治療薬、ゲット! だけど……
俺たちは、温泉街の中心地にたどり着いて、ほとんど枯れかけている池から温泉水を手に入れた。水を陶器の水差しに入れ、抱きかかえるようにして待ち合わせ場所の丘へと向かう。
ラハブは、思い出したように口走った。
「おまえ、助けに来るのが遅かったじゃないか。どこで遊んでた」
「違うよ、珠を入れてたポケットがほつれていたんだ」
いいわけがましい俺のセリフを、ラハブは嘲笑して答えた。
「ちゃんと修繕をしていないからだ。だれもお婿さんに迎えてくれないぞ」
「花婿修行には、まだ早いはずだ。俺は16歳だぞ」
「もう16歳か。ムリゲーだな」
俺はキレてしまった。
「どういう意味だよ!」
「おまえがアスリア王女に恋心を抱いてることぐらい、お見通しだぞ。わたしを助けてくれたのは感謝するが、身分違いにもほどがあると言っておこう」
ラハブは、どうも以前よりも言葉にトゲがあるようだが、気のせいなのだろうか。王女を取られる、ウカウカしていられないと焦っているのだろうか。やっぱりこいつ、百合なんじゃねーの?
待ち合わせの丘が見えてきた。温泉水の入った水差しを手に、俺は迫ってくる帆船の底を見上げていた。
あの帆船のなかに犯人がいる。心当たりがいるとしたら、あいつしかいない。
用心深く縄ばしごを上って、デッキに降り立つと、給仕役サライとパウロがしっかりと並んで待ち構えていた。
「さあ、早く温泉水を」
両者が差し出す手に、ラハブが水差しを渡そうとするのを、俺はぐいっと腕を取って引き留めた。
「な、なにをする」
ゴスロリ少女ラハブが、驚いたように目を見開いて俺を見上げた。俺は水差しの柄をしっかり握りしめて、ひたひたの水があるのを確かめた。
「この場の全員に、話がある」
「なんでしょう」
給仕役サライは、少し不安そうだ。
「この中に、アスリア王女を殺そうとした犯人がいる。そいつがわかるまでは、この水を渡すわけにはいかない」
一同の顔に、戸惑いと怒りと、じれったげな色が走って行った。
「早くアスリアさまに、この水を差し上げなくては。すでに身体から芽がでているのですぞ」
パウロが、いらだって早口に言った。サライは両手を揉んで、やきもきしている。ラハブのほうは、親衛隊長としての体面を一瞬忘れたように、さっと顔にうろたえた色を漂わせた。三人とも取り乱している。
「この水は、ほんとうに治療薬なのか?」
俺は、水差しを振って見せた。ちゃぽちゃぽと、水が中で音を立てている。
ん? と、ラハブは顔をしかめた。初めて疑問を感じたらしい。




