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夢の国を行く帆船    作者: 鈴宮とも子
夢解き能力の不調
19/43

デリラの夢

 魔物の攻撃も無事に乗り越え、アスリア王女の復活を目撃して、ホッとひと息ついた、帆船『ギデオン号』。

 だんだん寒くなってきているのは、冬が近づいているからではなく、冬将軍であるブラークルの拠点が、近くなってきているからだ、と祭司長パウロは言った。

「義也さま、ブラークルの力が強くなってくるのがわかります」

 アスリアは、身を震わせる。



「わたくしたちに、対抗できるでしょうか」

 王女がそんな弱気でどうする。

 西の教会は、その拠点の入口にあるという。聖剣ジェマイルの手がかりがあるとしたら、そこだろうというのが、俺を除く全員の一致した意見であった。

「……宝珠があるんだから、剣なんて不要だろ?」

 俺は、ぶつくさ文句を言った。



「ブラークルなんて、この宝珠で瞬殺だ」

「宝珠だけでは、邪神は封じられんのじゃ。かりにもモンスター軍の総帥じゃぞ? 聖剣ジェマイルの柄にこの珠を装備させたら、完璧じゃの」

 パウロは、ドヤ顔である。正直、ウザい。

「聖剣ジェマイルのある場所に、心当たりがあるのかよ?」

 聞かれた相手は、押し黙った。



 ここがカナメだ。そもそもの話を聞く限りでは、アスリア王女の叔父国王が、正当な王位を継ぐ彼女を煙たがって、ジェマイル探索を命じたという。よくもまあ、反乱が起きなかったものだ。

 まあ、平和主義のアスリア王女には、そんなマネは出来なかったんだろうけどよ。

 ちょっとしたこぜりあいでも、眉をよせて気がかりそうな顔をするアスリア。復活の魔法を使ってしまったあとでは、もう一度死んだら、けっしてその魔法が使えないのである。なのに、自分の身を捨てて、この旅を諦めようとはしない。



 なにがそうさせるんだろうか。



 ただ単に、邪神ブラークルを封じたい、という動機以上のものが、アスリアにあるような気がする。平和主義のアスリア王女が、危険な道を選ぶと言うことが、俺にはふしぎでならなかった。

 俺がいなかったら、アスリア王女は今度こそ、死んでしまうんじゃないか?

 そんなことは、させない! 

 聖剣ジェマイルのある場所がどこであれ、アスリアを守って邪神を封じる。そうすれば、弟の死の真相もわかるんだ。



 このところ、俺も弟の夢を見る。弟はいつも、俺を見つめて、

「おれを殺したのは、あんただ」

 と責める。あいつとは仲がいいとは言わなかったが、そこまで言われる理由がわからない。弟は、いったいなぜ、自殺したんだ? 神夢に出てきたってことは、これから先の旅と関係があるのだろうか。ひょっとすると、ほんとうに俺があいつの自殺の原因を作ったのか?

「義也さま~?」



 ぬっ!

 いきなり現れた美少女は、俺の身体にぴったりと、そのむっちりとした身体をくっつけてきた。

「で、デリラ。なんか用か?」

「あの……、あたし、夢を見たんです……」

 出た! 夢解きチートの出番だ!

 俺は身をもぞもぞさせた。



「どんな夢? どんなの?」

 デリラは、一瞬たじろいだが、

「あなたはあたしの命の恩人……、夢だけでなく、すべてを打ち明けてあなたのものになりたい……」

「い、いや、それはいかんいかん」

 思わず身を振りほどきながら、

「命を救ったのは宝珠であって、俺じゃねえ」

「でも、宝珠を使えるのはあなたさまだけ……」

 デリラは、うっとりと俺を見つめている。その潤んだ瞳のなまめかしいこと! ほんとに十三歳なのか?



「それはいいから、早く夢の話をしてくれよ」

 ほんとは、宝珠の使い方が、イマイチよくわからんのだが。それを言っちゃあ、おしまいだろう。

「わかりました。あたしの見た夢を、お話しします。昨日のことでした。あたしが田舎を歩いていると、まわりを柵でかこった庭園を見かけました。そこにはウサギたちの群れが番をしていました。あたしが近づくと同時に、蛇が近づいてきて、庭園のなかにするするっと入り込んでしまいました。『あっ』とあたしがいうと、蛇がリンゴをくわえてもどってきました。そしてウサギたちの群れに、『ここの庭のリンゴの実はうまいぞ、食ってみろ』と誘っていました。ところがウサギたちの群れがそのリンゴを食べると、ウサギたちの群れは、みんな死んでしまいました」

 奇妙な夢だな。



 俺は、夢解き能力に、この夢を分析させた。

 ―――死霊。禁忌。背信

 なんのこっちゃ。タロット占いかい。

 俺は、期待で目を輝かせ、ぴっとりくっついてくるデリラから、さらに身を引いた。

「俺なりに解釈するとだな」

「ええ」

「これから先、蛇のような死霊が現れて、ウサギのような親衛隊たちに襲いかかってくるんじゃないのか? モンスターがつぎつぎとやってくるのは、ラノベではよくある話だし」

「……ラノベ。神聖な書物なのですね」




「それは人によって違う」

 美女にかこまれウハウハって男の理想が書かれている点では、神聖かもしれないが!

 いざそうなってみると、これはなかなか、たいへんな状況だった。

「勇者さまは、そのライノベを聖書にしているのですね。あたしたちが教典の神の言葉を重んじるように」

「うーん、びみょーかもなー」

 俺にとっては、ライノベは生きがいみたいなもんだ。弟の健司がマネして、二次小説なんてものを書いていたが、俺はクソミソにけなしてやった。そのときの健司の目と表情は、いまだに忘れられない。



「あなたの好きなモノは、なんでも好きになります。だから、お嫁さんにして」

 デリラが迫ってきた。俺は、ドキドキ胸が高まってきた。いや、俺はロリじゃねえ。アスリア王女のことを、忘れるわけにはいかんだろう。

「勇者さま?」

 考えに沈む俺に、デリラはしなだれかかる。

「あなたはあたしの前から、突然消えたりしないでくださいね。あなたは、勇者健司さまみたいに、行方不明にならないでくださいね!」

 そうだ。忘れてた。大切なことだった。健司とブラークルの間に、何があったのかを調べなければならない。



 俺が、居住まいを正して、その件について聞こうとしたとき、ガチャリとドアが開いた。

「はあ、さっそくデリラさんに手を出してるんですね?」

 軽蔑したような目つきの、サライが顔をのぞかせていた。俺は、デリラを押しのけた。

「違っ、そんなんじゃねーよ!」

「あなたの趣味をうんぬんするつもりはありませんが、デリラさんはいちおう、シスター見習いで、しかもまだ十三歳ですよ?」



「だから、デリラは夢解きの相談に来たんだってば」

「別にいいです。制服フェチでもなんでも。早くデッキに来てください。島が近づいてきました」

 俺は、ちょっとスネたようすのサライに、必死になって言いつのった。

「島が見えたのと、デリラとは、関係ないだろ? 誤解だよ」

「あのですね」

 サライは、ちょっと怒ったように、

「この船が、いくら魔法の船だからって、水や食料が無限にあるわけじゃ、ないんですよ? 島に上陸して、補給をしなくちゃいけません。島には、モンスターがいると思われます。当然、あなたが必要です」

「あ、そうなの」




 こう、ハッキリと、あんたは魔王退治の武器です、と言われると、むしろすがすがしささえ感じる。潔い、というのか、さっぱりしている、というのか、これはきっと、サライの性格によるのだろう。

「勇者だから俺は必要とされている。そりゃありがたいね、涙が出るよ。宝珠が使えるのが俺だけだからなんだろ。ふーんだ」

 言ってやったら、サライはニッコリ笑って、

「そんなこと言っていいんですか? アスリア王女に、デリラを襲ったことを言いつけて―――」

「襲ってねーよ!」

 俺は、顔が引きつるのを感じた。

「俺はそーゆー趣味はねえ!」



「制服フェチじゃないんだったら、ロリですか?」

 サライは容赦ない。

「だからそーゆー趣味はねーっての!」

「ともかく、デッキに来てください。モンスター退治は、親衛隊たちだけでは荷が勝ちすぎます」

 それだけ言って、サライはさっさとドアを閉めてしまった。

 デリラは、ちょこんと俺の横に座った。

「あなたはあたしの命の恩人。命のあるのはあなたのおかげ、だからあなたのためなら、どこまでもついていきます」

 ということで、二人してデッキに赴くことになった。



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