どっちにつくんだよ? ラハブは迫る
トイレから戻ってみると、掃除を終えたラハブとデリラが、ペテロといっしょになにやら談笑しているところだった。
「教会を守っているのは、わたくしめとこのエリヤさまだけですからな」
「ほかの連中はどうしたんだ?」
「死霊にやられてしまいました。もちろん、サウル国王には連絡をしたのですが、増援の気配がありません。敵陣の前だというのに、この警備の手薄なこと、サウル国王はなにを考えておられるのか」
ペテロが愚痴っている。
「サウル国王は、エリヤ上級親衛隊長を信頼しておられるのでしょう。いざとなれば、近隣諸国に助けを求めるとか、手はいくらでも打てますし」
ラハブは、少し平坦な、機械的な口調で答えている。
「サウル国王とエリヤ上級親衛隊長ね、アヤシイね! ほんっと、アヤシイ! 実はあの二人、きっとエロい関係よ?」
デリラが茶々を入れた。ラハブは、ぴしゃりと、
「デリラ! いい加減にしろ!」
デリラは、ぷくっと頬を膨らませた。そういうところは、十三歳なのだが。どういう教育をされたら、こんな性格になるんだろう。
デリラは、子どもっぽくいじいじしながら、
「だって、いくらサウル国王に命を救われたからって、少々やりすぎなんじゃないかなぁ。故郷であたしの聞いた話じゃあ、サウル国王が病気になったとき、『身代わりになります!』とか言っちゃって、ネルビア国王宮占い師に、病気のもとを自分にうつすように言ったとか……。ほんっと、彼の方こそビョーキだわ」
「そのせいで、こんな僻地に飛ばされたのかもしれんな」
ラハブは、ふと、あることを思いついた、という口調だ。
「ん? つまり?」
デリラは、指を頬に当てて、何も知りませんって顔だ。こういうのをカマトトっていうんだなと俺はひとりで納得している。
「つまり、あんまりサウル国王にくっつきすぎたせいだろう。ってことだ。あいつが暑苦しくなった国王が、口実を見つけてここによこしたんだろ」
「でもエリヤさん、なんか、捜し物があるって言ってたけど……」
デリラは、おずおずしている。
「ひょっとすると、聖剣ジェマイルの手がかりかもしれんぞ? わたしたちがここへ来ることは、すでに知られてるからな。証拠を隠滅するためも、あるかもしれんな」
ペテロは、灯りをともしながら、
「ラハブ親衛隊長どの、エリヤ上級親衛隊長さまを、そんな悪く言わないでくだされ。あの人は、任務に忠実な、立派な方ですよ」
ラハブは、とたんに不機嫌になった。
「ペテロさん。あいつをかばうなんてどうかしてる。アスリア王女を追放したサウル国王側につくんですか」
デリラは、いっけないんだーっ、と小さくつぶやき、
「ラハブさん、どっちにつくとかつかないとか、めんどうになるからやめましょーよー」
「るっせーなデリラ。わたしはハッキリさせないと、あとで困るから言ってるんだよ。おいペテロ。どっちにつくんだよ?」
「いや、それは、その……」
困り切ってるな。俺は、割って入ることにした。
「みんな、掃除が終わったんだったら、メシにしないか? 俺,腹が減っちゃってさ」
一同は、毒気を抜かれた表情になった。
「こんどの食事には、ウォーターメロンマンは出て来て欲しくないね。ちゃんとチェック入れてくれよな」
俺はジョークを言ってみせる。
ラハブは、こんなときによく言うね、とブツブツ言っていたが、ペテロは、
「ああ、ではすぐにお食事を」
そそくさと、台所へと向かっていった。




