プロローグ
「なんで決闘相手が軍隊なんだ……?」
龍弥の目の前には3万の軍勢が立っていた。これは剣神相手に決闘しても勝負にならないと判断した全ての大国が仕組んだ戦争だった。
審判も敵に買収され、龍弥を殺すことだけを考えた大国が龍弥が1人になる決闘という最高のシチュエーションで軍隊を使って抹殺しようと考えたのだ。
そして龍弥はこの戦争によってたった1人の犠牲者として死んだ。3万の軍勢を300まで減らした上で……
神崎龍弥は戦争代理人である。
2030年代の地球では戦争が激化し、人口は10億人程度になってしまった。
核兵器を用いた核戦争は当たり前で電脳戦争や挙げ句の果てには自国が消滅することを嘆き、周辺国を巻き込みウイルスによって自滅する国まで出ていた。
このままでは地球に生きる全ての生物が絶滅してしまう。
それを恐れた各国は戦争の縮小化を図った。
―これが戦争代理人の登場である。
戦争代理人を用いた戦争は今までと比べると平和的に行われた。
戦争代理人の仕事は多岐に渡る。
個人による決闘や上限はもちろん決まるが大人数による簡易戦争、武による戦争を良く思わない国同士の戦いは知による戦争も行われていた。
日本の平和条約はこの時代既に破棄されていたため、日本にも戦争代理人を作り出す必要があった。
戦争代理人さえ居れば国民に被害が及ぶことはほぼなくなる。負けて属国となる又は賠償金を支払う、関税を無くすなど戦争敗北による被害は国民の必要最低限の生活を守るという前提において決められていた。
この日本において戦争代理人を務めるのは2つの家系だけであった。
(知)司る神田家と(武)を司る神崎家。
この2つの家の人間のみが戦争代理人として代理戦争を行い。今まで行われた戦争の8回全てに勝利を収めていた。
神崎龍弥は18歳という若さで神崎家の当主の座についていた。今までの当主達の年齢と比べると異例の若さである。
その理由として挙げられるのは(武)の才能が初代と比べても遜色ないと言われていたからだ。
初代はその強さから【剣神】と呼ばれ、剣の腕は世界の武人の誰よりも上と認識された。そのため日本の神崎家の決闘は全て当主が行うとされ、剣神の再来と囁かられている龍弥も9回目の代理戦争に参加していた。
そして3万の軍隊VS1人の青年の戦争が始まり、龍弥は死んでしまった。
「これで日本に武を用いて戦争をする手段は消え去ったな」
「まったく、剣神なんかと決闘なんざするわけないだろうに」
「審判よ、さっさと勝利判決するのだ。大人数対大人数による小規模戦争の勝利は我がロシアとな。はーはっはっ!!」
「それもそうですね。この戦争勝利はロシアとし、日本はロシアの属国とすることをここに宣言する!!」
―なるほど奴らはそういう手段を用いたのか…ならこいつら上層部ぐらいは殺しても誰も文句言わないよな……?
「なっ! 貴様生きていたか!!」
「代理人ども!! さっさとこいつを始末せんか!! 我々が殺されてしまう!!」
「む、無茶言わないで下さい! こいつ銃弾食らっても倒れないし、毒も効かないし、切っても止まらないです!!」
「小僧がぁ!! 我々を殺しきるまで止まらないつもりかぁぁ!!」
神崎龍弥は止まらなかった。敵を全て屍として、無数の銃弾で身体中に穴が空いても止まらない。その姿はまさに剣神と呼ぶにふさわしい最期であった。
「最期に……自分の仇を……取れて……良かったと言うべきなのかなのかな……? それとも……こう言うべきなのか……? ……次は……負けない……」
(その願いこのリリーがしっかり聞きました。貴方こそ私の代理としてふさわしい人物です。さぁ行きましょう! 次の代理戦争へ!)
そして龍弥は静かに息を引き取った。