期待に応えるぞ!
ちょっと待て。質問がある」
俺は、頭を振って自分の疑問を口にしようとした。
エメット神は、美しい眉を吊り上げる。
「なにかな?」
「西方教会に【禁断の木の実】があったのは、なぜなんだ? まるで食ってくれって言わんばかりじゃねーかよ」
「時期が来たら、あの実を教会の庭に植えるように、ペテロに言ってあったんだYO! 救世主ジェスを信じるものに、祝福された永遠の命を与えよってね!」
エメット神は、迷惑そうに答える。
「勝手に持ち出して勝手に食べたら、呪われるんだって言ってたのに、聞いてないのが悪いっちゃ」
「わりーな」
エリヤはニヤっと笑った。
「時期が来たら?」
俺は、ちょっと背筋が寒くなってきた。
「それは、どういう意味だ?」
「この世の終わりになれば、ジェスさまを信じるものと信じないものに分けられ、信じないものは地獄へ、信じるものは祝福された永遠の命を与えられて天国で暮らす。常識だろ」
エリヤが解説する。
「じゃあ、俺は地獄行きだな。ジェスさまなんて知らねーし」
俺は少し、気が楽になったが、
「知らずに拝んでいる神が、ジェスさまだっていう説もあるぜ」
エリヤは意地悪くそう言って、ニヤニヤ笑いながら消えていった。
(幽霊か)
俺は、エリヤが消えたところを、ぼんやり眺めた。
(ぶじ、天国に行けたのかな)
エメット神は、立ち尽くしている。その瞳に宿る威厳もそのままに。
「あなたは、宝珠が使えなければ、ただの平凡な男の子。もうちょーっと、剣の稽古をラハブにつけてもらうとか、ブラークルの研究をするとか、やってみたらどうなのですか! よけいなお節介かもしれないけど、この任務には、世界の命運がかかってるんですよ! ちょっとは自覚したらどうですか!」
「どっちがだよ!」
俺が突っ込んでやると、エメット神も薄くなっていった。
「きみは自分で思うよりきっと、ずっと優れているのです。わたしが選んだのですから、間違いないのです!」
空気をリンとさせて、消えていってしまった。
一件落着っぽくなっている。
俺はベッドに戻った。
「勇者だなんて、ありえねー。ただ、アスリア王女を守りたいだけなんだ……」
とつぶやきながらも、たしかにみんなでエリヤを倒したのは、事実だと思った。
期待に応えなくては。
一休みしたら、剣の修行をはじめよう。
邪神ブラークルを封じる旅を、アスリアが続ける限り、俺が守らねばだれが守るんだ。
もう、二度と後悔したくない。
俺はベッドに横たわり、天井をにらみつけた。
そして、そのまま、深い眠りに落ちていった。




