戦い終わって日が暮れて
とりあえず、めちゃめちゃになった教会内を片付けることになった。
死霊が触ったところは、長いすと言わず祭壇と言わず、べっとりとした気色悪いなにかが張り付いていたのである。
「ったく、死霊ってのは、ゾンビの一種なのかよ。こんなにもよごしやがって。食われたらゾンビ化するのかよ」
俺が愚痴りながら雑巾を絞っていると、
「あの頭をもぎ取って土に埋葬することで、増殖するんだって! 叔父さんから聞きましたよ?」
デリラが、博識なところを見せる。
俺はゾッとして身体を震わせた。「あんなヤツの頭を埋葬なんて、考えられない」
「モンスターの風習として、お互いの頭を埋葬するってのは、アリかもな」
ラハブは首をコキコキ言わせる。
「あのうさぎ人間には、たしかに知性のようなものがあるように感じられた」
「ウォーターメロンマンにも、パウロを誘惑する知恵があったっけな」
西方教会の最高責任者まで屈服させる狡猾さを持っているのだ。もしかして、ペテロも、なにかワナにかけられているかもしれない。聖水が効かなかったのは、ペテロのせいなのでは?
いや、アヤシイと言えばエリヤもアヤシイ。動機がわからないペテロと違って、エリヤはサウル国王の上級親衛隊長、という地位がある。煙ったいアスリアの周囲を崩すために、魔物と通じて俺たちの命を狙った……?
しかし、そんなわかりやすい図式なんだろうか?
俺は、頭を振った。
エリヤがサウル国王の命をうけてアスリアを倒す、というのならわかる。だが、俺たちはただの下っ端だ。手を下すなら、まえにウォーターメロンマンがやったように、直接アスリアを倒した方が手っ取り早い。なぜ、俺たちを狙うのか。
それほど、聖剣ジェマイルが怖いのか?
たかが剣ひとふりが、そんなに恐ろしいのか?
邪神ブラークルとは、どんなやつなんだ?
よくわからん!
ひとつ言えることは、また死霊が現れるときまでに、宝珠がなぜ反応しなかったのか、原因を追及しなければならないってことだ。いつまでもデリラに頼っていたら、彼女だって魔力を消費しすぎて倒れてしまう。今だって、デリラの額は汗にまみれ、服はぐっしょりになっている。胸の膨らみがちょっとエロい。
いやいや。いまそれどころじゃないんだ。
デリラがイマイチ、よくわからん性格なのも困ったものだが、脇道にそれがちな俺の集中力のなさはどうよ。
少々、くたびれたので俺もトイレに行くことにした。
俺が部屋を出ると、入れ違いにエリヤが入ってきた。
「ラハブ。おまえはアスリア王女と親しいそうだな。俺様からの手紙も、伝書鳩につけてくれ」
ん? 上級親衛隊が、アスリア王女にどんな用があるってんだ?
振り返ると、エリヤはなにやら、陰険な目でラハブを見守っていた。
ペテロとは正反対の目つきだ。
こいつは、警戒した方がいいかもしれない。




