魔の森争奪戦7
side零華
ドゴォォォォンという轟音と共に視界が真っ白になった。私は慌てて目を閉じて視力が回復するまで待っていたが、しばらくすると立ってるのもやっとの爆風が身に降りかかり、土魔法で壁を作り出してアリスと身を潜めた。
「な、何が起こったのでしょう?」
「分からないわ……爆風が収まるまではこの壁から出ないで」
「シーナさんは大丈夫でしょうか?」
「……」
アリスにそう言われると嫌な予感がしてしまう。シーナは竜の姿になればステータスが異常に上昇するから、恐らく無事だろう。でもイリスや相棒はあの白い光の付近にいたのではないだろうか……そう考えてしまう自分がいて、最年長者としてしっかりしなきゃいけないのに、その責務から逃げたくなってしまう。
相棒が関わるといつもこうだ。自分が最年長者、魔王、SSSランクということを忘れて年頃の少女のように相棒の心配ばかりしてしまう。
「収まってきましたね」
「そうね……まずは何があったか確認しましょう」
早く無事を確認しないと。居ても立っても居られなくなり駆け出そうとすると、不意に肩を誰かに掴まれる。
油断したーーそう思って振り返ると、そこにはいつもより暗い顔をした相棒の顔があった。
「よかった! クリシュ様無事だったんですね!」
「あぁ、心配かけてすまない」
無事でよかったわ。そう声を掛けようと思った。いつも通りぶっきらぼうに、愛想もなく、さも興味なさそうに……けど、なんで無事なのにそんな顔をしているの?
「クリシュ、何があったの?」
当たり障りのない言葉をかけた。もしかしてイリスやシーナがあの光に巻き込まれたかもしれない……
「クリシュ様! シーナさんやイリスさんは無事なんですか!?」
「あの2人は無傷のはずだ。そうなるように調整したからな」
「調整? どういうことですか?」
相棒はその顔に一層陰を落とした。
「あの爆発は……俺がやったんだ」
「やっぱりそうだったのね」
それは大体予想できた。じゃあその顔は何なの?
「やるじゃない。あれのおかげで一般兵はもうほぼ全滅に近いんじゃないかしら? 結局あんまり戦ったって感じはしなかったわね」
「全滅か……そうだな、あと残ってるのは元々の1割にも満たない連中だ。あと少しで終わるんだな」
「クリシュ様、どこかお体の調子が悪いのですか? すごい汗ですが……」
アリスが相棒の汗を拭こうと手を伸ばす。
「っっ! 触るな!」
相棒が咄嗟にアリスの手をはたき落とした。やっぱりおかしい。いつもはアリスに触られそうになると、照れながら逃げようとするのに。こんな風にアリスを邪険に扱うことなんてないんだから。
「クリシュ様……」
ほら、これはアリスが泣くわね。
「ちょっとクリシュ、その扱いはアリスに失礼だと思わないの?」
「ハッ! すまないアリス!! 君にこんなことするつもりじゃ……」
「しっかりしなさいよ!! さっきからアンタおかしいわよ!?」
私は相棒の胸ぐら掴んで詰め寄った。おかしい、今日の相棒は何か変だ。いつもは、1つも2つも先を読んで行動しては、私たちを驚かせる結果を見せる相棒。優しい笑みを浮かべていて、辛そうな顔なんて1度もしたことがない相棒。今日はそのどちらも真逆だった。
「何か悩みがあるわけ? 私たちにも相談できないことなの?」
「……今は戦争中なんだ。俺のことを心配してないで自分達のやるべきことをーー」
「アンタがそんな調子じゃ、こっちにも迷惑が掛かるのよ! アリスなんてアンタを心配してて戦争なんてやってられないじゃない!」
アリスは相棒に手を払われてからずっと涙を浮かべてる。彼女にはクリシュしかいないのに、拒絶されてしまったのだから当たり前よね。
「俺は大丈夫だ。現にさっきの爆発だって、シーナやイリスにも被害が及ばないようにしていた」
「そういうことを言ってるんじゃないわよ! いいからアンタが不調な訳を話しなさい!」
だんだんイライラしてきた。こいつはヘタレでウジウジするとこがあるから、普段から少しずつ口が悪くなってきちゃうのよね。
「……ほんとに何でもないんだ」
「あっそ、じゃあもうアンタは戦わなくていいわ。これだけ兵士の数を減らしてくれれば十分よ。後は私たちがやるわ」
「なっ!? それはダメだ!」
「黙りなさい。アンタに命令されてアリスが命を落とすなんて許さないわ。今からは私が指揮を執る。アンタはそこで見てなさい」
イライラの限界だった。こいつが何を悩んでいるのかなんて知らない。けどそれを私たちに相談しないことが嫌だった。相棒として認めてもらえてない気がしたから……
「アリス、私たちは兵士の数を減らすことだけを考えるわよ。強い奴はシーナとイリスが担当してくれてるハズだから」
「ひっぐ、うぐ、はい、わがりばした」
まったく、女の子を泣かすなんて……どんな理由であれ、泣かした時点で男が悪いのよ。
「さぁ、やるわよ!」
「少し待ってもらえるかい?」
上空から声が聞こえた。フライの魔法を使ってるのだろう、エルフの男が私たちを見下ろしてた。
「待ってもらいたいんだったら下まで降りてきなさい。私たちを見下してるように見えるわ。お願いをしたい人の立場ではないわね」
オーラは灰色。黒でもあるし、白でもある男。珍しいタイプね。
「これは失礼。実はね、ビルデン王国の総帥から言伝を預かっているのさ」
ビルデンの使者ってわけね。私とアリスは警戒を一気に引き締めた。クリシュはーーダメね。目が虚だわ。
「ふぅん。じゃあさっさと伝えて消えてちょうだい」
「ふっ、中々嫌われたものだな。まぁ簡単なことだよ。ビルデン王国は魔の森を諦めるとのことだ」
「つまりは敗北宣言ってことでいいわけね?」
「そういうことだね」
「了解したわ。じゃあ総帥にこっちに来るように伝えて。それでアンタは消えてちょうだい」
「総帥からの言伝は以上だが、私たちの用事は他にある。クリシュ=レンメール。君はどの神の使者なのかな?」
エルフの男はクリシュを見つめてそう言った。ビルデン王国の使者じゃなくて、神の使者だったってことね。
そして男がクリシュに視線を向けた瞬間、アリスが一気に飛び出した。
「ま、待ちなさい!」
「神の使者は殺します!!」
「ふっ、神の使者を殺すということなら、何故シリスティーナは殺してないんだい?」
男はアリスの短剣を避け、上空に飛び上がる。シリスティーナって言ったってことはもしかしてこの男は……
「アンタ、賢神の使者ね」
「ほぅ、正解だ。もしかしてシリスティーナが私のことを話したのかい?」
「えぇ、とんでもないど変態だって言ってたわ」
「それは心外だ。私は彼女に恋をしてしまっただけのことだ」
「それでここまで追いかけてきたのね? ストーカーじゃない」
「純粋な愛さ。彼女を想う気持ちがどうも抑えられなくてね。多くの女性を抱いてきたが、彼女ほどの魅力は誰にも感じなかったよ……よく見たら君たちも中々に美しい。どうだい? クリシュ=レンメールなんて放っておいて私のモノにならないか?」
「吐き気がするわ。少し黙ってちょうだい」
私は出来る限りの魔力を込めて火魔法を放つ。魔王の時は火魔法しか使えなかったから全属性を使える今でも、どうしてもの時は火魔法を使ってしまう癖がついている。
「『火の矢』!!!」
男を中心に数百の火の矢を構築し、一斉に男をめがけて飛ばす。
「これは火の矢の威力じゃないし、数も凄まじいね」
火の矢と男の衝突により、煙が辺り一面を包み込んだが、その煙の中から男の声が聞こえる。ちっ、仕留められなかったか。
「流石SSSランクだ。けどね、使者のSSSランクと一般人のSSSランクじゃステータスが全然違うのだよ。そのHPを見る限り、君を一般人としていいのかは疑問だがね」
「使者ではないけど、一般人とも言えないわ」
「ほぉ、まぁいい。私はクリシュ=レンメールを殺せればそれで」
男は手のひらを相棒に向けた。相棒の側にはアリスがいるが、使者の一撃を防げるかどうかは分からない。
「やめなさい!」
「そんな言葉で私が止まると思ってるのかね? 止めて欲しかったらシリスティーナを差し出すんだな」
『これは一体どういうことだ?』
男のさらに上空からくぐもった声が聞こえる。はぁ……最悪の展開ね。なんでこのタイミングで帰って来るのよ。
空気の読めないドラゴンめ。




