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破神の使者

昨日投稿お休みして申し訳ありませんでした!

 

「我がビルデン王国は、ここに敗北を宣言する」


 ビルデンの総帥殿は若干緊張した面持ちで、俺たちにそう宣言した。

 スーリの一件が終わってから、俺が軍隊のみんなに報告しに行った後、この総帥殿が白旗を振りながらこちらに向かってきたらしい。

 どうでもいいことだが、どうやらこの世界でも敗北を表す行為は白旗を振ることのようだ。

 俺がいない間に来てしまったので、ミオを口説いてるスーリを見て驚愕したり、敵の5人全員が女性だったと思い込んで落ち込んだりと色々あったらしい。


「賢明な判断だと思う。このまま続けてもお互い益はないし、そちらの被害は火を見るよりも明らかだ」


 これについては全くの本音だ。むしろ敗北宣言してくれて感謝している。人をむやみやたらに殺すのは遠慮したい。


「あのような爆発や、落とし穴、果てはドラゴンまで用意されてるのだ。我々に勝ち目などなかったのだろう。残念だが敗北を認めるしかない。それにーー」


 ちらっと視線をスーリに向ける。

 元々スーリはビルデン側で、最強の戦士だったわけだから、そいつが寝返ってしまった今では戦争続行は困難だ。


「先生まで手篭めにしてしまわれては、とてもじゃないがそもそも戦いにならんだろう。SSSランクが5人に私と同じSSランクが1人……最初から戦いにもならんかったな」


「そのことについてだが、お前たちは俺たちのことを全く知らなかったのか? 戦争する相手のことを全く知らないとは不用意すぎやしないか?」


「返す言葉もないな。クリシュ辺境伯たちをバカにしているわけではないのだ。規模の問題でな、国と街で戦争をするにあたり、こちらはかなりの数の兵士や冒険者をつぎ込んでいるのだ。相手のことを知らなくても余裕を持って勝利の報告を陛下にできると思っていた。その兵士も9割方死んでしまったがな」


 総帥殿は話しながら、少しずつ雰囲気が変わっていった。今までは堂々としていて、本当に敗戦国の将なのか? と思っていた。俺が前世で出会った敗戦国の将はみんな怯えており、絶望感を漂わせていたのだが……

 そして今の総帥殿は若干の赤みを帯びた顔をして、周囲の温度を下げているのではないかと思えるくらいに冷たい眼差しを俺に向けていた。


「やはり俺を恨んでいるか?」


「恨むな、というのは難しい。私自身、右腕のように思っていた部下を失くしているし、身内が死んでいる者も多くいる。我がビルデン王国はフリーデンを恨み続けるだろう。だがそれは個人的な恨みだけに留めておくようにさせるのが私の役目だ。国全体としてフリーデンを恨んでしまったら、ビルデン王国は終わってしまうことに気付かされたからな。それに、そもそもの原因は我々にある。我々が宣戦布告しておきながら敗北して、フリーデンを恨むなどとんだ恥さらしだ。私はここで割り切っておくし、部下にもできる限り恨みを無くすように伝えておこう」


 随分と人間ができた人だ。大国の総帥ともなればこんなにも立派になれるのか。俺も器が大きくならないとダメだな。


「礼を言っておこう。んじゃお堅い話はここまでにして、これからのことでも話し合おうじゃないか」


「これからのこと?」


「もちろん賠償の話だよ。そもそもこの戦争は魔の森争奪戦だろ? 魔の森は俺たちのものってことでいいんだよな?」


「それはもちろんだ」


「それと合わせて王金貨650枚って話は聞いているよな?」


「あ、あぁ、そうだな……それについては少し待ってくれぬか? 私が1度国に戻って陛下に報告してから、金貨を届けよう」


 む、少しだけ目が泳いだような気がした。

 こいつまさか……


(ねぇクリシュ、こいつさもしかして……)


(俺と同じことを考えてたみたいだな)


(そりゃあねぇ、ここまであからさまだと気付いてくれって言ってようなもんじゃない?)


(どういう手を使ってくると思う?)


(輸送中に盗賊に襲われたフリをする。で、ここはそっちの領地なんだから、もうそっちのものだって言い張るとかかしら)


(それはありそうだな、他にはあるか?)


(そうねぇ、恐らく私たちは王金貨を見たことないと思ってるだろうから、テキトーに金貨を見繕って王金貨だと言い張るとか? こっちにはイリスがいるから関係ないけど)


(それは難しいだろうな)


(あとはーー)


 一通り零華と意見を交換して会話を終了する。総帥殿との会話の途中で黙り込んでしまったが、イリスが気をそらしてくれていたようだ。


「俺たちの領地に届けるって話だが、それは却下だ」


「ど、どういうことですかな?」


「実は俺はある条約をビルデン王国と結びたくてね、その条約を結んだ時点で君たちはフリーデンの領地に足を踏み入れることはできなくなるんだ」


「……なんですと?」


「不可侵条約ってやつだ。文字通りの意味でお互いに領地に入ることはできなくなる条約だ。だからこれを結んだ時点で君たちはフリーデンに足を運べなくなる。身分証を確認すれば1発で分かるからな」


「それは……なぜそのような条約を?」


「俺たちを恨んでるやつを領地に入れるってのか? 冗談じゃない。ビルデン王国には申し訳ないが、王金貨を受け取ったらその時点で君たちと関わるのをやめたいのさ」


 冷たい言い方かもしれないが、まさしく本音だ。


「それでは計画が……」


 小声で言っているが、バッチリ聞こえているぞ。やはり何か画策してたようだ。


「計画ね……どんな計画か知らないけど、まだ何か企んでいるのか?」


「……」


「まぁ、俺に言うわけないか」


「……」


 黙り込んで何か考えているようだが、さっきから百面相のように表情が変わって面白い。ビルデン王国じゃ最強の戦士だろうが、意外と何かを考えるのは苦手なようだ。


「今さらか……そうだな、もう正直に話してしまうか」


「ん? 俺に話すの?」


「うむ、クリシュ辺境伯はすでに気付かれているようだが、我々は魔の森を手に入れるために戦争を起こしたわけではなくーー」


「いや、ちょっと待て! 魔の森のためじゃないだと!? 王金貨の話じゃなくて!?」


「王金貨? それらクリシュ辺境伯が直接取りに来るということで話がまとまったことだろう?」


 じゃあ計画ってなんだ? 話してくれるって言うんだから聞いてれば喋ってくれると思うが何となく不安だ。


「我々の最大の目的はフリーデンを手に入れることだった。いや、フリーデンというよりもトイレなのだが……」


「……トイレ?」


「うむ、まさしくトイレだ。そちらに潜り込んでいた者にトイレの話を聞いてな。自動で流れ、民が無料で使え、全ての家に存在するトイレがある街フリーデン。絶対に手に入れねばならないと陛下は考えたわけだ」


「へ、へぇ、そうだったんだ……」


 すっごいしょうもない理由で戦争したな。死んでいった兵士も報われないぞ。


「クリシュ様、トイレの問題は深刻なのですわ。大きな都市ともなれば、病気の原因が糞尿だって話も多いですし」


「そのトイレを無料で使えるフリーデンは、その価値が異様に高いわけですね」


「その通りですわ」


「でもそんな理由で……」


「アリスは昔からクリシュと一緒にいたからトイレの価値をあんまり分かってないようだけど、そもそもトイレって貴族でも家についてる人は半分半分くらいなのよ? それを無料で民が使えるってとんでもないことなのよ。それにフリーデンのトイレは自動で流れるし、温水だし……」


「ごほん、続きをよろしいだろうか?」


「あ、すまん、話してくれ」


 すっかりトイレ談義に夢中になっていた女性たちは、すぐに静かになった。女性にとって温水便座はかなり価値があるものらしく、シーナやイリスが初めて使った時は興奮してパンツも履かずに飛び出して来たこともあった。すぐに零華が俺の頭を殴って記憶をなくさせようとしてきたから、全く見れなかったけど……


「つまり、ビルデン王国がフリーデンと不可侵条約を結んだら、トイレを手に入れる手段は無くなってしまうのだが、それをどうにかして避けたいわけだ」


「ふむ、なるほどな。君たちの事情も分かったが、こっちにも事情はあるし、ここでは決められないだろう」


「やはりそうだな、クリシュ辺境伯たちには1度我々の宰相と話してもらうしかないだろう」


「ここにいるのか?」


「いや、申し訳ないが落ち着いたらビルデン王国まで来てもらえないだろうか? いや、私が迎えに行こう。客人として君たちを案内するのに、知らない人間だと信用もないだろうからな」


「知ってる人間でも信用がない可能性もあるがな」


「そんなことは百も承知だが、この剣に誓っておこうか?」


 そう言って大きな、そして華美な装飾がついた剣を鞘から抜いた。


「いや結構だ。剣に誓う奴にはロクなやつがいないからな」


「ハハッ、ごもっともだ!」


 皮肉を言ったのだが、どうやらこの総帥殿には全く効かなかったらしい。


「じゃあ来るのを待っている。俺たちはあまりここに留まりたくないんでな」


 俺はそう言い残し荒野を去った。



 ーーー


「私は晴れてクリシュ君に敗北したわけだが、どうすればいい?」


「晴れての使い方が違うような気がするんだが」


 俺たちは城に戻り、それぞれの時間を過ごしてきたが、そういえばこいつのことを忘れていた。


「そうだなぁ、そういや今までどうやって過ごしてきたのか話してくれないか? 別大陸のことを聞きたいんだ。シーナの話も聞いたが、あいつのところはちょっと特殊だったしな」


 シーナは竜族が多く存在する大陸で育ったのだが、今はその話はいいだろう。


「ふむ、わかった。私はーー」


「少し失礼するぞ」


 俺の背後から声が聞こえ、そちらを振り向くと1人の男が立っていた。

 黒髪黒目で高校生くらいの男、察知できなかったのは驚いたが、それよりももっと驚くべきことがあった。


「誰だおま……ジバ? は? 破神の使者だと!?」


「ステータス確認が早いな、まぁこちらもわざわざ名乗らなくて済むのは助かる」


「俺たちは戦争してきた直後で疲れてるんだ。やり合うのは今度にしてくれないか?」


「だがクリシュ君、チャンスじゃないか? こっちには使者が3人……」


「おい、無闇に情報を話してやるなよ。本当に賢神の使者か?」


「失敬な!!」


「お、そっちは賢神の使者か。仲良くやってるようで何よりだ」


「お前は剣神の使者を連れてきてないようだな、仲悪いのか?」


「別に今日は必要ないから連れてきてないだけだ」


 話しながらステータスを確認する。破神の使者とはできれば会いたくなかったが、会ってしまったのなら仕方がない。どうやってこの場を切り抜けるか考えないとな。


「魔神の使者……いや、クリシュ。俺は今日戦いに来たわけじゃないから、そう警戒しなくてもいい」


「信用できない」


「そりゃそうだよな。まぁいいや、そのまま聞け」


 そう言ってジバは俺たちを真剣な目で見つめると


「魔神を信じるな」


 そう言い放った。

3章からは2日に1回の投稿が多くなると思います……

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