青い蝶の話、王様になった話、森の中にある塔の話、うわさ話、キャンバスに絵を描く話
【青い蝶の話】
青い蝶が僕を誘うように、ひらひらと舞っていた。なにか心惹かれるものがあって、その蝶についていった。すごく長い時間歩いたような気がしたけど、全然疲れていない。足が軽くて、久しぶりに走り出したくなる。青い蝶は気が付くと、2匹に増えていて、少し目をそらすと、また1匹に戻っていた。そのきれいな羽を動かすたびに、青いキラキラとした粉が舞って、僕の歩いていく道を彩っていった。
【王様になった話】
布団にくるまって、寝返りをうった。かすかな光を感じて、重いまぶたを少し開けてみると、イヌとクマ、ネズミ、ウサギ、カメが丸い机を囲んで、いすに座り、何かを話していた。
「そうだね」「いろんはないんである」「たしかに」「サンセイ」「いいね」
そう口々に言った。どうやら彼らの話し合いは結論が出たようだった。みんな立ち上がって、拍手をしていた。拍手が止むと、イヌは近づいてきて、寝ている僕の頭に王冠をかぶした。そして
「王様、ようやくお目覚めですか」イヌは懐かしむような顔をした。
他のみんなも同じような顔をしている。どういうわけか、みんながそういうなら自分は王様に違いないと思って
「君たちをもう裏切らない。信じてくれ」と僕は、偉そうに言った。
【森の中にある塔の話】
森の中にある塔の上から、悲しい歌声が聞こえてきた。その歌声が妙に気になって、どうにかして声の主を知りたいと思った。けど、入口らしきものはどこにも見当たらないので、困っていると、ゾウがどこからともなくあらわれて
「ぼくの鼻の上に乗りな」と長い鼻をこっちに突き出した。
悲しい歌声は、途切れることなく続いている。ゾウは力を入れて、僕を上にゆっくりと持ち上げた。もう少しで、塔のてっぺんに着くと思った矢先、ゾウはくしゃみをした。僕の体はその風圧で、宙に放り出されたが、かろうじて塔のてっぺんにしがみつくことができた。中をのぞくと、誰もいなかった。そこには、ほこりをかぶった古いオルゴールがぽつんとあるだけだった。
【うわさ話】
ウサギは僕のところに寄ってきて
「病気になったんじゃないの」と早口で言った。ウサギはとてもせっかちで、思ったことをすぐに言葉に出してしまうらしい。
「病気?」身に覚えのないことだった。
「みんな噂していた。病気になったって」少し考えてみても、思い当たる節がなかった。
「だって、絵も描かないし、空想もしないし、考えることといったらつまらないことばかりでしたから」ウサギはそうはっきりと言い終えると、何か用事を思い出したのか、急いでどこかへ行ってしまった。
【キャンバスに絵を描く話】
みんな、僕に隠れて、内緒で何かをしていた。少しでも近づけば、セミが、目の前を邪魔するようにしつこく飛び、鉄壁のガードでその何かを見せないように頑張っていた。僕はすっかりしょげて、白と黒の石を使い、ひとりで遊んでいた。すると「できたよ」というみんなの声が聞こえ、後ろを向くと、そこには大きな白いキャンバスがあった。みんなは、笑顔で、さっそく絵を描いてよ、と僕にねだった。近くで見ると、表面はでこぼこしていたり、はげたりして、けっしてきれいなものとはいえなかった。けど、その手作りのあとが、かえって嬉しくて、早速、絵を描くことにした。みんなはまだ描いている途中の絵を見て、「すごい」と目を丸くして驚いた。たいした絵ではなかったけれど、まるで誰も成し遂げてないようなことをしている気がして、少し照れくさかった。