クリシュの成長記
生まれてから半年の歳月が経った。
この頃になると俺は自分の城(赤ちゃん用のベッド)を抜け出して城下町(部屋の中)を闊歩するようになった。
もちろん大人たちに見つからないようにだ。レインは俺がベッドから抜け出しても褒めてくれるが、他の大人たちは心配性なのですぐに城に連れていかれる。
俺はハイハイができるならもしかして歩けるのではないだろうかと考え、実行してみたらなんと生後半年で歩き回れるようになった。
やっぱ英雄視されるだけあるなぁと心の中で自分を褒めていたが、どう考えてもステータスの恩恵だと気付かされ、悔しい思いを抱えながらも部屋の中で鍛錬と言う名の散歩をしていた。
赤ちゃんは部屋の中を歩くだけでも普通に疲れるので今できる最高の鍛錬なのだ。
リリーは鍛錬をすればその分だけ経験値は溜まると言ってたので大人しく散歩しているのだ。
散歩ができるようになったので、窓の外を覗くことも可能になった。
自分の住む家がどのような街にあるのか気になったので少し覗いてみたが、どこをどう見てもザ・村って感じである。
ここは子爵家の領地? のはずなのでそれなりの街だと思っていたが、のどかな雰囲気のザ・村である。
そういえばレインは騎士から子爵になったと言っていたし、余ってる領地はこのような村レベルのとこしかなかったのか?
まぁそう考えるのが妥当な気がする。
そのようなことも考えつつ鍛錬をしまくっていた。
まぁ鍛錬始めて10分くらいでいつも戻されてしまうのだが……
生後8ヶ月
この日俺の鍛錬は1つの成果を見せる。レベルが上がったのだ。
クリシュ=レンメール
lv 2
ランクH
称号 【嘘泣きマスター】
HP 60→100
MP 500→600
筋力 180→250
体力 150→210
敏捷力 60→80
魔力 420→500
魔法防御力 260→300
運 5→5
スキル
『全属性魔法Ⅰ』『無属性魔法Ⅰ』『無詠唱』『剣技Ⅰ』
ユニークスキル
『スキルポイント』『魔神の加護』『剣神の加護』『メニュースキル』
うん、すげー上がったと思う。
前にレインのステータスを見たことがあったので俺がこの調子でレベル70になった時には運以外の全てのステータスで越えることができるだろう。
これが加護ってやつなのか。
さて、レベルが上がったということはスキルポイントが手に入ったということだ。
メニュースキルにあるスキルからスキルを手に入れてみようか。
スキルポイントだが、自分が持っているスキルのレベルも上げることはできる。
ただし、鍛錬でも上げることは出来るので勿体ないと感じてしまった。
貧乏性なのだろうな。
また、メニュースキルにあるスキルと貢献ポイントで得られるスキルでは雲泥の差があると思う。
例えば身体強化だが
『身体強化』Ⅰで5%上昇、レベルが上がるごとに5%ずつ上昇最大で50%
『超身体強化』Ⅰで15%上昇、レベルが上がるごとに15%上昇最大で150%
こんな感じでかなりの開きがある。
また、この2つを両方持っていた場合、レア度が高い方に統合されるようだ。この場合は『超身体強化』に統合され、最大200%上昇する。ステータス3倍とかほんと化け物だよな。
レインが『超身体強化』持ってたらSランク届くだろうな確実に。
で、よくよく考えたら俺のスキルが急に増えてたらマルティナが暴走しそうだ。
スキルはレベルアップによって後天的に増えることはあるがそれは稀であって、基本は先天的なものである。
レベルアップごとにスキルが増えていたらマルティナに騒がれることは確実だった。
それをご近所さんに言いまくって、その噂がほかの使者に届いてしまったらと考えると、今はスキルを得るのはやめておいた方が良さそうだ。
将来パーティを組んだ時にスキルを仲間に与えることを見越した方がいいかもしれない。
幸い、パーティを組んだ状態で魔物を倒したら貢献ポイントを手に入れることもできるので、スキルポイントの使い道はまだ保留にしておこう。
今日はこれから魔法関連のスキルを上げる鍛錬もしなきゃだしな。
「はーーい、クリシューー! おっぱいのお時間ですよーー」
ちっ、俺は未だにご飯を美人な母親のおっぱいから貰っているのでこれには逆らえない。
いや、全く嫌ではないのだが
生後1年
俺は今日この日の為にある特訓をしていた。言葉を発する為の特訓だ。
リリーからこの世界の言葉や文字が日本語に聞こえるし、読める、書けるという神さまの謎パワーを貰っていたが、言葉を発するのは苦労した。
赤ちゃんの口で喋るのがこんなに苦労するとは思わなかった。
家族の前で歩いた時はみんな感激しまくってしまい、エルやマルティナは涙が止まらなくて男どもはかなり苦労していた。
美人なおくさんを持った罰だ。
精々苦労しやがれ。
で、まぁまだ言葉を話すという行為はしていない。どうせまた感激しまくるのが目に見えているし、最初になんて言うか考えていないからだ。
妥当なところで「えるー」次点で「まるてぃなー」大穴で「ままー」だ。
エルは自分のことをママと呼ばせたがっているが他のみんながエルって呼ぶし、俺が覚えるとしたらエルだろ。マルティナはエルの次に呼ぶのは確定。
あんなに大事にしてもらってるんだし、感激してくれるのは普通に嬉しいからな。
とまぁそんなことを考えつつ俺は連絡を待った。
そう、今日はリリーから連絡が来るはずなのだ。その為に特訓したんだ。
連絡来なかったら死ねる。
(龍弥さーん、お元気ですかー?リリーでーす! あ、今はクリシュさんですね! お元気ですかー?)
懐かしい声が聞こえてきた。あぁリリーの声が聞こえる。脳内で。
「え、電話みたいな感じだと思ったら、なに、念話みたいな感じなやつなの!?」
(そうですよー? あ、言ってなかったでしたっけ!? ごめんなさい!)
この数ヶ月の努力は水の泡になってしまった。
……まぁ家族の前でどーんと披露してやろう。
「あぁ、いいんだ。そんなことより久しぶり!」
(お久しぶりですー!どうですか? ラビリスの生活は)
「快適だぞ。この家から出たことないけどな」
(まだ1歳ですからしょうがないですね。でもレベルやスキルレベルも上がってるようですし、すくすくと育っているみたいで良かったです! まぁ私にプロポーズしておきながら人妻の胸吸ってニヤニヤしてる変態さんですけど)
「ぐはっ! み、見てたのか……?」
(当然見てましたよー? あなたは私の使者なのでどのような生活しているのかは見ていたいですしねー。ちなみに前も言ったように私以外の奥さんを作ること自体は賛成なんです。けどね、流石に自分の母親はどうなのかなー? って思ってます)
「い、いや、しょうがないんだ。生きる為なんだ。これは見逃してほしい」
(えー、どうしよっかなー?)
「頼むよリリー、何でも言うこと聞くから」
(ほーう、では戦争にクリシュさんが勝ったらとんでもないお願いでもしてみましょうかねー)
「あ、あぁ、お手柔らかにお願いします」
(ふふ、それはどうでしょう。さて、本題に入りましょうかね。今日は中間発表がされました。当然ですがクリシュさんは最下位です。しかし! まだ巻き返しは全然可能なところですね!)
「まぁ、まだ何もしてないしな。他の使者達はもう動き出してるってことか」
(そうですねー、ただ動きがちょっと早すぎるので色々と疑問ですが、それはまた考えましょうか。今回はですね、以前クリシュさんのユニークスキルにあった『……』の部分がどういうものなのか予想が付いたのでお伝えしたいと思います)
「そういえば、あったな。どんなスキルなんだ?」
(そのスキルはですね、まだ発動することはありません。多分クリシュさんがこの剣なら自分の命を任せられる。っていう風に思ったら発動すると思います。詳細は分からないですが……)
「なるほどなー、剣神系統って分かっただけでも十分だ。ありがとう」
(いえいえ、現在の私はクリシュさんのサポートがメインの仕事ですから当然ですよー!)
「そっか。じゃあ雑談でもするか!あ、その前に1つ聞きたいことがあるんだ」
(ふふっ、雑談もいいですけどあまり長い間連絡取ってると他の神に気付かれるかもしれないので今回はなしにしましょう。来年はいっぱいできるように工夫しますので! 質問なら何でも答えますよー!)
「な、なんでもだと?スリーサイ……」
(私が胸のサイズ一般女性の平均並みだって分かって言ってますか? 消し炭にしますよ?)
「すいませんでしたーーー!!!」
久々にダイナミック土下座をかました。
赤ちゃんが土下座とかシュールすぎる。
(分かればいいのです。さて、どんな質問ですか?)
「俺って結構スキルとかチートなやつ持ってる気がするんだよね、全属性とか空間とか無詠唱とか、それに加え剣技とかレベル高いし、そういのって鑑定スキルに引っかかるの?」
そう、マルティナは俺のステータスの高さに驚いていたけど、スキルにはノータッチだった。
この世界の基準ってこんなものなのかと思ってたけど、空間魔法って一般スキルじゃなくて貢献ポイントで交換するレアスキルだし、持ってたら絶対騒ぎになると思うのだが……
(マルティナさんは鑑定スキル持ちでしたね。鑑定スキルでは他人の持つ称号やスキルは見ることができないです。他人の称号やスキルを見ることができるのは魔眼持ちぐらいですね)
「魔眼か、それってユニークスキルなの?」
(えぇ、ユニークスキルです。クリシュさんはメニュースキルがあるので、魔眼持ちの人を発見できるはずですよね? 私としては魔眼を持ってる人と関わるのはできる限り避けることをオススメしますね。絶対騒ぎになりますし)
「リリーのオススメは聞いておいた方が良いことは分かってるからな、覚えておくよ」
(はーい、是非お願いしますね!……そろそろ時間ですね、ではクリシュさん! またご連絡します!)
「おう! じゃあまた!」
そう言うと脳内で響いてたリリーの声は消えてしまった。
リリーの為にまずやらなきゃいけないのは強くなること。
そろそろ本気で魔法の訓練や素振りでもしますかね!
……まだ1歳だけど!
明日からは1日1話ずつ投稿します