2−5
今日も朝から早起きです!お星様きれいー。リエちゃん何するの?
「ん?ベルンさんたちに、引っ越し手伝ってもらったから、そのお礼に携帯食をね」
ほうほう。私も見てていい?
「何?見るの?いいよ、おいで」
はーい!おべんと、おべんと嬉しな!ってわたしのお弁当じゃなかった……。
「うーん、マジッククエイルは隠形ついちゃうからダメ。昨日、ホーゲル村のおじさんからもらった鶏にするか」
鶏肉入りまーす。何するの?
「チキンカツサンドかな。キャベツももらったしね。でも鶏一羽じゃ、絶対ダフネさんには足りないと思うんだよね」
「オン……(そうだね……)」
「なんかあったっけかな?」
「オン?」
「地下のアイテムボックス見にいくんだよ。お前もおいで、登録しとこう。私が居なくても、出せるようにしとこう」
「オン!」
わーい!地下室!アイテムボックスの登録とな!これで完全にリエちゃん家の子になったぞー。厨房から地下室に行けるんだ。リエちゃん灯りの魔法だした。えーっと、私も灯りの魔法っと。できた!これでダンジョンもバッチリやでー。
「シルヴァンは、魔法の才能あるね」
「オン!(でしょ!)」
おおー、石を組んだ壁なんだ。冷んやりしてる。わあ、大きな木の箱!
「シルヴァン、蓋に前足置いてみて」
こう?てしっとな。
「私も置いてっと。シルヴァンは、前足に魔力を集めてみて」
こうですか?お、なんか蓋が淡く光ってる!魔法陣でた!
「えーっと、サブ登録っと。完了。シルヴァン。えーっと、風魔法を蓋の隙間から入れて、蓋を持ち上げる感じで使える?」
やってみる!うんしょ!開いた!
「あとはー、頭を箱の中に突っ込んで、一覧って唱えてみて」
ほわ、リストが出た!ソート機能もあるんだ!すごいすごい!
「豚の肩肉ってあるでしょ?取り出してみて」
「オン!(はい!)」
紙のおっきな包みが出た!これでいい?
「お、出来たね。上手上手。こんな感じで、入ってるもの全部出せるから、お腹空いたら、ここから出して食べていいからね。使ったら、報告はしてね。補充しないといけないから」
「オンオン!(了解、この箱が家のね)」
「さて、他の箱も全部登録するよ。そっちは店の在庫だから、勝手に使っちゃダメだよ」
「オン!(わかった!)」
ムフー。在庫管理なら任せてー。ちょー得意よ!やっと、前職活かせそう!ヒャッホー。
「じゃあ、厨房に戻ろうか」
はーい!リエちゃんは、かぼちゃのポタージュスープとチキンカツサンドと豚カツサンドを作ってた。朝ごはんは、かぼちゃのポタージュと豚カツサンドでした。
リエちゃんは少しだけ宙を睨んでたんだけど、多分、誰かに念話してたんだと思う。
そのあとは、在庫のパンを焼いて、午前中のお仕事は終わり。お昼はハムと卵とチーズのサンドイッチとミルクになりました。忙しいとこんな感じなんだよ、とリエちゃんに謝られてしまいましたが、全然問題ないです!三食、心置きなく食べられて、最高!狼の群れじゃ、その日の食事を事欠く時もあったからね。
「シルヴァン、冒険者ギルドにいくよ」
「オン!(はい!)」
アルバン村って、ヨーロッパの中の村の雰囲気に似てる。長閑で、時間がゆっくり流れてる。人と会えば会釈して、全然、魔物と戦う最前線の村には思えない。
冒険者ギルドですら、なんかのんびりしてるし。もっとこう、ざわざわしてると思ってたんだけどなぁ?
「ミルフィリアさん、こんにちは〜」
受け付けのお姉さん、こんにちは!あれ?また変な顔されちゃった。なんでだろ?
「あら、パン屋さん、こんにちは」
リエちゃんがお話ししてる間は、リエちゃんの足元でお座り。なんか、食堂の方から視線が飛んでくるから、尻尾振って、愛嬌をふってみたらデレられた。
ん?話が盛り上がってるけど、そろそろ待ち合わせの時間じゃないかな。
「オン!(リエちゃん!)」
「あっ!時間。もう行かなきゃ」
「あら、お出かけですか?」
「魔道具屋さんの裏の万屋さんに」
ちょっとリエちゃんたちの会話が延びたけど、女の子だもんねー、わかるー。で、早足でアーロンさんのお店に向かった。あ、もう南の魔女様とアルギスさんきてるしー。
「オンオン!(まったー?)」
ムフフ、魔女様、さあ、我をモフレモフレ。アルギスさんがお弁当にいい反応してるし。
「ほらぁ、店に入るわよぉ」
「「はーい」」
ここのベル、可愛い音がするなぁ。パン屋さんにも、あったらいいなぁ。
「おう、いらっしゃい」
「こんにちは〜」
「ほい。これがわしの作った冊子じゃよ」
「おお〜」
うふふー、ダンジョンのアイテムー。私も見るんだもんね!っと。よしとどいた!
「おや!シルヴァンも見るんじゃの」
「あ、すいません。シルヴァン、だめだよ」
「クゥ~(みたい〜)」
リエちゃん、アーロンさん、みたいの。ダメ?ウルウル眼で頼んじゃうもんね!
「何見たいの?肉屋さんの時並みの食いつきなんだけど?」
だって、いろいろ匂いがするんだもん!きっとアーロンさん、ダンジョンのアイテムの実物を見ながら描いたと思うんだ!
「あはは、汚さんじゃろ?かまわんよ」
「オン!(やった!)」
「ありがとうございます」
わー、きれいな絵!アーロンさん、絵も上手なんだ。あれ、あれだ!昔の植物図鑑とか昆虫図鑑の絵みたいなんだ!ダンジョンて、いろいろあるんだなぁ。私も、早くダンジョンに行きたいなぁ。
「アーロンさん、この冊子、分類とかしてますか?」
「ふむ。ダンジョンの階層と部屋ごとに別れとるよ」
「?」
わ、新しい本きた!何?何?おお、マップですか!?ほお、五階層までは、シンプルな小部屋なんだ。ウィザードリィみたいな感じかな?え、海もあるの?どうなってるのダンジョン?
「え!海があるんですか!」
「あらぁ、ベルン達から聞いてないのぉ?階層まるごと海なところもあるわよぉ」
「聞いてないです。すんごいびっくりです」
「オン(うん)」
サンゴ礁の海かぁ。南の海なんだ。
「ちょっとまった!そのページ!」
「おお、これか?」
ん?リエちゃん何?春ウコン?え、ってことは?
「あった!【アキウコン:ウコン。秋に……】鬱金だ!やっと見つけたぁ!白い花だし間違いない。冬の部屋に同じので根っこありますか?」
「オン!?(まじ!?)」
もしかして、カレー食べられるの?ね?ね?
「ちょっとぉ、芋っ娘落ち着きなさいよぉ。何もすぐ買わなきゃいけないわけじゃないでしょぉ。取り置きでもなんでもすればいいじゃないのぉ。あんたここに三年は居るんでしょ?」
「あ、そうでした。う~でもすぐ食べたいしなぁ」
「オン!(おなじく!)」
今すぐ食べられるのなら、食べたい!お米もあるんだし!カレーライスぅ!
「これ食べるの?なんでシルヴァンまで食べたそうなの?」
「それ、香辛料や薬剤、染色剤とか色々使えるんですよぉ。だから、アーロンさんに差配頼んだ方がいいって話になるし価値をつけるのが難しいんですよ」
「そんなに希少な用途があるなら、値上がるのぉ」
「んまぁ!染料ぅ!?」
「薬効が気になるんだけど」
ウコン染は、あれだ、貴重な骨董品とか包んでる金色の絹の布。薬効は、ウコンの力でしょ!でもでも、それよりもカレーなんだって!あれ?なんか、話がいろいろ変な方向にまたしても転び出した?
リエちゃん?今から神殿行くの?パン屋の開店準備、大丈夫なのかなぁ?まあ、カレー食べたいからいいんだけどさ。アーロンさんがいそいそ戸締りして、みんなで神殿に行くことになっちゃった。
広場に出て、商業ギルドの建物を見たリエちゃんが、顔を青ざめさせた。
「どうしたのぉ?顔色が悪いわよぉ?」
「忘れちゃいけないことをまた忘れてました。昨日は遅かったから、メラニーさんも帰っただろうと思って……」
「「「「?」」」」
「料理のレシピ登録してない!」
そういや、あれだけ昨日はオタオタしてたのに、レシピの登録しなかったもんね。今からやっとく?アーロンさんは、アワアワしているリエちゃんを見て吹き出しちゃったし。まあ、さっきあれこれ、アーロンさんとやりとりしてたリエちゃんとは思えないような、オタつき方だもんなぁ。
「わかったわぁ。でも、シルヴァンもいいのぉ?」
「神殿に着いたら、今度、私を迎えにこさせて下さい」
「ああ、シルヴァンならできそうだね、道案内」
「オン!(うん!)」
道案内ぐらいできるよー。
「誰かに拐われたり退治されちゃまずいから、イヤーカフつけようか、シルヴァン」
アルギスさん、ぜひお願いします!
「誘拐はないと思いますが、退治の可能性は否定できませんね」
「キュウ(うううう)」
「あの馬鹿げたリボン買えばよかったかなぁ」
「んまぁ!」
「いや、あれを見たら戦おうとか思わないでしょ」
リエちゃん、その意地悪笑顔はやめて!いやいやいや、あのピンクのフリフリリボンは本気で嫌!!
私はイケメン魔狼なの!魔女っ子シルヴァンじゃないんだからー!ん?魔女っ子もちょっと心惹かれるような?
いやいやいや、私、ブレちゃダメ!
「あんたも大概ねぇ。ちょっとまってぇ。魔道具じゃないけどリボンならあるわよぉ」
きれいな空色のリボンだ!リボンタイみたいで、美少年風じゃん!似合ってる?似合ってる!さすが魔女様チョイス!
「ああ、それなら似合ってるよシルヴァン。流石~魔女様!センスいい!」
「ふんっ、当然よぉ~」
「オン(よかった)」
「街の中は革の首輪か足輪をつけようか。今度、マーサさんのとこに買いに行こう」
「わたしが買うよ」
「いやいや、これは私の責任ですから」
「そう言わずにー」
「アルギスさ~ん、これは芋っ娘の義務なのぉ。主として」
「はい」
「うはは、シルヴァンはモテモテだのぅ」
「オン!(当然!)」
「さ、いくわよ~」
いきましょう!リエちゃんまっててねー。えーっと、広場からパン屋に向かう道に入って……。ひたすらまっすぐでした。うわー、めっちゃくちゃ、立派な神殿やー。ニューヨークの公共図書館みたいな玄関だ。芝生の広場も広ーい。うーん、もしかして村の中で一番立派な建物なんじゃないのかなぁ?二番目は商業ギルドの宿で、その次はは冒険者ギルド。村役場はすごく庶民的で、敷居が低かったなぁ。
ちょっ、アルギスさん!?何?いきなり走り出しちゃた。なんで?
「あ、あ、あ、ヴァレーリオ様!」
「うぉ!?」
「よかった!よかった!ヴァレーリオ様!」
なんかアルギスさん一人による、感動の再会らしきものがおっぱじめらてしまった。抱きつかれた、いかついじーちゃん神官は、迷惑そうなめんどくさそうな顔してるし。
「ありゃなんですかいの?」
「ああ、アルギスさんが神官下っ端の頃、お守りしてたのがヴァレーリオなのよ。アルギスさんのおじいちゃんがわりみたいなものね」
ヘ〜。守役かぁ。あの人もメソメソ泣いてるアルギスさんを、なだめたりすかしたりしてたのかなぁ?もしかしなくても私も守り仲間?
「なるほどの」
「昨日はぁ居なかったのよね〜?」
そうなの?魔女様。
「おいこら、首が締まるだろうが!離れんかい、アル坊!」
「あ痛!」
あ、ゲンコツ飴もらってんでやんの。あれは痛いわ。
「おひさぁ~、元気ぃ?ヴァリー」
「よう、南の!お主も相変わらず元気そうだな。いくつになった?」
「あ゛ぁん?」
うおー、勇者がいたよ、ここに!いかついじーさんだけど!南の魔女様に面と向かって歳、聴いちゃうの!?魔女様の魔力が膨張してるぅ!?あわわわ、離れなきゃ、巻き込まれるー。
「……グスッ、生きてらっしゃったんですね」
うぇ、アルギスさん、いかついじーさん、あの世に送っちゃってたよ。
「勝手に殺すな、バカモン!」
「ヴァリーって帝国の今の神殿長から更迭されただけじゃぁないの?」
「そうだ。今は此処の神殿長だぞ」
え、この村には立派すぎる神殿の、一番偉い人なの?まじで?
「なんでアルギスさんは、死んだと思ったのぉ?」
「今の神殿長にもう今生では会えませんなって言われたんだ」
「あー、大陸の端っこにまで追いやったからァそう言ったわけねぇ。まさか皇帝陛下があなたをぉこっちに隔離するとは思わなかったんでしょぉ。このジーサンはしぶといからあの神殿長程度じゃ殺れないわよぉ」
「……なんだ。泣いて損しました」
「おまえ、相変わらず泣き虫のくせに言うようになったな?」
「うーん、リエのせい?」
小首傾げていうことなのか?ま、アルギスさんたら、リエちゃんとは遠慮なしの毒の応酬してるけどさ。
「人のせいにしよるな!バカモン!」
「痛っ!」
「違うわよぉ、ヴァリー。対等に言い合える存在が出来たってことよぉ」
魔女様の的確なフォローが優しい。
「なんだ、そうか、殴ってすまなんだな」
そこは素直に謝れる人なんだ。尊敬ー。さすが神様に仕える人なだけはあるの?
「殴られ損〜」
ほれ、痛いの痛いの飛んで行けー。
「ところでヴァリー、昨日はどこに?」
「隣の村にな。留守番を頼んだやつは、もう村に戻ったぞ」
「あら、そうだったのぉ」
「オン!(注目!)」
おお、皆さん注目してくれた!ねえ、そろそろリエちゃんを迎えに行きたいんだけどー。
「あぁ、シルヴァン」
「何だぁ、そのもふもふは」
うぉう、いかついじーさん、その手のワキワキは怖い!南の魔女様守って!
「新しいパン屋のお嬢さんの従魔じゃよ」
「は?今度のパン屋はテイマーなのか?」
「いえ、パン屋がたまたまテイムしただけです」
「はぁ!?パン屋が魔狼をテイムするとか常識はずれなこと言うなよ?」
パン屋さんに魔狼がいたっていいじゃないか!
「嫌だ、ヴァリー。歳取って頭固くなったんじゃないのぉ?」
「わしゃ、お主より遥かに若いわ!」
わぁ、いかついじーさん、まじ遠慮がねぇ。
「うるさいー!それからこの子は、ちゃんとパン屋の娘がぁテイムしてるから。それをあなたにスキル鑑定してもらうために来てるのよぉ」
「それでその肝心要のパン屋の娘っ子は?」
「シルヴァン、道大丈夫ぅ?」
「オン!(もちろん!)」
むしろ、真っ直ぐな道で迷ったら穴掘って、埋まるよ、魔女様。
「そぉ!じゃぁ、迎えに行ってきてちょうだいなぁ」
「オン!(はい!)」
今行くよー、リエちゃん!最速だー!ヒャッホー!到着〜。リエちゃんに念話っと。
「お迎えご苦労様。はい、昨日の隠形付きの塩揚げ鶏」
「オンオン!(かーらーあーげ!)」
わーい!小腹減ってたんだー!
「ん!美味しいこれ!」
「オン!(でしょ!)」
メラニーさん、影薄仲間!ぬひひ。
「じゃあ行きますか」
「ええ」
リエちゃん、案内するよ!さあ、我に着いてくるのだー!なんか、メラニーさんも、リエちゃんに巻き込まれちゃったよ。大丈夫かな?
今日、スーパーで「ひろし」なる物を見つけてしまった。明日、おにぎりにしてみようと思う。




