2−12
「「「「はぁああ」」」」
「ハヒュ〜」
ふっ。仕事の後の風が気持ちいいぜ。
我れ、切って切って切りまくったでざる。
「どこぞの芸人か!?」
リエちゃんのパン屋さんは、オープン初日の賑やかしもあってか忙しすぎて、途中でヒマジンが何か突っ込んできやがっていたけど、相手をしてる余裕が全然なかったよ。
切り捨て御免でござる。
「おいー?聞いてー」
小人閑居をして不善をなす。暇なら仕事しろ、ヒマジン。それか全力で遊びな、神同士でな!
「うちにあったかぼちゃ使い切ったよ。明日のスープはどうしよ……」
「オン(だね)……」
カボチャのスープ、甘くて美味しいから、パンによく合うんだよね。お腹もふくらむし。
「パンを切って欲しい人も、結構、居ましたね」
そうだねぇ、ナターシャさん。私、今日は、何枚切ったことか……。
「ええ。切ったパンとスープでお昼にする人が結構居ましたよね」
イートインの分とテイクアウトの分とで、仕分け作業も増えて大変だったよね、ソニアさん。
「シルヴァンがパン切るのが、面白かった人も多かったですけどね……」
おじちゃん達、絶対面白がってたよね!リエちゃん!
「外で食べる人が増えたせいで、机と椅子まで増えることになろうとは……」
村の人、長居しすぎない程度に、イートインで食べてお喋りして帰ってたね。商売してる人が多いからか、割とその辺の空気は読んでるよねー。
ところでブリギッテさん、やっぱ疲れた?まだ若いのに、机に突っ伏したまんまとは、今日はやっぱりハードモードだったのね。
「増えましたね……。まさかジュブワの女将さんが『開店祝いよ』なんてポンと出してくださるとは思いもしませんでしたね」
女将さん、すんごい笑顔だった。空気読むだけじゃなく、空気読んで攻勢かけてくる人だね。
ナターシャさんは、違う意味でも疲れてたりする?微笑みに力がないよ。
「うん。ジュブワさん顔が青くなってたけど、大丈夫かな?」
リエちゃん、よく見たら、目も虚ろだったよ、ジュブワのおじちゃん。
「大丈夫だと思う。多分今頃、村のみんなが、庭用に折りたたみの机と椅子を注文してるだろうから。元は、取ってるはず」
はい?つまり、開店祝いは、広告みたいなもん?商機は逃さない的な?
「「「えっ!?」」」
「うちのお母さんもだけど、アリッサのとこのおばさんも庭に置こうって話てたもの」
「「「そうなの!?」」」
へーっ!今からの季節、庭でのんびりするのは、気持ちいいもんね。
「うん。おばあちゃん達は、ベンチもいいねぇって話てたし」
「変な波つくっちゃったかな?」
「オン(そうかも)」
「そうなるとうちのイワンも他人事じゃなくなるのかしら?」
「かもね」
「「?」」
ナターシャさん、ブリギッテさん。リエちゃんとソニアさんは、わかってないみたいよ。疲れ切ってるからかな?イワンさんが関係するなら、あれでしょ、昨日壁ぶち抜いて作った扉。
「庭に直接出られるドア作ったでしょ?」
「うん」
「そういうドアがある家ってないから、頼む人が増えるかもしれないなって。玄関と勝手口だけの家がほとんどだもの」
やっぱり。まあ、村の景気が、良くなるのはいいことなんじゃないかなぁ?お金は使ってこそ、世の中に回るんだし。冒険者以外もお金使わないと、貨幣経済になんないよね。
ん?なんかお腹の虫がモニョモニョ言い出してきたような?
「アルバン村じゃぁ、商売の種を逃がすようなうっかりは居ないよ」
てか、村の人の情報収集能力、どうなってんの?おかしいと思うの!あ、力が入んない。
「そうねぇ」
「「なるほど〜」」
「……キュゥ(なんか食べたい)」
「ああ、シルヴァンお腹すいた?」
「オン(空いた!)」
「今日は魔力もいっぱい使ったもんねぇ」
「オンオン(風魔法のレベル上がったし!魔力操作のスキルも付いてレベルも上がった!)」
「隠形付いちゃうけど塩揚げ鶏の残り食べる?あれなら魔力も補給できるでしょ」
「オン!(お肉!)」
「取ってくるよ。皆にもお茶とお菓子持ってくるね」
「「「ありがと〜」」」
わーい!おやつ!
「ちょっと君、ダイエットするんじゃなかったの?シュッとしたイケメン狼目指すんでしょ?ここは夕食までグッと堪えるべきじゃないかな?」
成長期なんです!
「おまたせ。あんドーナツとクリームパンだよ。どっちも甘い菓子パン。この先、店に出す予定。ほい、シルヴァンは塩揚げ鶏」
あ、あんドーナツとクリームパンは、後で、私にもください。けど今は、唐揚げ!
うふー、湯気上がってる!揚げたて保管最高!!では、全集中で!
「ワフー(幸せ〜)」
塩気混じりの肉じるうまー。ふ、これに冷え冷えのビールがあったらば!仕事上がりの一杯美味しいよね!
「ちょ、そこの中身年頃女性なはずのおっさん魔狼。もう少し魔狼らしく擬態してね!」
仕事上がりの一杯に、男も女も関係なし!未成年はダメよ!
唐揚げうまー。いずれ醤油も見つけ出し、ニンニク醤油味な唐揚げ目指すぜ!
「君の食に貪欲なところは、パン屋さんにピッタリなんだろうけどね。あんまり魔狼らしくなくて、目立つと狙われちゃうよ!」
これが私の個性!アルヴァン村は安全!問題なし!
「ちょっと、自制してよ!」
私の辞書に自重も、自制もございません。
ふぅ、空腹感は無くなったかな?まだ食べられそうだけど。で、みなさん、なんのお話中?
「ああ、竈使って、毎度出す味が変わらないように調理するのって難しいからねぇ」
「魔導焜炉が新しくなったってハリーが言ってたわよ?」
コンロのお話ですか。旅の途中でかまども観たけど、やっぱコンロ便利っすよねー。火加減楽だもん。かまどはコツ覚えるまでが大変そう。
「あれ、普及版の焜炉できたんだ!」
「ええ。そっちの仕事も一段落して、さらにスキル磨くためにアルバン村に修行に来たのよ、ハリーは」
「そうだったんですね。しかし、ソニアさんよく付いてく決断されましたよね」
「うふふ、ハリーの隣が私の生きる場所だもの!」
あ、オチはそこですか。甘いもの食べてないのに、デロアマで胸焼けしてる気がするです。うへっ。
なんか口直しにしょっぱいのください!って、噂をしてたら、魔道具屋のお兄さんきたし。
「ソニア、お疲れ様。迎えにきたよ」
「ハリーもお仕事お疲れ様。ありがとう」
「あ、ヨハンソンさん!いいところに!ちょっと話があるんですよね!」
あ、リエちゃん、ラブラブ劇場を強制終了させたし。
「アマーリエ?」
うわ、お兄さん、顔引き攣った?
「ちょっと待っててください!」
ん?リエちゃん?魔道具屋に話?あれか?仕事中に、鍋に状態維持とか叫んでた、あれ?あ、寸胴鍋持って出てきたよ。
「……」
「……」
はい、みあってみあって!八卦よーい残った!マングース対コブラ戦始まりました!どっちがどっちかは知らん!
「……増やす気だね」
「色々ありまして、鍋三個追加で。こっちは状態維持魔法のみです」
「新婚なんだって言ってるよね?」
「ええ。今日は嫌ってほど身にしみましたよ?仲がよろしくてよかったですねー」
同じく。
「うん」
「ソニアさんにかっこいいとこ見せたいですよね?チョチョイのチョイで出来ちゃうって」
「ソニアは僕のダメなところも愛してくれてるから格好良くなくていいんだ!」
うへぇ。甘い、甘すぎるぅ。精神攻撃きた!どこかにお煎餅かポテチはありませんか!?
「くっ、別にタダだなんていいませんよ。ちゃんと働いていただいた分に特急料金上乗せしますし!」
「当たり前だろ!」
「ハリー、意地悪言わないで。ね?」
「ソニア……でも君との時間が減ってしまうじゃないか」
「ハリー?貴方が好きそうな甘いものもらったのよ。一緒に食べましょ?」
う、なんですかこの新婚劇場?強制閲覧のダメージ酷いんですけど。
「はぁ。わかったよ。明日は棚の扉の拡張魔法との鍋一個の状態維持!残りの鍋は次の青の日ね!」
「……よろしくお願いします(もげてしまえ!)」
リア充メガネ!もげろ!
精神ダメージは受けつつも、寄り切ってリエちゃんの勝ち!でもなんで、わたしたちまで、SAN値削られにゃならんの?
「ああ。じゃあ、戸棚の扉外すから」
「お願いします。あんドーナツとクリームパン入れてくるよ」
「ありがとう、アマーリエさん」
さ、魔道具屋のお兄さん、仕事仕事。あら、仕事も手早いんですね。あ、それアイテムバッグですか?口は巾着になってて絞れるんですね。
「シルヴァン、興味津々でみてるな」
「ワフ(興味あるよ)」
いろんな袋の形があるんだもん。
「はい、お待たせ」
「お。ありがとう、じゃあ、明日な。アマーリエ」
「お願いします!」
「アマーリエさん、明日ね」
「ソニアさんも、また明日よろしくお願いしますね!」
「オンオン!(バイバイー)」
「シルヴァンもまたね!」
ふふふ、新婚は家の中だけでお願いします!




