2−1
アルバン村1年目の、もしもなシルヴァン視点。というか、シルヴァンの本音ダダ漏れ物語の開始です。ハハハ。
「さてとぉ。シルヴァンだったかしらぁ?私は南の魔女よぉ、よろしくねぇ?本名はな・い・しょ♡こちらは、神官でアルギスさんよぉ。わかったぁ?」
「オン!」
中身は大和撫子、見た目はマッチョでオネエなエルフ魔女改め、南の魔女様よろしくね!で、この湿気ってる、皇弟殿下なくせに押し出しの弱そうなお兄さんは神官のアルギスさんねー。よろしくー。一応一般人のフリなわけね。了解よ。
「良いお返事ねぇ!じゃぁあ、もうちょっと、彼のお守りじゃない、護衛をしてくれてくれるぅ?」
「オン」
「頼んだわよぉ。ほんと、あんたは良い子ねぇ。はぁ、あたしはぁ、お茶でも入れましょ」
……はーい!わたし、シルヴァン!パンさん家の子になるはずが、なんか守り役押しつけられちゃった!
皇子様の守り役!そう聞くとキラキラした感じがするでしょ!
そうイメージして、今、必死に気分上げてんのー。
ふっ。頭がさっきから湿りっぱなしでさ、やってらんねーのよ。
リエちゃんたちと別れて、今夕方よ。お空が茜色!田舎の空って遮るものないから広いのよー。ね、アルギスさん、良い加減立ち直らない?、お空綺麗よ?
「オン?」
「……」
しとしとぴっちゃん、しとぴっちゃん!雨が頭に降っている〜♪
ここだけ梅雨か?梅雨なのか!?
ああ〜もう!うっとうしい!お前はカタツムリか!さっさと殻から出て、ツノ出して自己主張の一つでもしろよー!かじっちゃうぞ!
「!」
リエちゃんの足音!匂い!リエちゃん来たー!
コンコン!
「お客様がお見えです」
「あら、ありがと。お芋ちゃん、お~そ~い~」
「遅くなって、申し訳ありません」
「あなた、もういいわ、大丈夫よ」
「失礼致します」
部屋係のお兄さんバイバーイ!
「……あれどうにかしてくれないかしらぁ?」
「うわっ」
うわーだよね?でね、リエちゃんこれどうにかしてちょ。
「ず~っとですか?」
「あれからず~っとよ。あんた責任持ってもどしてよね」
「わかりました。どうにかします」
「任せたわよ」
「任されました」
リエちゃん真顔でこっち来た。お、オオゥ、それ一応皇子様!も、もうちょと丁寧に!リエちゃん、無礼打ちされちゃうぞー!南の魔女様、目ん玉ひん剥いちゃってるから!
「アルギスさん、落ち込んでる場合じゃないですよ」
「ちょ!ちょっとあんた何して……」
「黙っててください」
きゃー、リエちゃん、あの魔女様黙らせた!?魔女様でも止められないって、実はリエちゃん最強!?
「アルギスさん、あんちゃんの本心知りたいですか?」
「知りたいさ!けれど兄上が……」
「大丈夫です。間違いなく愛されてますから。ね?直接お話しましょう」
「直接?」
「ええ、直接。いい方法があるんです」
「直接話をする方法?」
「誰にも邪魔されず、きちんと会話ができます。やってみます?」
「本当に兄上の本心が聞けるのなら……」
「大丈夫です、間違いなく本心を語ってくださいますから」
って、リエちゃんそれ洗脳!力任せすぎっ!
「アルギスさん、いいですか。あんちゃんの顔を思い浮かべてください。正確にです。大好きなあんちゃんですからできますよね?」
それ挑発!
「良いですか、そのままあんちゃんの顔をしっかり思い浮かべて、こう言うんです」
何言わせるの!?
「『兄上』」
「兄上」
え、あにうえ?兄上って皇帝陛下!?
「『助けて』」
「助けて」
助けてって、皇帝陛下直ぅ!?
「『食べられる~!』」
「食べられる!」
だ、誰に!?あ!魔女様に別の意味でってこと!?
「そうです。その言葉に魔力をのっけてください。あんちゃんにこの言葉届けって強く念じながらです」
『シルヴァン、合図したらお口あーんしてね』
え!?念話?私なんですか!?まじですか!?アルギスさん簡単に頷かないでー!責任とってくださいよ!?いくよ!?いっちゃうよ!?
『シルヴァン、今!』
えい!パカリンコ!
「「ぎゃー」」
え?魔女様まで驚くの!?
『兄上!助けて!食べられる~!』
「あんた何やらかしてんのぅ」
「シルヴァンもういいよ。アルギスさん、スキルに念話生えました?」
お口乾いた。リエちゃん、めっちゃ力技すぎ!
「び、びっくりした。食べられるかと本気で思ったよ。えっと、スキル?念話?生えてるよ」
ごめんよー。うり!
「わ、シルヴァン。舐めなくていいから~」
ぐえっ。アルギスさん、抱きしめなくていいから〜。苦じいぃ。
「じゃあ成功ですね。アルギスさんが愛されてたら……」
「!!!なんかくるわよ!村の結界に穴が空いた!?」
なんか、おっきな塊きた!なんぞー!?
「「え?」」
「ウォン!」
うおー!なんかアルギスさん渋目にした髭のおっちゃんきた!ちょー怒ってる!?
「南の!そなた我が大事な弟に何をした!?」
「失礼ね!何にもしてないわよ!範疇外よ!」
あ、やっぱそう思っちゃますよね、さっきのセリフ。
「……あ、あにうえ?」
あ、やっぱりお兄さんでしたか。って皇帝陛下来ちゃったの!?まじでっ!?
「アルギスさんのおにーちゃんですか!良かった、来てくれて!アルギスさん、おにーちゃんに嫌われたってすごく落ち込んでたんですよ」
「な!?私が大事に育てたアルギスを嫌うわけなどなかろう!?」
「ですよね!すいませんけど、お二人でしっかり話し合ってもらっていいですか!私達部屋の外に居ますから!シルヴァン、二人の護衛をお願いね。じゃあ、失礼します。南の魔女様行きますよ」
え!?え!?置いてかないでー。ちょ、なんとか、ここから、抜け出すぅよっと!護衛は、守りはしても見て見ぬ振り!私はできるsp!兄弟水入らずの邪魔はしない〜。リエちゃんの推測通り、アルギスさん、お兄さんに愛されてんじゃん。皇帝陛下はただの弟LOVEな人だったよ!
「……そなたを守るよう命令したのか?」
「いえ、私が落ち込んでいましたので慰めてくれたのです。ね?シルヴァン」
「ウォン」
ええ、慰めさせていただきましたとも!褒めたまえ!ご褒美も、なんならもらってやるぞ!
「言葉がわかるのか?」
「みたいです。アマーリエも、命令するというよりは、どちらかと言えばお願いするというか、頼むという感じですし?」
リエちゃん、ご飯おいしいもん!お願いぐらい聞くもんね!しっかし、仲良いなぁ、この二人。あ、廊下に誰かきた!
「ふむ……。アルギス、部屋の外の者たちを中に。そなたを心配して集まっておるようだ」
「はい、兄上」
「私は、ここにそなたの兄として来た。よいな?」
「では、呼びますね」
「うむ」
あ、かっちょいいおじいちゃん!ん?リエちゃんおいでおいでしてる〜。なにー?
「すみません、皆さん。ご心配おかけしました。どうぞ、お入りください」
「その、かまわんのかの?」
「はい、兄上がぜひ皆様とお話したいと。あ、アマーリエもね」
あ、リエちゃん、今、内心で舌打ちしたな。顔ちょとひきつり笑いになってる。
「私、お茶淹れますね」
わたし、リエちゃんのそばーっと。これから何が始まんのかしら?ワクワク。おお、かっちょいいおじいちゃんもお兄さんもすごく偉い人っぽくなった!おお!これが貴族か!うわお!リエちゃんまで、それっぽく振舞っちゃてるよ!はわぁって、感心して見てたら、お兄さん消えた!
はぁ、びっくりしたぁ。けど、アルギスさん、お兄さんと相思相愛でよかったね!ほー、この国の王様と皇帝陛下は仲良しさんなんだねー。じゃあ、国同士で戦争とか、起きなさそう!平和、大事!って、お菓子戦争が個人間で起きるの?王様と皇帝陛下はケンカ友達なんだねー。しかし、リエちゃん罪作りな女っぽいねぇ、ネタはお菓子だけどさ!
「ギャー、役場!すっかり忘れてた!シルヴァンの登録にいかなきゃ!皆さん、すいません失礼します!シルヴァンおいで!」
え!?あ、はい!今行きます!おー、もうお空暗くなってきてるー。あ!一番星!
「まだ村役場開いてた!シルヴァン、こっち!」
「オン!」
はい!今行きますよ!
「ヨセフさん!すいません。この子の登録なんです!」
「あ!パン屋さんいらっしゃい。この子が!真っ白くて綺麗な魔狼ですね」
「オン!」
うほほ、イケメンでしょ!もっと褒めていいよ!丸こくてかわいいおじちゃん!丸メガネと腕カバーがまさに役場のおじちゃんて感じだ!
「おや、愛想のいい子だね。じゃあ、パン屋さんと一緒にこっちに来てくれるかな?」
「はい」
「オン!」
虹色の水晶玉だー!ファンタジー!
「じゃあ、パン屋さんと一緒に、この水晶玉に触れてくれるかな?」
はい、タッチ!うおぅ、ちょっと光った!
「はい。これで登録できましたよ」
「ありがとうございます。シルヴァン共々、今後もよろしくお願いします」
「オン!」
「こちらこそ。私はヨハンだよ、シルヴァン。いつでもおいで」
「はい!では、また」
「オンオン!」
おおー、ヨハンさんもいい人そう!よろしくねー!バイバーイ!
「さて、シルヴァン。今日の夕食は、ベルンさんたちが奢ってくれるんだよ」
「オン!」
シブメンのおっちゃんが!?まじで!?ヤッホーい!ルンたった!えーっと宿屋に戻るのね?でそこの食堂っと。あれ?リエちゃん、中に入らないんですか?腰引けてません?
「……帰ったほうが無難?」
え?何事?
「お客様?」
おふっ!給仕のお兄さん、なかなかやるね!気配しなかったよ!
「あ、う、ま、また来ようかな……なんて」
えー!?リエちゃん、ご馳走!
「あ!シルヴァン!おいで!美味しいものがあるよ!」
あ!アルギスさんだ!美味しいものですって!?只今参りますともー!イエーィ!あーん!
「はい、マジッククェイルのソテーだよ」
うんまぁ!ジューシー!地鶏より味濃いわー。って、なんかまた、今夜もお守りをすることになってしまった。まあ、唐揚げ食べられるし、アルギスさんも、お兄さんと別れて寂しいだろうからいいか!
テイムの話になってるけど、わたしってテイムされてないっぽいんだけどなぁ。まあ、いっかぁ!問題なさそうだし!けどさぁ、ここの皆さん、みんな、お強すぎじゃありませんこと?わたし勝てるの、アルギスさんぐらいよ?ちぇー。もう好きなだけお腹撫でていいよ!
「さて、そろそろお開きにするかのぅ。銀の鷹の皆には、アマーリエが世話になった。うちの領民を守ってくれて、ありがとうの」
「いえ。依頼を果たしただけです。それに……」
「リエのおかげで、道中もうまい食事ができましたから」
「フォッフォッ。そうか。また、何事かあれば依頼を出すと思う。その時はよろしゅうな」
「はい!こちらこそ」
「ベルン〜!おやすみなさ〜い♡」
おぉう!シブメンおじちゃん、南の魔女様にチューされちゃった!あ、なんかダメージ喰らった?でっかいおじちゃんに、おんぶされちゃったよ。
「シルヴァーン?」
「オン!」
はい!魔女様只今!
「アルギスさんをぉ、お部屋まで連れてきてねぇ?護衛ぃ、頼んだわヨォ?」
「オン!」
イエッサー!じゃない、イエッス!マム!で、護衛対象どこ?あ、いたいた!あ!おにぎり食べてるぅ!でももうお腹いっぱいだしなぁ。また今度、リエちゃんにもらおうっと!
「んじゃ、私も帰ります。シルヴァン、アルギスさんのこと頼んだよ」
「オン!」
任せて!枕ぐらいはやれる!
「それじゃ、良い夢を!」
「リエも。おやすみ」
リエちゃんおやすみー!さ!アルギスさん、お部屋に戻るよ!
「うふふ、シルヴァン。押さなくってもちゃんと歩くよー」
「オン!」
おい、えらいさっきと違うな!青ダヌキ歩行になりかけてんじゃん!どんだけ、舞い上がってんのさ!ほれ、フラフラしないで歩け!
「魔女様、今、戻りヒャウ!」
ヒャウ?うおー!?のっぺらぼうきたー!?って魔女様、パック中?心臓止まるかと思った!
「あらぁ、お帰りぃ」
「ただいま戻りました。南の魔女様、色々ご迷惑をおかけいたしました」
「気にしないでぇ。お兄さまの気持ちが知れて、よかったわねぇ」
「はい!明日から頑張れます!」
「それじゃぁシルヴァン、アルギスさんをヨロシクねぇ。ほんと助かったわぁ。睡眠不足はお肌の大敵なんだものぉ、ゆっくり眠れて嬉しいわぁ。今日のあんたの主人ときたら、心臓に悪いことばっかり起こすんだものぉ。今日ぐらいゆ~っくり寝させてほしいの。あんたは主に似ちゃだめよぉ。そのままいい子でいてね」
ハハハ。リエちゃんもまさか皇帝陛下が直接来るなんて、思ってなかったと思うんだー。わたしはいつだって、いい子ですよ!えっへん!
「あははは。南の魔女様も、良い夢を」
「ええ、アルギスさんもねぇ。夜更かししちゃだめよぉ。シルヴァンもおやすみぃ。ベルン待ってて!夢で逢いましょうねぇ」
おおぅ!投げキッスが様になる人、初めて生で見た!顔パックだけどな!南の魔女様なら、夢を渡るぐらいぐらい普通にできそう。シブメンおじちゃん、夢も見ないぐらい深く眠ってるといいな。
「むふふふ」
「ゥオン?」
え?今度は何?なんなの?アップダウン激しすぎなんですけど!何?念話でお喋りするの?さっき、魔女様に早く寝なさいって言われたじゃん!
「ちょとだけ!ね?」
しょうがないなぁ。まあ、お兄さんと意思の疎通ができたばっかりで、まだちょっと不安なんだろうな。ほれ、月があそこまでだぞ!
ベッドヘッドの棚に御供物?何するの?ちょ、顔緩みっぱなしだよ!大丈夫?何話してんの?ムー、飽きてきたぞー。お、おにぎりが消えた!それ何?気になる!魔法陣?こんなのあるんだ!ファンタジーだぁ。
あ、お月様もうあそこまで移動した。
「ふみゃ」
はい!アルギスさんストップ!そこまで!ねーまだ?
「終わったよ~、シルヴァン。さ、寝ようか?」
寝るよ!はぁ!ふかふかのベッドー!あら、アルギスさん、こうしてみたら割と顔は整ってる方?言動がダメダメすぎただけかぁ。まつげ長っ!
幸せそうな顔して寝ちゃって。昨日までとえらい違いだね。……誰かにしがみつかなきゃ、生きていけない人生って、怖いなぁ。一人は怖いけど、それでも生きていくために、アルギスさんが自分自身の人生を歩く力を蓄えられるといいな、この村で。心の支えになる友達が増えるといいね!アルギスさん……むにゃ……おやすみなさい。