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平凡な一日

作者: チャイ

  ――ピンポーン


「けんじ来たわよー」

「分かってるよー」


 かあさんに返事をしながら俺は急いでネクタイを締めた。


「そんじゃー行ってくる、帰りはいつもと同じぐらいだと思うよ」

「分かったわ、気をつけて行ってらっしゃい」

「へーい」


 いつものやり取りをしながら俺は玄関を開けた。

 花粉の季節が終わり梅雨になる前の平穏な時期、町の人々が来ている服も厚手のものはほとんど見かけなくなった。


「お待たせ、悪いねいつも待たせて」

「おはようけんじ君、全然気にしてないから大丈夫だよ」

「そっか、んじゃ行こうか」


 ピンポンを押して待っていたのは近所に住む俺の幼馴染の朱里あかりで、なんと彼女は容姿端麗、純情可憐、おまけに頭脳明晰、まさに才色兼備なスーパー幼馴染委で…………


 …………ウソです。


 近所に住んでいるのは確かだが、幼馴染でも無ければ美少女でもない。知り合ったのは中学だし、顔は上中下で言ったら上には入れない、松竹梅で言ったら松には入れない、まぁ同じことだが。


 何故彼女がうちに来てたかというと高校が同じで登校ルートが被ってるから一緒に行くことになったからだ。


 同じような家が続く住宅街を朱里と二人で歩いていく、俺たちが通ってる高校は徒歩で15分ぐらいと結構近い、なんで徒歩で十五分もするのに自転車じゃないのかというと、学校の規則で徒歩20分以内の生徒は自転車通学が禁止されていて全員徒歩じゃないといけないからだ。


「いやー、ほんと花粉が終わってよかったよ」

「あれ?けんじ君って花粉症だったんだね」

「そうだよ、そんなに酷いほうじゃないけどね」


 住宅街を抜けて国道にでる、車がまるで蛇のように連なって道路を走っている。


 国道を反対側に渡る横断歩道についた、ここの信号ははいつも赤色でここで止まらなかった記憶はほとんどない。


「それでも鼻水は止まらないし目もかゆくなって大変だよ」

「私花粉症じゃないから分からないんだけど、ずっと目がかゆいって大変そうだね」

「ほんとだよ、でもね目がかゆいのより夜寝るときに鼻が詰まってるのが一番つらいんだよね、朝起きたら口の中乾いてて、しかも口呼吸になるから風邪になりやすいしさ」


 やっと信号が青になった、待っていた人達はぞろぞろと横断歩道を渡り始めた。


「風邪になりやすいってけんじ君一度も学校休んだことないじゃん」

「まぁ風邪って言っても微熱程度だし我慢して行ってるんだよ」

「へー、けんじ君って変なところだけ真面目だね」

「普通のところは真面目じゃなくてすいませんねー」

「あはは、そういう意味でいったんじゃないのに」


 赤信号を渡り何気ない話をしばらくしながら歩くと俺たちの高校につく、昔は違う名前の学校だったが五年ほど前に改装工事するとともに名前も変わった。


 校庭にはどこの学校にもあるだろう桜が植えてあり、陽光桜というプレートがかけられている。校舎は三階建てで渡り廊下は一階にしかない。


 これがとても不便なのだ一年のころなど自分の教室の三階から三階への移動などがあるときは、休み時間教室でのんびりしてると走って3階分を昇り降りしなければならなかった。1年のころは早く学年が上がりたいと思っていたが、二年生になってから二階になっても移動距離たいして変わらないことに気付いた。


 そんなどうでもいいことを自席でぼんやりとしながら考えていたら、朝からテンション高めで話しかけてくるやつがいた。


「おっはよーけんじ、今日も朝から彼女さんとデート登校してきたのかー?」


 こいつも中学からの知り合いで名前は志信しのぶ、何でこいつはこんなに朝からうるさいのかとても不思議に思う、しのぶって名前なのに全然しのんでないだろ、名は体を表すって間違ってないか?


 ちなみにこのとき朱里はクラスの入り口で友達の女子としゃべっていてこちらの会話は聞こえてないらしい。


「朝からうっせーよしのぶ、お前も同じようなもんなのに毎回よく人に言えるよな」

「まぁーまぁー、こっちは俺との差がありすぎるからそういう噂もないわけでー、なんなら一度変わってみるか?」

「なんだそりゃ、そこで変わって何の意味がある? 俺は平穏な高校生活がおくれていればいいんだよ」

「いいのかーそんなんで、お前は今誰もがうらやむ高校二年生なんだぞ? 青春ど真ん中、青春だぞ、青い春、春だけでも明るいのにさらに青!! この瞬間は二度と戻って来ないんだぞー?」


 どうやらしのぶは青い春って言葉が面白かったらしくこの素晴らしい瞬間がとか、心ときめく出会いとか、淡い初恋とか、煮えたぎる性欲とかよくわからない事を言っている。最後のは青春と同じにいてはいけない気がするんだが。


「また朝からけんじ君に絡んでるの? いい加減嫌がってるのを理解したら?」


 そういって近づいてきたのはしのぶと一緒に登校してきていた千尋ちとせさんだ。


 今日の朝朱里のことを才色兼備のスーパー幼馴染と嘘をついたが実はあれにはモデルがいて、それがしのぶの幼馴染の千尋さんだ。整った顔立ちにサラサラの黒髪で身長もスラッと高くてまるでモデルのような体型をしている。

 さらに勉強も定期テストはいつも上から片手で数えられるところにいるらしい、この前の時は英語が満点だったらしくテスト返しの時クラスが一時騒然とした。英語のテストは平均点がいつも40点台で難しいことで有名だからだ。ちなみに俺は38点だった。


「違うんだよ千尋、こいつちょっと話しかけんなオーラたまに出してるけど話しかけるとちゃんと返してくるし、かまってちゃんだけどそれを表に出すのを恥ずかしがってるだけなんだよ。これがいわゆるツンデレってやつ?」

「何を言ってんだお前は」


 あきれ顔でそうは言ったが、こいつはちょくちょく絡んでくるが別に悪い気はしない、かまってちゃんってのは当たってるのかもしれない。ツンデレは誰得って感じだが。


「そうやってすぐ自分を正当化する、けんじ君、ほんとに嫌になったら私に言ってねそしたらすぐにしのぶのお母さんにいいつけてあげるから。」


 千尋さんがそう言った途端にしのぶが慌て始めた。


「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ千尋さん。うちの親に言いつけるのはホントに勘弁してくださいよ、前も適当なこと言ってそれをお前の話だからって鵜呑みにして大変ことになったじゃん。」


 どうやらしのぶの親はしのぶより千尋さんの方を信用しているらしい、しのぶがここまで慌てるとはいったい何が昔あったんだろうか。


「それが嫌ならけんじ君にもっと普通に接することね。」

「普通に接するって、これが俺らの普通なわけで男には男の友情があるんですよ。」

「そう、……それじゃあ交渉は決裂ってことね。」


 冷たい目でしのぶを見つめて千尋さんはそう言った。


「嘘です嘘ですごめんなさい、そうですね、はいこれからはけんじ君とは清く正しくお付き合いさせていただきたい所存でこざいます。」

「分かればいいのよ。」


 あっさりとしのぶは白旗をあげた。


 なんというかこの二人のやりとりはまるで漫才みたいだ、これが幼馴染と言うやつなのか。



 ――――キーンコーンカーンコーン


 漫才を見ている間にチャイムが鳴った。教室のあっちこっちでしゃべってた生徒たちが自分の席に着く。

 二人も自分の席に戻っていった、後半俺はほとんどしゃべってなかったがこれはよくあることだ、あの二人は仲がとてもいいからすぐ二人で話し出してしまう。喧嘩するほど仲がいいとはさすがは幼馴染だ。


「おーし、今日は来てないやつはいないかー?」


 担任が来て出席確認をし始めた、まぁ担任の朝の話なんて遅刻してきた人への小言か明日はネクタイリボンをしてこいとか近所からのクレームとか不審者情報ぐらいだ、大して重要な情報なんて無いからいつも軽く聞き流してる。


 …………ネクタイは忘れる前に帰ったらすぐバックに入れておこう。


「そんじゃ今日の連絡はこんぐらいだ、授業中は寝るんじゃないぞー」


 そういって担任は出ていった。


 たしか一時間目は数学のはずだから俺は、教科書とノート、筆箱を鞄から取り出して席を立った。数学は隣のクラスと二クラスで習熟度別授業をしている、これは二クラスの人をテストの点で良かった人とあまりよろしくなかった人に分けて授業をする制度だ。


 ちなみに俺と朱里と千尋さんはαクラスでしのぶはβクラスだ、わかると思うが点が良かった人達はαクラスだ。


 そんなわけで隣のクラスにしのぶ以外は移動した、最近は確率をやっているがこれがさっぱりだ、円順列?場合の数?フレミンゴの左手の法則?


 これはまたテスト前に千尋さんに勉強を教えてもらうはめになりそうだ、いつもテスト前に重要なところを分かりやすく教えてくれる千尋さんには頭が上がらない。


 うんうん唸ってる間に五十分が過ぎてしまった、授業中おしゃべりしてる奴がいたがあいつら本当に分かっているのか???


 教室に帰ってくるとしのぶが机に倒れていた。いや、寝ているだけだった。


「ただでさえ苦手な数学の授業を寝てたら本当にやばいんじゃないのか?」

「……うぅん、…あぁけんじか、いやなんか円順列を眺めていたら世界がぐるぐるして気付いたら寝てたわ」


 図が動き出すわけないだろうに、しのぶは相変わらず数学は苦手らしい。


「そうか、まぁ俺も今やってるところはさっぱりだしな、次はもしかしたらお前と同じクラスになるかもな」

「ほー、お前がこっちに落ちるかもしれないほど難しいのか、じゃあそりゃ俺には無理だわな、赤点さえ取らなければいいや」


 どうやらしのぶも難しいと感じてたらしいがどうやら俺とは次元が違ったらしい、すでに諦めている、目標が赤点回避ってもうちょいがんばれよお前……。


 そのまましのぶとしゃべっていると二時間目のチャイムが鳴り席に戻った。二時間目は国語の授業だった、今回からは宮沢なんとかっていう有名な人の小説をやる、その前は森なんとかだった気がする。


 その宮沢は教科書に載っているだけはあってさまざまな作品を書いていて、その独自の世界観がとても面白く引き込まれる。


 らしい。


 らしいと言うのは国語の先生が宮沢さんをこう語っていたからだ、どうやら先生はかなりコアなファンらしい。皆さんも銀河鉄道の昼とか注文の多いジビエ料理店とか雨ニモカテズとかは聞いたことがあるでしょう、って言ってるけど本を読まない俺にはさっぱりだった。


 先生の熱弁で一時間のほとんどを使って今日の授業は終わってしまった。


 その後も三時間目は地理をやり、四時間目は歴史の授業をやった、歴史のおじいちゃん先生は最初の授業のとき自分の歴史を語りだして一時間使ってしまった変わった先生だったが、今日の授業はいたって普通の授業だった。



 ――――キーンコーンカーンコーン


 午前中の授業も終わりお昼の時間になった。


「けんじぃーー、飯の時間だぞーー起きろーーーーー」


 寝てねーよ、いつも寝てるのはお前だろ。


「いつも寝てるお前にだけは言われたくない。」

「まま、いいじゃんそんなことさっさと行こうぜ。」


 俺たちはいつも学食で飯を食べている、俺は弁当をもってきているがしのぶはいつも持ってきてないので付き合っているのだ。付き合わされているともいう。


 先に席に着いて弁当を広げているとトレーをもってしのぶが戻ってきた。


「今日のメニューは激熱だぜ、なんとカレーにウインナーが乗ってるぜ」


 うちの学食は和食、洋食、丼物、麺類の四種とサラダとかおにぎるとか細かいのがあり券売機で買うタイプの学食だ。もちろんしのぶのトレーにはサラダなんて乗ってない。


「そういやお前さ、あのニュース見たか?」


 食べ始めるとすぐにしのぶがそう言ってきた。


「ん?何のことだ?」

「昨日だかにごアリメカの軍隊がどっかの国にミサイル五十発とかぶっぱなしたってニュースだよ。」

「あぁ、なんかネットニュースで見たな。」


 そういえばそんなニュースが流れてきたな、最近は世界情勢が緊迫していて、ふとしたことがきっかけに第三次が始まるんじゃないかって不穏な空気があるのに、このタイミングでミサイル撃つとはさすがだと思ったりした。


「あのミサイル一発七千万とかするらしいぜ、やばくね?七千万だぜ、200円の宝くじの一等と同じ値段なんだぜ。」

「あぁ、そっちね」


 しのぶがニュースの話をしてくるなんて珍しいと思ったが、ニュースの話がしたいんじゃなくてただその金額の話をしたかっただけらしい。


「またそんな馬鹿な事ばっかり言って、あのニュースで関心を持つのはそこじゃないでしょ。」


 そういって近づいてきたのは千尋さんと朱里だった。二人も同じテーブルについて弁当を開き始めた。


「イヤでも七千万だぜ、国家予算ってすげーんだなーって思うだろ」

「普段はニュースそんなに見ないけど私でも知ってるよその話、でもさすがにお金のほうは考えなかったかな」

「俺もほかの国の対応とかが気になったな」


 さすがにあのニュースを見てお金のことを真っ先に考えたのはしのぶだけらしい。


「なんだよ、別にいいじゃねーかよ金がなきゃ生きていけないだろー」

「そーゆーことじゃないと思うんだが……」


 あいかわらずしのぶは一般人とは感性がずれてるらしい、しかも自分がずれてることに気付いてないから会話が平行線だ。


「まぁ俺には遠くの国で起こったこととしか思ってないからそんなに深く考えようとは思わないんだわ、そんなことよりこの後の体育の方が俺的には大問題だぜ」

「それについては俺もまったく同意するな」


 昼休みの後の五時間目は体育の授業がある、秋にマラソン大会があるんだがそのために一学期中の体育では週に一回ランニングの授業がある。


 ランニングの授業と言えば十五分走とかを想像するだろうけど、この学校の体育のカリキュラムは何をトチ狂ったのか十キロ走というのをやらされる。一時間の間に十キロ走るだけ、準備運動すらなく授業開始のチャイムと同時に始まりチャイムが鳴るまで走り続ける。


 もちろん運動部の奴には終わるやつもいて終わった人から教室に帰れる制度だ、しかし大半のやつは終わらず五十分ひたすら校庭を走らされる。


 しかもこれが俺らは五時間目にあるからたまったものじゃない、俺は昼飯を半分だけ食べて授業に出ている、現実ではCGでキラキラを入れてはくれないから全部食べていった日にはひどい事になってしまう。


「ほんとよー、毎週この時間だけ早退者が多いこと気付いてるんだろうからいい加減この授業変えようって思わないのかね、頭悪いんじゃないのこの学校」

「毎週この時間に同じことを言われるこちらのことも考えてわね、いい加減諦めて素直に授業を受けたら?」


 確かに授業である限り受けないわけにはいかないから千尋さんの言うことは正しい。


 しかし考えて欲しい毎週十キロだ、ひと月でほぼフルマラソンを走らされることになる、女子のマラソンの授業は三キロしか走らないからこの辛さがわからないのだ、しかもその時間で走れなかった分は夏休みに補講でやらされる、夏休みに走らされるのだ、頭悪いんじゃないのこの学校。


 その後はずっとしのぶの文句が垂れ流されいて昼休みが終わってしまった。


 地獄の五時間目だが、結果から言うと俺は八キロ走って時間切れになった。しのぶももちろん走り終わってなかった、ほとんどの生徒は疲れ切って無言でぞろぞろと教室に戻っていってまるでゾンビ映画の撮影のような状況だった。


 そんな後なのでもちろん六時間目の生物基礎の授業は寝る男子生徒が大量発生する、俺もDNAの螺旋構造の図が回転してるような気がしたらそのまま寝ていた。


 ――――キーンコンカーンコーン


 終了のチャイムが目覚ましになった。


 寝起きの頭でボーっとしてたら担任がきて帰りのホームルームをし始めた。


「えー、今朝言った近所からのクレームだが今日になって同じようなクレームがまた来ていた、心当たりのあるやつは素直に申し出るか何か知ってるやつは後で……」


 あ、桜の木の枝に鳥がとまってる、花が散った後に出てくる実をついばみにきたんだろうか、小学生の頃にさくらの木についてる実だからサクランボだろうと思って食べたことがあったが、めちゃくちゃぶくてとても食べれるもんじゃなかったが、鳥はあんなのをなぜ食べるんだろうか。


「そんじゃ今日はこれで終わりだ、一日お疲れさん気を付けて帰れよ」


 どうやら帰りのホームルームは終わったらしい部活に行く生徒や帰る生徒がワラワラと教室を出ていく。いつもなら俺も帰る生徒の波に乗っていくんだが今日はこの後いつもの四人で駅前に出来たパンケーキ屋に行くことになっている。


「よーう、さすがのけんじさんでもさっきの授業は寝てただろー」

「まぁあれは仕方ない、あの睡魔には勝てなかった」

「今日の授業では男子は十四人寝てたよ、実に7割も寝てたことになるね、生物基礎の時間だけは毎週異常に静かだよね」


 しのぶと話してると朱里と千尋さんがやってきた、どうやら朱里のあの言い方だと毎回何人寝てるか数えてるらしい、割合まで出してるしそれで暇をつぶしてるんだろうか。


「前には20人全員寝ていたって聞いたことがあるし、牧田まきた先生にはなんだか申し訳ないわね」

「あの先生の前髪最前線も上がってきてるし、そろそろランニングの授業変える気はないのかねこの学校は、そのうち牧田に訴えられるぞカリキュラムの組み方のせいで禿げたってな」

「牧田先生の前髪本当に上がってきてるからなんともいえないな……」


 俺が寝てたかの話だったはずがいつの間にか牧田先生の髪の話にすり替わってしまった、なんか牧田先生が哀れになってきた……。


「そんなことはいいから早く行こうよ、人気のやつは売り切れちゃうかもしれないんだし」


 そういえば駅前のパンケーキ屋に行くことになっていたんだ、朱里の情報によると二週間前にできたばっかなのにツイッターとか口コミで随分と広がってるらしい。恐るべきJKのSNS繋がり。


 朱里はその店一番人気のが食べたいらしいので俺らは朱里に急かされながら学校を出た。


 パンケーキ屋に行くって聞いた時から思っていたんだが、パンケーキとホットケーキの違いって何なんだろう、最近テレビとかでもパンケーキパンケーキってやっているが俺の子供のころはホットケーキしかなかった、大して違いはないと思うんだが朱里ならしってるかも、後で聞いてみるか。


 最寄りの駅は俺の家から学校の反対側に十分ほど歩いたところにある、この時間は学校帰りの学生や買い物に来ている主婦なんかで駅前は結構混み合っている。


 駅前の喧騒から少し離れたところに目的の店はあった、正面は大きなガラス張りで外にはテラス席もある、店内は暖かな色のライトで壁際には植物なんかも飾ってあってなかなかオシャレな感じだ、柱がないからか店内が広く感じる。


 四人席に着くとウェイトレスが水とメニューをくれた。


「私はねもう何頼むか決めてるんだ、苺と焼きマシュマロフランボワーズソースアイス乗せパンケーキだよ、まだ売り切れってなってなくて良かったよー」


 なるほど、どうやら朱里は宇宙人と交信を始めてしまったらしい、かろうじて聞き取れたのは最後のパンケーキという単語だけだった。


 メニューを見てみると写真と共に名前が載っているがどれもこれも名前が長い、一行に収まってないのもあるし。てかフランボワーズってなんだ、何語だ?


「じゃあ私は白玉あずき抹茶パンケーキきなこソースにしようかしら」


「じゃあ俺はスペシャルパンケーキでー」


 どうやらメニューに目を白黒させてたのは俺だけだったようで、他の二人も平然と注文をしている。なので俺も


「ミックスベリーのパンケーキで」


 と平然を装って注文をした。きっとバレてないだろう、いやメニューに顔を近づけてしまったからバレてしまったかもしれない。


 何事も初めてのことはあるんだから仕方ない、そう俺がちょっと焦って注文してしまっても仕方ないのだ。


 しばらくするとそれぞれのパンケーキが運ばれてきた、俺のはイチゴとブルーベリーとなんかベリー系の実がクリームと一緒に乗っているやつだった。

 けんじのはパンケーキがなぜか三段に重ねてあってそのうえにクリームが乗せてあるシンプルなで、千尋さんのは抹茶色のパンケーキの上に白玉とあずきとクリームが乗っていてそれにきなこのソースがかかってる物だった。


 そして朱里のはというと、二段のパンケーキの間に大量のイチゴとクリームが挟まれ、上にはマシュマロが敷き詰められバーナーで炙られたのか茶色く焼けていてその真ん中にアイスクリームが乗っていて赤色のソースがかかっていた。カオスだ。


 皆それぞれナイフとフォークを持って食べ始めた。


「おぉ、うまい」


 パンケーキの温かさとクリームの甘さ、そこにベリーの甘酸っぱさが加わってめちゃくちゃおいしい。知らないベリー系の実も色々な種類が乗っていてどれも少しずつ甘さや酸味が違って毎回違う味になってとても楽しい。


「でしょでしょー、私も来るのは初めてなんだけど、友達みんな美味しいって言ってたし期待どうりの味だったね」

「確かにこれはうめーな、なんかふわっとしてもちっとしてるな!」

「このふわ甘がたまらないよね~、いくらでも食べられちゃうって感じ」


 ホントにこれはうまい、子供のころ家で食べてたホットケーキとは次元が違う、これが本物だと言うなら家で食べていたのはあんなのは煎餅みたいなもんだ、最近流行ってるのにもうなずける。


 しかしいくら美味しくても朱里が食べてる量はちょっとおかしいと思うんだが、ホールケーキぐらいある大きさのがみるみる小さくなっている、それ一個で一日分のカロリーがあるんじゃないかって思う。


 一年中私今ダイエット中って言ってる女子がいるが、裏でこんなことをやっていればそりゃ痩せないだろうな。


「ほんとおいしぃ~~、他にもいろんなメニューあったしまた食べに来たいね!」


 …………そりゃ痩せないだろうな。



「ありがとうございました、またお越しください。」


 その後朱里は結局パンケーキを一人で食べきってしまった。


 店から出ると外は夕焼けに染まり始めていた、通りに多くいた主婦は帰ったのか今は仕事帰りのサラリーマンらしき人が多くいる。俺たちは夕日を背にしながらのんびりと家のある方向に歩き始めた。


「いやーうまかったわー、なんであんなうまいんだろうな」

「白玉やあずきも抹茶とあっててとても美味しかったわ」

「そういえば、千尋さんは食べてる間ずっと静かでしたね」


 俺らが話してる間も千尋さんは一人で黙々と食べていた、美味しくないって雰囲気でもなかったが随分と静かだった。


「ちょっと美味しかったから夢中で食べちゃってたかもしれないわ」

「意外と千尋さんって食いしん坊キャラなんですね」


 いつもはどちらかとえいばお淑やかって感じの千尋さんが美味しかったから夢中で食べてたってちょっと可愛いと思った。


「え、いやいや、別に食いしん坊ってわけじゃないのよ、家とかではそんなに食べないし、お弁当も小さいのしか持ってきてないし」


 食いしん坊って言われたのが恥ずかしかったのか慌てて弁明してる千尋さんも普段とは違って、今日は千尋さんの意外な一面が見れた日になったな。


「そんじゃあ、俺達はこっちなんで、パンケーキうまかったよまた誘ってね」

「あいよ、また明日な」

「実は駅の向こうにも美味しいフレンチトースト出すカフェがあるんだ、今度はそこにいこうね」

「そりゃ楽しみだ、んじゃーな」


 道の途中でしのぶと千尋さんと別れた。夕日もだいぶ沈んで辺りは暗くなり空には木星や金星など明るい星が見え始めた。


 朝登校する時に通った道を家に向かって歩いていく。


 朝起きてあかりと学校に行き、授業を受け、しのぶ達と中身の無い馬鹿な話をして、帰りはみんなで寄り道をしたり、そんな何でもないよう平凡な一日がとても楽しい。


 平凡であるがゆえにその享楽的な生活がいかに周囲の環境に恵まれた結果なのかということを考えもせずに。当然のように朝ごはんがあり、当然のように制服が洗濯してあり、当然のように弁当があり、当然のように学校に行き、当然のように授業を受け、放課後は当然のように遊びに出かける。しかしその当然の一つでも自分によってなされた当然だろうか?


「それじゃあまた明日な」

「うん、バイバイ」


 朱里と家の前で分かれる、暗くなってるが朱里の家は近いし大丈夫だろう。


「ただいまー」

「おかえりなさい」


 家のドアを開けただいまと言うとかあさんから返事が返ってきた、靴を脱ぎリビングに向かう、リビングから夜ごはんの匂いが漂ってきた。


「あ、そういえば朱里にパンケーキとホットケーキの違い聞くの忘れてた、まいっか明日にでも聞けば」


(完)



文章書くのって思ってたより難しいですね、ご指摘や感想いただけるととてもうれしいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 退屈で平凡な日常、でもそれはかけがえのない時間でも在るのでしょう。 この後に戦争でも始まるのだろうか、と考えさせられました。
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