敵地到着!
俺が、さまざまな心痛とストレスで眠れず、ついウトウトしていると、ラハブが俺をたたき起こした。
「おい、たまには厨房に行って料理をしろ!」
「な、俺は料理なんて作ったことないぞ!」
「男のくせに、どんなシツケをされたんだ!」
「そんなことより、いま夢を見たんだ―――」
「おまえの自慢話は聞きたくないね!」
ぴしゃりと言い返されて、俺はやさぐれた。
好きで夢判断能力を持ったわけじゃない!
自分の夢を判断してやろうと思った。チャーチにシスターに陰謀。それに、男装した女の子だ。この船に、そういう人間がいるのか?
チャーチはイギリスの老舗靴屋だが、教会という意味もある。シスターは当然、尼さんだろう。つまりパウロとなにか、関係があるのだろうか?
ブラウニーといっしょに、俺は、厨房で料理をすることになった。魔法の火で料理するのはそれなりに楽しかったが、勇者が料理をするというところへの場違い感は半端なかった。そうしているうちに、ジャミシテ国に着いた。その報せは、パウロからもたらされた。
「地上をごらんあれ! ジャミシテ国が見えますぞ」
俺はデッキから見下ろして、戦慄と冷気が背筋から尻の先まで駆け抜けるのを感じた。
一面の火の海。地面は薄闇、硫黄の匂い。火山から溶岩が垂れている。こんなところに野菜が育つのか。いやそれ以前に、生き物がいる環境なのか、ここは。
「ここは邪神ブラークルをあがめる敵国です。一度入ったら、二度と出てこられないという噂が飛び交っています」
アスリアは、か細い声で解説する。
「ということは、俺が脱出者第一号になるわけだ」
俺は、わざと軽く言ってやった。ラハブも、この頃になるとすっかり俺に慣れてしまったようで、まえほどいちいち突っかかってこなくなった。
それはそれで、なんとなくさびしい。なので、
「ラハブもおとなしくなったな。女の子はこうでなきゃ……」
ラハブはみるみる、元の調子を取り戻した。
「馬鹿め。水差しは持ったか? そろそろエリコだ。ウォーターメロンマンを攻撃するための宝珠は、持ったんだろうな?」
「おまえはお袋か」
俺はラハブに言ってやると、ラハブは気がかりそうにパウロを振り返った。
「アスリアさまを、頼みます」
俺たちは、エリコの街へと降下する帆船から、縄ばしごを伝って降りていった。




