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「DVDの中身でも語られてるけど、その中で流れている曲は有加の新曲。売れ行きも好調。そしてそれなりにファンレターが届いているあたり、まあまあな認知度はあるって事が分かる。さて、史奈達はどうかな。描写がないから分からないけど、私は勝手にアイドルとしての実績は有加より下じゃないかととりあえず見積もった」
「うんうん」
「で、ここからは単純な妄想。順調なアイドル生活を送る有加の事が気に食わない同期アイドルズ。熱烈なファンの事を自慢気に語る所も気に食わなかったのかもね。好き好きゆかりんっていうファンの存在が、彼女達の火種の一部にもなっちゃってたのかもね。そこで一計。この好き好きゆかりんを利用してやろう」
「うーわ、怖っ」
「ただの狂気的なファンレターじゃ効き目がない。もっと強烈な一撃。そこで考えたのがあのDVD。知らぬ間に勝手に部屋に上がり込んで自分の曲を踊られる。これはヤバいよね。さすがに有加だってびびるだろうって話になった。ライバルを減らせるかもって」
「女の嫉妬って奴か……でも結局部屋に入るって所は?」
「ここは想像。私は本格ミステリとかは苦手だかんね。鍵開けトリックなんて分かんない。でも合鍵とか、鍵を奪ってどうこうってチャンスを考えると、あの男が一人でやったと考えるより、部屋に容易にあがる事の出来る彼女達の方がチャンスあったんじゃないかって思っただけ」
「そういう事ね……あれ? でも、そうなると」
「あの男は何なんだって話でしょ? ここもいろいろ考えられるけど。それこそ彼女達はファンを利用しちゃったりしたんじゃないかなって。有加に劣っているとはいえ、言ってもアイドル。冴えない男の一人や二人捕まえるのは結構簡単なんじゃないかな。何も知らない男をとっ捕まえて誘惑して、おねだり、みたいなね。実際の好き好きゆかりんを本当に使ったのかもしれないけど」
「無茶苦茶だね……」
「黒い情念っていうのは無茶を平気にするもんなんだよ」
アイドルの世界は綺麗ではない。
芸能界という煌びやかな世界。一見優雅な白鳥が水の下では必死に足をばたつかせるように、アイドルという光を浴びる者達の実態は、激しい競争社会でのどろどろな殺し合いなのかもしれない。この話はあまりに極端だと思うが。
「まあ、そういう警告みたいなニュアンスも含んでんのかなーってね」
「実際はどうだか分かんないけど、確かにあれだけ華やかな世界の裏には、いろいろあってもおかしくないよね」
「結局は無責任な妄想だけどね」
「そういうのを楽しまれちゃうのもアイドル達には大変な部分ね」
「アイドル目指してた時期もあったけど、やっぱそういうの考えると、あたしには無理だね」
「大丈夫。それ以前にあんたじゃ無理だからね」
「るー、つねっていい?」
シンプルだなんて言いながらも結構ややしこくないかとも思ったが、小枝と言う都市伝説オンチが無責任に都市伝説を解釈するという遊びとしては、一応成立したのかなと思う。
つまらないと言われたときはさすがにどきりとしたが、語り終えた小枝の顔はそこまでつまらない顔をしていないので大丈夫かなと思った
「ところでさ、るー」
「ん?」
「鞄の中のチョコ、無駄にしてごめんね」
あまりに唐突な一撃だった。