表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の国を行く帆船    作者: 鈴宮とも子
第1章 おもちゃの船が巨大化した!
3/43

夢判断は聖書チート:サライの場合

 空飛ぶ船のこぎ手でも、人力は必要であるらしい。オールを持つ手に血まめが出来ていた。サボると鞭が飛んでくるので、おちおち寝てもいられない。女看守長は優しかったので、ぼろ雑巾のように疲れ切っていた俺は、妙な夢を見た。

 

 男装した女の子が、蛸の足をかじっている。その蛸は女の子の首に足を巻き付け、血をすっている。蛸が満足すると、女の子は夕日のように赤くなり、手足を八方に広げて大きな女神像に絡みつく……。

 頭を振って、夢を振り払った。くだらねー夢に、関わり合ってる暇などない。


 俺は女看守長と雑談をすることがよくあった。女看守長が給仕役をしていたことも聞き出した。ああ、俺のハーレム生活はどこに。

「勇者義也くん。義也くん、起きなさい」

 どこからか、声が聞こえてきた。俺はむにゃむにゃと、

「うるせ……寝かせてくれ……」

「今がチャンスですよ。王女アスリアさまに、謁見を申し出るのです。そして、あなたの特別な力を見せつけるのです」


 声に聞き覚えがあった。エメット神だ!

 俺はがばと起き上がった。

「なにしに来た!」

 ウトウトしている女看守長の隣で、胸ぺったんこの金髪美女女神が、照れたように笑っている。

「なにしにって、心配だったから来ちゃった。てへ☆」


「てへって、なんだよ! 人をこんな目に遭わせて! 今さら助言なんて聞きたくないね」

「世界を創造した神にひどいわね。それなりの罰は受けて当然」

 エメット神は、不機嫌な態度で言った。俺はそっぽを向いてやった(背を向けたかったが、鎖につながれていたのだ)。


「あんたなんか、神じゃねーよ」

「じゃあなによ」

「ペーパーの紙だな。トイレで使うアレ」

 水に濡れると溶けるやつ。俺が突っ込むと、女神は腕を組んだ。

「ヘタレで悪かったわね。ここは聖書をモチーフにした国、ネルビア。あなたには、創世記のヨハネのような、夢を解き明かす力を授けておきました」


「創世記のヨハネ?」

「無実の罪で投獄され、ファラオの夢を解き明かすことで英雄になった人です。あなたはこの、夢解き明かし能力を使って、魔王を倒すのです!」


「もう、帰してくれよぉ」

「だーめ。だって魔王を倒したら、弟さんの死の真相もわかるはずだもん」

 なんだと?

「健司と魔王との間に、なにかあるのか?」

「さーねー」


ムフッと微笑むエメット神。憎たらしいヤツである。

「なにかあるんだな……」

 異世界と弟の間になにがあったのか。異世界の人々にそのヒントを教えてもらい、魔王を倒す!

「よし、じゃあ、どうすりゃいい」

「王女アスリアさまって人に謁見を申し出てなさい。アスリアさまはお優しい方、きっと会ってくださいますよ」


 それだけ言うと、エメット神はすっと煙のように消えてしまった。

 ―――アテにしてなかったけどさ。

 いなくなってみると、案外さびしいものである。しかし、相手は神さまなのだ。謎解きもノーヒントというのも無理はないかもしれない。


 ためしに俺自身の夢を判断してみた。例の、男装した女の子とスイカと女神像の夢だ。

 ―――チャーチ。シスター。陰謀。


 キーワードが頭の中にわいてきた。なんだこりゃ。まあいい、とりあえずあとで、じっくり考えておこう。今はここを脱出するのが先だ。


 ここは聖書をモチーフにしたとエメット神は言っていた。俺もいちおうはクリスチャン家庭に育ってる。記憶ではたしか、創世記のヨハネという人は、看守長と仲良くなって、夢を解き明かしたのだ。それがきっかけで、ファラオに気に入られるようになった。聖書と同じパターンで、俺に夢判断ができるなら、女看守長やアスリア王女に気に入られるかもしれない。


 俺は奴隷の女看守長に呼びかけた。

「看守長さん、起きてください」

 銀髪の女看守長は、厚ぼったいまぶたをうろんげに開けた。

「なんだ?」

「あなた夢を見てたでしょう」

「なんでわかる」

「うなされてましたから。俺、その意味を当てて見せますよ」

 女看守長は、少し気味悪そうな顔になった。


 だが、どうやら少し、思い当たることがあったらしい。

「そうだな、わたしは夢を見ていた。一本のぶどうの木が目の前に現れた。その武道の木には三本のつるがあった。それがみるみるうちに芽をだしたかと思うと、すぐに花が咲き、ふさふさとしたぶどうが熟した。アスリアさまの杯を手にしていたわたしは、そのぶどうをを取って、王女の杯に絞り、その杯をアスリアさまにささげた」


お、これはまさしくヨハネの夢の解き明かしそっくりパターン!

 おれは、夢判断能力に、この夢を解析させてみた。キーワードは、『昇進』『三時間後』『解放』だ。


「その解き明かしは、こうです。三本のつるは三時間です。三時間あれば、アスリアさまがあなたを元の職務に復帰させてくださいます。あなたは、昔そうだったように、アスリアさまの杯をささげる給仕役をするようになります。ついては、あなたがそのように幸せになられたときは、どうか重要な話があるので、王女アスリアと謁見させてくださるよう、はかってくださいませんか? ぼくには、人の夢を解き明かす力があるんです」


 なんどか説得をした結果、十分だけ王女アスリアと謁見が出来ることになった。

 その十分でアスリアの心証をよくして、この奴隷生活から脱出しなくちゃ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ