神との出会い3
「一旦区切りましょうか」
そう言って彼女は席を立ち、キッチン? みたいなところから香りの良い紅茶とクッキーを持ってきた。
―そう言えば彼女はここが自分の部屋だって言っていたなぁ……
自分の好きな女性の部屋に座っているというこの状況を急に意識してしまって、龍弥は焦り始めた。
龍弥の女性経験はゼロだ。女友達や妹などはいたが女友達の家に行ったこともないし、恋もしたことがない。この部屋に座っているという状況で理性の抑え方を知りたかった。
「この紅茶は私のお気に入りなんですよー。 で、このクッキーは私の手作りなのでお口に合うか分からないですが、食べてもらえると嬉しいです! 」
―彼女はわざとやっているのか…?
好きな女性の部屋に座り。好きな女性が焼いたクッキーを食べ。好きな女性が目の前で微笑んでいる。この状況は天国であり、地獄だった。自分は理性を抑えつつクッキーの味を堪能し感想を言わねばならないのだ。
そう思いながらクッキーを口に運ぶと、信じられない現象が起こった。
クッキーを食べただけで自分から青白い光が発生したのだ。
この現象に龍弥がぽかーんとしていると
「あ、このクッキーは自作のポーションが入っていてですね! 龍弥さんは死んでしまっているので、少しでも元気になればなーと思い作ったんです! お口に合いませんか…?」
龍弥はこの彼女の気遣い、そして優しさ、笑顔に涙を堪えることができなかった。
今まで修行の日々で人の優しさにあまりにも触れてこなかった龍弥は初めて彼女の優しさに触れ、ひとしきり涙を流し終えてから感想を言うべく口を開いた。
「ありがとう……ほんとに……おいしいよ…君のクッキーは……今までのどのクッキーよりも暖かくて……優しい味だ…」
龍弥にはこの言葉をひねり出すのが限界だった。
「本当ですか! 良かったです! この紅茶は気分を落ち着かせる作用もあるので、今はゆっくりとクッキーと紅茶で休んで下さいね」
龍弥は彼女の優しさに甘え、クッキーと紅茶で元気を取り戻しながら1時間ほどして先ほどの説明で少しだけ疑問に思ったことを聞いてみた。
「少しだけ気になったことあるんだけどさ、リリーってこんなにも優しくて、戦争っていう言葉の要素ゼロなんだけど、そのリリーでさえ他の神々と争っていたのか?」
そう、彼女の笑顔から戦争という2文字はどうしても考えられなかった。しかしそう龍弥が言った瞬間、彼女から笑顔が消え、寂しそうな表情を見せた。
「私はですね……ラビリスが大好きなんです。そのラビリスを舞台にして他の6人が争いを始めました。私は止めなければならない立場なのに、1対6じゃどうやっても勝てない……だから代理人のシステムを作りだしました。」
彼女が代理人のシステムを作りだしたという話は少し驚いたが納得はできた。
神々が争うよりも加護を持った一般人が争った方が、どう考えても被害は小さい。
しかも争うと言っても貢献ポイントで、だ。
このシステムは優しい彼女だからこそ考えつくことができたのだろう。
「いや、リリーはやっぱり優しいなって思うよ。この願いを1つ叶えるってのも、ロマンチックなリリーにピッタリだと思う」
「……私が巻き込んだのにそう言ってくれるなんて、龍弥さんこそ優しいと思います…… そう言えば龍弥さんの願いはどんなことにしようと考えていますか? 一応その願いが私たちに叶えられることか検証しないといけないので教えてほしいです!」
龍弥の願いなんて1つしかなかった。
「最初の方に言ったと思うけどな……俺の願いは君を奥さんにすること。それだけだよ」
「えぇっ!? あれ本気だったんですか!? ま、まぁその願いは私が了承して神の立場降りるだけなので勝利すれば絶対叶えられますけど……」
―再び大勝利である。
「でもいいですか龍弥さんっ! 私は龍弥さんの幸せを願いたいんですっ!だから考えたくもないですけどあなたが死んでしまったら幸せを逃してしまうことになります。だから私を奥さんにしてくれる前に他の奥さんもつくって下さいっ!これが私の提示する条件ですね」
「え、でもそれって浮気しろってこと? 俺リリー以外と結婚する気ないよ?」
「いえ、あの世界は一夫多妻、一妻多夫は当たり前の世界なので他の人と結婚していても大丈夫ですよ。ただ私は奥さん以外に手を出す人は嫌です。だから龍弥さんが奥さんを大事にしてるかどうか見たいっていうのが本音ですね……ごめんなさい試すようなことして……」
「いや、いいんだ。当たり前の権利だし、俺もリリーに気概があるとこ見せたいしな。けど、リリーは絶対に正妻だよ?」
「私より素敵な人がいるかもしれないですし、あなたは転生するんです。30年間の中で出会いがいくつもあります。だからそう決めつけるのはまだやめた方がいいです。私は嬉しいですけどね! 」
「まぁ、正妻云々は置いておくか、ここであーだこーだ言ったって戦争に勝たなきゃ変わんないし、《俺、この戦争が終わったらプロポーズするんだ!》って感じのワードは絶対に言っちゃいけない死亡フラグだからな」
龍弥は趣味として修行していない時間は少しだけRPGをしたり、ラノベを読んだりしていた。なので剣と魔法のファンタジー世界というのに胸躍らせているし、死亡フラグ系は立てないように気を遣わなければならないと心に誓っていた。
「とりあえず、戦争の趣旨は分かったから次はラビリスという世界について教えてくれないか?」
「そうですね、ではラビリスについて語りましょうか。あなたが生きることになる剣と魔法のファンタジー世界について」