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バンベス王国

 

「見えてきたわ、あれが王都バンベスね」


 零華は御者席から窓を開けて、俺たちにそう伝えた。

 馬は自動で動くため、御者席に座っている必要はないが、絶対に騒ぎになるため、じゃんけんで負けた零華が座っていたのだ。


「へぇ、でっかい外壁だな。それに分厚そうだ」


「Bランクの魔物程度じゃ相手にならないレベルですねー、しかも王都って高ランクの冒険者が多いんですよね? 必要ですかね、高ランク冒険者」


「一応王様が住んでるんだから、安全を確保しておかないといけないんじゃないか?」


「でも多分、壁の質はレンメール村のが上ですよね……?」


「あれと比べるのは可哀想よ……クリシュがこだわりすぎなのが悪いわ」


「いや、家族を守るためのものなんだから、頑丈にするのは当たり前だろ? それはそうと、あれが門だよな? 結構並んでるっぽいけど」


 壁には大きい門と小さい門の2つがあり、大きい門の前にはかなりの行列ができていた。


「そうね、私たちはどちらの門から入るべきかしら?」


「多分、片方は貴族用の門だと思うので、並んでない方に行ってみましょう。クリシュ様は子爵家の長男なので入れると思います」


「わかった、2人ともギルドカードは用意しておいてくれ」


 俺たちは行列を無視して、小さい方の門に向かった。

 門の前には兵士らしき人が5人ほど居て、そのうちの1人に呼び止められた。


「こちらは貴族の方々専用の門になります。失礼ですが、全員出てきて証明できるものを見せていただいてもよろしいでしょうか?」


「私たちはレンメール村から来た、クリシュ=レンメール様と護衛よ。話は伝わっているかしら? SSSランクの冒険者が来るって」


 そう言って零華はギルドカードを兵士に見せた。


「!? し、失礼しました! SSSランク冒険者の零華様でしたか! 一応規則ですので、馬車の中を見せていただいてもよろしいでしょうか?」


「えぇ、構わないわ」


 俺は事前に内装を普通の馬車に見えるようにしておいた。


「し、失礼します! クリシュ=レンメール様とアリス様で間違いありませんでしょうか? ギルドカードを拝見しても……?」


「あぁ、これだ」


 俺とアリスはオリハルコンのギルドカードを兵士に見せる。


「……はい、間違いありませんね。失礼いたしました!! ようこそバンベスへおいでくださいました」


 そう言って門が開かれる。

 街並はレンメールの村とはかけ離れていた。レンメールの村は俺の屋敷以外は平家とも呼べるほど拙い家ばかりで、大きな建物は冒険者ギルドくらいしかない。

 しかし、王都は地球でいうと、ヨーロッパにある国だと言われれば納得できるほど文明が栄えているようだ。

 武器屋、防具屋がそれぞれで分かれてるのは当たり前のようだし、そもそも何軒もある。

 奴隷売買の店や、娼館なんてものもあるようだ。


 もちろん、トイレはそこまで普及してないので、臭いは相当ヤバイのだが……


 俺は仕事の関係でヨーロッパに行ったことがあり、王都はその時のことを思い出せるような街並みなので、少し感傷に浸っていた。


「クリシュ様、大丈夫ですか? お顔色が優れないようですが……」


「大丈夫だよ、少しだけ昔行った街に似ているなぁって……」


「へぇ、なんていうところなんですか?」


「ヨーロッパってところ……」


「ばっか! 何言ってんのよ!」


「あ……しまった!」


 零華が小声で俺が失言したことを教えてくれた。そうだった、アリスには日本のことを教えているが、周りにいる兵士は知らないんだった!

 ヨーロッパなんて聞いたことないだろうから、ちょっとだけまずい。


「よーろっぱですか……レンメール卿は我々では、知りも得ない場所に足を運んでいるのですね」


 ギリギリセーフだったようだな。


「そんなことよりも、俺たちはどうすればいい? これから直接城に向かうのか? それとも日を改めて向かえばいいのか?」


「今から案内をする者がこちらに来るので、少々お待ちいただけますか? その者が今後の予定をお伝えします。……あと、できれば皆様は馬車の中に入っていていただけないでしょうか?」


「うん? なぜだ?」


「我々一般の兵士の間ではSSSランクの冒険者は憧れの存在なのです。その、目につく場所に立っていらっしゃいますと、他の兵士が仕事を……」


「あぁ、なるほどな。わかったよ、零華も入ってくれ」


 ハリウッドスターが空港に降り立った時みたいなものかな? 周りの兵士達の視線は、たしかに熱っぽかった。


 馬車の中で5分ほど待つと、馬車の扉がノックされ、1人の兵士……いや、騎士が外に立っていた。


「お初にお目にかかります。私はバンベス王国騎士団団長のポーラと申します。クリシュ様、アリス様、零華様のご案内は私が務めさせていただきます」


 そう言って騎士団長は俺たちに頭を下げた。まさか案内人が騎士団長とはな。一介の兵士が案内するとは思ってなかったけど……あれ? 騎士団長ってことはーー


「レイン様は私の前任の騎士団長でした。色々とご指導いただきまして、私を後任に推薦してくださったのもレイン様なのです」


「へぇ、そうだったんだな。いや、騎士団長相手だったら敬語にすべきか。申し訳ありません」


「い、いえ! 私ごときに敬語など不要であります!! 皆様には爵位が授与されるはずですので、私より階級は確実に上になります!」


「わ、わかったよ。そういえば爵位って、どのくらいのをもらえるんだろうな」


「さぁ、私には知らされておりませんね。……もう少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか? 予定より早く到着なされたので、こちらの準備が……」


「あ、ごめんね、うちの馬はちょっと元気でね。それより準備って、今日謁見するの?」


「立派な馬だと思います!! とても生きてるようには見えな……あれ? この馬本物ですか? 微動だにしないし、臭いもしないのですが」


 やばっ!


「生きてるわ」


「え?」


「だから、ちゃんと生きてるわよ? そう見えるわよね? 見えなきゃおかしいわ」


 周りの温度が一気に下がり、兵士たちがブルブルと震えだした。おいおい零華、そんな殺気出すなよ……そりゃ秘密にしてほしいとは言ったけど、ポーラさんがめちゃくちゃ怯えてるじゃないか。


「そ、そそそうですね! 生きてますよね! 私は何を言ってるのでしょう! あ、準備というのはパレードのことです!」


「パレード? 何かのお祭りでもあるのか? 時期が悪かったかな?」


「え? パレードは皆様の凱旋用のものですが……」


 が、凱旋!? どういうこと!?


「わ、私たちのパレードなの!? なんでそんなことを……」


「我が国からSSSランクが現れたのですよ? しかも3人!! これを喜ばずして我が国民にあらずです! 今日一日はずっとお祭りなのですよ! 皆様はパレードが終わり次第、謁見の方をお願いします」


 そんなことになってたのか……


 言うまでもなく、パレードは大盛りあがりだった。さっきチラッと門から街を見たときはヨーロッパを思い出せるほど、ゆっくり建物を見れていたのだが、パレード中はあっちに手を振り、こっちに手を振りで忙しく、全く風景を楽しめる余裕が無かった。


 ーーパレードだけは二度とやらないと心に決めた。


 パレードの後は王との謁見とのことだったので、俺たちはポーラの先導についていき、大きな扉の前に来た。


「この先で王が皆様を待っております。王は気さくな方なので、緊張せずに普通に接していただいて結構です」


「いや、流石に敬語とかは使うよ?」


「王からは、『気さくに接するよう伝えよ』と仰せつかっておりますので、その……」


「あーもう、分かったよ。俺たちが気さくに接しないとポーラさんが怒られるってことだな?」


「そういうことです。申し訳ありません」


「いいって、ほんとに気さくにいくよ? うーーっす、レイレイ元気ーー?って感じでいくよ? いいの? 相手王様だよ?」


「はい、それで大丈夫です。王は先ほども言った通り、英雄に強い憧れを持っていて、できれば友人として接していきたいと考えているようなので……」


 そう、ここに来る間に聞かされていたのだが、バンベス王国の王、レイナルド=バンベスは英雄に強い憧れを持ち、英雄と友人になることが生涯の夢だったそうだ。一時期は勇者召喚をしてまで英雄に会いたがってたらしい(なぜか失敗したとのことだ)


 1ヶ月ほど前にレンメールの村で3人もSSSランクが誕生したことを知り、馬でレンメールの村に向かおうとしたところ、部下達に止められ、仕方なく今日まで俺たちに会うのを待っていたそうだ。


「まぁ、仕方ないか、打ち首になりそうだったら逃げればいいし。じゃあ2人ともいくよ?」


あー緊張するなぁ、王様と謁見って、なんかあって国から追放とか、レインが打ち首とかになったりしないよな?


「いつでも大丈夫です」「準備完了よ」


 2人と頷き合い、ポーラさんが扉を開けた。


「「「うーーっす、レイレイ元……」」」


「クリシュ! アリス! 零華! よく来たな! さっ、一緒に食事をしようではないか!」


 俺たちの渾身のフレンドリー挨拶を遮り、金髪オールバックの30ぐらいのおっさんが、満面の笑みで俺たちを迎えた。


 まぁ、挨拶とかはどうでもいいんだよ、うん。王に対する挨拶じゃないしな。相手の風貌が若く見えるなーとかの感想もどうでもいいよな。この人ランクAだから、若い期間長いだろうし。それよりも大切なのは……



「ちゃんと謁見しろやーーー!!! 俺の緊張を返せ!!」


 俺と王の出会いは、俺のグーパンが王の頬に吸い込まれるところから始まったのだった。

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