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『怪人・てるてる坊主』  作者: 朧塚
2/2

陽気な殺し屋さんが、死神さんって改名されたみたいです。

怖い話の中でも、美少女キャラばかりだと、ハーレム物になるような気もします。


でも、ハーレム物書いても、私の性格上、間違えて惨殺したり、虐殺したりしてしまいそうで、ハーレム物は難しいなあ、と思いました。

怪人てるてる坊主の噂。


六月の梅雨の日にあまり雨が降らない年がある。

その年の秋頃に代わりに梅雨が来てあじさいが咲くのだと言う。

その年が怪人てるてる坊主を呼ぶ為の儀式として、赤いペンで眼口を書いたてるてる坊主をぶら下げる。すると怪人てるてる坊主がやってくる。

怪人は呼び出した者の願いを叶えてくれるが、叶えてくれる願いは雨を止ませることではなくて、誰かへの復讐である。

復讐以外の願いを言うと、呼び出した者は、その怪人によって殺される。



 雨ばかりが続いていて、鬱だ。

 昨日の抜き打ちテストで、過去最悪の平均点を取ってしまったのが、憂鬱になる原因だと思いたい。

10月も中頃に近付いていた。

 もうすぐ、大学受験の事を考えないといけない。そもそも、本当に将来を考えている者達は、一年の頃から勉学に励んでいるだろう。

 葵は、学校で友達が一人もいなかった。

 何の為にこんな灰色の青春を送っているのか分からない。

両親が共働きの為に、家に帰れば一人だ。彼には兄弟がいない。もっとも、いたとすれば、それはそれで劣等感と鬱陶しさに押し潰されるのだろうが。

 葵には、これといった趣味が無い。

 六限目が終わった後、彼は、恨めしげに校舎とグラウンドを見渡して、このまま家へと帰る事にした。彼は帰宅部だった。他の同級生のように部活も無ければ、繁華街に行く理由も無い。バイトも最近はやっていない。

 校舎の門には、傘を差した一人の少女が立っていた。

 長袖のセーラー服を着ている、黒髪の少女だ。

 どうやら、今日は、葵を待っていたらしい。


「琴葉さん……」

 彼女、詩織名琴葉は幽霊だ。

 ほぼ無口で、基本的には葵の部屋の中にいるが、特に会話らしい会話はしない。彼女は霊感を持っている一部の人間を覗いて、誰にも見えずにいる。

「今日は迎えに来てくれたんですね」

 葵は傘を差して、二人で歩く。


 安く選んだそっけない型のスマートフォンには、メールが入ってきた。

“霊能探偵・逆山理念”からだ。

 メールには、今日、暇なら遊びに来ないか? と書かれていた。



 逆山の探偵事務所に入る。

 中では相変わらず、何処からかラップ音が鳴っていた。

 客室の大型TVは、相変わらずチャンネルが勝手に替わっていって、時たま、人影のような映像を映し出す。逆山の家は幽霊屋敷だった。


 葵はソファーに深々と座る。

 助手の男が、コーヒーを出してくれた。二人分だ。

 琴葉も飲めないが、まじまじと出されたコーヒーを眺めていた。

 逆山は少し落ち込んだ顔をしていた。

「いやねえ、僕、今回の依頼、どうにか断れないか悩んでいるんだよ。今回も僕の手に負えそうになくてねえ……」

「…………、逆山さん。そういえば、俺の事件の時も、逃げましたよね。……」

「まあ、霊能探偵と言っても、僕では手に負えない事件も多いからねえ」

 こういう人なんですよ、と、助手の男、真下は苦笑する。

「実は、心霊事件って、結構、心身症のケースが多いんですよ。逆山さんって、元々はカウンセラーの資格を持っていた人で。つまり精神科医志願者だったんですよね。加えて逆山さんって霊も見えるから、多少の幽霊とかは話し合って出ていって貰う事も多いんです。それでこの探偵事務所は成り立っているわけですが」

「結構、高額な請求しているんでしょう?」

 葵は、鋭い言葉で訊ねる。

 逆山は頷く。

 ……詐欺師紛いだな、と思った。

「俺の唯一の友人の比呂の方が、肝座ってますよ。あいつチャラいけど、怖いもの知らずだから。普通は逆でしょ? 漫画とかで、チャラ男がビビリ役で、探偵役はしっかり者、そっちが王道だった気がするんですけど」

「ううっ、面目ない……」


「で、今回、俺を呼んだのは何ですか? 貴方が逃げ出したい依頼、教えて下さいよ。こっちには琴葉姉さんもいますし」

「巻き込みたくは無いんだけどねえ…………。ただ……」

「ただ?」

「話だけは聞いて貰えないかってね……」

「いいですよ」

 葵は溜め息を付いた。


「怪人・てるてる坊主の噂を耳にした事はあるかい?」

「無いです。なんですか? それ」

「今、10月だろう? 雨が降り続けている。この季節に紫陽花(あじさい)が咲いているよね。ニュースでもやっていた。本来は梅雨に咲いて、この時期には枯れて生長が止まっている。そんな奇妙な気候変動の時期に、その怪人は現れる」

「ふむ?」

 そう言えば、この街は、今年の梅雨は雪が降っていた。この街自体が、もしかすると、外とは別世界なのかもしれない。


「怪人てるてる坊主は、10月の大雨の日に、てるてる坊主を吊るしておくとやってくるそうだ。何でも願いを叶えてくれるらしい。ただし叶えてくれる願いは、天気を晴れにしてくれ、とかじゃなくて、必ず復讐の代理だそうだ」

「陰湿な人の為の怪人ですね」

「復讐以外の願いを言うと、その人間はてるてる坊主として吊るされるらしい。噂には幾つかのパターンがあるが、大体、そのような風に都市伝説として広まっている」


「で、逆山さんの投げ出したい依頼ってなんですか?」

「隣町の×××高校にて、てるてる坊主の儀式を行った女生徒数名のうちの一人が、死体として発見されたんだよ。首吊り死体だ。他の生き残った女生徒も怯えている。……僕の予測ならば、これは僕では手に負えない案件だ…………」

「ふうむ、隣町の高校ですか。比呂には連絡しましたか?」

「いやねえ、彼って、性格悪いじゃないかい。楽しそうにメールを返されてねえ……」

「あいつの性格の悪さ……、やはり逆山さんも俺と同じ意見ですか…………」


「それにしても、何か大変な事件なんですか? たまたま首を吊っただけなんじゃないですか?」

「何をどうやったら、たまたまになるんだい? だってその首吊り死体には、手足が無かったんだからね。両手両脚が切断されて、持ち運ばれている……」

 



 逆山に付き合わされて、何本かの洋画を見せられた。

 もう夜の11時近い。

 だが、少しだけ悪くないような気がした。

 彼には、学校で友人がいなかったから。


 もう、雨は病んでいる。

 水溜まりを避けながら、隣で付いてくる琴葉と一緒に、二人は帰路に付いていた。


「よう、お二人さん。そこで何をしているのかな? 未成年がこんな時間に出歩いていいのかよ?」

 振り返ると、後ろの電柱で見知った声が聞こえた。

 腰元まで伸びた桃色の髪の女だ。

 彼女は口元を歪めていた。

「あっ、お久しぶりです。境火さん」

 葵と琴葉は、彼女のいる路地へと向かう。

 境火は、全身を漫画に出てくる黒魔術師のような服で身を包んでいた。

「これ、ゴシック・ブランド・ショップで売っていたんだ、ある記念にイメチェンする事にした」

「なんの記念ですか?」

「聞いてくれっ! 私のコードネームがシャドウ・ナイフから、シャドウ・リーパーに書き換えられた。英語で死神の事をグリム・リーパーと言うよな。だから日本語風にすると、私の通称は影のナイフから、影の死神に変わったってわけ」

「はあ?」

 葵は声を裏返す。

「そんなにはしゃぐ事なんですか?」

「嬉しいだろ? 死神だろ? 私に相応しい。ちなみにFBIに散々、脅迫文を送った甲斐があるってものだぞ。今や欧米で私の紹介をされる時、シャドウ・リーパーになっているんだっ!」

 そう言うと、彼女は黒いバッグの中から書類を取り出す。

 書類には英文で“Serial killer Shadow Reaper”という文字と共に、境火の顔写真が載っていた。

 そう彼女はシリアル・キラー。連続殺人犯だった。

 日本警察が把握しているだけでも、最低57名は殺害しているらしい。

 後から知った事だが、彼女が殺した相手の中には警官もいて、内一人は拳銃を手にしていて、構わずナイフで刺し殺したらしい。


 目の前で談笑している相手は、間違いなく強い狂気を宿しているのだ。

 彼女は笑いながら、黒いローブの中から、得物を取り出す。

 それは刃渡り50センチは超える、刀剣としか呼べないような代物だった。どう考えても銃刀法違反で捕まるようなものだ。

 だが、単独で、彼女を制圧出来る者は、日本国内においてはほぼ皆無なんじゃないだろうか。警察も、政府も、裏社会の人間も、彼女を止める事が出来ない。

「この服、ローブに見えるけど。一応、コートって売り出しだってさ。デザイナーってセンスいいよなあ」

 彼女は鼻歌を歌いながら、刀剣を服の中に隠す。

 改めて、彼女の地毛である長い桃色の髪が、肉の色に見えてきた。

 いつ、彼女は殺戮衝動が再発して、無差別殺人に走るか分からない。彼女は、そんな危険な精神を抱えていた。


「そういえば、あの探偵事務所から出てきただろ? 何でまた?」

「逆山さんが面倒な事件を引き受けたみたいで、俺にそれを押し付けたがっているんですよ。俺は霊能者でも何でもないのに」

 先程、報酬は出す、と言われて、事件のあった高校に潜入するように言われた。手を合わせて、彼は三万の入った封筒を渡してきた。

 何か収穫があったら、更に倍出す、と言われた。

「…………、とまあ、そういう事ですね」

軽いバイトのつもりが、一歩間違えれば、命に関わるかもしれない。

 そして、てるてる坊主の都市伝説の話を、境火にする。


「その怪人がもし、生きた人間の変質者だったらいいなあ。私ときっと同族なんだろ。生きた人間をまた殺傷したいのよねえぇええええぇ。面白そうだから、その件、私も混ぜてくれないか?」

 彼女は満面の笑顔だった。

 本当に嬉しそうだった。

「怨霊の類かもしれませんよ?」

「幽霊は切っても感触が面白くない。やっぱり生きた人間の皮膚や肉や内臓じゃないと」

 境火はコートに付いているフードを頭からすっぽりかぶる。成る程、確かに死神のようなファッションだ。


 警察は彼女と取り引きをした。

 これまでの事件を帳消しにする代わりに、政府公認の捜査官になって欲しい、と。そして、その捜査の内容は、幽霊や怪異の類の始末屋だった。そう、彼女は霊感があると同時に、幽霊などの怪異を切り殺せる力を有していた。

 天性のモンスター。

 それが、シャドウ・リーパー、境火だった。

 彼女は、FBIや米国政府にさえも恐れられていた。


「じゃあ、私はそろそろ闇に溶けるよ。この辺りのアジトに戻る」

 彼女はまるで肉食動物のような足取りで、夜の闇の向こうへと溶けていった。


 

 翌日、TVのニュースで、隣町で×××高校の新しい首吊り死体が発見されたとの報道がされていた。おそらく手足は切断されているのだろう。それらは周辺市民の過剰な混乱を恐れてか、手足に傷を負っている、といったような表現に変えられていた。



 調査と言われたが、さて、どうしたものか。

 ただ、災厄を自分に押し付けたかっただけなんじゃないのか。


 霊的なものがどのように見えるかだけでも教えてくれ、と言われた。逆山は校舎内に入るつもりはなく、いざとなれば、葵に“呪い”か何かを差し向けたいのだろう。

 自分には彼に利用されてやるつもりは無いが、


「ここかな……?」

 ×××高校。

 多少、道に迷ったが、辿り着いた。



 現場らしき場所には黄色いテープが貼られていた。

 警察が来ている。


「ああ、待ちくたびれていたぞ」

 境火と、まるで彼女の付き人のように、刑事が二人でいた。


「あー、えっと。刑事さん、何て名前でしたっけ?」

「増谷だよ、マスヤ。覚えておけよ」

 葵は、うんざりした顔になる。

 刑事なんかと知り合っても、ろくな事にならないだろうなあ、と思った。



 殺人現場となった女子トイレ付近だった。

 結局の処、葵は“霊視”の為に、ここに連れてこられたのだった。


 増谷から、現場写真を見せられた。


 凄惨な死体だった。

 両手両脚が、引き千切られたように切断されている。

 増谷が言うには、生きながら切断されて、その途中で、ショック死か失血死によって、絶命したらしい。

 凄惨な事件だとは思うが、怪現象なのだろうか。そもそも、変質者……、それこそ、サイコ・キラーの仕業じゃないのか、と思った。

 写真を見て、境火は、にやにやとしている。

「いい趣味している」


「だが、私ならもっと上手くやれる」

 彼女は、暗い感情をさらりと言う。増谷はとても嫌な顔をした。

 ふと、境火が口を閉ざし、真顔になる。


 琴葉は険しい顔をする。

 境火は明らかに、戦闘態勢を取っていた。今にも、懐から得物を取り出しそうだ。

 刑事の増谷だけが、事態を分かっていないみたいだった。


 葵は事故現場である、女子トイレの便所の中で、それと眼が合った。

 人だかりは、多い、それを目撃してしまったのは、三名だけでは無いかもしれない。


 そいつは、トイレの中に、ぼうっ、と現れた。

 この高校の制服を着ている女子だ。

 間違いない、ここで殺された少女だ。

 彼女は五体満足だったが、突然、ぼとり、と、右腕を地面に落とした。切断面から血が吹き出る。次は右足。ぼとり。次は、左足。ぼとり。最後に左手。…………。

 何を訴えているのか、葵には分かった。


 どうやら、彼女は、四肢を切断された後も、しばらくは生きていたみたいだった。いずれ、検視で明らかになるだろう。その恨みや苦痛を、三名に伝えているのだった。

 ごとり、と、何かが、虚空から転がる。

 触るな、と、境火が言うが、葵はそれを手にしていた。


 それは、てるてる坊主だった。

 頭が引き裂かれている。

 中から、何かが出てきた。

 

 ‐篤美を殺して欲しい。‐


 呪いの言葉だった。


 琴葉が、珍しく、葵を責めるような視線で眺めていた。

 そして、いつも無言な彼女は口にする。

“葵君、このままだと死ぬよ?”




個人的に、境火と比呂が大好きなんですよね。


それぞれ、暖色系の性格と寒色系の性格かなあ、と。

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