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3. ミルぺの物語

 街は、不思議に満ちている。良いことも、悪いことも、田舎だったら起こらないことを目にするだろう。病気という形で現れるといったら、分かりやすいかも知れない。小さな家庭の中では起こらない感染症だったり、心の病だったりする。

 皮膚病にやられ、ところどころ毛の抜け落ちている、黒や茶色の雑種の犬が五匹、狭い路地の奥で、獲物を前にうなり声をあげていた。

 このような境遇の生き物を育むのは、街や都という特別な場所なのかも知れない、とエイデルは思った。少なくとも、ファンタージェンの森や林でこのような生き物は見かけたことがない。理由は、はっきり分からないが。多分、森の妖精や生き物たちが、誰かの哀れな姿を見かけるなら、まったく善意の気持ちですぐに癒しの手をかすだろうから。街や都では、そうした行いが…希薄になる。そんな気がする。

 何の武器も持っていないエイデルであったが、欲と無関心が積み上げられたようなグインの都で、彼はいったい誰なのかも、はっきり分からない相手を背中にかばい、野獣たちに向き合っていた。


* * *


 ヒンレックとエイデルは、二週間あまり旅を続けていた。途中、ラーホー村とさして代わり映えのしないトロン村に寄って、食料を補充したあとは、三日の間、野宿が続いたが、二人はとても楽しい道中を過ごしていた。

 長い一人旅のあと、ヒンレックは久しぶりに安眠する日々を送れた。エイデルのおしゃべり好きなことときたら! 余計な心配をする暇もなく、また食事の心配や寝床に気を遣うことがなくなり、彼は竜の対策を考えることに専念することができた。

 久しぶりに勇士らしく、トレーニングに精を出すことができ、自分の黒馬ブリューゲルと並んで全力で走ったり、森に入って岩食い男とレスリングをした。ヒンレックが加減せずに何度も打ち負かすものだから、とうとう岩食い男は頭にきて、二度と勇士というものと取っ組み合ったりしないと言い捨てると走り去ってしまったものだった。


 トロン村では、一本の杉の木が、ラーホー村の酒場の屋根と同じく、白い石となっているのを確かめた。こちらは、木のてっぺんから根本まで、すっかり石になっていた。

 また、実際に竜を見かけて卒倒した者が何人かいて、村中が恐怖におののいている有様だった。

「こうした事態をよく考えて旅をするべきだったな」

 ヒンレックは木を見上げるのと、唇をかみしめるのをやめると言った。

「ファンタージェン最強の竜が、魔法の類の力を持っていないはずがない。恐ろしい外見だけを相手にすることばかり考えていたのは、まったくうかつだったよ。魔法や不思議なものに対抗する手段を考えないといけないね…」

「でしたら、ちょうどよかった! というか、多分…よかったですよ、勇士様」

 トロン村の村長は、小人のマーリーという老人で、ヒンレックの足元で飛び上がって言うのだった。

 村の全員が、勇士という言葉を口にし、すがるようにヒンレックを見つめているのだった。

「日の沈む方角に、三日の旅をしますと、アマンガルドの都にも負けないほど大きな、グインという、へえ、都がございます。そこは、古の時代から、ファンタージェンの賢者たちが集うことで有名な場所だったんです…」

「場所だった、とは? 今は、そうではないのですか」ヒンレックは礼儀正しく、膝をつき、耳を傾けるのだった。

「わしらはこの村で満足しているので、昔から滅多に旅はしません。ですが、わしのおじいさんの頃から、あの街からはだんだんと賢者が出て行ったそうです。そしてこの村を通って、どこかへ消えていったのだと。うちの親父が申しておりましたものです、いったいどこへ行ったのかなと。わし自身、賢者なんてありがたい者をこの目で見たことはございません…。それが、グインの街にはもう賢者がいないということなのか…それとも、一部の賢者が、別の賢者たちとケンカ別れでもしただけなのか、まったくもって、はっきりとは分からないのでございます」

「いずれにしても、ヒンレック様」

 エイデルは白い石としか見えない木の表面に慎重にふれてみて言った。「魔法使いや、賢者といった人たちに、協力を求めないわけにはいかないのでしょうね」

「この旅は、わたし一人では到底、『めでたし、めでたし』までたどり着けないお話だよ、エイデル。それはもう、よく分かっている」

 ヒンレックは、はにかんだ。

「失敗するかも知れないが、とにかく正しい行いだけは、残すようにしよう。私がダメでも、いつかアマンガルドの競技大会に出場したような立派な勇士たちから誰かが後からきて、この仕事を引き継いでくれないとも限らない。さて、グインという都のこと、教えていただき、感謝しますよ。念のためにお聞きしますが、魔法使いや賢者、もしくは竜といった類と対抗できそうな力を持った者は、ご存知ないのでしょうね?」

 それどころか、トロン村には、エイデルのような奇特な者さえいなさそうだった。それを言えば、竜と渡り合おうという者は、それ自体、滅多にいないのだ。

「そう…。ひとつだけ思い出しましたよ」とマーリー。「子供の時に一度、聞いたきりの話です。何だか物語のような話で、おとぎ話なのか、本当の話だったのかもはっきりしませんが。

「グインの街には、賢者の誰かが封印されているという話でございます。竜に逆らったという、偉い方だという話ですが、こちらも噂ばかりで、へえ。

「あとは、そう、私がグインの街で何かを知っているとすれば、あの街に野菜を売りに行くと、いつも嫌な気分になるということだけでございます。連中は、その…勇士様の前でなんですが、その…ケチなんでございますよ。いつも値切ろうとするし、支払いにぶつくさ言う連中です。時々あの街のビールを飲みたくなるのでなければ、とうに縁はすっかり切れていたに違いありません!」


「どうも、あまり良いところとは言えない街のようだ」

 ヒンレックは、その晩の野宿で、自分の毛布にくるまり、火のそばに身を横たえながら言った。「魔法使いの手がかりがないと分かったら、すぐ出ることにしよう」

「はい、ヒンレック様…」

 珍しく何かに囚われた顔つきでぼうっとしているエイデルだった。「そのう、『大きな街』というのは、どんな所なんでしょう? 私は、小さな村を四つしか知りません。そのうちの一つは、今日立ち寄ったトロン村なんですよ。人が数えきれないほど、多くいるところというのは、どんな居心地のところなんでしょう?」

 エイデルは恥ずかしそうに、だがはっきりと尋ねるのだった。

「君らしい問いかけだ」

 ヒンレックは森の木の隙間から見える星々を仰向けになったまま見上げて、つぶやいた。

「同時に難しい問いかけだ。はっきり言える人なんているんだろうか。多くの悪いことを目にするかも知れない。だが、人の住むところだ、良いこともあるんだよ。正しいことは、数が少ないように見えるかも知れない。だが、それは本当のことだからだ。優れたものもあるし、愚かしいものもある。あらゆるものをたくさん目にするので、一度にすべてを相手にすると、たちまちおかしくなってしまうだろうな」

 ヒンレックはエイデルに笑いかけた。

「大丈夫さ、エイデル。今の我々なら。今よりもっと若い自分なら迷いもしようが、君は自分の本分を知っているし、私も今では、君がいてくれるから、自分のそれを取り戻すことができている。私たちは、野宿をしてはいるが、清潔で、正しい生活をしている。これは何より心丈夫なことなんだよ。自分が本当に何を欲しているかを知っているものにとって、外がどれだけ広かろうが、魅力的だろうが、関係はないのさ。

「何か、頭をぼうっとさせるものがあれば…人であろうと、物であろうと…自分が『何屋』なのか、問うことだ。我々は、もはや迷わないさ、そうだろう?」

 ヒンレックは片目をつむって見せた。

「それを聞いて、安心しました」エイデルも自分の毛布をまとい、熾火が消えないよう、灰をかぶせながら欠伸をもらすと言った。

 わずかな煙が、頭上に吊り渡したロープにぶら下げた洗濯物をかすめて空に昇っていく。

「やっぱり、そんなこったろうと思いました! 頭がくらみそうになったら、思い切って、目を閉じますよ!」

「それがいい」

 ヒンレックは心から安心して目を閉じていた。「もし幻だと分かるようなものがあれば、目を閉じてしまうのが、一番かも知れないな…」

 彼らの周りでは、ファンタージェンならではの深い夜が深々と更けていくばかりだった。星はますます銀に輝き、正しいものはみな、深夜ともなれば、穏やかな寝息を立てて静かに体を休めているのだ。彼らは正しい生活を送り、正しい目的のために頭を使っていた。あとでエイデルは知ることになるが、それは大変、幸せなことだった。


 さて、グインの街は、ヒンレックの見たところ、アマルガンドとまったく同じような大きさに見えた。入口は大理石を磨いた円柱が二本立ち、その上には蓮の形の像があった。

 入口を入ると、両脇が旅人の馬をとめておく小さな駅になっていた。ヒンレックとエイデルは、泊まるところが決まるまで、馬たちと馬車をここに預けることにした。


 都をつらぬく大通りは、両側に大小の屋台が所せましと並べられた、市場になっていた。

 通りの中心には、時々噴水がもうけられ、ベンチも置いてあったが、屋台の裏はごみが積み上げられ、不潔な匂いが時々鼻をつくのだった。

 街の中心部には、黒曜石で出来た、五重の塔が建っており、グインの都の長であるサンドールという翁が住んでいるということは、野菜を売っている商人からカブを一束買った後、聞き出すことができた。

 街には、屋台の外側に品の良い住宅地があり、さらにその外側にはそれよりやや落ちるが安全な建物がある。一番外側には、仕事を持たない者がブラブラ暮らしているのだそうだ。

「ここらで竜を見たことはないかね。もしくは、そんな話を聞いたことはないかな?」

 ヒンレックは桃を買い求めながら、売り子の女の子に聞いてみた。彼女はヒンレックのきれいな金髪をしげしげと見つめた。彼のひきしまった頬とその明るい瞳を見るとぼうっとなってしまったようだった。ヒンレックは今朝もエイデルに軽く髪を切りそろえてもらい、ブラシもかけてもらっていた。旅の疲れはまったくなく、いったいどこから現れた貴公子なのだろうと、彼は注目の的だった。

「不吉なことは言わない」

「なんだって?」と、ヒンレック。

 女の子は、声をひそめると「いいかい、そんな言葉は、下品なんだ。ここじゃタブーなの。絶対に誰も…そんな話はしない」

 ヒンレックも声をひそめた。「そういうことか。ここがそういうところなら、無理に聞かないよ」彼は頷いた。「これだけ聞かせてほしい。なぜタブーなんだね? 誰かが罰を加えるとでも?」

「呪われるんだ。獣に食べられてしまうんだ」

 ヒンレックは片眉をピクリとさせた。「それ…自体にかい?」

「知らない! 桃は売ったんだからもういいだろ! 後ろの人、あんたは何が欲しいんだい」

 そこでヒンレックは、エイデルの姿を求めた。

 だが、意外なことに、友の姿は見えなくなっていたのだ。

「エイデル? どこへいった。宿屋の息子よ!」

 ヒンレックは周りの目も気にすることなく、その名を叫び続けた。


 勇士が売り子に声をかけた時、病気にかかり、血走った眼を持つ黒犬が二匹、どこからか現れては、爪を鳴らすような音を石畳の地面に響かせて、狭い路地に順番に入っていくのが見えた。

 エイデルは、つと、ヒンレックの元を離れて、道を渡り、犬たちが消えていった路地に向かった。

 彼の直感が、警戒のベルを鳴らしており、それは的中した。

 路地の奥は、建物の壁で行き止まりになっており、その真ん前に、長方形で、取っ手のついたごみ箱が置かれてあった。それはせわしなく揺れていた。

 そのゴミ箱の周りを凶暴な犬たちが遠巻きに逡巡していた。

 ある犬は、匂いを執拗なほどかいでいる。エイデルが自分たちと同じ道に入ってきたのを、ただの一匹も気づいてはいなかった。獣たちは血を求めていた。

 

* * *


 エイデルは大声を上げ、奥に走り込むと、意表をつかれて戸惑っている犬たちの間を走り抜け、あっという間にゴミ箱を背中にかばっていた。

 多分、中に人が隠れているのだ。

 彼は、息を吸い込むと、腹の底からの大声をあげ、狂った様子の獣たちを威嚇した、何匹かは、咄嗟の大声にひるんで、後ずさったが、一匹だけは、かえって前に進み、突進してきた。

 『頭突きのムーア』の息子、エイデルは体を低く構え、全力で前に飛び出した。

 狂犬の牙と、彼の頭が激突した瞬間、哀れっぽい声をあげ、呪われた生き物は牙を折られ、宙を高く舞い、路地から飛び出した。

 すると残りの犬たちは、輪を作るようにエイデルを囲みだした。これはまずいと彼は思い、背後のごみ箱を見やった。

 箱のふたがずれて、中から真っ黒に汚れた、小さな女の子の顔が半分のぞいていた。

「お願い助けて」と彼女は言った。

 誰かに頼られると、底なしの勇気がわいてくることを、エイデルはあらためて知った。今までは、たいていお話をしてくれと言われた時だった。俺が誰かって? 俺は、根っからの『宿屋』さ、人の面倒を見るのが大好きなんだ。それだけじゃない、ありがたいことに、これは尊いことのひとつなんだ。

 迷うことは何もなかった。

 獣の一匹がエイデルに向かって走り出そうとしたが、その背後からヒンレックはそいつのうなじをつかみ、宙に持ち上げたかと思った次の瞬間、石畳の地面が割れるほどの強さでたたきつけて、一撃でねじ伏せていた。

「エイデル、けがはないか!」

 犬が猛烈な勢いで路地から飛び出してきたので、ヒンレックはすぐに見当をつけ、ここに駆け込むことができたのだ。

「私は大丈夫です!」

 残りの二匹はまとめてヒンレックへ、最後の一匹はエイデルに向かった。が、勇士は一匹の顔を手刀で殴りつけ、のばしてしまうと、そいつを振り回してもう一匹を壁に打ち付け、宿屋の息子はまたも頭突きで相手を路地から放り出したのだった。


 二人はにっこり笑いあった。

 そうして、ヒンレックがゴミ箱をすっかり開けて中の人物を抱えだして地面に降ろしてみると、泣きはらした目で女の子が彼らをおずおずと見上げてきた。

「助けてくれて、本当にありがとう。あたしはミルぺ。ここがどこなのか、どこに行けばいいのか分からないけれど。自分がミルぺ、だってことだけは知ってるの」

 ずっと他人の世話をすることを仕事にしてきたエイデルは、ミルペの有様に自分のことのように胸を打たれていた。

 彼女の顔も髪も真っ黒で、ボロしか身につけておらず、頬には泥がつき、髪はところどころ、ちぎれていた。彼女が身震いすると、体のあちこちから大小の虫が出てきた。恐怖でまだ顔は青ざめてはいたが、それだけ汚れているのに怪我ひとつない事実にエイデルは驚いていた。

 他人の満足を気にかけている宿屋の息子は、ミルぺという少女をこんなになるまで放っておいた、この街に激怒した。完全に怒り狂ったと言ってよかった。

「誰が君をこんなにしたんだ」とエイデルが聞くと、ミルぺは「知らない…。分かんない…忘れちゃうの」とつぶやいた。

 彼女の首にひもで何かつるしてあるのがすぐに分かった。

 丈夫な紙に、にじんだ文字。何とか次の文を読み取ることができた。


 『この者は眠るとすべてを忘れる。世話をしたい者は、サンドールまで名乗りでよ。養育費が支払われるであろう。万が一、ミルぺが施設を抜け出してしまった時のため、これを記すものなり。世話ができない時でも、私のところへ連れてくること』


 裏には、サンドール、とサインがあった。


「少なくとも、サンドール翁は気にかけているようだよ、エイデル」

 ヒンレックは彼の怒りを鎮めるように、その肩をたたいた。

「連れて行ってあげようじゃないか」

「お願いがあります、ヒンレック様」エイデルは訴えた。「私に、この子の面倒を見させて下さい! この子のこの有様を見てください、一日や二日でこんなことになりはしません。この街の無関心さときたら、まったく病気じゃないですか。どうか、私に、面倒をみさせて下さい…」

 君に任せよう、とヒンレックは言った。

「私も、この街の人々には悪いが、どうもここの空気が気にくわない。この子が君の世話を受けて、良くなったら、連れて行くことにしよう。そして、この文章の訳を聞いてみよう」

 エイデルは喜んで頷いた。


 魔法使い探しは一時取りやめ、都を出ることになった。

 ヒンレックの言う通り、ミルぺを都の中で介抱すると面倒なことになりそうな気配だった。

 路地から狂犬が二匹も飛び出て、一匹は噴水の中へ、もう一匹はそのそばのベンチをひっくり返したというのに、都の人間はひそひそと声を交わすばかりだった。

 とりわけ、路地から出てきたミルぺの姿を見ると、商人たちは自分の商品を守るように店の先へ立つのだった。

「この子が何かしたのかい?」

 エイデルは人々の様子を見渡すと気にくわなくて、偶然にも、そばに立っていた、さきほどヒンレックが声をかけた売り子の女の子に尋ねていた。

「何かをしたってわけじゃないけれど、いつも物欲しそうな目で町中の商品を見てるからよ」彼女は目をそらして言った。「そんなに汚い恰好で!」

「こんなに小さな女の子を放っておくような街なのか、ここは?」

「身寄りのない子を育てるのには、この街じゃ大変なんだ」と肉切包丁をぶら下げたままの肉屋の若者が言った。「正直に言ってだな、そんな暇と時間のあるやつは、街にいるわけがないだろうが」

「俺の村は、この街みたいに大きいわけじゃないが、孤児を放っておいて仕事を続けるようなことはしない」エイデルはまっすぐに相手の目を見て言っていた。

「理由を教えようか。簡単なことだ。俺の村じゃ、誰もが『みんなのために』働いているからだ。商売をしているなら当たり前だろう。みんながお客さんだし、みんなが誰かから物を買ったり交換したり、何かをしてもらうからだ。本当にこの子が厄介なら、誰かが街から追い出すべきだろう? だが、面倒なことは誰かに任せるつもりだった、みんな、そうなんだろう? この街は大きいから、『いつか誰かがやってくれる』なんて思ってしまうかも知れないな。だが、そんな会ったこともない『誰か』なんて、いないんだよ。小さな村に住んで、みんなと話し合ってきたから、俺には分かる」

「そんなことを言って、あんたがその子の面倒を見るっていうのかい」きれいなペンダントの屋台の中年太りのおかみさんが言った。「できもしないことを言うなら承知しないよ」

「私たち二人で面倒を見るのだ」

 ヒンレックが少し大きな声できっぱりと言うと、街の人々の冷ややかな目はひるんだ。

「ひとり増えただけで生きていけないような世界ではないはずだ、この美しいファンタージェンは! みんな、ファンタージェンの正義を忘れたのか」

 ヒンレックとエイデルがミルぺを連れて立ち去ると、何人かが言った。

「他はどうか知らないが、この街じゃ自分一人でも生きていくのが精一杯なんだ!」


 川でミルぺを洗っても、なかなかきれいにならず、腐った卵のような匂いも落ちなかった。それでも最初の日、エイデルは根気よく、あれこれと工夫を凝らした。

 結局、思い切って丸一年もの間、時間をかけて煮詰めて蓄えた、『ムーアの宿』特製のハーブのエキスをありったけ使うしかなさそうだった。

「こいつを水に溶いて少しずつ使えば、半年は清潔に体を洗えたし、夜中に虫に悩まされることもなかったのですが」エイデルはヒンレックに打ち明けた。「この子の髪は油でギトギトなうえ、しらみだらけ。体も同じでしょう。多分、この子をまともな姿にするために必要なだけ使ってしまえば、残りは一か月も、もたないですね…。ただ、似たようなハーブをトロン村の外で見かけましたよ。多分、あの村ではこいつの効用を知っている人がいないんですよ。誰も手をつけず、放ったらかしで雑草同然にはびこっていましたから、あそこまで引き返し、荷馬車に積みこんで、道中進みながら、作っていければ、当分は快適に過ごせると思います。ですが、今ここで引き返すべきでしょうか。私はこの子のために、こいつを使うべきだと思うのですが」

 エイデルは、先を急ぐ旅であることを承知していた。ためらっているのは、例によって自分のためではなく、ヒンレックのためなのだ。

 今ここで孤児の面倒をみるのに幾日かを過ごし、もしかすると道を引き返さなければならなくなるかも知れない。

 エイデルは、グインの街に入って、やはり、すぐにその空気が嫌いになっていた。

 人々は彼のことに無関心で、目を合わせもしない。店先に立てば、こちらを値踏みをするような目でにらまれる。また、人々は陰気で、誰もが疲れているし、街の者同士でさえ、仲が良いわけでもないのが不思議だった。

 この街は、誰もが自分で精一杯だと言っていた。エイデルは、グインの人々の態度と言葉を何度も思い返した。自分のことで精一杯だから、自分のことが一番なのか。だから他のことを考えられる余裕がないのか。分からなくもないが、それでは、正しいことを無視している、と彼は思った。

 自分のためだけを思っていて、幸せになれるわけがない。だがあの街では、そんなことは、偽善というのだろう。

 誰もが飢えていて、時間が足りないとは。あれだけ働いているのに。

 エイデルは、自分の小さな村のことを思うと、救われる気がした。みんなが自分のことを知っていたし、自分自身も同じくらい、村の一人一人を気にかけていたものだった。

 ああ、本当に、自分は幸せだったんだ。それに、自分の本分をつくせる仕事もあった。

 誰もが、自分だけの街、グイン。

 できれば二度と行きたくないな。エイデルは自分があの街の者のようになったところを想像してみた。

 誰かのことをまったく知ろうとせず、無視し、世話もしない。ああ、冷たい心だ。自分らしくない。誰でも、無関心で過ごしていくなんて、どんな世界であろうと、哀しいことだ。

 

 ヒンレックは、エイデルの申し出をあっさり承知した。心は上の空だった。

 三人が街から出て行く時、入口の柱の根元で座り込んでいる老人が言ったのだった。

「まったく、ずっと昔からあんな格好で…」と老人がつぶやくのを、ヒンレックは聞きとがめた。エイデルはロバにミルぺを乗せ、先を歩いて行った。

「昔? 昔っていつからです。彼女は、どう見ても五歳か六歳くらいにしか見えない」

「知らんよ! ずっと昔からその子はここにいるんだ! その汚い顔、服、はだしの足…。うんざりだ」老人はつぶやくように言うと、街の中へ逃げ出した。

 もしや、とヒンレックは思った。

 この子が『封印された者』なのか?


 川のそばで鍋に湯をわかし、特製のハーブエキスを少しずつ溶いては、ミルぺの黒く汚れた髪にかけて手で直接すいていった。何度か繰り返すと、突然、汚れが抜け落ち、ヒンレックのような金髪が現れた。

 なんてこった! エイデルは空を仰ぐと、作業を続けた。

 丸一日かけて、ミルぺはまともな姿になった。彼女は金髪で、緑色の目だった。泥や虫、垢を落とすために少し洗われすぎたので、白い肌がとこどどころ赤くはなっていたが、顔立ちは上品な女の子だった。目つきも哀しそうだが、素直そうだった。

 エイデルは彼女の髪と手足の爪をきりそろえ、歯の磨き方を教えた。服の着方も知らないようだったので、こちらも教えた。彼女の頭は悪くはなく、一度聞けばすぐに何でもできるようだった。

 熱心に子供の面倒を見るエイデルを見て、その晩、ミルぺが眠ると、火のそばでヒンレックは言った。

「君は剣を振り回したり、人を投げ飛ばすよりもそっちの方があっているよ。わたしにはそうも満足がゆくようには、決してできない」

 エイデルが何か言おうとするのを片手を上げて勇士は止めた。

「いい機会だから、この際、はっきりさせておくのはいいことだと思うんだ。勇士にあこがれた宿屋の息子よ、君が自分の剣を手に入れることがあったら、その子を救ってやれる者はいないだろう。君を知る善良な人々が、ラーホー村にたくさんいて、君もまた彼らを知っている。今日、君も思い知ったと思うが、グインの都は、正しいこととは縁遠い場所だ。どれだけ、自分の生まれ育ったところが素朴で、幸せな土地だったことか、分かったと思う。私もそうなんだよ。これまではいろんな先生の元で、若さのおかげで、納得がいくまで自分を鍛えることができた。もし私がグインで生まれていたら、そんなことはできなかったかも知れない。

「君は善良な宿屋の息子だ…。ムーアとリーデアの息子、エイデルだろう。君が他人の世話をすることを忘れられる訳がないんだ。だいたい、自分の仕事を忘れられるなら、なぜ君はその子の額に手をおき、熱がないか心配しているのか…。君が、私こと、勇士ヒンレックの冒険にかかずらったのは、勇士の物語に憧れたというが、本当のところは君自身が勇士になりたいのとは違う。私のそばでその物語を見聞きし、世話をしたかったからだろう。私は君に感謝しているよ、エイデル。辛く悲しい旅になるところだったが、君といっしょにいたから、元気になることができた。それは、君が私のそばにいても、常に変わらず『宿屋の息子』だったからだ」

 ヒンレックは一息おいた。「この旅が本当に危ないところまで進んだら、君は村に帰るといい」

「それだけは!」とエイデル。「できません。最後までお供します。確かに剣はまだ使えませんが…」

「お願いだよ、エイデル。どうか。お願いだ。私は自分の目で見たから知っている。スメーグのようなおぞましい竜相手に、君に何ができるものか。君に傷ついては、ほしくないのだ」


 ミルぺの面倒を見ることになった二日目の晩、エイデルは眠れず、一人きりになりたくて野営地をそっと離れようとしたが、ミルペが起きて自分が何も覚えていないことにうろたえたので、その朝と同じようにゆっくりとこれまでの事情を話しがてら、手を引いてブラブラとあたりを散歩することにした。ヒンレックを寝不足にするわけにはいかなかった。

 首から下げられたメモのとおり、ミルぺの記憶は眠りから覚めると、きれいさっぱり無くなっていた。自分がミルぺという名前であること以外は。

 今日の朝も、ミルぺは目を覚ますと、しげしげと自分の両手を持ち上げ、どうしてここにいるのかとしくしく泣きながら尋ねたのだった。

 エイデルの話を聞くと、彼女はやっと安心し、お礼を言った。それから朝食をとり、洗濯や雑事をこなすエイデルを眺め、昼食をとったあと、ミルぺは小さな子なので、うつらうつらと船をこぎだし、昼寝をした。そして目を覚ますと、また記憶が消えているという有様だった。

 だが、エイデルはうんざりすることもなく、何度も初めから事情をゆっくり話すのだった。

 彼がどんなにお話をしても、彼女はひとつも覚えてはいられなかった。彼が誰なのかということも、眠るときれいに忘れてしまうのだった。放っておいたらどんなことに巻き込まれてしまうか分からない。

 トロンの村で預かってもらうよう、頼むのが一番だとエイデルは考えていた。


 さて、森の中を進むと、雷に打たれて折れた大木があった。かなり大昔に倒れたようで、日の当たる上側には苔が生え、暗い陰の部分にはキノコが生えている。そこでエイデルが大木を背にして腰をおろしたので、ミルペはそれにならった。彼の悲しそうな顔を見て、ミルペは不思議そうな顔をした。

「どうしてそんな顔をしているの」と、ミルぺは尋ねた。

 エイデルは口を開いたが、ひらめくものがあった。

 彼は自分の物語をした。滑稽に話せば楽しくなるな。それに、思い切りよくふんぎりがつくかも知れない。ラーホー村に帰った時に、この話をすることにしよう。リハーサルだ、と彼は思った。

 エイデルは、自分を愚者に見立てた物語を話した。愚かにも勇士に憧れ、旅の途中であやまちに気付いた者のお話。

 さあ、みんな寄っておいで。とっても楽しい愚者のお話をしてあげよう。

「けれど彼は満足だった」

 本当にエイデルは笑っていた。

 ミルペもつり込まれて笑っていた。どうして彼が笑っているのか本当には分からなかったけれど、本当に楽しそうに見えたから。

 彼女はエイデルが話している物語のことも、忘れるに違いない。

 だが、エイデルは心をこめて、話が楽しくなるようにつとめた。聞いている者が、なにひとつ理解せず、明日には忘れてしまうとしても。それは、きっとそうすることが正しいこと、心のこもったこと、だろうから。自分はグインの人々のように、まだ疲れ切ってもいないし、時間もまだ残されているのだから。

 目の前でエイデルがずっと微笑みかけていたので、ミルペは頬づえをついて、ずっと楽しいお話に耳を傾けることができた。このひととき、ミルぺは幸せを感じていた。

 彼女は笑いを返していた。

 やがてお話は終わったが、ミルペは笑っていた。自分から笑っていた。

 エイデルに笑いかけられているうちに、何かが体の中ではじけたのだ。長い間泣くことはあっても笑うことがなかったミルペは、発作を起こしたように腹をかかえて笑っていた。体の中ではじけたものは花の種だったのかも知れない。種は芽ぶき、生い茂って花をつけた。たくさんの花を。彼女は楽しくて死にそうになった。

 誰かが頭をなでてくれたので、目を開けるとその人を抱きしめて、ほっぺたに思いきりキスをした。


 瞬間、スメーグの呪いはその力を失い、ミルペは本当の自分に戻っていた。


 記憶を失い続ける彼女が、その呪いを解くたったひとつの方法は、『自分から誰かのために何かをする』ことだった。

 何もかも忘れてしまっては、何をすべきなのかも分からない。

 そのため、スメーグのかけた呪いは永遠に続くはずだった。


 エイデルは誰にでも楽しくお話をすることができた。彼にとっては、話をきいてくれる人がいることが喜びだった。自分が誰なのか分からない人であっても、ミルペがいるだけで、エイデルは彼女に感謝をし、物語を続けることができた。彼女の世話をすることができた。

 彼のその無償の行為が彼女を深い呪いから救ったのだった。


 本当のミルぺは、腰まである金髪を輝かせ、ブルーのワンピースを着ており、手には磨き上げられた樫の杖を持っていた。ピンクの革の靴をはき、唇には紅をさし、目の色は呪いをうけていた時と同じ緑色。表情は知性のある者らしく、目に豊かな表情があった。まだ若く、エイデルより二つ年上だった。背丈もわずかに彼女の方が高かった。

 美しい女性が突然目の前に現れて、エイデルは眼を丸くし、今ここにいた女の子がどこに行ったのか知りませんかと尋ねた。

「それはわたしよ、エイデル。わたしじゃなかった、わたしなの。わたしはミルぺよ。本当のミルぺなの」

「ああ、分かったよ! 君はきっと、スメーグに呪いを受けていたんだね!」

 話の呑み込みの早いエイデルは頷いた。

 エイデルはミルペの視線が眩しかった。よしてくれ、と彼は言いかけた。

 彼は心の中でため息をついた。

 確かに俺には似合わない。もし勇士になって、こんな風に見つめられても、本心では、そんなに嬉しくないんだ…。よく分かった。そんながらじゃない。俺にとっては、料理がうまかった、とか、よく眠れたとか、また来るよとか、そういう言葉が、本当の喜びなんだ。

 彼の失望は、ミルペによって十分償われることになった。

 ミルぺは賢者の一人で、スメーグに立ち向かった者であり、誰も知らない多くの物語を聞いていたのだ。


 真夜中ではあったが、非常事態と思われたので、エイデルはヒンレックを起こし、三人が目を覚まして話ができるよう、茶を沸かした。ミルぺがその茶に少し魔法をかけ、飲めば朝になっても疲れが残らないようにしてくれた。

 彼女の物語る昔々のお話を、エイデルとヒンレックは、熱心に聞いた。それはファンタージェンの誰も知らない、驚愕の事実だった。


 スメーグが昔は勇士であり、さらにたどれば、バスチアン・バルタザール・ブックスと同じ人間の子だったこと。

 竜が棲むヴォドガバイが、古の時代は、大きな都市で賢者の集まる場所だったこと。

 スメーグは数々の魔法を使えるが、最大の武器は、敵を石化する魔法であること。


「『冷たい火の国』とモーグールが呼ばれているのは、スメーグの魔法で国全体が白い石になっているからです。スメーグの吐く息は白く、冷たく、あらゆるものが石になってしまうのです。手でふれたものも石にしてしまいます」

 ミルペはふところから、握りこぶし程度の大きさの水晶玉を取り出した。地面に置くと、土をかきよせて安定させ、両手をかざした。

「私は、スメーグがなぜ竜になったのか、その理由を知っている賢者の一人でした。彼が竜になったあと、すぐに仲間たちの多くは石にされてしまいましたが、私を守る魔法は石化を防ぎ、また私を殺すこともできなかったので、彼は呪いをかけたのです。呪いというのは、条件が必要で、その条件が簡単なものであるほど強くなるのです。スメーグは私の記憶を(名前までは奪えなかったようですが)すべて奪い、無力な女の子にしてしまう呪いをかけました。

「『自分から誰かのために何かをする』ことで、はじめて解けるという条件つきの呪いです。わたしは、まったく長い間、孤立無援でした。というのも、グインの街もまた、同じような呪いがかけられているからです。あの街にいったのなら、お分かりになったでしょうが、あの街では、誰もが自分を一番に考えるのです」

「ミルぺは、実際のところ、どのくらいさまよっていたの?」エイデルは尋ねました。

 ミルぺは空を見上げ、星々のいくつかを指でゆっくりおさえるかのように指さすと、「千年もの間、私はボロをひきずってあてもなく歩いていました。でも、グインの人たちを責めないでください。あの人たちは呪われていたのですから。エイデル、あなたが私の呪いを解くと同時に、あの都の呪いも解けたのです。今では、人々は自分のしたことを後悔して、きっと泣いていることでしょう。許してあげましょうね」

 ヒンレックは、ファンタージェンの正義が今ここで行われていることを知った。この道でいいのだ、と彼は思った。

「ミルぺ。君ならスメーグに対抗できるのだね」

「ええ。今なら。魔法というものは、一度解かれると、魔法使い相手には、二度と同じものはかからないものですから。石にもならず、呪いも解いてしまった私は、今ではほとんどスメーグの天敵に近いのだと思います。ただ、スメーグのとどめは、私にはさせないでしょう。彼の命を絶つことのできる斧は、途方もなく重いからです」

「重い道具なら、軽くはできないのかな?」

「ものの本質を変えるのは、一番難しい魔法です」ヒンレックの軽口にもミルぺは真面目に答えるのだった。

「まして、斧は、あらゆる竜を滅ぼせる魔法の武器のひとつ。私にもその本質を変えることはできないでしょう」

 その言葉が終わらないうちに、地面に置いた水晶玉が青く光りだした。

「オグラマール姫がとらえられている場所を見つけました」

 ヒンレックは、また夢が現実になる時の不安を感じるだろうかと自問してみた。そんなことはなかった。たとえ失敗しても、今の彼に悔いは微塵もなかった。


 彼らは朝までひと眠りすることにした。なかなか寝付けなかったが、日が昇り、朝食がすむと、ミルペは自分が最も大切にしているという、魔法の靴をエイデルにプレゼントした。履けば、国の端から端までをたった一歩で進むことができるという『七里の靴』だった。

「こんなにしてもらって」とエイデルは言いかけたが、彼女のキスが唇をふさいだ。

「私にお礼なんて絶対に言わないで! あなたのしてくれたことがどれだけ尊いことか! でも、約束してほしいの。私は千年も放浪して、正直疲れました。体ではなく、心がね。スメーグの件でかたがついたら、あなたの村へ連れて行って下さいね。あなたの宿で、休みたいのです」

 エイデルは、喜んで頷いた。


 それからのことをあとで思い返すと、ヒンレックはそれまで待っていたことが、一度に起こったような気がするのだった。まるでせき止められていた水が堰を壊され、一度にあふれ出たようなものだった。


 魔法の靴をはいたエイデルは、探索をはじめてすぐに、冷たい火の国・モーグールを見つけ、さらに石化した森・ヴォドガバイの場所も見当をつけた。

 彼は元の野営地に戻ると、エイデルとミルぺの肩をわしづかみにし、一緒にモーグールの入口に現れた。

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