2-14
お久しぶりです、冬らしくなってきましたね。
今日もまた、ひたすらパンと野菜と肉を切って、鍋の番をしたでござる。
みよ!この全ての鍋を使い切った、厨房を!
「一人暮らしの予定でさ、まあ、君がおまけ程度なのに、なんでその量の鍋が必要だったのかね?」
ヒマジンよ、そのツッコミは本人によろしく!
この鍋たち全てにスープが入ってる!偉業だよ!こんなにスープ作ったことがあったろうか?いや!ない!
「現実逃避じゃないのかそれ?」
うるさい、ヒマジン!給食のおばちゃん、おじちゃん、寮や社食のまかないさん、食べ物屋さんの料理人の方々、頭が下がります!感謝!
「さて、シルヴァン。今日はどのスープを売ろう?ヨハンソンさんは、状態維持の鍋一個、持って来てくれるはずなんだよね」
「クゥ(あぁ)……」
つまり、それに一種類スープをまとめないと、使える鍋がない状態なんだよね!
リエちゃんが、小さな木皿にスープよそってくれたけど、どれも美味しくて甲乙つけがたし!
コーンスープは、ひきわりとうもろこし(これは、よその領地で取れるとうもろこしを、あらく砕いたものらしい)をさらに細かく粉砕して、口当たりをなめらかにして、牛乳と塩胡椒で味を整えたシンプルなものだ。とうもろこしと牛乳の甘味が美味しい、子供が好きなスープだと思う。クルトンと刻みパセリ乗っけたらばっちり!うーん、大草原の小さな家に出てた、とうもろこしのパン、コーンブレッドだっけ?あれ食べてみたい。ローラのお話好きだった!
玉ねぎとにんじん、じゃがいもなんかの根菜に一口よりは小さいけど、塊のベーコンがいっぱい入ったポトフは、お出汁も効いて美味しい。そして何よりベーコン美味しい!
キャベツと新玉ねぎ、鶏肉の入ったトマトスープは、トマトの酸味とキャベツと玉ねぎのシャキシャキ感、柔らかな鶏肉の旨味が渾然一体となって、これもまた美味しい。
ヌーン、いっそ3種類スープ盛りにしたらダメ?リエちゃんに画像念話!
「いや、それ、お腹チャプチャプでしょ」
ですよねー。
「サンドイッチは昨日と一緒だからなぁ。肉と野菜っけが足りないから、ポトフが良いと思う?」
「オン(そうだね)!」
トマトスープは、キャベツの方が多いもんね。
「これなら、切ったパンと合わせても栄養偏らないしねぇ。昼のまかないはトマトスープにしよう」
「オンオン(そうしよう、そうしよう)」
「さて、昨日出た大量のパンの耳は、昨日のうちにシュガーラスクとチーズラスクにし終えたし。これは、量り売りにしようと思うの。袋詰のも出すけどね。さて、今日出た分のパンの耳は、キャラメルラスクと胡椒のラスクにしようか?」
「オン!(作る!)」
パンの耳ラスク、おやつにピッタリ!
「半分はバター液にサッと潜らせて、半分はオリーブオイルにしようかな」
ふんふん。
「先にオリーブオイルの方をオーブンで軽く焼いて乾燥させてる間にキャラメル作ろう。えーっと、この残ったバター液をちょっと濾してっと」
無駄にしないんですね。あ、オーブンからいい匂いしてきた。
「シルヴァン、フライパンみててー。砂糖水が飴色になってきたら呼んでー」
「オン!(わかった!)」
ヨイショ。うーん、まだ沸々してるだけだなぁ。
「次はバターの方をオーブンに入れてっと。シルヴァン、ありがとう。シルヴァン、紙袋でさ、シャカシャカしてこのパンの耳に塩胡椒で味付けできる?」
「オーン?(どうだろ)?」
風のちっちゃな竜巻を紙袋の中で起こせばいいのかな?
「オンオン!(やってみる!)」
「よし!任せた!」
「オン!(任された!)」
えーっと、最初はちょっとでお試しっと!全部やって破裂させたら目もあてられん。紙袋に、パンの耳入れて、塩胡椒をふりふりーっと、こんなもんかな?リエちゃーん。
「ああ、それぐらいでいいね」
うい。では、袋の口をぐっとおさえまして、軽ーく風の魔法をぐるぐるっとな?
「カサカサ、カサカサ」
いい感じ?もうちょい、強め?
「シャカシャカシャカシャカ」
おお、これこれ!この音よ!
「シャカシャカシャカシャカ」
こんなもんか?ではストップ。できたかどうだか、食べてみよ!むしゃむしゃむしゃ!
「オン!(うまっ!)」
オリーブオイルと塩胡椒ってなんで美味しいのか。
「できたー?」
「オンオン(できたできた)」
「どれどれ。いいね!じゃあ残り頼んだよ!」
「オーン!(任せてー!)」
では、残り半分、塩胡椒は、比率的にさっきの倍より多めぐらいかな。少なく入れといて途中味見して確認確認と。では、シャカシャカ魔法ー。
「味見と称したつまみ食いなのではないのか?」
味見はれっきとした作業です!ヒマジンも仕事しろ〜。部下の人、ちゃんと上司を管理してー。
「上司の管理は、部下の仕事じゃないんですよ!ほら!下界ばかり見てないで、次のお仕事入ってますよ!」
「わかった、痛い痛い、耳を引っ張らないでー」
どこの昭和の悪ガキだ?頑張れ部下の人!下界から応援してるぞ!
「応援ありがとうございます〜」
よし!味見!追い胡椒入りまーす。塩は少々と、シャカシャカ魔法ー!では!
「オン!(完璧!)」
さ、残りを同様にーっと。
「シルヴァンできた?」
「オン!(完成!)」
「こっちもキャラメルラスクできたよ。味見する?」
「オンオン!(スルスルー)アーぉ(あーん)」
「ほい」
「わふ」
あまーい。美味しい。もう一個!
「シルヴァン、朝ご飯食べてからねー」
「オーン(はーい)」
「コーンスープとハムサンド、先に食べてて。私はつまみながら、これ瓶に詰めて、後片付けしちゃうから」
「オンオン(了解)」
では、端っこでいただきますっと!コーンスープうまー。ハムサンド、ハムが厚めで美味しい。味見もいっぱいしたし、これぐらいでちょうどいいかな?
「おかわりする?」
「オオーン(大丈夫ー)」
では、お皿に浄化魔法っと!
「ありがとう」
お、なにやら裏口が騒がしくなってきたぞ!アリッサさんとブリギッテさんかな?
「「おはようございます〜」」
「おはよう〜」
「オンオン!(おはよう〜)」
「聞いて!昨日貰った甘いパン、弟達に食べられちゃって一口しか食べてないの!」
アリッサさんとこも、弟さんがいるのねー。
「ありゃ、お姉ちゃんは大変だ。今日はラスクいっぱいあるから、持って帰ると良いよ」
「ほんと!?」
「うん。従業員特権で」
「ありがと〜。お父さんもお母さんも目が訴えてたのよね、食べたいって」
「あはは。私はそれを見越してちゃんとアマーリエさんに数貰った」
「ブリギッテてほんとしっかりというか、ちゃっかりしてるよね」
「ほほほ当然。アマーリエさん大好評だったよ。いつから売りに出すのか聞いてきたけど、まだ試作だからって言っといたよ」
「ありがとう。小豆と卵を安定して仕入れられるようになったら出そうと思ってるんだ」
「なるほどね。卵なら神殿で余ってるんじゃないかな?」
ブリギッテさん、なんで神殿で卵?
「はい?神殿?」
「神官さんが減ってるのに鶏の数は増えてるからね」
へー、自家用の卵のために飼ってるのか。で、鶏の方を絞める数が減って、増えてるわけねぇ。
「ありゃま」
「急な時は卵とか分けてもらいに行くんだよ。うちは神殿に近いから。あと鶏糞もね」
薬草園だから、肥料が必要なのか。なるほどなぁ。
「へ〜、なるほどねぇ。今度聞いてみるよ」
「うんうん」
「ああ、これラスクね。味見して〜。後これパンの補充よろしくー」
「任せてー。あ、この甘い方、弟たちが喜びそう!」
「お茶請けにいいね。おばさんたちにも送ろうかな?これ日持ちする?」
「今の時期なら温度の低くて湿気が少ない場所なら2〜3日はもつよ。ギルドの転送陣が使えるのなら、送れるんじゃないかな?」
「じゃあ、おばさんたちに、先に連絡入れてから送る方がいいね。やってみる!」
「うん、その方がいいね」
アリッサさんのとこは、親戚が遠くに住んでるのかな?
「「おはよう〜」」
にょ!?ソニアさんとヨハンソンさん?外に二人の気配しなかったよ!?!?なんで???
「「「おはようございます」」」
「オン!(おはよ!)」
「ほい、アマーリエ、鍋」
おおぅ、寸胴鍋だ、まさしく。
「ありがとうございます」
「鍋五杯分の拡張にしといたから」
「え」
わー普通の寸胴鍋が、容量5倍か〜。すげー。
「昨日のスープの売れ行きから状態維持だけより、拡張もつけたが良いかもって言っちゃったの。鍋が空になるたびに追加を入れてもらわないといけないでしょう?ダメだった?」
「いえいえ、そうですね。助かります。ソニアさん、ヨハンソンさんありがとうございます」
「今日のスープはなんなの?お昼用にもらっていこうと思うんだけど。保温マグも持ってきたし」
「あ、自前の作ったんですね」
私も、自分のマグ欲しいー。
「うん。使って改善できるところがあるなら改善したいしね」
「さすが〜、ヨハンソンさん」
「褒めてももう追加の仕事はなしだからね。扉と鍋の請求書は青の日にまとめて持ってくるから」
「へ〜い。よろしくお願いします」
「それじゃ、扉つけちゃうから、スープとサンドイッチお願い」
「毎度〜。今日のスープは塊ベーコンのポトフですよ。あ、ラスクつけときますんで店の皆さんとおやつにでも食べてください。感想はソニアさんに伝えといてもらえたらうれしいです」
「わかった。ありがとう」
ヨハンソンさん、お手伝いしまっせ!はい、魔法で押さえとくよ!
「!君、主人に似ないでいい子だねぇ。うちの子にならない?」
「キュゥ(それはちょっとぉ)」
「ヨハンソンさん、誘惑しない!ソニアさん居るでしょ!シルヴァンはうちの子ですからね!」
ウヘヘ、リエちゃんちの子!はい、反対側ねー。
「君、本当僕の助手しない?」
プルプル。ラブラブ夫婦の間は、ごめんでやんす。
「うーん、ダメか。君もアマーリエ並みに面白そうなんだよねぇ。あ、そこ押さえててくれる?」
こう?
「そうそう。ありがとう」
はい、ネジ。
「お、お利口さんだなぁ、ほんと。ん?なんか、女同士できな臭い話ししてないか?」
ん?ヨハンソンさんの儲け話じゃないの?
「うふふ、宣伝お願いね。ハリー、仕事忙しくなりそうよ〜」
「大丈夫!もう他の魔道具屋とも連携して、保温マグと保温瓶は量産に入ってるから」
すんげードヤ顔いただきました!
「ありゃ、凄いですね」
「何年君と付き合いがあると思うの?数をぼかしていっぱいって君が言う時は、だいたいその後、大量生産しないと間に合わなくなってるだろう?」
そうなんだー。大量受注になるんだ。生産大変ね。
「……ソウデシタネ」
「領都と違って、まだ、アルバン村は千人ほどしかいないから、生産体制さえできれば楽なんだけどね。村の中は、ものづくりの景気に沸いてるよ。扉に折りたたみの椅子と机、煉瓦屋も大工のところもだ。他所の業種のところも、何か儲け話はないかと大騒ぎだから」
「え、まじで?あ、普及版の焜炉も火がつくかも。焜炉だけに」
「……面白いこと言ったつもり?それどういうこと?」
あ、ヨハンソンさん、目がすわっちゃった。
「えーっと昨日商業ギルドのメラニーさんが来て、ご飯一緒に食べたんだけど、その時に薪の竈じゃ料理が難しいって話になって、普及版の焜炉ができるよってポロリと」
「ぐはぁ。わかった。そっちもすぐに体制整えて生産に入るから」
初めて、orzな人を見たぜ!
ささ、ヨハンソンさん、気を確かに!ほれ、扉のネジはあと一個!
「よろしくお願いします〜」
「君ときたら!まったく!儲かるのは嬉しいけど悲鳴になるんだからね!自重してね!領都のお店も普及版焜炉のせいで大変なことになってるみたいだから。ステファンさんから帰ってきてくれって泣きの入った手紙が届いちゃったよ!今は帰る気全く無いけどね!」
「うっへぇ。うちの親からの手紙には特に何も書いてなかったなぁ」
「君とこのご両親、基本的にあれこれ噂話をする方じゃないじゃないか」
「確かに」
へー、リエちゃんの実家は、寡黙なパン屋さんなのねー。
「「ねえねえ普及版のこんろって何?」」
旅行にももっていける、軽量かつ便利なコンロですよ!ガスボンベの代わりに魔石使います!
「竈の代わりに火の調節が簡単にできる料理用の魔道具よ。うちもハリーに頼んで買ってもらったの。料理が楽になったわよ」
「え、そんなのあるんですか?」
あるんですよ、ブリギッテさん!
「気になる!」
なるよねぇ?お姉ちゃんだからお手伝いしてるんでしょ?アリッサさん。
「ハリー、お店にもう見本出てたかしら?」
「ああ、一応置いてある」
「「お母さんと見に行こう!」」
一家の主婦の意見大事!
「う〜ん、一度魔導焜炉のお披露目会とかしたらいいのかな?」
リエちゃん?仕事自分で増やそうとしてない?まだ開店二日目よ?
「あら、それ素敵ね。使い方もわかるし、料理の講習会もその場であったら嬉しいわね」
「ですよね〜」
「「なにそれ!楽しそう!」」
「ちょ、待って!数をある程度用意できてからにして!」
ヨハンソンんさん、血の気引いてない?
「は〜い。まあ、こっちもパン屋が軌道に乗るまでそれどころじゃないですから、安心してくださいよ」
「全然安心できないから!言質とっとかないと」
そうなんだー。
「ブー」
「うふふ。大丈夫よ、ハリー。村に噂が広がるまで時間あるんだし」
「「甘い!」」
「「え?」」
え?
「今日、私達が親に話すでしょ?」
「うん」
うん。
「確実に明後日までに周知徹底されるね。今、このパン屋からの情報はみんな注目してるから。村の情報網はすごいよ」
「「「……」」」
オーマイガー!
「呼んだ?」
私にも神を選ぶ権利はある!
「「ということで、ヨハンソンさん、頑張ってね」」
ブリギッテさん、アリッサさん、ちょーぅ、いい笑顔だね。
「……」
あ?息してる?ヨハンソンさん?蘇生魔法はまだわかんないんだけど?ぶちゅっと人工呼吸ならぬ、狼工呼吸やっとく?
「ハ、ハリー?大丈夫?」
「真剣に、親方と相談する」
生き返ったっぽい。
「「それがいいと思う」」
アリッサさんとブリギッテさんの、この実感こもった頷きが恐ろしい。
「すぐに、店に行くよ」
「はい、これお昼とおやつ」
「うん。ソニア、今日は迎えに行けないかも」
「大丈夫よ。夕飯に美味しいもの用意しておくわ」
「ありがとう、ソニア。君だけだよ、僕を労ってくれるのは」
「まぁ、ハリー」
強制ラブラブ劇場は、絶許!
うわーん!爆発しろー。
ヒヤシンスの球根を見かけました。
水耕栽培久しぶりにやってみようかなぁ?
子供の頃、やりませんでした?




