日常⑴ メイド長と魔物狩り
前話を少し改稿しました。
sideアリス
ビルデン王国との戦いから1日経ちました。
今日はクリシュ様がお休みにするとおっしゃったので、みんな思い思いの時間を過ごしています。
昨日は色々なことがありすぎたせいで、クリシュ様は非常に疲れているのだと思い、お茶を淹れに行ったのですが、しばらく1人にして欲しいと言われてしまいました。
考えなきゃいけないことがたくさんあるんだと思います。
私はクリシュ様を支えるために生きているので、こういう時は歯がゆい気持ちになりますが、別の部分で支えていくしかありません。
クリシュ様は領主ですが、書類のお仕事は苦手です。零華さんも苦手なので基本的に書類のお仕事は全部私がやっています。
今日は溜まっていた書類があったので、それらを全て片付けて、お城を何も考えずに歩いていました。気がつくと厨房の前に立っていたのですが……さっき昼食を食べたばかりなのに、ここに来てしまうとは少しはしたないですね。
とは言っても良い匂いには逆らえないので、ふらふらと中に入っていくと、メイドさん達がせわしなく動き回っていました。
「あ、アリス様!」
メイド長でありながら、クリシュ様の秘書的な立場であるミオさんが奥から小走りをしながら、私に挨拶をしてきました。
彼女とはよくメイド談議をしているので、パーティメンバーと同じくらい仲が良いです。
いつもは笑顔でこちらに来てくれるのに、今日は少し元気がないような気がします。
「ミオさん! ちょっと元気がないですね。何かあったんですか?」
「あははは、アリス様には分かっちゃいますかー」
ミオさんはクリシュ様の前では気丈に振る舞っていますが、本来の彼女はよく笑う人です。彼女と仲良くなってからは笑顔をよく見せてくれますが、その顔がとっても可愛くて、私だけが見ることができると思うと少し誇らしく思います。
「実はですね……」
「やぁ! ここに居たのかい?」
「ぎゃっ! 出た!」
「こらこら、女性がそんな声を上げるものではないよ?」
ふむ、原因が分かりました。
このストーカーがウザイというわけですか。ここはお友達の私が一肌脱ぎましょう。
「スーリさん、あなたは何をやっているのですか?」
「これはこれはアリス君じゃないか。私はミオさんをこれからデートに誘う予定なんだ」
君とさんの違いは気にしないでおきましょう。
「ダメです。私はこれからミオさんとお話があるんです」
特に話すことはないけど、お友達のピンチは救わねばなりません。
「残念だが、その予定はなしだ。君は人の恋路を邪魔する気かい?」
「そのつもりですが?」
「ほぉ……」
私とスーリさんで火花を散らします。昨日は有効打を見つけられませんでしたが、この人とならそこそこ戦えるので、戦ってる間にミオさんには逃げてもらいましょう。
「お2人とも! ここは厨房なのでやるなら外でやってください! 私はこれで失礼させてもらいますね!」
ミオさんは私たちを注意しながら、目にも留まらぬ速さでどこかへ行ってしまいました。
私が一肌脱ぐ必要もなく逃げられるのでしたか……
「行ってしまいました……」
「行ってしまったな……君が邪魔をしなければもっと話せたのに」
「いえ、できませんわよ」
後ろから声をかけられ、2人で振り向くと穏やかな笑みを浮かべたイリスさんが立っていました。
「あれ? いつからそこに?」
「ついさっきですわ。そんなことよりスーリさん、何やってるんですか?」
「見てわかるだろう? アリス君に恋路を邪魔されたのだ」
「そんなことを聞いてるんじゃありませんわ。仕事もせずにどこをほっつき歩いてるんですか? と聞いてるのですわ」
「な、何のことかわからんね」
「分からないのですか……ではその身に刻み込んであげるしかありませんわね」
ニコッと笑ったイリスさんはスーリさんの首根っこを掴んでズルズルと引っ張っていきました。筋力はそう大差ない2人なので、スーリさんは抜け出そうと思えば抜け出せるはずですが、あの笑顔を観てしまったら逃げ出せませんね。
あれはヤバイ人の目でした。
「あっ! どうしよう!」
私が2人の姿を呆然と眺めていると、厨房から少し焦り気味の声が聞こえて来ました。
まったく、どこも困ったことだらけですね。
「どうしたんですか?」
私が声をあげた女の子に話しかけると、その子は少し驚いてから、また不安そうな顔になりました。
「い、いえ! アリス様にお話しするようなことでは!」
「いいですから、言ってみてください」
この子はネイルという獣人の女の子で、私と同じ猫耳なので、少し親近感が沸いています。この厨房の料理長をしている子で、私と同じくらい料理が上手です。
「そのぉ、今晩使う食材が少しだけ足りなくて、冷凍庫に入れてあると思ってたのですが、誰かに食べられたらしくて……」
なるほど、状況は分かりました。魔物のお肉は普段はメイドのみんなが狩ってきていますが、今晩はSSランクのお肉を使う予定だったから、メイドのみんなじゃ狩れないし、冷凍庫にあったお肉はほぼ間違いなく零華さんが盗んでいったので、困っていると……
ちなみに私が今晩のメニューを知っているのは、私が献立を考えている張本人であるからであって、食意地が張ってるわけではありません。
犯人が零華さんだと分かったのは、ただの常習犯だからです。
「それは困りましたね……では、私が狩ってきますよ」
「え!? いえいえ! そんな! アリス様の手を煩わせる訳には!!」
「食材が足りなくて困るのは私たちですし、そもそも犯人が零華ですから、私の責任でもあります」
「何で私が犯人って断定できるのよ!」
零華さんが物陰からひっそりと顔を出します。彼女も少し申し訳なくなっていたのでしょう。犯人が現場に戻ってきてしまってはいけないのに……
「今さら何を言ってるんですか。いつものことでしょう?」
「そ、そうだけどぉ……」
「じゃあネイルさん、私と零華さんで狩ってくるので、それ以外の料理を進めていてくださいね」
「あ、あの! 私も連れてってもらえませんか?」
「え? 何でよ。あなたに責任はないのよ? 私が食べちゃったせいなんだし」
零華さんは基本人がいいから困った人がいると、ついつい助けたくなっちゃうのでしょう。すぐに自分が犯人だと自供しました。誰もが分かっていたことですが……
「いえ! それはそうなんですが……私! お2人が魔物狩りをしているところを見てみたいんです!」
この子は中々に天然さんなのでしょうか? 今の発言は何気に零華さんの心をえぐりましたね。
「そ、そうね……ごめんなさい。でも同行は危険よ? SSランクの魔物なんだから」
「私は一応Aランクですから、自分の身は自分で守ります!」
メイドのみんなは『ぱわーれべりんぐ』をしたので軒並みランクは高いのですが、同じランクの人と戦ってしまうと、経験の差から負けることが多いです。ミオさんや執事の皆さんは普通に強いですが。
「どうする?」
「そうですね……料理長が自分で素材を選びたいという名目で連れ出すことはできますし、私と零華さんが居ればどちらかが守ることはできるでしょう」
「それもそうね、SSランク程度なら1人で十分だし」
「ほんとですか!! すぐに準備してきます! みんな後はよろしくね!」
「「「はい」」」
ネイルさんは厨房にいた他のメイドに声をかけて、自分の部屋に走って行ってしまいました。
「本当に平気かしら?」
「大丈夫でしょう。彼女の素のステータスは高いですし、装備も強力ですから深手を負うとは考えられませんし、怪我したらすぐに治しますから」
「そ、じゃあ私が前面に出て戦うからアリスはしっかり守ってあげてね」
「えぇ、わかりました」
「ごめんなさいね、せっかくの休日を私のせいで」
「気にしないでください。零華さんに迷惑をかけられるのはいつものことですから」
「ぐはっ! そ、そうよね……ほんとうにごめんなさい」
ネイルさんが戻ってくる間、私はクリシュ様に会えないストレスを零華さんにぶつけて解消するのでした。




