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「え?」


 流華は思わず自分の鞄を押さえた。


「な、何さ。何言ってんの」

「いいよ。知ってる。桐沢君でしょ?」


 流華の脳裏に桐沢君の顔が浮かんだ。表情少ないすっとしたクールな横顔が、記憶の中に映っただけで流華の胸を簡単に揺らした。


「るー、分かり易いからね」


 猛烈に恥ずかしくて、流華は思わず下を向いた。

 小枝の言う通り、鞄の中にはチョコが入っている。不器用だから手作りじゃないけど、見栄えのいいチョコを選んだつもりだった。桐沢君に渡す為に。

 

 小枝は分かっていた。分かっていて、いつも通り流華を部活へと誘った。桐沢君へチョコを渡すタイミングを阻止する為に。


「朝のあの子らいるじゃん」


 ストーブの前で、流華に誰にチョコをあげるか聞いてきた子達の事だ。


「うん」

「あの子ら、実は桐沢君狙いなんだ」

「え、そうなの?」


 流華はあの子達と特別仲が良いわけじゃなかった。彼女達と恋話などしたこともなかった。だが誰とでも馴染んでとけこんでしまえる小枝は、いろんな人達と交友を持っている。それで知っていたのだろう。


「それでいて、陰険」

「……ふーん」


 申し訳ないが、なんとなくそんな感じはした。だから流華も積極的に関わろうとしなかった所はあった。

 これで、小枝が流華の恋心を阻止した理由が分かった。


「ありがと」

「礼を言われる事じゃないけどね。るーの気持ち分かってて、邪魔したんだから」

「いいよ。面倒事に巻き込まれる方がやだもん」


 ――それに、自分なんて桐沢君とは釣りあわないし。


 流華は鞄から、一つの箱を取り出した。


「ね、一緒に食べてよ」


 それは桐沢君にあげようと思ったチョコだ。


「え、でも」


 困惑する小枝。こんな風に小枝が本気で困った顔を見せる事なんて珍しいので、流華は思わず笑った。そして心の中で、もう少し意地悪してやるかと思った。


「あたしの邪魔したんだから、後処理ぐらい手伝ってよ」

「お、仰せの通りに」


 もちろん、小枝の事を恨んでなんかいない。嫌いにもならない。

 自分の事を守ってくれた大事な友達だ。

 

 ――ありがとね、小枝。


 


 ところで後日分かった事だが、あの日保健室に鍵がかかっていた理由は、


「ちょっと疲れちゃってね。ひと眠りしようと思ったの。でもあたし、寝るときは全裸じゃないと寝れないタイプだから、入ってこられちゃ困るなと思って。ごめんね」


 という事だった。

 この学校はもうちょっとこのお色気教師の扱いを考えた方がいいと思う。


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