魔の森争奪戦8
sideシーナ
「君はまさかシリスティーナかい?」
私が相手をしていた強い兵士や冒険者は、あの白い光を見て、さっさと撤退していってしまった。そのため1度戻ろうとこっちまで来たのだが、半端ではない量の火の矢を見て、こちらも何か起こっているのではないかと思っていたが、まさかこいつがいるとは……
『貴様、なぜここにいる?』
「君が私の前から居なくなってしまったのでね、追いかけてきたんだ」
『それはご苦労であったな。もう帰ってくれ』
「あぁ、帰ろうじゃないか。さぁ行こうシリスティーナ」
『もちろん私は残るぞ』
「何を言ってるんだい? 結婚を誓い合った仲じゃないか」
「あら、そうだったの?」
『れ、零華殿! そんなわけないだろう!?』
「あらごめんなさいね」
『まったく、冗談でもよしてくれ。寒気がするだろう……』
こいつと結婚なんて死んでもごめんだ。
「なぜだいクリスティーナ。まさかクリシュ=レンメールと……?」
『そ、それも違うぞ! 私は竜だ! け、けけ結婚なんて! 考えられるわけ……』
「今は竜族だろう? お互い寿命は長い身だ。長い時間を共に居られる私の方が、クリシュ=レンメールより良いとは思わないのかい?」
『貴様と話すこと自体が苦痛なのに、長く共に過ごすのは拷問でしかないな』
「ということらしいわよ。分かったらさっさと帰ってくれないかしら?」
零華殿は何故かこいつを帰らせようとしているな。クリシュ殿を始め、ここにはSSSランクの強者が集まっているのだから、殺せばいいのに……
それにしてもクリシュ殿はさっきから俯いているだけだな。どこか具合でも悪いのだろうか? まさかさっきの光にやられて……?
『零華殿、クリシュ殿はいかがなされた?』
「私も気になるね。使者が目の前にいて怖じけずいてしまったのかい?」
そうだとしたら、私と零華殿、アリス殿で戦うのか。負けるとは思えないがそれなりに大変だろうな。
レベルで言えば私とイリス殿の中間だが、厄介なスキルが多いし、こいつは頭が回る。
「あーもう! クリシュのことは放っておきなさい! シーナも気にしないでちょうだい! 今はこいつをどうにかして倒すことだけを考えて!」
『う、うむ、分かった』
「私を倒す、か。シリスティーナが加わった君たちを倒すのは相当に骨が折れる。私1人で戦うのは遠慮しておこう」
「あら、じゃあ帰ってくれるのかしら?」
「あぁ、今日のところは帰ろうじゃないか。クリシュ=レンメールを殺してからな」
その時、とてつもない殺気が放たれた。
賢神の使者スーリからではなく、アリスからだが。
「これはこれは、恐ろしいものだな。まさか私が身震いをするとは」
私に向けられた殺気ではないのに、冷や汗が止まらないのだ。殺気を向けられたスーリはとてつもないプレッシャーがかかっているだろう。
だが奴は怒らせてはいけない者を怒らせたのだ。自業自得だな。
「クリシュ様を殺すのですか……」
ボソッと呟いたその言葉だけで縮み上がってしまう。
「やれると思っているのですか?」
「当たり前だろう? 私は使者なのだぞ? 君はただのSSSランクの一般人だ。ユニークスキルを持っていて、スキルの数が多くても一般人なのは変わらない。君が私に勝てる道理などないのだよ? そしてスキルを見る限り、私はクリシュ=レンメールが魔神の使者ではないかと予想している。剣神の使者か少し迷ったがね。だが剣神の使者はもう既に敗退しているから、クリシュ=レンメールは魔神の使者だろう? 魔神の使者であるなら恐れる心配はないはずだ」
「私には勝てるのですか、そうですか。では戦いましょうか」
そう言ってアリス殿は手に持っていた短剣をスーリに投げつけた。
いくら短剣スキルのレベルが高くても、地上から上空へ投げた短剣が、自由に飛び回れる者に当たるわけがない。
「そんなもの当たると思っているのかい?」
もちろんスーリは簡単に避けた。だが避けた先には、いつの間にか上空に飛び上がっていたアリス殿が待ち構えていた。
「当てるつもりなどなかったですから……ねっ!!」
「くっ!」
アリス殿が短剣を突き出し、スーリの脇を掠めた。いつものアリス殿は百発百中で急所を突けていたはずだが、相手もやはり使者ということだけあって、中々簡単にはやらせてもらえないようだ。
アリス殿は落下しながらも、どこから取り出したのか、無数の短剣を投げつけている。それはもう回避する余裕がないほどで地面から降る雨のようだった。
「調子に乗らないでもらいたいね!」
スーリはその短剣を全て叩き落とした。奴は風魔法が異常に強いので、短剣をはたき落とすのは奴にとって簡単なことだろう。
空に浮かぶスーリはアリス殿にとって、相性は最悪とも言える。風魔法が異常に発展していて、なおかつ奴は弓の使い手なわけだから遠距離の攻撃手段が限られているアリス殿に、勝ち目はほぼない。
それでもアリス殿は諦めないだろう。クリシュ殿を殺そうとしている輩をアリス殿が放っておかないということは、この1年間共に過ごしてきた私には考えるまでもなく分かることだ。だとしたら私にやれることをやるしかないだろう。
『零華殿、私もアリス殿に加勢をする。零華殿はどうにかしてクリシュ殿を戦線復帰させてもらいたい』
「はぁ!? 私があいつを? バカ言わないでちょうだい! やるならアンタがやりなさい!」
ふむ、何があったか分からないが、零華殿は相当おかんむりのようだ。
『私よりも長い時を過ごし、相棒である零華殿の方が適役ではないか? それに私の方が奴とは相性が良いはずだ。お互い使者であり、レベルもステータスも奴より上である私が奴と戦ってるうちにクリシュ殿に復活してもらいたい。クリシュ殿さえ復活すれば私たちは奴を殺せるはずだ』
「それはそうだけど……でも私は……」
まったく、いつもの零華殿ならすぐに行動を起こすはずなのに、クリシュ殿はどれだけ怒らせたのだ。やりたくはないがこの手段を取るしかないな。
『零華殿はクリシュ殿を信用していないのか? 彼なら勝てると私は思っていたが、貴殿は違うようだな』
「私がクリシュを信用してないですって?」
うぐっ、アリス殿もそうだが、この2人はクリシュ殿のことになるとすぐに殺気を出すのはやめてほしい。元竜王の私でもキツイのだ……
『そうであろう? 今クリシュ殿を復活させれば勝てるはずの戦いを、復活もさせないで逃げようとしているのだからな』
「あんた、いい加減にしなさい? 私を怒らせる気なの?」
『怒る暇があるならさっさと説得してほしいものだ』
「分かったわ、説得はしてみる。けどアンタ覚えておきなさい」
殺気が一段と強くなり、零華殿はクリシュ殿に向かって走っていった。
今日死ぬのはスーリか、私か、できれば私は生きていたいな。
こうなったのもクリシュ殿のせいだ。後で恨み言をひたすら言ってやろう。
『さてと、私は私の戦いを始めようか』
相手は使者だ。全力で挑まなければすぐに負けるだろう強敵。油断してはならない。
私は気を引き締めてアリス殿の加勢に向かった。




