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日時⑵ レッドワイバーン

 sideアリス


「で、今日は何を狩るつもりなの?」


 零華さんは、自分が食べた魔物のお肉すら覚えていないようですね。SSランクの魔物も零華さんに食べられちゃうのは可愛そうになってきます。私たちはネイルさんを連れて、魔の森の奥深くに来ています。

 レンメールの村の近くにある魔の森と同じく、フリーデンの魔の森は奥に進めば進むほど強い魔物が出るので、私たちは奥深くまで来ているわけです。


「今日はレッドワイバーンですよ」


「げっ、あれかぁ……あれってワイバーンのくせにドラゴン並に強いのよねぇ」


「一応ワイバーンはドラゴンの分類なんですけどね」


「大きさが全然違うじゃない。レッドワイバーンって空飛ぶじゃない? めんどくさいわね」


「あなたも飛べるじゃないですか。羨ましいです」


「クリシュに頼めば風魔法ぐらいもらえるかもしれないわよ?」


「そうですね……クリシュ様のお手を煩わせてしまうのが申し訳ないのですが、私はスーリさんとタイプが似てると思うので、上位互換になるためにも風魔法は欲しいですね」


 スーリさんは結局、フリーデンの情報収集部隊の隊長になることが決定しました。

 彼は隠密に有利なスキルをいくつも持っていますし、単独で乗り込んでも傷を負うことは少ないだろうという判断らしいです。


「どんどん獣人から離れていってる気はしないでもないけどね」


「それは治癒魔法を使える時点で、獣人であることを否定していると思うので、何も考えないようにしました」


「それもそうね……獣人が治癒魔法使ってるのを見たら、色んな人が驚きそうだわ。そういえばネイルは魔法を使えるの?」


「いえ……私は普通の獣人ですので」


「そうね、アリスが特殊なだけよね」


「私も前までは普通の獣人でしたが……」


「5歳ぐらいの時から魔法使えてたのよね?」


「そうですね」


「5歳から魔法を使える獣人は普通かしら? そもそも獣人じゃなくても5歳から魔法を使える人間はかなり特殊だと思うけど?」


「クリシュ様はもっと早かったです」


「あれは私の知ってる普通とは最もかけ離れた存在よ」


「でもクリシュ様は破神の使者には勝てないって言ってましたね……ずっと鍛錬をしていたクリシュ様が勝てないとなると、破神の使者は一体どのような鍛錬をしてきたのでしょう?」


「分からないけど、クリシュは強さの秘密を暴いたらしいわよ『俺にはあんな風に強くなるのは無理だな』って言ってたし……シーナとスーリは破神の使者のステータスを見たと思うから、帰ったら聞いてみましょ」


「そうですね……そろそろSランクの魔物が出てきてもおかしくない場所ですね」


「つ、ついにですか」


「緊張しないでも大丈夫よ。私がしっかりあなたのことは守ってあげるわ」


「あれ? 零華さんが戦うんじゃありませんでしたっけ?」


「ここは魔の森でしょ? アリスのが楽に狩れるんじゃないかしら?」


「それはそうですが、零華逃げましたよね?」


「に、逃げてないわよ! ワイバーンはちょっとめんどくさいなぁって思ってただけよ!」


 とっても素直ですよね零華さん。

 たしかにここは魔の森なので、称号に【魔の森を闊歩する者】を持っている私の方が楽に狩れるとは思いますが……

 絶対最初から私任せにしようとしてましたね。


「まぁいいです。じゃあ零華さんはネイルさんのことをしっかり守ってあげてくださいね」


「ほいほーい」


 返事は適当ですが、いざ守るとなったら零華さんは驚異の固さを発揮するので、安心して攻撃に集中できそうですね。


「あ、あのぉ〜、もしかしてアリス様お1人でレッドワイバーンと戦うのでしょうか?」


「その予定ですけど……?」


「き、危険ではないでしょうか? いくらアリス様がSSSランクだとしても、アリス様は聖女様なのですから、直接の戦闘は……」


「心配しなくてもいいわよ。見てれば分かるから。そんなことよりも私たちが心配しなきゃならないのは、迷うことよ。クリシュがいればマップを使って、今どこにいるのか分かるけど、私たちだけだとこの簡易地図を使って確認してなきゃいけないんだから」


 そう言って零華さんはクリシュ様が作ってくださった簡易地図をぴらぴらさせます。

 私たちの中では零華さんが1番地図を見るのが上手ですし、いざとなったら空を飛んで確認すればいいので零華さんが持つのが最適です。


「ここは魔の森だから、何が起こってもおかしくないの。おかしいのはパーティメンバーだけで十分よ」


「パーティメンバーで1番まともなのは私ですけどね」


「またその話を繰り返すの!?」


「私にはなぜか零華様が1番まともに見えてしまいます……」


「それはないですね。魔王で不死身なのがまともとは信じられませんよ?」


「言い切らないでよ!」


「それもそうでした」


「納得早すぎじゃないかしら!? ネイル……この短期間で私のいじり方上達しすぎじゃない? 私っていじられキャラじゃないはずなんだけど……」


 零華さんが魔王だとか、イリスさんが姫さまだとか、私が聖女だとか、クリシュ様、シーナさん、スーリさんが使者だとかはメイド全員が知っています。

 何度考えても、フリーデンの戦力は街1つ分とは考えられませんね。

 そろそろ独立を考えても良いと思います。もちろんクリシュ様が王様で。


「いたわ! レッドワイバーンよ」


 私も気配察知で魔物がいることは分かっていましたが、いきなり本命に会えるとは運が良いですね。


「あれがレッドワイバーン……大きいですね」


 ネイルさんが少し緊張しながらワイバーンを見上げて呟きます。彼女はランクが高くても戦闘経験は少ないですし、緊張するのも無理ありません。


「では行ってきます。零華さん頼みましたよ!」


「ほいほーい、任せといて」


 ワイバーンの退治の仕方は沢山ありますが、セオリー通りにやるのならまずは目を潰します。そうすることで攻撃の狙いがつかなくなるので、こちらの損傷を防げるのですが、目を潰されたワイバーンは空に飛ぶことが多いので、空を飛べない私にとって目を潰すのは下策です。


 ですからまずは……


「『腕力上昇』!! 『敏捷上昇』!!」


 付与魔法で身体強化してから


「はぁっ!!」


 ワイバーンの追えない速度で翼を切り落とせばいいのです。


「……え? あれれ? アリス様の剣って短剣ですよね?」


「そうよ」


「……短剣でどうやってあんな大きさの翼を切ったんですか?」


「……実は私にも分からないわ。アリスの理不尽をいちいち真に受けてたら持たないもの」


「そうですか……」


 一応全部聞こえてますよ! 私耳良いですからね!

 短剣で翼を切り落とすなんて簡単じゃないですか。料理と一緒なんですから。

 剣を引いたり押したりしながら切っていけばいいだけの話です。それをできる人は少ないでしょうが。


 翼を切り落としてしまえば後は倒すのは簡単です。


「ふっ!」


 ヒュンッヒュンッと2本の短剣を投げつけて私は前に走り出します。

 短剣は真っ直ぐに飛んでいき、狙い通り両面に刺さり、ワイバーンは大きく仰け反り、お腹を突き出してくれました。


 ワイバーンの側を通り過ぎながら何回も切り刻み、後ろから前から短剣を投げつけます。私は一撃の重さがないので、手数を増やすしかありません。お父さんと同じ攻撃方法ですね。お父さんは短剣ではなくナイフでしたが……


 私は自分で短剣を作り出せるので、アイテムポーチに何本も入れてあります。正直良い素材を使ってるわけではないので(Sランク)そこまで火力は出ませんが、レア度6相当の短剣が無数に飛んでくるのは相手からしたら地獄のような光景かもしれません。


 ワイバーンの手と脚は潰したので、もう負ける要素はありません。いえ、最初から負ける要素など無かったのですが。


「ネイルさん! トドメはお譲りします」


「えっ? わ、私がですか?」


「あら、いいじゃない。私たちが誰も持ってない【竜殺し】の称号もらえちゃうかもしれないわよ?」


「そ、そんな称号を持ってしまったら、シリスティーナ様に合わせる顔がありません」


 彼女は凛としているシーナさんに少し憧れていると聞いたことがあります。ミオさんから。


「いえ、シーナさんはもう特別な思い入れもないそうで、私たちと一緒にドラゴンを普通に狩ってるので大丈夫だと思いますよ? それに1回倒したぐらいで【竜殺し】の称号がもらえるとは思えませんし」


「そ、そうですか? では謹んでいただきますね」


「どうぞどうぞ」


 ネイルさんは背負っていた大きめの槍で、ワイバーンを恐る恐るチョンチョン突いて、3分ほど経ってからやっと倒しました。


「ほぼ動けなくなってるんだから、そんな怯えなくて良かったのに」


「い、いえ、SSランクですし、何をしてくるか分からなかったので」


「レッドワイバーンはブレスを吐くんだけど、アリスが喉を潰してたし、空を飛び上がるにも羽切られてたし、強靭な腕や脚の攻撃も潰されてたから、本当に何もできなかったのよ」


「それは……ちょっとレッドワイバーンが可哀想な気がしてきます」


「私もちょっと可哀想だなって思ったわ」


「な、何ですか2人とも! いいからほら! アイテムポーチに入れちゃいますよ!」


 私たちは夕食の食材をゲットして、ルンルンで帰っていきました。……途中までは。


「あ、あぁぁぁぁぁぁ!!!」


「どうしたの!?」


「敵ですか!?」


「そんな気配ないんだけど!?」


「どうしたんですかネイルさん!!」


「わ、私の称号がぁぁぁ……」


 嫌な予感がします。


「【竜殺し】がついてますううう!!」


 予感的中です。

 帰り道私は必死に謝り、今日はネイルさんの代わりに料理することにしました。



 彼女は1日休んだ後、シーナさんとバッタリ会ってしまい、少し悲しい顔をされて、2日間寝込むのでした。


次回は物語が少し進展します

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