破神の使者2
「お前、今なんて言った?」
「魔神を信じるなって言ったんだ。いや、正しくは魔神の言葉を鵜呑みにするなって言った方がいいか」
聞き間違いではないようだ。
「そんなことを言うために、わざわざこんなとこまで来たのか?」
ここは俺の城だ。敵地のど真ん中に1人で乗り込んでくるとは信じられないのだが、こいつの場合はそれをしても逃げ切れると確信を持っていたのだろう。
「そんなことか……最初から信じてもらえるとは思ってなかったが、やっぱり協力は望めそうもないな」
「協力だと? 俺とお前がか?」
「その通りだ。少しずつ関係を結んでって最後には悪の親玉を倒すっていうありがちなストーリーさ」
それはありがちだな、地球ではそういう手の物語ばっかりだった。きっとラビリスでもありふれているのだろう。
「今現在、貢献ポイントの1位はクリシュだ。2位が俺で、3位が王神の使者、4位が獣神の使者なわけだが、正直俺とお前以外じゃ勝負にならんだろうな。奴らはこの戦争の攻略法を分かってない上に、戦力が俺たちとは違う」
言ってることは分かるが、気になるところがあったな。
「攻略法ね……俺は大体分かってるつもりだが、お前とは違う答えになるかもしれないぞ?」
「いや違わないね。お前のことは少し前から観察させてもらっていたが、俺と似たような生き方をしている。俺とお前、剣神の使者以外の奴らは、最初から間違えていた。んで、剣神の使者と会ってみたはいいが、あいつはどうもただの戦闘狂でな、強くなってからの攻略法は全く駄目だった」
観察されていたとは思わなかったが、どうやらこいつと俺の攻略法はほぼ一緒のようだ。
「強くなって、高ランクの魔物を狩って、金にして、仲間を増やして、領主になって……っていう流れが使者としては理想形のはずなんだが、頭のおかしい奴らはいきなり領主になってたからな。領主になったら自由に動くことが難しくなるって分かってるのかねー。クリシュも領主になったっぽいけど、運営自体はお前がやらなくても何とかなるようになってるし、収入源もちゃんとしてるし、魔物狩りもできるようになってる。使者としては100点をあげたいくらい理想の領主だ」
「お褒めいただき光栄だな。観察してたって言ったけど、そこまで知られてるとなると少し恐ろしく感じるよ」
ほんとにこいつ、どうやってそこまで調べたんだ? 言い方から察するにかなりの機密事項まで知ってるようだが……
「俺のユニークスキルを使えば簡単さ、気配を感じさせない魔物を生み出せば、潜入させるなんてわけないからな」
「ダンジョンマスター……」
「その通りだ。俺は爵位をもらった後、迷宮内に街を作ってそこで暮らしてるんだが、いい具合にDPが貯まるんで高ランクの魔物を結構使役できるんだ」
本当に厄介な奴だ。本人自体もかなり強いのに、剣神の使者に加え、高ランクの魔物も使役できるとなると、正面から戦っても俺たちが勝つのは難しい。
「俺もダンジョンマスタースキルは取ろうと思ってたんだがな、お前とキャラが被りそうだからやめておこう」
「ハハッ、キャラとか気にするタイプなんだな。ルカみたいなこと言うんだな」
「は? 今なんて……」
「クリシュ殿!! 無事か!?」
俺がジバの放った聞き逃せない一言に追求しようとした時、唐突にドアが開かれ、シーナが転がり込んできた。
「シリスティーナ! この男は破神の使者なのだ! 迂闊な行動は慎みたまえ!」
「す、すまない! だがマップを見たらクリシュ殿と貴様の近くにもう1人高ランクの知らない人間がいたのでつい……って破神の使者だと!?」
「初めてまして、シリスティーナ……龍神の使者か。随分と強くなったようだが、クリシュの神秘の魔法か何かかい?」
「レベルアップを強制的にさせる魔法なんて使えないね。本人の努力だ」
「それは失礼した。さてそろそろ俺は行こうかな。もう君たちと会うこともないだろう」
「ちょっと待て、少しだけ聞きたいことがある」
「俺に答えられることなら何でも。ただし手短に頼むよ。これでも領主なんでね、それなりに忙しいんだ」
何が領主だ。
「俺が気づかないとでも思ったのか? ステータスを見てもうまく偽装してるようだが、魔力の流れからして誤魔化せてないし、そもそもお前が名乗った時点で俺の魔眼が反応してるんだ」
「ほぅ、まだ誰にもバレたことなかったから大丈夫だと思ったけど、魔力の流れね……流石に使者ともなれば分かるのか」
「使者かどうかが関係あるのか知らんが、バレバレだ。お前ドッペルゲンガーだろ?」
「なに!? だが、ステータスはジバって書いてあるぞ!? ドッペルゲンガーならそう表記されているのではないのか!?」
「そのステータスは偽物だ。どうやって誤魔化してるのかまでは知らないけどな」
「やれやれ、バレてしまってはしょうがないね。ただ今まで喋っていたのは……」
「ジバ自身なんだろ? 流石に俺も分かるぞ」
「そういうことだ」
「さて、出て行ってくれるのは一向に構わないんだが2つほど聞きたい。まず、今後も同じような登場の仕方をするのか? 会うことはないって言われても信用ならないし、お前が急に来た場合、俺はお前をどのように扱えばいいのか分からないんだ。敵なのか味方なのかも分からんしな」
「ふむ、たしかにそうだ。今後はしっかりと一報を入れるようにしよう。俺が敵になるかどうかは君たち次第かな。今まで通りに過ごすなら俺は君たちに手を出すことをしないが、もし邪魔するなら容赦なく殺す」
殺すと言った瞬間、俺は奴の底知れぬ威圧感を覗き見た気がした。自分よりも圧倒的に強い者と出会った時に感じるものを、こいつに感じてしまった時点で、俺は負けているのかもしれない。
「……邪魔と言っても具体的なことを言ってくれないと分からん」
俺は平然を装って何とか喋れたが、シーナとスーリは若干足が後ろに下がっている。今までそこまでの強者と出会うことがなかったのだろう。俺は前世で剣神と呼ばれるぐらいには強かったが、子供の頃から最強なわけではなかったから、この感覚は覚えがあるだけで、2人は仕方のないことだ。
「そうだな……使者と神を殺さないのなら、敵になる可能性は少ないな。俺は本気で1位になりたいわけじゃないし」
「は? 神を殺すだと?」
「そうだ。まぁ神殺しは普通に禁忌だろ?」
「禁忌とかそういう問題じゃないだろ? そもそも神を殺すなんてできるのか?」
「さぁね。そこまで教えてやる必要なんてないさ」
「……それもそうか。次の質問だ。なぜここで俺を殺さない? さっき1位を狙ってないって言ったが、それは本当なのか? だとしたら俺に使者の攻略法なんちゃらの話をした理由は何だ?」
「ふむ……1位は取れたら取るくらいの心構えってだけで、そこまで重要な目的ではない。俺が転生した時に目標にしたことは代理戦争に勝つことではないからな。それ以外のことは悪いが今は話せない。クリシュが俺の仲間になってくれるって言うのなら話は別だが」
「俺がこれから莫大な金を得て、お前と圧倒的な差をつけたとしても殺さないんだな?」
「そうだ。何度も言うが俺は1位になることが重要ではないからな」
「分かったよ。今日はこれぐらいでいい。次からはちゃんとアポ取ってから来てくれ」
「了解した。アポ取りは大事だからな」
これで奴との会話は終わりだ。そう思っていたのだが……
「なぁクリシュ殿、アポってなんなのだ?」
シーナの何気ない一言で空気が変わる。
このラビリスはかなり地球と似ているのだが、細かい部分に差異がある。
つまり、こういうことか? ラビリスにはアポっていう単語は存在しない。
じゃあジバは何者……? そこまで考えた時、奴の顔をふと見てみると俺の方をじっと見つめていた。
そして唐突に口を開き
「クリシュ、地球って聞いたことあるか?」
と、尋ねたのだ。
これは確定だろうか? リリーは俺しか地球からの転生者はいないと言っていたが……
様々な思いを胸にしまい込んで、俺は平然とした顔で
「全く知らないな」
と答えたのだった。
ーーー
「申し訳ありませんクリシュ様! 破神の使者と会っている間にお側に居られないなんてメイド失格です!」
アリスはシーナから事の顛末を聞いたようで、俺と会うやいなや地面に頭を擦り付ける勢いで頭を下げた。
「お、おい! 何ともなかったんだからやめてくれ! アリスはメニュースキルを持ってないんだから仕方ないだろ?」
「ですが、危機察知スキルは持っています! クリシュ様の危機に反応しないスキルなので全く使えないですが」
「……危機察知は自分専用なんだよ」
「私よりもクリシュ様のことを優先させないスキルは必要ありません!!!」
「いや、でも……」
「大体零華さんもクリシュ様に支配されてるのなら、ちゃんとご主人様のところに飛んでいかないとダメじゃないですか!」
「へ!? 私に飛び火するの!?」
「当たり前です!!」
「そんなぁ……私ちゃんと言いつけ守っただけなのにぃ……」
「何ですか言いつけって!! クリシュ様が大変な時に私と街をお散歩してたなんて!! どうせ貴方は気付いてたんでしょう? だったらなぜ言ってくれなかったんですか!?」
「ク、クリシュ! 助けなさいよ!」
実は零華はすぐに気付いて俺に念話をしてきたのだが、ジバの話を聞きたかった俺は、零華にアリスを押さえつけておくように頼んだのだ。アリスが来たら絶対戦闘になっていたからな。
俺は零華を救ってやらねばならない。俺が零華に頼んだのだから、俺が落とし前をつけるのは当然のことだ。
「アリス、実はな……」
「何ですか?」
鬼がいた
やっぱり零華に
押し付けよう
字余り。
転生して初めて詠んだ句だ。
「そいつ全部知ってた。俺はトイレに行ってくる」
「ちょ!? アンタ何言ってんのよ!?」
「悪い。命が大事なんだ」
「私の命も大切にしなさいよね!」
「お前は死なないだろ?」
「アリスならやりかねないわよ!!」
「零華さぁん……? 知ってたとはどういうことですかぁ? 詳しく聞かせてもらってもいいですかぁ?」
「ひ、ひぃぃぃ!!」
すまん零華、俺は零華に心の中で土下座をした。2時間後には実際に本人の前ですることになるのだが、あの時の俺には逃げる以外の選択肢はなかったのだ。
……破神の使者よりも威圧感を出せる人間がすぐ側にいたとは気づかなかった。




