2−10
本日快晴!っていうか、まだ西の空にお星様が残ってるんですけどね。今日はオープンの日です!パン屋の小僧さんとしてお仕事頑張るぞ!
お店のチェックをしているリエちゃんの顔も、とっても真剣です。
「今日は、昔からこの店で売ってたライ麦パンとカンパーニュ、それにバゲットを出して……。新しく出すのは食パンとサンドイッチ、これらは全部できてるっと。パンの追加は冷却棚において。サンドイッチは冷蔵ケースに入れて残りはアイテムリュックに入れといて随時補充すると」
「オン!(了解!)」
「一応、試食用にパンを切っとこうかな」
「オンオン!(私やる!)」
前世、近所のパン屋さんでの、新作パンの試食の記憶をリエちゃんに念話する。
「頼んでいいのね?じゃあ、その間に私は朝ごはんと昼のまかない、夜ご飯の用意しとくよ。時間が余ったら明日新しく出すパンを焼くことにするよ」
リエちゃんが用意してくれたパンを風魔法で一口サイズにカット!風で集めてー、カゴに盛る!よし!次は、ライ麦パン!カット!盛る!最後はバゲット……終了!
「オンオン!(リエちゃん、できたー!)」
「朝ごはんができたら呼ぶから!遊んでて!」
「オン!!(了解!)」
お庭に出るぞー。まずは庭に出るドアに!ノブを回して……開いた!ドアを開けて。完全に閉めなくていいか。よし!ではお庭!
「スンスン」
空気が冷たい。まだ、朝は寒いなぁ。あ、鳥の鳴き声だ!
「あんれ?パン屋さんちの魔狼ちゃん!」
「オン!(あ!)オンオン!(門番さん!)」
「おはよう!早いねぇ」
「オンオン!(おはよう!門番さんも!)」
「オラは、これから寝るだよ」
「オンオン(お疲れ様)」
夜番だったのかな?長閑に見えるけど一応ここ辺境だもんね。魔物との戦いの最前線なんだもんね。
「じゃあなぁ」
「オンオン!(おやすみなさい!)」
「ピーピーピー!」
おお!なんか雛がいる!ふわふわだー!あれ?気絶した?
「君、魔狼なんだから、自覚しようか?」
あ。
「キー!」
親かな?う、めっちゃにらまれてる!?
「ほら、親もきたし離れなよ」
ふぅ、哀しい。狼にも癒しがあったって、いいじゃないかー。
「君が皆の癒しになってるんだから、いいじゃないか」
私の癒しが欲しいんだー!
「シルヴァーン!朝食できたよー!」
「オンオン!(はーい、今行きますー!)」
ウェーイ!リエちゃん飯!
「君のその切り替えの早さは、取り柄だよ」
ゴッハーン!
「聞いちゃいねぇ。……はいはい、今行きますー!行きますから!仕事しますから!」
さて、ヒマジンも仕事に行ったようだし、私もしっかり腹ごしらえして、食べた分働かねば!
「ふぅ、パンも並べ終えたし、値札もバッチリ。会計のカウンターには値段表も置いたし、お釣りも大丈夫で、紙袋は皆が取れる位置においた。まあ、殆どの人が自前で買い物かご持ってくるだろうけどね。さて、あと半刻もしたら皆が来るし、朝ご飯にしようか?シルヴァン」
「オン!(ごはん!)」
おにぎりだ!ハムエッグのハムが分厚い!ええ塩加減やー。かぼちゃのポタージュの甘さも引き立つ。
「オン!(もう少し欲しい)」
「ん?おかわり?いいよ」
ムフフ。おいしー!幸せー!
「ワフ。オンオン。(ふぅ、ごちそうさまでした)オン!(浄化!)」
「はい、よろしおあがり。浄化魔法も上手になったね。じゃあ、店で皆を待とうか」
「オン!(はい!)」
あ、リエちゃん、食器、風魔法で運ぶよー。
「ありがとう」
どういたしましてー。
「日本と違って、パンは家庭ごとに好きな厚さに切るから問題ないかな。一応パン切りナイフとまな板置いとくか。シルヴァン、もし切ってほしいって言われたら頼むかもしれないけどいい?」
「オン!(任せて!)」
ふふふ、パン屋の小僧さんデビューだぜ!
「「おはよ~ございます。アマーリエさん」」
あ!きた!アリッサさんとブリギッテさんだ。
「おはようございます!」
「わ~すっかりパン屋らしくなってる。しかも品数多いし!」
そうなの?リエちゃん、もっと種類作れそうなんだけどな。アンパンとかカレーパンとかクロワッサンとか惣菜パンとか絶対できるよね?
「うん。前は三種類だったからねぇ」
うーんと黒パンと白パン、バゲットとか?いや平パン?ん?この辺りのパン事情どうなってるんだろ?もしかして私、リエちゃんに拾われたの最高に運がよかった?ご飯も食べられるし!おお!出会い運最高かっ!?
「はい。これ味見用のパン。使ってる粉がしばらく違うから、前のパンと味が違うと思うの。冷蔵ケースの上に置いとくから、自由に食べてもらって」
「おお~。食べていい?」
「いいよ~」
ん?アリッサさん?なんか、試食のパンが目の前に?くれるんなら、遠慮なく!
「ふむ、前のパン屋さんのより中がもっちりしてるかも?」
「そうなんだよ。マチェットとホーゲルの村の小麦が手に入ったら前の食感に近いパンに戻るよ」
「わかった」
「これは?」
「日本風ホワイトローフと言って、他のより甘くてふわふわしてるパンかな。このサンドイッチにも使ってる」
「ウンウン。確かに甘いしふんわりしてる」
ん?またくれるの?では、あーん!
「この一斤の大きさで売るけど、もし切って欲しい人が居たら、シルヴァンか私に頼んで。切るから。他のパンも、一個まるまるじゃなく、半分で欲しい人がいたら切るからね」
「わかった。悩んでる人が居たら、切り売りできるって伝えるよ」
「よろしくね。後は大丈夫?」
「値段も書いてあるし、会計のところにも絵付きで表があるから大丈夫!補充は今日はアマーリエさんがやるんでしょ?」
「うん」
「なら私たちはお客さん専任で大丈夫ね」
「お願いね」
「ちょっと、アリッサ?シルヴァンに勝手に試食のパンあげちゃ、ダメじゃない?」
「ん?シルヴァン?」
ウヘヘ、リエちゃん、冷蔵ショーケースの後ろ側に居るから、見えてなかったね。
「え。あ!やだ、私、チビが居るつもりで無意識にあげてたよ。ちょうど1番下の弟と同じ位の高さなんだもん。アマーリエさん、何にも聞かないでごめんなさい」
「あはは、弟や妹がいると1人だけ食べられないもんね」
「「そうなんだよー」」
「シルヴァン、ダリウスさんにも言われてたでしょ?」
「キュウ(そうでした……)」
ダリウスさんにもお腹タプタプしてるって言われたばかりだった……。ヘニョン。
「あげないように、気をつけるね、シルヴァンちゃん」
「キュゥン(お願いしますー)」
「じゃあ、お客さんが来たときの応対練習でもしようか」
「「はーい!」」
シミュレーション大事!ん?
「おはよう~、遅くなってごめんなさい」
「やあ、おはよう、アマーリエ」
ソニアさんだ!で、なんで魔道具屋のお兄さんも一緒?いや、夫婦なのは聞いたけど一緒に来るのはなんで?
「おはようございます?ソニアさん、ヨハンソンさん?」
やっぱり、リエちゃんも疑問に思ったんだ。魔道具屋のお兄さん、何照れてんの?
「心配で付いてきちゃった」
「「「ええええ~」」」
まじかー。甘々やん!
「ハリーったら失礼しちゃうでしょ」
お姉さん愛されてるぅ!あ、三人娘は顔が引きつってるし。独り身には滲みるよね!
「先にサンドイッチがあるならお昼用に買っちゃおうかと思ってさ」
ああ、なんだ、お兄さん、一応お昼ご飯を買いに来たのね。でもどっちが本音なのさ?うぉ、皆動き出した!私出遅れたじゃん。あわあわ。え、え、私のポジション!?
「それは、多分まだ先かと」
「……無茶振りする気なんだね?」
「私が、店に慣れてきたらおそらくは」
あわわ、リエちゃんとお兄さん、なんか笑顔で凄み合いが始まってるんですけどっ!?
「……親方と他の職人に覚悟するよう言っとくよ」
「お願いします」
お、リエちゃんが勝った?
「「「なにやってるの?」」」
「魔道具屋さんに頼む仕事の話をね」
「死ぬほど忙しくなりそうだから、そうならないための方策をね。まだ新婚だし!ソニアとの時間を減らしたくないんだ」
リエちゃん、鬼ほど仕事頼む気なんですね。
「まぁ!」
「「「「!?」」」」
あ、お兄さん、ソニアさんハグするの!?
「ソニアもアマーリエの暴走に振り回されるんじゃないよ?ちゃんと止めるんだよ?で家に帰ってきてね?」
「うん!」
「「「「かーっ」」」」
でろあまかっ!?リア充爆発しろ!!
「ちょ、ここは魔法のある世界なんだから、迂闊なこと想像したらダメだよ?」
え、まじで爆発すんの?うえっ。想像しちゃったじゃないか、バカヒマジン!
「魔力乗せなきゃ大丈夫だけど、君、うっかりやらかしそうだからねぇ。気をつけなよ?」
「「何?」」
「「「なんでもない「オン」」」」
「じゃ、行ってくるよ。ソニアも仕事頑張って」
「あなたも」
いってらっしゃいのチューか、チューなのか!?そんなものは家で済ませとけっ!?
あ、三人娘、チベスナ顔になっとるわ。私もか?
「あら?大丈夫?」
「……お茶入れるよ」
「「お願い」」
「オン」
「?」
なんか、開店の緊張感無くなったわー。はぁ、ホットミルク美味しい。




