魔の森争奪戦4
第1部隊〜第5部隊が迷宮や魔の森に行ってる間、第6部隊〜第10部隊には街周辺の警備を強化してもらっていた。
街に入る際には身分証をしっかり確認し、商人の荷台の中身さえも確認するように指示してある。他国のスパイが来る可能性は捨てきれないからだ。
スパイがその程度のことで諦めるとは思えないけど、城壁を超えるのは風魔法を使わないと無理だし、城壁の上は軍隊の人が居るので登ったところでバレるから、門を通る以外選択肢はない。
既に街にスパイが入り込んでいることも考え、俺は街中にある仕掛けをしつつ、積極的に住民と話すようにしながら見回りをしていた。
この仕掛けを使うのは最終手段だ。できれば使いたくないが、俺たちが向こうに敗北し、軍隊が街中に攻め入った際には領民を守るために使おうと考えている。
「あ、くりしゅさまだー!」
「くりしゅさまー! あそぼー!」
「こら! クリシュ様は忙しいのよ、遊んでる時間なんてないの!」
「いや、今日は領民の話を聞きたくて街を散策してたんだ。少しぐらいなら遊べるよ」
俺に話しかけてきたのは元々村に住んでいた家族だ。この兄妹とはたまに遊ぶので顔はよく覚えていた。
「この街に何か不満はないかい?」
「ご飯が毎日食べれてうれしー!」
「お風呂も毎日入れてうれしー!」
「こら! 嬉しいです。でしょ!」
「構わないよ。お母さんはどうだ?」
ガーラが元住民への説明で俺のことを畏怖の対象としたからか、元住民は俺と話すことに少しだけ萎縮してしまっている節がある。
「不満ですか……強いて言うなら、冒険者のことですかね」
「冒険者か……一応冒険者ギルドや宿屋は住宅街とは離れた所に作ったつもりだったんだが、こっちに来るような奴がいるのか?」
「いえ、風の噂で聞いていることなのですが、クリシュ様の存在を疑っている人たちがいるそうなんですよ。一晩でこんな街を作れるはずがない。だとか、SSSランクなどありえない。だとか言ってるらしいのです。この街に住む人たちは何を言ってるのか意味がわからないので、無視しているのですが、この街に来たばかりの人たちの中には信じてしまう人もいるようなので、住民のみんなでその冒険者たちを殺ってしまおうかと考えています」
「うんうん、なるほーーって! 殺ってしまうって! そんな物騒なこと駄目だぞ!」
途中までは、そんな奴がいるのかー悪影響だし、追い出しちゃおうかなーって思ってたのに、まさかそんなことになっていたなんて……
「ですが! 許せないんです! そんな人たちがいることが……クリシュ様はこの地に来て私たちを救ってくれた、紛れもない英雄なのです! クリシュ様が存在しないなんて言っている人たちを黙って見てることはできません!」
「この街を発展はさせたけど、救った覚えなんかないぞ?」
「いいえ、クリシュ様は確かに私たちを救ってくださっています。どんな部分で問われるとキリがないほどあります。例えば、子育て支援です。10歳までの子供がいる家庭には税金が免除な上に寄付金が貰えるなんて、早くに夫を亡くしてしまった私としてはとてもありがたいことなんです。子育てしながら仕事をするのは大変ですし……その仕事もクリシュ様が公共事業としてくださっている、ごみ収集ですし、子供たちと一緒にできるので安心して仕事できていますからね、毎日ご飯を食べられるのは本当にクリシュ様のおかげなんです」
そうか、元住民は飢えに苦しみながら生活してたようなものだし、普通に生活できるようになっただけでも、感謝するレベルなんだな……人に喜んでもらえるような仕事をするのは、こっちも嬉しくなるな。
「まったく、こんなもんで感謝してもらっては困る。俺の本質は冒険者だからな、街を襲った魔物を退治したー! とかで感謝してもらいたいものだ」
「あらあら、うふふ、クリシュ様が築いて下さった城壁のせいで魔物は攻めて来れなくて困っておりますのに、そんな無茶は魔物でも難しいのでは? しかも頑張って城壁を壊して、人々を襲ったらクリシュ様に退治されてしまうんですよね? 魔物が不憫に思えてきますね」
そう冗談を言いつつ彼女は笑顔で俺と話している。最初、俺を恐れていた彼女はもういないな。
「じゃあ俺はこの辺で。他の人たちにも意見を聞きたいからもう行くよ」
「えー、遊ぼうよ!」
「あ、ごめん話し込んでて遊ぶ余裕がなかったね。また遊びに来るよ」
「絶対きてね! くりしゅさま!」
「おう! じゃあまたなー」
子供達に手を大きく振って別れた。
あの笑顔を守るためにも頑張らないとな!
「皆さま、足元がぬかるんでいますのでお気を付けください」
イリスが慎重に暗闇を進みながらみんなに声をかける。暗闇と言っても俺がシャインニングボールを出してるから、そこまで暗くはないが、足元がぬかるんでいるなら、より慎重に歩まなければならないだろう。
俺たちは今、レンメール村周辺の迷宮に来ていた。ーーそうSランク以上の魔物しか出てこない恐怖の迷宮だ。
この迷宮は全部で100階層以上ある(俺の感覚だが……)と思われる。Sランク〜SSSランクまでランダムに魔物が徘徊していて、俺たちはここでひたすらレベリングをしているのだ。
「ん、そこの十字路を右に曲がると魔物がいる」
「オークキングの亜種のようだな、SSランクの魔物だ」
「承知しましたわ。私1人で挑戦してもよろしいですか?」
「SSランクかぁ、アリスのサポート付きならいいぞ」
「それは1人での挑戦とは言いませんわ!」
「イリスの身に何かあったら困る」
「危険だと思ったら助けてくださいな。私は本格的に魔物を狩るようになったのは、1年前なのですから、戦闘経験が皆さまと比べると、どうしても足りないのですわ。戦争の際に戦闘経験が大事になることもあると思うので、ここでいっぱい経験値を稼ぎたいんですの」
「むむむ、そう言われると困るな……」
「ねぇ、やらせてあげればいいじゃない。危険になったらアンタがどうにでもできるでしょ?」
「そうですよ、シーナさんは自分で付与魔法を掛けられますし、信じてあげてください」
「クリシュ殿、信頼は大切なことだと私も思うぞ?」
「う、分かった分かった! ただし! 危険だと思ったらすぐに助けるからな! 相手はSSランクなんだから、油断は禁物だぞ!」
「ありがとうございますわ、油断などするつもりはありません」
ニヤっと笑うイリスに、何となく騙されてるというか、してやられた感は半端ないのだが、あえて流しておこう。
俺たちはこのぬかるんだ道を少し進み、十字路を右折した。そこには普段は青がくすんだような皮膚の色をしているオークが、一回り大きくなり、赤黒く変色して立っていた。オークキングの亜種だ。
右手には棍棒ではなく、ミスリルだと思われる剣を持っている、左手には盾だ。冒険者なんてそうそう来ない迷宮なのに、どこから持ってきたんだろう?
迷宮というのは本当に謎が多い。
「では、いってきます……わ!!」
そう言いながらイリスは地面を思い切り蹴飛ばし、一瞬でオークキングの前に移動した。体を薄く赤い膜が覆っているのは、直前で無詠唱の付与魔法をかけたのだろう。
「はぁぁ!!」
イリスはその体つきからは考えられない威力の右ストレートをオークキングに放つ。
が、しかしーー
ガキンッ!
ミスリルの盾に阻まれてイリスの攻撃は届かない。イリスが攻撃を弾かれ、少し硬直している間にオークキングは剣を振り下ろす。
「ハッ!」
イリスはバク転しながら足を振り上げ、剣を弾いた。そして着地した瞬間にオークキングに迫ると、今度は足を狙って攻撃を繰り出す。
今度はちゃんと攻撃が通り、スネを殴られたオークキングは少しだけ後ずさる。そこを逃すイリスではなく、一瞬で間合いを詰めると盾で塞がれようが何されようがとにかく殴りまくった。
パリンッ!
盾が砕け、剣が砕けていく。イリスの拳は分厚い肉の壁さえ砕きながらオークキングの体を貫いた。そして、肉に埋まった手を抜くとオークキングが糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。
イリスの手の中にはSSランクの証拠である、大きめな魔石が握られている。
魔物は魔石が無くなったら生きていられない為、魔石を取れればどんな魔物でも倒せるのだ。
「やりましたわ! 私1人でも勝てました!」
オークの返り血を浴びて、美しい要素など1つもないはずの顔が、パァっと笑顔になり、なぜかとても美しく感じた。
「おめでとう、これはSSSランクもそう遠くないかな?」
「まだですわ! SSSランクの魔物を倒してからが勝負ですわ! 早くSSSランクになってクリシュ様を守れるようにならないと!」
「そうか……ありがとう」
「お礼はまだ早いですわ! さぁ、行きましょう」
「「「おぉーー!」」」
彼女たちの笑顔が俺に元気をくれる。その笑顔を守るためにも、強くならないとーー
そう心に決めて、俺たちは迷宮を攻略していくのであった。
そろそろ争奪戦します……




