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ゆめものがたり  作者: ひじかたかた
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砂場のピラミッドの話、星たちの運命の話、小さくなった色えんぴつの話、青い蝶の話、前に進む話、温泉を掘り当てた話、雲が逃げていく話、背中を押される話、朝日が昇る話、遠い山の話

【砂場のピラミッドの話】

砂場には、砂でできた小さなピラミッドがあった。カタツムリはピラミッドを前に誇りに満ちた顔をしていた。小さいけど、カタツムリがこれを作るには相当な時間がかかったに違いないと思うと、僕もカタツムリが誇らしかった。ピラミッドはよく見たら、側面が欠けていた。手伝ってあげようと、近くの砂を手に取り、付け足そうとした。すると、イヌは僕の腕を急に引っ張り

「これで完成だよ。これでいいんです」と自分に言い聞かせるように言って、静かにほほ笑んだ。




【星たちの運命の話】

雨のにおいがしたので、傘をさした。それはとても大きくて、みんながすっぽり入りきれるくらいの透明な傘だった。ちっとも重くなくて、片手で持っていられる。パチパチと頭上で音がしたので、顔を上げると、その音は雨ではなくて、小さな星たちだった。星の雨だ。小さな光が暗い空から、途切れることなく降ってくる。僕は思わず息をのんだ。本当にきれいだった。星たちは、傘にぶつかったり、木にぶつかったりした。けど、ほとんどは地面に直接落ちていった。彼らは地上のものに触れると、さっきまで放っていたまばゆい光を内側におさめ、てらてらとした黒い石になった。

「これが星たちの生き方なのです」と誰かがつぶやいた。そのあと、みんなは、しゃべることなく、その光景をしっかりと目に焼き付けるように夜空を見上げていた。




【小さくなった色えんぴつの話】

僕は、大事なものを入れていた木箱の中から、小さくなった色えんぴつを取り出した。それをイヌにあげようと思って、彼を探した。けっしていらなくなったのではなくて、大切なものだから、信頼できる仲間に持っていてもらいたかった。色えんぴつを渡すと、イヌは飛び跳ねるくらい喜んだ。そして、手品みたいに、色えんぴつをどんどん増やしていき、どこからか大きな紙を用意した。それから、みんなを呼んで、楽しそうに絵を描きはじめた。その輪の中に、あの臆病なモモンガもいた。モモンガは僕の視線に気づき、

「ここにいて、いいんですよね」とかぼそい声で言うと、恥ずかしそうに眼を伏せて、小さく笑った。




【青い蝶の話】

青い蝶が飛んできて、頭の上に止まった。頭のてっぺんがじんわりとあたたかくなって、そのあたたかさが体じゅうにひろがると、青い蝶はまたどこかへと飛んでいった。追いかけようとしたけど、止めた。また戻ってくれるに違いないと思ったからだ。優雅に飛んでいく青い蝶が見えなくなるまで、僕は見送った。




【前に進む話】

小さくて頼りないつり橋が、風にあおられて、大きく揺れている。つり橋は今にも壊れそうで、とても渡れる気がしなかった。後ろを振り返ると、少し離れたところに、クマが座っていて、目が合うとやさしく笑った。その笑顔に、勇気をもらい、つり橋へと一歩、足を踏み入れた。ギィーという板のきしむ音と、時折、吹き付ける冷たい風が、僕の決心を鈍らせた。一歩進むたびに、首を後ろにひねり、クマが見守っていることを確認した。そうするたびに、不思議と、元気が湧いてきて、足の震えも止まり、心配事もふっとんだ。ようやく、あと一歩で、ゴールだ。後ろを振り向いたら、クマはいなかった。体を再び、前に向けると、つり橋を渡り終えたところには、相変わらず、ほっとするような笑顔があった。僕はうれしくなって、クマに駆け寄り、思いっきり抱きついた。




【温泉を掘り当てた話】

シャベルで穴を掘っていると、そこにモグラが手伝いに来てくれて、穴はますます深くなる。上のほうでは楽しそうな声が聞こえてきて、みんなはかわるがわる、穴から下をのぞいて

「まっくろけっけ、まっくろけっけ」とはやしたてた。たしかに僕は、土でまっ黒で、自分の姿を見て、無性におかしくなり、声を出して笑った。だいぶ掘り進めたとき、「カチッ」とシャベルに何かが当ったかと思うと、そこから水がしみだしてきて、湯気がたった。すると、いきなり、勢いの持った水のかたまりが、有無も言わさず、僕らを押し上げた。目の前の景色が、ものすごいスピードで変わっていく。地上を一気に通り過ぎると、雲のすぐ近くでようやく止まった。穴の中からとめどなく吹き出しているお湯の上に僕らはいた。お尻のほうがじんわりと温かくて、変な感じだったけど、ここからの眺めは最高だった。湯気のおかげで、景色に薄いベールがかかり、とても幻想的だった。下のほうでは、みんなが「おんせん、おんせん」とはしゃぐ声が聞こえ、その中にかすかに鈴の音が聞こえたような気がした。




【雲が逃げていく話】

イヌと一緒に草原に寝ころび、空を見上げていると、雲がやたらと浮かんでいた。雲の群れはゆっくりと、右から左へと自分のペースで進んでいき、さっきまで真上にあった雲は、今はもう見えなくなっていた。静かな時間が流れる中、イヌが突然「ワォーン」と叫んだ。僕は心臓が止まりそうなくらいびっくりして、驚きの表情で、彼の顔を見た。イヌはいたずらっぽい表情を浮かべ、上のほうを指さした。再び目線を空に戻した瞬間、白い雲に短い手足がひょっこっと生え、最後に顔が勢いよく飛び出した。その姿は羊に違いなかった。イヌの声にびっくりした羊たちは、我先にと逃げ出し、とうとう空には雲ひとつなくなってしまった。




【背中を押される話】

大きなキャンバスに絵を描いていると、ネズミが声をかけてきた。

「本当に絵が好きなんだね」

「もうすぐ完成だよ」僕は、にっこりと笑った。ここにいると調子もいいし、何もかもがうまくいく気がした。ずっとここにいたいとも思った。パッと横を見たら、ネズミが少し悲しい顔をしている。絵を描く筆を止めると、

「君がここにいてくれたら、みんな大喜びだろうね。ここは君の家であることに間違いないよ。けど、ずっと家にいたらあきてしまうよ。戻れる場所があるからこそ、安心していろんなところに行けると思うんだ」

ネズミはそういって、僕の背中をポンと押した。



【朝日が昇る話】

みんなと一緒に長い坂道を上っている。空は白んできたけど、太陽はまだ見えなかった。道端にはたくさんのクローバーが生えていて、僕はその中から四つ葉のクローバーを見つけ出そうとした。案外早く見つかり、手のひらに置いて、眺めていると、急に突風が吹いた。思わず顔をそむけてしまい、すぐに視線を手に戻したが、四つ葉のクローバーはなくなっていた。どこかに飛んだと思い、すぐにあたりを見回していると、坂道を駆けてくる黒い点が目に飛び込んできた。そのどこか見覚えのある黒い生き物は、僕の前まで来て、肩で息をしながら、手を差し出した。手のひらには四つ葉のクローバーがある。「もらってもいいの?」と聞くと、黒い生き物はウンとうなづいた。空はだいぶ明るくなり、僕は彼と手をつないで、坂道を急いでのぼった。ようやくみんなと合流すると、水平線から昇ってくる朝日が見えた。




【遠い山の話】

遠くに山が見える。山はみずみずしい空気に囲まれ、頂上のあたりは、うっすらと雪が積もっている。どんなことがあっても動かないような、そんな頼もしさがあった。雲ひとつない青空で、何もかもがはっきり見える、そんな気がした。いつもいるはずの動物たちは、どこにもいなくて、こんなに静かだと少し落ち着かなかった。

「こっち、こっち」遠くから、突然、僕を呼ぶ声がした。どうやらあの山のほうから聞こえるらしい。慣れ親しんだこの場所に別れを告げるのは、惜しいような気もしたが、その声に従うことにした。あの山がここよりいい場所かわからないけど、そんなことはどうでもいいと思えた。なにか新しいことが起こる、そんな予感に、僕は胸を躍らせていた。


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