夢判断は聖書チート:ラハブの場合
アスリアの部屋を女看守長がノックすると、キーキー声が、
「だれだ」
と答えた。あのゴスロリ少女の声だ。
「ラハブさま、例の不審な少年が、アスリアさまに会ってお話ししたいことがあると申しております」
「それでおまえは、そいつを連れてきたのか。おめでとう、おまえの忠義は報われるであろう」「ありがたき幸せ」
「皮肉も通じぬとは、おまえの頭には穴が空いているのだな」
女看守長は、ムッと顔をしかめた。
「とにかく十分だけ、話を聞いてあげてください。この人は、相手の悪夢を解き明かす力があるのです」
かちり。扉が開いた。ゴスロリ少女が目を細めて、その向こうに立っている。
「それなら、わたしの悪夢もわかっているのかな?」
俺は、ゴスロリ少女の目をじっと見つめた。
―――ちゅうちゅう。
小さな動物がその奥でおびえている。
「あんたの悪夢は、ネズミだね」
俺は堂々と言ってのけた。
「ネズミはみんな、おぞましいと思ってる。臭いをかいだだけで気絶しちゃうほど、嫌いなんだ。夕べもその夢を見てうなされていたんだね」
ゴスロリ少女は、すさまじい目つきで女看守長をにらみつけた。
「おまえが教えたのか?」
「まさか!」
女看守長は、カチンコチンに固まっている。ゴスロリ少女は、頭を振って考え込んだ。
「いや。もちろんそんなはずはない。ネズミ嫌いは誰にも言っていないのだ。おい、そこのガキ。なぜわかった」
ゴスロリ少女が詰め寄ってきた。
「神さまが、教えてくれたのさ」
俺は、頭を右人差し指でちょっと触れて見せた。
「神さま……だと? どうせ、邪神ブラークルであろう! 正直に言え!」
「ブラークル? だれ?」
訊ね返すと、ゴスロリ少女は瀕死の魚のように、手足、胴体がピクピク震えている。今にも頭からどやしつけられそうだ。
奥の方で衣擦れの音がした。
「どうしたのですラハブ? だれが来たのですか?」
「アスリア王女、来てはなりません。敵の罠に決まってます!」
しかし、ラハブの止めるのも聞かず、その少女はこちらに歩み寄ってきた。
部屋の中にあるランタンの光が背後から差し込み、やってくる少女を照らしている。
その光で長い金髪は光輪を描いた。その姿は天使を思わせた。生クリームみたいな透明感のある肌。長いまつげが印象的な大きな瞳。そしてよく発達した胸!
俺は、ガツーンといっぱつやられた気分になった。
「ああ、あなた様は! 勇者健司さま!」
王女アスリアは、弟の名を口走った。
俺は、またいっぱつやられてしまった。