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夢の国を行く帆船    作者: 鈴宮とも子
禁断の木の実をめぐる争い―――呪わしい命たち
33/43

期待に応えるぞ!

ちょっと待て。質問がある」

 俺は、頭を振って自分の疑問を口にしようとした。

 エメット神は、美しい眉を吊り上げる。

「なにかな?」


「西方教会に【禁断の木の実】があったのは、なぜなんだ? まるで食ってくれって言わんばかりじゃねーかよ」

「時期が来たら、あの実を教会の庭に植えるように、ペテロに言ってあったんだYO! 救世主ジェスを信じるものに、祝福された永遠の命を与えよってね!」

 エメット神は、迷惑そうに答える。


「勝手に持ち出して勝手に食べたら、呪われるんだって言ってたのに、聞いてないのが悪いっちゃ」

「わりーな」

 エリヤはニヤっと笑った。

「時期が来たら?」


 俺は、ちょっと背筋が寒くなってきた。

「それは、どういう意味だ?」

「この世の終わりになれば、ジェスさまを信じるものと信じないものに分けられ、信じないものは地獄へ、信じるものは祝福された永遠の命を与えられて天国で暮らす。常識だろ」

 エリヤが解説する。


「じゃあ、俺は地獄行きだな。ジェスさまなんて知らねーし」

 俺は少し、気が楽になったが、

「知らずに拝んでいる神が、ジェスさまだっていう説もあるぜ」

 エリヤは意地悪くそう言って、ニヤニヤ笑いながら消えていった。

(幽霊か)


 俺は、エリヤが消えたところを、ぼんやり眺めた。

(ぶじ、天国に行けたのかな)

エメット神は、立ち尽くしている。その瞳に宿る威厳もそのままに。

「あなたは、宝珠が使えなければ、ただの平凡な男の子。もうちょーっと、剣の稽古をラハブにつけてもらうとか、ブラークルの研究をするとか、やってみたらどうなのですか! よけいなお節介かもしれないけど、この任務には、世界の命運がかかってるんですよ! ちょっとは自覚したらどうですか!」


「どっちがだよ!」

 俺が突っ込んでやると、エメット神も薄くなっていった。

「きみは自分で思うよりきっと、ずっと優れているのです。わたしが選んだのですから、間違いないのです!」

 空気をリンとさせて、消えていってしまった。

 一件落着っぽくなっている。

 俺はベッドに戻った。

「勇者だなんて、ありえねー。ただ、アスリア王女を守りたいだけなんだ……」

 とつぶやきながらも、たしかにみんなでエリヤを倒したのは、事実だと思った。




 期待に応えなくては。




 一休みしたら、剣の修行をはじめよう。

 邪神ブラークルを封じる旅を、アスリアが続ける限り、俺が守らねばだれが守るんだ。

 もう、二度と後悔したくない。


 俺はベッドに横たわり、天井をにらみつけた。

 そして、そのまま、深い眠りに落ちていった。


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