表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の国を行く帆船    作者: 鈴宮とも子
健司との対決
38/43

ギリシャ彫刻みたいなヤツだな!

「健司さま。鈴木健司さま、お目覚めですか?」

 うん? 鈴木健司? 俺は鈴木義也だが。

 目を開けると、見間違いじゃない。アスリア王女が、その美しい紫の瞳をこちらに向けている。心配そうな、気がかりそうな目だ。

「どうなさったのでしょうか? またサウル国王とケンカを?」

「ん、いや、その……」

 どうなってる。俺は、自分の身体を見下ろした。小さな丸っこい胴体。短い足。だけどどこからどうみても、こまわりがききそうなタイプの身体だ。

「俺の身体じゃ、ねー!」

 俺は思わず、叫んだ。

「これは、健司の身体だ!」

「あの……、健司さま? 寝ぼけておられるのですか? そろそろ、わたくしとの朗読会をする予定のハズでは……」

「ちょっと待て。これは夢だ」

 俺は、ハッと気づいた。夢解きチート能力が、働き出すのを感じたからだ。つまりこれは、ブラークルの神殿のなかで見ている神夢なのだ。エメット神め、どういうつもりだ? 自分の信徒を冷酷にも見殺しにして……。俺にどうしろって言うんだ。

 俺の気持ちも知らぬげに、アスリアはどんどん話をすすめている。

「健司さま、こちらへどうぞ。サウル陛下もお待ちです」

 そっと俺の腕を取り、自分の方へ引き寄せる。そして、薄い布の向こうへ連れて行こうとした。

「いや、いや待て待て」

 俺は、アスリアの暖かい手をじーんと感じながら、誤解を解こうとした。

「アスリア、これは夢なんだ。俺は健司じゃねえ、義也だよ。わかるか?」

 アスリアは、まるでピエロにネタをふられたようにクスクス笑っている。

「寝ぼけておられるんですね。もちろん、お兄さまのことは存じ上げてますよ。毎日のように、とてもかなわないっておっしゃってましたっけね」

「だから、俺は義也―――」

 アスリアは、ちょっと怒ったような顔になった。

「陛下のまえで、そのようなおたわむれをおっしゃっるつもりなら、わたくし、二度とお会いしませんことよ」

「わっ」

 そりゃマズい。アスリアに放り出されたら、どうやって旅をつづければいいんだ? ラハブが喜びそうだ。

 俺はひょこひょこと、アスリアのあとをついていった。ここはどこだ? 船の中じゃなさそうだ。豪奢な柱や彫像が並んでいるところを見ると、王宮なのだろう。部屋を出てから謁見の間へと続く廊下は、赤いふかふかの絨毯が敷かれていた。

 謁見の間でぼーっと待っていると、ラッパの音とともに儀仗隊が現れた。

「サウル国王、おなりー」

 衝撃を受けた。

 サウル国王はそれじたい、生きている理想像だった。短く刈り込んだ金髪も、涼しげな青い瞳も、赤いケープをふわりとさせて玉座に向かうその歩き方も、すべてが現実とは思えないほどだ。彫りの深い顔には、形のいい鼻がすうっと通っている。ギリシャ彫刻のようだった。

「勇者健司よ」

 これがまた、耳にここちよい響きの声なのである。俺はその気もないのに、つい、クラクラきちまいそうになった。

 そして、ラハブの、鋭いまなざしを見て我に返った。そうだ、ここでは俺は義也じゃねえ。健司なんだ。死んだはずの弟の姿になった夢を見てる。夢解きチート能力の出番だな。

 しかし、能力はうごめくことはあっても発動はしなかった。起床してないとムリなのだろう。早くこの夢がさめないだろうかと、俺はちょっとイライラしながら、それでも国王のまえにひざまずいた。国王の隣には、いつの間にか黒髪の、美しい曲線を描く美女がいる。黒い唇。どこかで見たことがあるような、ないような。

「そなたは、国をなやますモンスターを、倒してくれると明言した。モンスターの発生源である、禁じられた扉を封じてくれると。それはまことか」

「え、そ、そうなの?」

 声が、ひっくり返ってしまった。そんな約束、しちまって大丈夫なのかよ、健司。おまえ、なんの取り柄もねーじゃねーかよ。

 しかし、サウルの隣の女は、しなをつくりながら、

「さすが勇者健司さま、あなたの謙虚なことは海よりも深いですね」

「キャラ=ソマよ、そなたの言うとおりだ。勇者健司は、国を救ってくれる。禁じられた扉に行き、そこの扉を封じてくれる。そなたはそう申した。それゆえ、それがまことならば、わたしはそなたにアスリアをめとらせようと申し出たのだ」

 サウル国王は、夢見るように言った。

「む、むちゃですよ。一人ではムリです。聖剣ジェマイルがあれば、別でしょうけど」

 こういうときに、道具を頼るのはどうかと思ったが、ほかにテがあったら教えてもらいたい。選択肢は2つだ。やるか、投獄されるか。ウソの申し立てを国王にしたら、どんな目に遭うかぐらいは、俺にだって想像はつく。

「わたしも行こう」

 ラハブは、一歩前へでた。俺はホッとした。死んだと思っていたラハブが生きていて、しかも助力を申し出てくれている。

「宝珠は、どこにあるんでしょうか?」

 俺は、自分のポケットをまさぐった。やはりない。取り上げられてしまったから、当然といえば当然だが、こうなってくると心細さが先に立つ。

「ほうじゅ?」

 サウル国王は、初めて聞く果実の名前みたいな顔をした。

「いや、なんでもありません」

 ひょっとしたら、俺は、時間をさかのぼっているんだろうか? 俺は、用心深くあたりにチェックを入れた。ラハブの髪の毛は短いし、ゴスロリでもない。健司は、俺よりまえにこの国に来たことがあるといわれたことがあったが、そのとおりなのだろう。俺の知らないラハブが、そこにいる。

 とはいえ、宝珠なしで禁じられた扉に行くというのも、なんだかなって気もする。健司よ、なぜに自分から、そんなむちゃくちゃを申し出たんだ。悪目立ちしたかったのか?

 キャラ=ソマと呼ばれた女は、黒い唇をにっとつりあげた。

「われわれには出来なくとも、神に選ばれた勇者ならできるのです。健司さま、期待してますよ」

 どうやら、逃げ場はなさそうだった。俺は胸をそらした。どうせ死ぬのなら、戦って死んでやるぜ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ