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夢の国を行く帆船    作者: 鈴宮とも子
禁断の木の実をめぐる争い―――呪わしい命たち
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邪悪な神殿 宝珠が効くといいが……

麓の港に降り立つと、俺たち5人組は神殿の前に立ち尽くしていた。神殿は、雪のなかをそそり立っている。

 神殿は、いかにも邪悪な雰囲気をかもしだしている。

「ブラークルの神殿ですな。気をつけなされ。ここには、見てはならぬものがある、と言われておる」

 船の資料室で手に入れたらしい本を見ながら、パウロが警告を発する。

 見てはならぬものって、なんだろう。

 神殿にいっぽ、踏み入れる。

仁王のようなおそろしげな顔をした、一つ目の鬼が門のところに立っている。

『グゥゥゥゥ……』

「うわ、やだ、来ないでーっ!」

 門を飛び出し、外の雪の中へたたらを踏むと、デリラは腰を抜かしかけている。

 ここまで来て、来るなというのもみょうな嘆願だとは思う。デリラだって俺だって、いちおうラハブからは、剣の扱いを教授してもらった。しかし、実際にこういう場面に出くわすと、臆病風に吹かれたといわれても仕方がない。

「あの巨体は残酷で陰険さの塊だ。生かさず殺さず、追いかけ回す。わたしたちはあいつに遊ばれてから身体をバラバラにされるかもしれないな」

 ラハブは、剣を抜き払った。

「あんたは後援にまわってくれ。わたしが倒す」

「いや、待てって!」

「義也?!」

「相手は見るからに、レベルが高そうだ。おまえがあれに勝てるのかよ」

 ラハブがいくら親衛隊長だからって、鬼を相手にまともに戦うのは、作戦とは言わない。もう少し、工夫が必要だ。

「それじゃ、どうしろっていうんだ。おまえだって、剣のレベルは高くないぞ」

 たしかにそうだ。死霊の館であばら骨を折ったこともあるから、ここがリアルそのものだってことはわかってる。ゲームじゃないんだ。

 スイカが空を飛んだり、死霊が硫酸をあびせたりする非常識なこの世界。そもそも、あの一つ目の鬼に弱点があるのか。わからない。

『グォォォォォ!』

「…………くっ!」

 俺はひるむのを感じた。腹の底までひびくうなり声、漂う異臭。

 一つ目鬼は、俺たちの姿を認め、エサを見つけた歓喜の声をあげていた。喰われるかもしれない。俺は宝珠をもう一度、握りしめた。ちくしょう、やられっぱなしでいるわけには、いかないんだ。ここを突破しなければ、弟の死の真相を解くことができない!

 今までの魔物にはない飢えた殺気を放ちながら、一つ目鬼がどしん、と足を踏みならした。デリラは、蒼白な顔で呪文を唱えている。アスリアが、祈る体勢になった。『魔力増幅』を使うつもりなのだ。

「【ターン・アンデッド】か?」

 それは違うだろうと指摘しかけたが、

「【爆裂バーンアウト】です」

 パウロが、そばで解説した。「レベルの高いモンスターには、これが一番です。さあ、みなさんもごいっしょに攻撃を!」

「たーっ!」

 真正面から、魔法が飛んでいく。一直線に、光の球が一つ目鬼を吹っ飛ばした。

「【爆裂バーンアウト】!」

 ラハブは、抜き身の剣をかまえたまま、2メートルはある鬼に向かって直撃をくらわせる。

 一つ目鬼は、胸が血まみれのドロドロだ。

「必殺剣!」

 ザキーン! ぐさっ! 

「秘伝モンスター斬り!」

 ズバァーッ! モンスターは、まるでさかなをおろすみたいに真っ二つになった。

「ぐえーーーーー!」

 そのまま、一つ目鬼は、すーっと消えていった。

 しーん。

 あとには、静けさだけが残った。

 俺とパウロは、石になったみたいに凍っていた。

 ひょおおおお。

 風が吹いてくる。

「ふ~。ヒーローは、つらいね! あたしらに、見せ場をゆずってくれたんでしょう」

 デリラは、緊張感を見せない声で叫んでいる。

「しょっぱなから魔力をつかうなと、あれほど言っただろうが。これからモンスターがごろごろ出てくるに、決まってるんだからな!」

 ラハブは、剣をかまえたまま、吐き捨てる。デリラはぷくっと頬をふくらませる。

「なーによー。少しは感謝してよねー。それにあたし、魔力の補充用に、ペテロさんから魔性星をゆずってもらったんだから」

「―――魔性星?」

「そのなかに、魔力が込められているのじゃ。灯りをともすための、油のようなものじゃの」

 俺の疑問に対して、パウロが教えてくれた。 

「モンスター、どんと来い、だよーん」

 デリラは、先ほどの『来ないで』のセリフを忘れたみたいな表情だ。調子いいやつ。

 とことこと、神殿の奥へと入り込む。

「みんな、早く早くぅ~」

 手を振って招いてくる。俺とパウロは、顔を見合わせた。

「あいつ、ここがどれだけ危険なのか、わかってるのか?」

「いや、あなたがいれば大丈夫だと、信じておるのじゃろう。我らには、エメット神のご加護がある」

「……むちゃくちゃだな……」

宝珠が使いこなせないことを、いまだにラハブやデリラに言ってない。すごく良心にとがめてしまう。しかし、みんなで力を合わせたとき、宝珠が光ってくれた。今回もそうだろうと思いたい。

 

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