラークルと対決し、そのまま行方不明になってしまわれたのです」

 アスリアは、両手を合わせた。

「それは、いまから3年前のことでした」

「アスリアさま、いくら勇者と似ていても、こんな正体不明の人間に、この国の秘密を打ち明ける必要はありません! こんなヤツは、奴隷に戻すのがいちばんです」


王女アスリアは、にっこり笑って、ラハブの進言をスルーした。

「さあ、お入りなさい。わたしたちはあなたを歓迎いたします」

「アスリアさま!!!」


今にも噛みつきそうなラハブの顔も無視して、王女アスリアは部屋へと招き入れた。

 部屋には居心地の良さそうないすと大きな天蓋つきのベッド。

 お香が焚かれているのか、いい匂いがする。


「おい、奴隷。そろそろ十分だ」

 女看守長の、機械のように正確な声が飛んできた。

 振り返ると、王女アスリアとゴスロリ少女ラハブというらしい、そして女看守長の注視が痛いほどであった。


「サライ、あなたは、勇者のお兄さまを連れてきてくださいました」

 王女アスリアは、鷹揚にうなずいた。

「サライよ、もとの給仕役に復帰することを許しましょう」

 女看守長は、ぽかんと口を開けた。

 ゴスロリ少女も、あっけにとられている。


「当たった! 夢の謎解きが!」

 サライと呼ばれた女看守長は、思わず俺に抱きついた。

「ありがとう義也! 一生恩に着る!」

「いや、別に俺は……たまたまだよ……」

エメット神は、アテにならないのかと思ったが、それほどでもなかった。意外と使えるヤツだった。

「夢? 謎解き? 当たった?」


 反感を声ににじませて、ゴスロリ少女は俺をジロリとねめつける。

「くじ引きでもしたのか?」

 警戒心もあらわに、剣を構えている。

 サライと呼ばれた女看守長は、俺の肩を抱いた。暖かい体温だった。

「この方は、わたしの夢の謎を解いてくださったのです」


「どういうことだ」

「かつてわたしは、ラハブさまの怒りを買って、奴隷の看守長に身を落とすことになりました。その数日後、わたしは夢を見たのですが、それに意味があったのです。この義也さまが、それを読み解いてくださいました」


 そう言うと、女看守長は夢の内容と謎解きの話をした。

 ゴスロリ少女は、剣をもてあそんでいる。

「ふーん。ぶどうの木ねー」

「ぶどうの品種も、マスカットとか、ニューベリーAとかがあるんだよね」


 俺が言うと、ゴスロリ少女は、

「不味そうな名前だな」

「いちいちうるせえよ。ネズミの唐揚げ食わせてやろうか」


「なにぃ、きさま、命が惜しくないのか!」

 しゃきーん! 首筋に剣の冷たい感触。

「いい加減にしなさい。この方は、勇者のお兄さまですよ!」


 王女アスリアが、二人の間に割って入った。美しい目が、悲しげな色をたたえている。

「たしかにあなたには、辛い過去があった。でも、いつまでもそれにこだわっていてはいけません」

 しとやかに切々と訴える王女アスリア。つうっと生暖かい血が俺の首筋から伝っていく。

「ラハブ、お控えなさい」


 アスリアは、静かに命じた。ラハブはしぶしぶ、剣を納めた。

「さあ、お入りなさい。今日は祝宴にいたしましょう」

「わあっ!」


 女看守長の瞳が、きらきら輝いた。ゴスロリ少女の目も、少し潤んでいる。

―――こうしてみると、ラハブも可愛いんだけどなぁ。

 いつも怒ってばかりいるラハブ。おしとやかで気品のある王女アスリアとは月とすっぽんだ。

 俺は、部屋の中をあらためて見回した。

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