集めたガラクタの話、スープの話、幸せそうな寝息の話、おくびょうなモモンガの話、大きなサツマイモの話、手紙と友情の話、バラとヒマワリの話、大きな川を渡る話、崖から飛ぶ話、細い路地の話
【集めたガラクタの話】
空気が抜け、ボロボロになったサッカーボールが手の中にあった。捨てる場所はどこかないかと探していると、ウサギがあわてて飛んできて、手から乱暴にサッカーボールを取り上げた。
「サルにあげましょう」とウサギは早口でまくしたてた。こんなものをあげても喜ばないと思ったが、とりあえず、サルに会いに行った。サルの家には、虫に食われて穴だらけのどんぐり、汚れがしみ込んだ机といす、僕が昔使っていた筆箱など、とにかく使えないものばかりが散乱していた。サッカーボールを渡すと、サルはまるで高価なものでももらったように喜んだ。浮かない顔をした僕の耳元でウサギは
「サルにとって、あのガラクタたちは、宝物だよ。つまり見方を変えるんだ。そうすれば役にたたないものなんてないってこと」とうれしそうに言った。
【スープの話】
寒さに震えながら、風邪で寝込んでいると、クマが小さなお皿にコーンスープのようなものを入れて持ってきた。そして木のスプーンで、スープをすくい、僕の口元に運んできた。それから、少しずつゆっくりと飲んだ。その間、クマは、
「ひとりではないよ」小声でやさしく言い、頭をポンとやさしく触った。すると、頭の先から足の先までじわじわと温まっていき、寒さなんてどこかへ行ってしまった。
【幸せそうな寝息の話】
水にぬれたネコを抱え上げると、小刻みに震えている。僕は腕のなかでその冷え切ったネコをやさしく抱きしめ、しっかりと温めた。とにかく助けたいという一心だった。さらに温めるために、息を吹きかけようとしたとき、上着のポケットから、何かが落っこちた。マッチの箱だ。中を見ると、最後の一本が端にぽつんとある。ネコを抱えたまま、近くにあった小枝を集め、祈る気持ちでマッチに火をつけた。小さな火を小枝に近づけると、パチパチと音をたて燃えはじめ、やがて大きな火になり、僕らに温かさを提供してくれた。しばらくしたら、ネコの体温は徐々に戻っていき、すっかり安心したのか、グーグーと寝息を立てていた。僕は寝顔をこっそりとのぞき、
「悩むことはないよ。君には僕がついているからね」そうぼそっと言うと、ネコの幸せそうないびきにつられて、ついつい眠ってしまった。
【おくびょうなモモンガの話】
後ろのほうで視線を感じたが、振り向くと誰もいない。歩いている途中で、カメに会って、誰かに見られているかもしれないと話すと、カメは難しい顔をしながら、
「それはモモンガでありましょう。間違いないでありましょう」相変わらず変な言葉遣いだった。
「モモンガはおくびょうでありましょう。私たちでもなかなかお目にかからないでありましょう」カメは満足そうに僕を見上げて言った。
「どうしたら会える?」
「それは、君が自由の意味を知ってからでありましょう」僕はいつかそのモモンガが見られるといいなと思った。
【大きなサツマイモの話】
さつまいもの葉をウサギが、顔を真っ赤にしながら、引っ張っている。
「手伝って。このさつまいも、とても重いんだ」助けを求めてきたので、僕は一緒になって、力の限り引っ張った。なかなかしぶとい。サツマイモのツルは太くて、ごつごつしていて、中々抜けないところを見ると、相当大きなものに違いないと思った。息をフ―ッと吐き出し、力を入れて、再びつるを引っ張ると、急に地面の土が盛り上がり、地鳴りのような音がした。僕らは慌てて飛びのいた。土の中から出てきたサツマイモは太陽に届きそうなくらい大きい。地上にその大きな実をすべてあらわすと、突然左右に実を揺すって、土を落とし、あろうことか大きなあくびをした。
「起こしてくれて、ありがとう」それは、長い間、眠っていた恐竜だった。
【手紙と友情の話】
イヌは、ネズミからの手紙を読んでいた。僕はイヌの隣に座り、
「さみしくない?もっと一緒にいたいと思わない?」そう聞いた。イヌは、フッと小さく笑って、
「みんな、そんなことは思ってないんじゃないかな。ネズミがしたいことをして、それで幸せなら、ぼくらも幸せだよ。それでもさびしくなったときは、歌をうたうんだ。そうすれば、心は静かになる。これはネズミの受け売りだけどね」今度は、透き通るような笑顔でこっちを見た。僕はドキッとした。
【バラとヒマワリの話】
僕は絵の具を集める旅に出ていた。お供のカメレオンは少し先を歩き、バラの花を見つけると
「これは何色でしょう?」とクイズを出してきた。
すぐに「赤」と答えたら、カメレオンは手で×印を作って、「ブーッ」と言った。今度はヒマワリを見つけ、同じように
「これは何色でしょう?」と言った。僕はすぐ「黄色」と答えた。すると、「ちがうちがう」と手を顔の前で大きく横に振った。
「あのバラは赤色じゃなくて、バラ色さ。バラ色はバラしか持ってないんだ。同じようにヒマワリ色はヒマワリしか持ってないのさ」
そういうと、カメレオンはまた先へとすたすたと歩いて行った。
【大きな川を渡る話】
水かさを増した川が、うなりながら、流れている。その茶色に濁った水は勢いよく、下流へと向かっていた。とても渡れそうにない。すぐそばには、ウシがいて
「わたしに任せれば一安心」と力強く言った。まったく怖くないらしい。
「けど、この流れじゃ無理だよ」そう弱音を吐くと
「わたしに任せれば一安心」と同じことを繰り返すだけだった。信じるしかないと腹を決めて、牛に乗り、川を渡った。流れは急だったはずなのに、ウシの歩くところは水の流れが緩やかになっていて、心配していたことは何一つ起こらず、無事に向こう岸に渡れた。僕が不思議に思っていると
「あなたに任せれば一安心」とウシはゆっくりと力強く言った。
【崖から飛ぶ話】
崖の上は風も強く、肌寒い。空はうすい灰色だった。海は荒れていて、高い波が岩にぶつかっては、散っている。後戻りはもうできなくて、崖の先へ一歩一歩、慎重に足を進めた。これ以上は進めない。一歩先はもう海だ。足元にあった小さな石が何粒か、暗い海の中へと吸い込まれていった。そこまで来ると、不思議なことに風はピタッと止んで、寒さも感じなくなり、ふっと体が軽くなったような気がした。僕は、目をつぶって飛び降りた。ヒューヒューと風を裂くような音がした。このままいけば、冷たい海に落ちるだけだった。けれど心は落ち着いていて、何一つ不安はなかった。遠くのほうで羽ばたく音がふいに耳に飛び込んできて、目を開けると、いつの間にか、タカの背中に乗っていた。灰色だった空には一筋の光が差して、僕らをあたたかく照らしていた。
【細い路地の話】
細い路地を進んでいる。人、ひとりようやく通れるくらいの本当に細い路地だ。僕の体はこどものように小さくなっていて、狭い壁と壁の間もなんなく通り抜けられる。四つん這いになって進んだり、体を横にして、カニ歩きのように進んだりしていく。夢中で前へ、前へと進むと、おいしそうなご飯のにおいがしてくる。もう帰る時間だと思って、少し先を急ぐと出口が見えてきた。路地を出ると、夕焼けが目にまぶしい。服には黒い汚れがいたるところについていて、手は土で汚れて、爪まで真っ黒になっていた。