魔の森争奪戦3
「クリシュ様おはようございます」
「おはようアリス」
「今日のご予定はいかがなさいますか?」
「軍のみんなに戦争のことを伝えて、午前中は迷宮に潜ってレベリング、午後は争奪戦に役立ちそうな魔道具の作製かな」
「転移魔法を使えるようになれる魔道具があれば楽なのですが……」
「なぜか無理なんだよな、空間拡張が付与できるから転移魔法もいけると思ったんだけどな」
「スキルレベルが足りないのでしょうか?」
「でもいくら加工しても、一向に上がる気配がないぞ?」
「ユニークスキルですし、中々上がらないのかもしれませんよ?」
「うーん、リリーに聞いてもいいけど傍受されたら俺のスキルバレちゃうしなぁ……」
「シーナさんに聞いてみたらどうですか?」
「そうだな、彼女なら何か知ってるかもしれないな。超身体強化のスキルレベルは上がってるし」
ユニークスキルのレベル上げ方法はできる限り知っておきたいからな。
俺とアリスは朝食を終えてからシーナの部屋に向かった。
この城に住んでいるパーティメンバーは食事を全員で取ることが多いが、朝だけは結構バラバラに取る。(俺とアリス以外)
理由は乙女の秘密らしいが、女性の朝は忙しいらしいので、そこにつっこむのは藪蛇だろう。
アリスだけはいつどこで見ても完璧な美少女だけどな。
いや、美少女って観点ならみんな美少女なのだが、アリスは身だしなみが完璧なんだよな。戦闘中に至っても服は一切汚れないし、髪も乱れないという完璧ぶりだ。
なんてくだらないことを考えていると、すぐにシーナの部屋に辿り着いた。この時間なら既に朝食が終わり、迷宮に向かう準備をしているはずだ。
「シーナ、クリシュだ。入るぞー」
俺はこの時失念していた。この城には各部屋に鍵をつけてあるのだが、部屋に鍵をつける文化は普及してないらしくて、みんなあまり鍵をかけないのだ。寝てる最中でさえ鍵をかけない。そして、現在シーナは迷宮に向かう準備をしているはずで、着替えている最中かもしれないという考えが頭からすっぽり抜けていた。
ノックをすべきだったと思ったのはドアが完全に開いて、シーナの下着姿が見えてしまった後だった。
「ク、クリ、クリシュ殿!?」
「あ、いや、その、これは……」
「……ふぅ、落ち着くのだ私。クリシュ殿がこうやって下着姿の私を熱いまなざしで見つめているのだ。少し考えれば分かることではないか」
なんかいきなり仁王立ちになったんですけど!? 意味がわからないけど、そんな姿勢になっちゃったら、大きな双丘が!! とんでもない主張してますよ!! アリスの視線が痛すぎるから興奮してらんないけどね!
「クリシュ殿も男の子だものな。仕方のないことだ。私の身体で良ければじっくり堪能してくれ」
そんな慈愛に満ちた目をして……いいのかい? 昔はアリスと一緒に風呂に入ってたけど、最近の俺は女性の裸はもちろん、下着姿なんて見てないから……
「じとーーー」
ヤバっ!? アリスが!! アリスが般若さんになってるぅ!!
「ご、ごめん! 外で待ってるから! 着替えが終わったら声をかけてくれ!」
こういう時は一方的に謝って退散するのがベストだ。許してくれるとはともかくとして……でもシーナなら心良く許してくれそうな気もする。
「クリシュ様、シーナさんの部屋の前ですから今はしませんけど、後でお話があります。聞いてくださいますよね?」
「はい、すみません」
「まだ謝るのは早いです。謝罪しか口にできない身体にしてあげますので、楽しみにしててください」
「ひいいいいいい!! シーナぁぁ!! 助けてぇぇぇぇ!!」
「クリシュ殿! 何があったのだ!」
「下着姿で出てくんなぁぁぁぁ!!」
ーーフリーデンのお城は朝から賑やかでしたとさ。
「それで? 朝から何の用なのだ?」
シーナはいつもの戦闘服姿ーー白の軽鎧(うちのパーティメンバーはみんな白の軽鎧を付けている)ーーに着替えて、俺とアリスを部屋の中に招き入れた。
「うん、実は貢献ポイントで交換したユニークスキルについて聞きたいことがあってさ」
「ほうほう、たしかに私にしか相談できぬことだな。と言っても、私は貢献ポイントで交換したユニークスキルは『超身体強化』と『メニュースキル』しかないのだがな」
「うん、その『超身体強化』について聞きたいんだけど、どうやってスキルレベルを上げたんだ?」
「うん? 簡単だぞ? 同じものを交換すればレベルは上がるんだからな」
「そうなの!? めちゃくちゃ簡単だなそれは!」
「1回交換したユニークスキルは安くなるからな。『超身体強化』はユニークスキルでは安い方だし、代理戦争は敗退したが貢献ポイント自体は貯まるからずっと交換し続けたんだ」
「ん? 俺の『魔石加工』は高くなってるぞ?」
「そうなのか? そもそも私の交換カタログには『魔石加工』なんてユニークスキル記載されていないから、『超身体強化』だけが安くなるのかもしれないな」
「シーナのには『魔石加工』がない? みんな一緒のカタログなんじゃないのか?」
「龍神が言うには、使者はそれぞれ違うユニークスキルが選べるらしい。最初の説明で魔神は言ってなかったのか?」
「言ってなかった……ど忘れしたのかな?」
「リリー様がそのようなミスをするとは思えませんが……」
「うーん、まぁ次に連絡を取る時にでも聞いてみるしかないな。シーナは他にどんなユニークスキルが交換できるんだ?」
「竜に関連するスキルが多いな。破格のポイントが必要だが、『神滅魔法』なんてものもあるぞ」
「『神滅魔法』なら俺もあるな。多分魔法関連なら俺も交換できるんだろう。『古代魔法』もあるしな」
「なっ!? それを交換するのはダメだ!」
「うん? なんで?」
「私の個性が消えてしまうだろ!!」
「いや、シーナは『竜魔法』もあるんだからいいじゃないか」
『古代魔法』は結構便利なスキルだから是非欲しいんだよな。『神滅魔法』のがすごそうだから迷いどころだけど。
「くっ、それはそうなのだが……そうだ! クリシュ殿は『超身体強化』を交換するといい! そもそものステータスが高いのだから、スキルを使った時にすごいことになるぞ!」
「えー、まぁ今回の争奪戦で勝ったら結構な貢献ポイントになるだろうし、それもやぶさかではないけど……」
「交換すべきだ! 遊撃のクリシュ殿ならそのスキルをかなり活かせるだろう!」
なんでシーナはこんなに必死になってるんだ?
「シーナさん……個性を守るためにそんなに必死になって……」
なんでアリスは涙ぐんでるんだ?
訳がわからん。
「分かった分かった。俺は『魔石加工』をレベルⅩにするまでは他に貢献ポイントを使わないから安心してくれ」
「ほんとだな!? 私はクリシュ殿を信じるぞ!」
うわっ、涙と鼻水が! さっき着替えたばっかなのにもう1回着替えなきゃいけないな……
「これはこれはクリシュ様、第1部隊に何か御用でしょうか?」
涙と鼻水まみれの服を着替えた俺は、アリスと共に第1部隊の兵舎に来ていた。
ここ第1部隊の隊長はローレンスさんだ。隊長のみんなは軒並みBランクになってもらってるが、ローレンスさんに関してはAランクだ。本来なら爵位を貰えるのだが、ローレンスさんはこのフリーデンを気に入っていて、隊長を辞める気はないそうだ。
「うん、実はねーー」
俺はローレンスさんに、魔の森争奪戦の話をした。
「うーむ、クリシュ様、5人で1国の軍とやり合うのはいささか賛成できませんなぁ」
「これは俺のワガママなんだ。見逃してくれないかな? ほら! 軍を動かしちゃったらみんなにボーナスとか払わなくちゃいけないだろ?」
「いえ、そのための軍なのですからボーナスなど不要です。なぁみんな!」
「「「おぉーー!!」」」
第1部隊は元気だなぁ。
「そんなわけにもいかないさ、俺としては戦争するために軍を作ったわけじゃないからな。とにかく! みんなは迷宮に向かってくれ。戦ってもらうつもりはないけど、準備は怠りたくはないからな」
「英雄様方と戦うつもりとは向こうは何を考えているのでしょうな」
「恐らくだが、俺たちがSSSランクだと知らないんだと思う」
「そうは思えないのですが……何せクリシュ様方は我が国では有名ですからな……」
「我が国の中では、だろ? 向こうは国が違うから知らないんじゃないか?」
「ふむ、それもそうですな。しかし警戒はしておくべきでしょう」
「そうだな、忠告ありがとう」
「いえいえ、出すぎた真似をしてしまい申し訳ありません、それでは私達は迷宮に行って参ります」
「あぁ、行ってらっしゃい」
俺たちはローレンスさん達を見送り、第2部隊の方へ向かっていた。
「クリシュ様、私はやっぱり向こうにSSSランクがいると思うんです」
「俺もローレンスさんと話してたらそんな気がしてきたよ」
向こうが俺たちのことを本当に知らないドジだったらいいな。そんな思いを抱きながら俺たちはみんなに事情を説明して回るのだった。




