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ゆめものがたり  作者: ひじかたかた
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大きな海の話、六角形の木箱の話、転がる鈴の話、扉の向こうの話、届かない手紙の話

【大きな海の話】

「久しぶり、ようやく会えたね」イヌは潤んだ目で、僕をまっすぐ見ながら言った。感無量と言った感じで、泣きながら笑っている。あふれでた涙を拭うと、彼は突然走りだした。走っていた方向には、見渡す限りの大きな深いくぼみがあり、まるで隕石が落ちたあとのようだった。くぼみは灰色の岩肌をむき出しにし、底には、白くて丸い石が敷き詰められている。イヌは迷いなく、くぼみの中に降りていき、あるところで、ピタッと足を止めた。足元には、白い石に混じって、まるで呼吸をしているかのように光る、エメラルド色の石があった。イヌは、その石を少しの間、見つめ、僕のほうを振り返り、ニカッと笑った。それから、エメラルド色の石を拾い上げると、途端に、真っ青な水がくぼみに流れ込み、あっという間に大きな海になった。



【六角形の木箱の話】 

湯船につかっていると、底のほうにきらめくものが見えた。手で探ったり、足の裏で探ったりしてみたが、何かはわからない。いっそのこと潜ってみようと思い、目をつぶり、頭をお湯の中に沈めた。目を開けると、そこは、あたたかな大きな海だった。すぐ近くを仲良さそうに、タコとイカが、ほんのりと明るい海面へと昇っていく。その途中、8本の足に絡みついていた、六角形の小さな木箱を落としていった。一枚の葉の模様が彫られているフタをとり、中をのぞくと、僕の大切なものが入っていた。小さくなった色えんぴつ、コーラやオレンジジュースなどのビンのふた、色とりどりのボタン、四つ葉のクローバー、マッチ・・・。懐かしさのあまり、自然とほほがゆるんだ。それから、静かにフタを閉めると、絶対に誰にも渡さないように、木箱を胸にギュッと抱えた。



【転がる鈴の話】 

ポケットの中から、金色に光る鈴がこぼれ落ちた。鈴はちりんちりんと懸命にからだを鳴らしながら、坂を転がり落ちていった。こけないように、つま先に力を入れながらあとを追っていくと、ずっと鳴っていた鈴の音がぴたりとやんだ。どこかに止まったのだろう。坂の下まで来てみたが、あたりは草が伸び放題に生え、鈴の行方は見当もつかなかった。困り果てて、途方にくれていると、木の上のほうから

「まだ鈴の音は鳴っているよ」と僕の心を見透かしたように、誰かの声がした。最初は木がしゃべったのかと思ったが、よく見たら、コアラが木の枝につかまっている。耳を澄ましてみた。けど、風が木を揺する音以外、何も聞こえなかった。

「聞こうと思えば、聞こえるし、聞こえないと思ったら聞こえないよ」そういうと、コアラは眠くなったのか、大きなあくびをして、目を閉じた。



【扉の向こうの話】

何枚の扉を開けただろうか。はじめこそ、扉の向こうに何かがあるという好奇心で、突き進んでいたが、開けても開けても、こげ茶色の重い扉ばかりで、いい加減うんざりしていた。期待もせず、次の扉を開けると、いきなり、うっすらと雪が残る草原が目の前に広がった。僕はあっけにとられた。太陽の光で、雪は溶け始めていて、白い中に小さな緑の芽がところどころ顔を出している。遠くには大きな木が見える。草原では、動物たちが遊んでいて、足を踏み入れていいものかと迷っていると、カンガルーがこちらに気付き、ピョンピョンと近寄ってきて

「招待状をお持ちですか?」と明らかに怪しんでいる目を向けた。僕は持っているはずもないのに、上着のポケットやズボンのポケットを探った。すると、ズボンの後ろポケットの中に質の良さそうな紙があるのに気付いた。おそるおそる、その紙を出してみると

「持っているなら、そうと早く言ってくださいよ」とカンガルーは笑顔になり、疑いの目を引っ込め、「さぁどうぞ」と言って、手を広げながら僕を草原のほうに案内した。



【届かない手紙の話】

ゴリラがコソコソとあたりを気にしながら、みんなの輪から離れていくので、僕はあとを追った。ゴリラは大きな木の下まで来ると、誰もいないことを確認し、小さく折りたたまれた手紙を読みだした。すると、カワウソがゴリラの後ろからゆっくり忍び足で近づき「ワッ」と大声で言って、ゴリラの肩を思いっきりたたいた。ゴリラはびっくりして、尻もちをつき、それと同時に手紙を破いてしまった。カワウソは申し訳なさそうに、何度も頭を下げていた。ゴリラは

「もういいんだ。手紙はどうせ出すつもりなんかなかったんだ」と言うと、さらに手紙をビリビリに破いてしまい、みんなのところへ戻ってしまった。カワウソも背中を丸め、トボトボと帰っていった。ふたつの背中を見送り、僕は、木の下に落ちていた手紙の切れ端を拾った。手紙の最初だと思われるところには、可愛らしい字で「親愛なる小さな島へ」と書かれていた。


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