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【短編集】 このネタ、温めますか?

お金で買えない恋に

作者: 雨柚

 短いです。

 あっという間に終わるので暇潰しにどうぞ。


 そういえば、登場人物の名前を出さないで書いたの初めてかも……。


 きっかけは友人から持ち掛けられた悪趣味な賭けだった。


 友人の遊び相手の妹だという、自分たちの周りではあまり見かけないような真面目そうな女の子。

 賭けの内容は“いかにも落としにくそうな彼女を一か月で落とせるか”というものだ。一か月以内に恋人関係に持ち込めたら彼の勝ち。できなければ友人たちの勝ち。そんなひどく単純で最低な賭けに乗ったのは、ただ単に彼が暇を持て余していたから。


 そう、はじめは暇潰しのつもりだった。

 あり得ないことに、それがいつしか彼の中で意味を変えた。いつからかなんて彼にもわからない。けれど、彼女に会うことを暇潰し以上に思っている自分が確かにいて。


「真面目そうな子だし、金には釣られないんじゃない?」


 そんな友人の言葉を鼻で笑ったのは一か月前のこと。


 “金で買えないものはない”というのが彼の持論だ。

 大企業の社長令息なんて立場に生まれれば誰でもその結論に辿り着く。だから彼は、恋ですら金で買えると本気でそう思っていた。――今日、この日までは。






 バシャッという音と共に辺りが静まり返る。

 そこそこ格式のあるレストランのど真ん中で男が連れの女性から水を掛けられたのだ。注目を浴びるのも当然と言える。


「何でもお金で買えると思ったら大間違いなんだから……っ!」


 怒気を滲ませて言い放った彼女の表情はどこか苦しげだった。他人に謝るなんてしたことがない彼の口から謝罪の言葉が漏れそうなほどに。けれど、エベレスト並みに高い彼のプライドは彼に謝ることも本音を語ることもさせず、ただ謎の苛立ちをもたらした。


 何に苛立っているのか、自分でもわからない。自分に恥をかかせた目の前の女にか、それとも彼女を傷つけた自分自身にか。わからなくて、また苛立つ。今だけでなく、最近の彼はその繰り返しだった。


 そんな自分の中の感情を処理しきれない彼だが、水を掛けられた理由がわからないと言うほど馬鹿じゃない。


『所詮は金だろう? 金があって容姿も学歴も良い男に言い寄られて悪い気のする女はいない』


 “君の気持ちだって金で買えるんだ”と言ったところで水を掛けられた。


 自分でも酷いことを言ったと思う。

 そろそろ種明かしをしろよと友人たちにせっつかれて苛立っていたのを彼女にぶつけてしまった。二つしか離れていないとはいえ年下の少女に苛立ちをぶつけてしまったことに、苦い気持ちが込み上げる。


 そもそもなぜ苛立ったのかと考えて、止めた。彼にとってはあまり嬉しくない結果になりそうだったから。……もう、手遅れかもしれないが。


「……っ」


 沈黙したままの彼に何を思ったのか、彼女は身を翻して駆け足でこの場を去った。

 追わなくてはいけないと咄嗟に思って、すぐに考え直して立ち上がりかけた腰を降ろす。追いかけてどうするというのか。


 先程の言葉について謝る? ……この自分に、水を掛けた女に?


 そんなことできるはずがない。

 だいたい、他人に謝るなんて、頭を下げるなんて冗談じゃない。例えそれが彼女であったとしても、彼のプライドはそれを許さない。


 じゃあ、あの子とはこれっきりだな。


 彼の中の冷静な部分がそう言った。

 自分の言葉なのに、それに頭を殴られたような衝撃を受ける。


 これっきり。


 そんなのは嫌だと誰かが耳元で叫んだ。

 うるさいとそれに顔をしかめる間もなく、彼の足は動き出していた。寄ってきた店員に財布だけ押し付けて、滴る水をそのままにひた走る。

 周りからの視線は痛いほどなのに、彼の眼にはもう目の前にない去っていった彼女の姿しか映っていなかった。


 追いかけて、どうするんだ。


 また、彼の中の冷静な部分が言う。


「そんなの、決まってる――あの子に会ってから考える!」


 今度は声に出して叫んだ。

 無様で、みっともなくて、到底受け入れがたい自分。まだ、彼は自分の行動の意味も気持ちの正体にも気づいていない。

 けれど、彼女のもとに辿り着く頃にはプライドなんてかなぐり捨てて彼女に愛を乞うのだろう。






 恋ってやつは、お金では買えないらしい。

 金で買えないからこそ、彼はこんなにも必死になっている。


 お金で買えるものしか手に入れたことのない彼が、お金で買えない恋を手に入れるのは――。


「待ってくれ……っ!!」

「っ!」

「俺はっ、君が――」


 ――もう少し先の話になりそうだ。





 この話、もともとは相方と一緒にお題に挑戦しようと言っていたときのものなんですが、気分屋な相方がぶっちしやがりましたので、普通に短編として投稿しました。……お題小説っていうのを書いてみたかったんですよ。


 思いついた時点でほとんど書いてしまっていたんですが、相方はもう飽きているみたいだし、一人でお題をやり切る気力もなく……そんなこんなで一年くらいメモ帳の隅で眠っていた作品です。メモ帳の整理をしているときにちょこっと付け足したら完成だなーと軽い気持ちで文字を打っていたら意外にすぐ書けたので、文字数が少ないにもかかわらず投稿しました。


 ↓元ネタ


≪恋ってやつは5題 ≫

1.些細なことをきっかけに生まれるらしい

2.お金では買えないらしい

3.勝手に大きくなるのを止められないらしい

4.追いかけると逃げて行くらしい

5.うまく育てると愛に進化するらしい


 参照:お題配布サイト「確かに恋だった」様

  [URL:http://have-a.chew.jp/on_me/top.html]




 いいお題なのでいつか全部書けるといいな。

 本当は相方の吉遊が「1.些細なことをきっかけに生まれるらしい」を書く予定だったんですけどね…………相方にはもう期待しません。


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