生きていて欲しかった……
「にゃろー、ごちゃごちゃうるせええええええ!!」
おとなしく聞いてりゃ、いい気になりやがってえええ!
頭の中が真っ白になった俺は、宝珠を握りしめ、そいつでエリヤを思いっきりぶん殴った。
拳の中から、強烈な光が放たれた。
それと同時に、目もくらむほどの炸裂が、エリヤと俺の間で起こった。
ダイナマイトが爆発したような音とともに、エリヤは館から森の木に向けて、したたか吹き飛んで行った。そしてすぐに木はエリヤをはね飛ばし、またすぐに違う木にぶつかって跳ね上がり、館に戻ってくると、さっき俺がぶつかった壁に激突、しっくいがガラガラと音を立てて崩れ、砕け散った。ぎいっと館が傾き、崩れそうだ。
「いまですぞ、ラハブさん! この聖水を、館の屋根に! そこが死霊の根源です! そこを根絶し、屋敷を破壊するのです!」
ペテロが、ラハブに水差しを差し出す。ラハブはさっと受け取るなり、倒れてうめいているエリヤを踏みつけ、館の屋根に登っていく。
「ま、待て、そこは―――」
エリヤが起きあがろうとしている。クリティカル(会心の一撃)が出たはずなのだが、さすが不死者。そんじょそこらじゃ、倒れない。
俺は、エリヤをひたと見据え、再び宝珠を掲げた。
キラキラと、輝く宝珠がモロにエリヤに突き刺さる。エリヤは目をほそめていた。相手もはあ、はあ、と息を切らせている。
エリヤは、ラハブの方へダッシュした。死霊たちがあとから駆けてくる。宝珠の光を避けるように、お互いを盾にして突っ込んでくる。
ラハブは、必死の形相で屋根から館を浄化しようとしている。俺は駆けた。奴らより先に館に着いて、館を浄化・破壊しなくては。
死霊どもが、ウヨウヨと館に集まってくる。俺は、宝珠で蹴散らした。しゅうっと消滅していく死霊たち。だが、館があるから、次々と生まれてくる。これじゃあ、きりがない。
ラハブは、浄化を終えた。エリヤは、足を踏みならして悔しがった。
そして、エリヤは、俺をすり抜けて森の中へと駆けていく。
そのときだった。
「これを見ろ!」
「おい、どこへ行く!」
エリヤの行く先を見送り、俺は頭のなかがまっさらになった。
ある人物が、立っていたのだ。
「王女! なぜそこに!」
そこに立ち尽くしていたのはアスリアだったのだ。
美しい髪の毛が、闇の中で金色に輝いている。真っ青な顔。大きな木の下で、死霊にしっかりととらわれている。しかし、声もしぐさもしっかりしていた。
「義也さま! ごぶじだったのですね!」
駆け寄ろうとするのを、エリヤはらんぼうに引き留めた。
そしてのど元に、剣をつきつけた。
「死霊たちのためにおまえが危機に瀕してる、『魔力増幅』をしてくれという口実で呼び寄せて、正解だった。こいつが俺様のものにならないのなら、殺してやる!」
「アスリア……」
俺は、二の足を踏んで立ち止まった。アスリアは、青ざめていたが、自分を人質に取るエリヤを見あげ、落ち着いた口調で言った。
「エリヤ、今ならまだ間に合います。改心しなさい」
「冗談じゃねえっ!」
エリヤは、ギラギラした目を、アスリアに向けた。いやらしい、なめ回すような目つきである。俺は宝珠を握りしめる。さらに宝珠が輝きを増している。
「殺してやる! 今度こそ、二度と復活できないようにしてやる!」
エリヤは、狂ったようにわめいた。
「いけない! 【ターン・アンデッド】!」
デリラが、最後の一撃を、エリヤに向けて放った。
そのまま気絶して倒れてしまった。死霊からのダメージが大きすぎて、顔色は真っ白になり、衣服も腐肉でどろどろだ。
ラハブは、これが最後とばかりに残りの聖水を、エリヤに向けて浴びせる。
アスリアののど元に、剣が突き刺さり、血が―――。
「【ヒール!】」
パウロの、朗々とした声が響き渡った。
アスリアの傷が、みるみる治っていく。
見やると、少女親衛隊たちが、パウロをしっかりと守ってこちらへ駆けている。
予期せぬ敵に、エリヤは目をむいた。
「ぱ、パウロ! おまえは、船に残ったはず!」
「義也さまが危険だ、という手紙でアスリア王女をおびき出そうとしても、このわしがそれを見抜けぬと思うたか!」
パウロは、エリヤをしかりつける。
「この、大馬鹿もの! 目を覚ませ!」
「そうだ! 剣で人質をとらにゃ、ちゃんと対決できねーのかよ! 上級親衛隊長が、聞いてあきれるぜ!」
「なにを! 言わせておけば!」
からーん。
俺は、剣を投げ捨てたエリヤに、体当たりを噛ました。屋敷に背を向けていたエリヤは、俺の体当たりを食らってくの字に身体を曲げ、屋敷の方へ。炸裂する宝珠の光とともに、エリヤと俺は崩れ落ちる館の中に吹っ飛んでいく。
「わあアアアアアアアア!」
俺もエリヤも絶叫した。きしむ館とともに、屋根が落ちてくる。ラハブもいっしょに落ちてくる。
「義也、こっちへ!」
あれだけ俺を嫌っていたはずのラハブは、俺を丸ごと抱えて崩れていく屋根としっくいの間から、俺を連れ出そうとする。
「むちゃだっ! おまえだけでも脱出しろっ!」
俺は叫ぶ。ガラガラという音とともに、埃が舞い散る。このままじゃ、押しつぶされて死んでしまう。
「げほっ」
エリヤが、埃をかぶって咳き込んでいた。のどに痰がからんだみたいな声だ。
「げーっほ、げほげほっ! がーっぺっ!」
いきなり、痰を吐き出しやがった。と、同時に。
宝珠が光とともにうぃぃんとつんざく音がした。
ふんわり、と屋根としっくいが浮かんでいる。俺のすぐ上を。
「あ……、まさか……、ありえねー」
その直後。
光が、あたりを吹っ飛ばした。
「ぎゃーっ!」
エリヤは叫んだ。俺は、強くラハブに体当たりをかまされ、うっ、と身体をくの字に曲げる。
「脱出する!」
俺を担ぐなり、ラハブはまるで新幹線みたいに走り出した。背後でエリヤが悲鳴を上げ、叫び続ける。そして―――。
すさまじい爆音。
耳がきーんとなった。いまや屋根もしっくいも、なにもかも爆弾を投下したみたいになくなっている。ひどい有様だった。
死霊どもは、あわれな声で、
「エリヤさまぁ、エリヤさまぁ」と叫んでいたが、屋敷が宝珠の光とともに消えていくと、死霊どももまた、消えていった。
「―――うへ」
俺は絶句していた。
「わたくしの力のせいですわ……。エリヤには、生きていてほしかった」
アスリアは、悲しげにつぶやいている。
屋敷の跡地には、焦げ付いた地面が残っているばかりであった。




